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災害関連緊急松尾地区地すべり概要

福岡県土木部砂防課長
城 島 好 孝

福岡県土木部砂防課
防災係技術主査
楢 原 鐵 一

1 はじめに
福岡県は,九州本島の最北部,経緯度ではおおむね北緯33~34゜,東経130~131.2゜の範囲に位置し,周防灘・響灘・玄界灘・有明海に面している。本県の地すべりは,地域的に見ると八女郡東部と北九州市西部に多く存在しており,歴史的に古くから地滑りや斜面崩壊が発生していたものが多い。
本調査地,八女郡立花町松尾地区は,八女市街地より国道3号線に沿って約15km南方に位置している。また,松尾地区は,一級河川矢部川の中下流部を成す辺春川の一支流,松尾川の上流部に立地しており,標高は150~400mの範囲内にある。
調査地区域は,地帯構造区分上,西南日本内帯の三郡帯に属し,変成されたペルム紀の付加体と考えられる三郡変成岩が,地域の基盤を形成して広く分布する。

2 松尾地すべりの経緯
松尾地区地すべりは,昭和48年4月,建設省所として面積14haが指定されているが,平成2年7月の梅雨集中豪雨により,指定地面積の追加(71㏊)が行われ,指定地面積は合計85.32haとなっている。
主な土地利用としては,耕地12ha,林地11ha,宅地4ha(116世帯)となっている。
昭和48年指定分については,集水井・擁壁等が実施され,一応地すべり対策は終了していた。
このような状況下で,平成2年7月の梅雨集中豪雨により地すべり災害が発生し,災害関連緊急地すべり対策事業(総工費5,260百万円)を実施したものである。

3 地形・地質
本調査地は,西南日本内帯の三郡帯に属し,三郡変成岩が地域の基盤岩を形成して広く分布する。
この変成岩類は結晶片岩類を主体として構成されている。
三郡変成岩類は,片理構造の発達した泥質片岩を主体とし,砂質片岩や緑色片岩,緑色岩,チャートなどを挟在して構成されている。基盤岩類を被覆する比較的新期の堆積岩類や火山岩類は分布せず,地形は,基盤変成岩類の地質構造や岩層の硬軟を反映した組織地形を成すことを特徴とする。また,沢筋の方向は地層や断層の走向方向とほぼ調和的に発達しており,斜面緩傾斜地や沢,尾根鞍部には断層破砕帯が分布する場合も認められる。
本地域に分布する変成岩類の地質構造は,ほぼ東一西方向の走向を持ち,南側に平均30°~40°傾斜する。
地形は,この地質構造を反映して,南向きの斜面は一般に緩傾斜で斜面堆積物が覆う。一方,北向きの斜面は比較的急傾斜地を形成しており,全体的にはケスタ地形を形成する。走向・傾斜の平均値からの変異の幅は,走向で南北方向にそれぞれ30゜前後,傾斜で20゜前後と,かなり安定した構造を有する。
調査域の中央部~西部域及び南西部域にかけて,数本の断層が観察される。断層は一般に,地層の走向方向とほぼ調和する走向を有し地層の傾斜と低角度で交わる衝上性の逆断層である場合が多い。

4 地すべり発生の経緯
① 台風6号崩れの低気圧の接近に伴い,梅雨前線が活発に活動したため,7月2日の14:00に福岡県に大雨洪水警報が発令された。
② 7月2日9:00~10:00に79mmの時間雨量,7月1日16:00~2日16:00に359mmの24時連続雨量,6月29日~7月3日までの累積降雨量は553mmに及んだ。
③ 2日の8:40に松尾地区内の県道上辺春白木線が寸断されたとの連絡がはいる。
④ 3日に降雨が沈静化したところ,松尾地区内の斜面に亀裂が多数発生している事が確認され,これらの亀裂はさらに拡大していった。
⑤ 4日に20:00松尾地区住民(116世帯478人)に避難命令が発令された。
⑥ 福岡県では,地すべり滑動により住民が避難した状況を考慮して,現在の地すべり滑動の把握および今後の滑動状況を知る必要が緊急に生じたことから,建設省に「アドバイザー」派遣の依頼を行い,アドバイザーの派遣が実現した。

5 ブロック別概要
5.1 地すべりブロックの分布(抽出)
アドバイザーの指摘の後,松尾地区全域の地すべり踏査を実施して,松尾地区における地すべりブロックの分布を明確にした。
地すべりブロックの分布については,図ー2に示す通りである。
各地すべりブロックの平面的な規模を一覧表にして,表ー5に示す。

5.2 ブロック別地すべり現象
今回対策工を施工した地すべりブロックの内,A,Bブロックの現象について述べる。
〈Aブロック〉
地すべり西側側部で規模の大きい崩壊が発生しており,この崩壊土砂が下流の松尾地区の集落に被害をもたらしている。さらに東側側部でも,規模は小さいが崩壊が発生している。地すべりブロックは,両者に囲まれた範囲であると判定できる。
地すべり中腹部を通過する町道には,上記の側方崩壊に連続して道路を横断する亀裂があり,ブロック内の町道にも,亀裂・段差が数多く発生している。この亀裂は,発生後も開きが拡大している。町道山側のブロック積擁壁にも縦方向の亀裂が認められる。
地すべり頭部には,馬蹄形に亀裂が段差(最大)20cmの規模で発生している。
〈Bブロック〉
地すべり末端部を通過する町道に多数の亀裂があり,特に,西側側部で小崩壊が発生している。また,東側側部の町道にも明瞭な開口亀裂が発生している。
地すべり中腹部をつづら折りに通過する町道には,ブロック西側側部で比較的規模の大きな崩壊が発生し,町道は通行不能の状態となると共に,この崩壊により下部の作業小屋は全壊の状態となった。
地すべり頭部のキウイ畑に,落差(最大)1.2mの連続した馬蹄形の亀裂が発生し,このキウイ畑は,平坦な地形を示している。この平坦部は,旧期の地すべり滑動により形成された平坦部と考えられる。

6 地すべり対策工
6.1 対策工の基本方針
(1)防止工の基本方針
(a)現時点での安全率:Fs=0.98
ボーリング孔掘削中の地下水位(最初に水位が認められた深度)を現時点での最高水位と考えて,この状態での安全率をFs=0.98と設定する。
(b)計画安全率:P.Fs=1.20または1.15 人家があるブロックは,計画安全率をP.Fs=1.20,それ以外は,P.Fs=1.15と設定する。
なお,Iブロックは,近傍に直接人家が存在していないが,滑動した場合松尾川を閉塞し,松尾川流域の人家に多大の被害が生じる。したがって,IブロックもP.Fs=1.20と設定する。
表ー6に地すべりブロック別の安全率一覧表を示す。

(2)対策工の選定
対策工としては,次の工法が考えられる。

(a)集中豪雨が直接の原因となり滑動を開始しているため,防止工として第1に地下水排除工を施工する。
(b)地下水排除工で,計画安全率を達成できない場合に,抑止工(抑止杭・アンカー)をおこなう。
(c)地下水排除工・抑止工以外に山腹工(網柵工・片法枠工),水路工(コルゲートフリューム500×500-地表水排除目的)も必要に応じ用いる。
(3)設計方針
① 地下水排除工の効果は,安全率換算で5%程度の上昇を期待する。
② 抑止杭は「せん断杭」として設計する。
③ 抑止杭1本当たりの抑止力を400t以下に抑える設計を行う。
④ アンカーは,二重防食を施したものを使用する。
各対策工による安全率の変化は,図ー4に示す。

7 対策工
ブロック毎の対策工を表ー7に示す。

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