泥水式シールドにおける新たな掘進管理手法の構築
一福岡202号外環状共同溝第1工区シールド工事一
一福岡202号外環状共同溝第1工区シールド工事一
国土交通省 九州地方整備局
福岡国道事務所 建設監督官
福岡国道事務所 建設監督官
園 田 宣 昭
1 はじめに
福岡202号外環状共同溝は,一般国道3号板付共同溝から分岐し,福岡市西部に延びる全長16.2kmの幹線共同溝である。本共同溝整備事業は,道路の保全及びライフラインの信頼性確保を目的として,水道・電力・電話の3企業の公益施設を一体的に収容し,地上部に位置する一般国道202号外環状道路及び福岡高速5号線と一体的・効率的に整備を進めている。
そのうち,第1工区シールド工事は,全長2,770mのうち2,500m以上が202号外環状道路及び福岡高速5号線直下でのシールド工事となっており,大規模な沈下や陥没が起った場合には上部構造物への重大な影響が懸念される区間である。
従来,シールドの施工においては,地表への影響の原因となる土砂の取り込みに対し,管理値を設けて管理を行っているが,管理値内で施工を行うことに主眼が置かれ,予期せぬ原因により取り込みが起った場合の対処については,必ずしも統一された手法が定められているとは言いがたく,多くは技術者の経験に基づいて,その状況の応じた対処法を取ることが一般的である。
本稿では,危機管理の観点から,取り込みが起った場合に取るべき対処法を含めて,シールドの掘進管理手法を見直し,当該工事に適用したので報告するものである。
2 工事概要
工事概要を以下に示す。
工事名称 福岡202号外環状共同溝第1工区シールド工事
工事場所 福岡市1西月隈~春日市須玖北
工 期 平成15年2月1日~平成18年3月15日
発注者 国土交通省九州地方整備局
【工事内容】
〇シールド
工法 泥水加圧式
一次覆工 延長2,639m(中間立坑除く)
外径Φ6,300mm,桁高300mm,幅1,300mm
〇発進立坑
・土留工
工法 地中連続壁(SMW)
・立坑本体
鉄筋コンクリート製
内空 幅8.85m×長さ17.0m×深さ21.5m
〇発進到達防護工
・薬液注入 1,333本
・高圧噴射攪拌 96本
注)6基の中間立坑及び到達立坑は,他業者施工である。
【工事の特徴】
① 掘進する地盤の80%以上が浸食に弱いとされる花岡岩質の岩盤であり,予測できない取り込み過多を起こす可能性がある。
② 全長2,770mのうち2,500m以上が202号外環状道路及び福岡高速5号線直下でのシールド工事となっており,大規模な沈下や陥没が起った場合には,上部構造物への重大な影響が懸念される。
③ 県道福岡・日田線,筑紫通り,主要地方道福岡・筑紫野線等の重要幹線道路及びJR鹿児島本線,西鉄大牟田線の線路下を横断する。
④ 中間立坑(6箇所)を通過するため,施工トラブルを起こし易い到達・再発進作業を6回繰り返すこととなり,より慎重な施工が要求される。
3 地質概要
本シールド建設地点である福岡市南部地区は丘陵地が多く,平地は標高10~40mの南北に延びる溝状地形となっており,北側に福岡平野が広がっている。この平野の東側寄りを御笠川が流下する。
本地点の地質は,縦断図(図ー4)に示すように,花崗岩(早良花崗岩)の分布域である。
この花崗岩は,西月隈から諸岡川付近までDL±0m~DL-5m程度で水平に近く分布し,その西方は須玖北でDL-25m程度と傾斜を持っている。一般に,新鮮部は灰白色を呈した堅硬な岩石であるが,風化部はまさ土と呼ばれる浸食に弱い砂状の性状を有する。
この基盤の上位は,更新世の博多粘土層(粘土,砂,礫混り砂)が分布する。博多粘土層の下部層は,良く締まった砂礫層,砂層に富むのに対し,上部層は比較的粘土層に富む特徴がある。その上位には,同じく更新世の荒江層(粘土,砂,礫混り砂)が分布し,更にその上位は完新世の中洲層(粘土,砂)が分布する地盤である。
4 掘進管理手法
本シールドは,平成16年4月,浸食に弱いとされる風化花岡岩(まさ土)層を掘進中に,市道上での路面陥没を起した。幸いにして,通行車輌及び歩行者等に被害はなかったものの,一歩間違えれば重大災害となり得る事故であった。
これを契機として,掘進管理についての再点検を行ったが,従来の掘進管理手法は,管理値を設けて管理を行っているものの,管理値内で施工を行うことを主眼としており,予期せぬ原因により取り込みが起った場合には,技術者の経験に基づいて,その状況の応じた対処を行うこととなり,管理値を超えた場合の統一された管理手法は定められていないことが判明した。
そのため,再点検を行い,「2度と陥没は起こさない」ということを実行できる掘進管理手法を構築した。構築までの具体的な流れは,以下のとおりである。
上記の①~③についての具体を示す。
1)施工管理体制
図ー5のように,掘進監理責任者を複数名任命し,監理技術者を含めたいずれか1名が事務所に基本的には常駐し,中央監視室に対して迅速な指示が行えるようにした。
2)掘進管理
(a)管理値の設定
施工業者の工事の実績より,掘削量の掘進停止管理値を設定した。その設定値の下に一次管理値,二次管理値を設定し,異常に対する処置を段階的に速やかに行えるようにして掘進停止管理値に至らないようにした。管理値は,1リングで大量の取り込みが起った場合の単リング管理だけでなく,取り込み過多が連続して続くことにより地表への影響が生じる可能性があることから,複数リングに対する連続取り込み管理についても定めた。
単リングでの管理値を,以下に示す。
•一次管理値 理論値±5%管理線(最終値43.1±2.2m3)
•ニ次管理値 理論値+10%管理線(最終値47.4m3)
•掘進停止管理値 理論値+10%管理線+2.2m3(最終値49.6m3:115%相当量)
連続取り込みに対する管理値は,以下のように設定した。連続取り込みの範囲は,切羽から裏込注入を行うまでを考え,本シールド機の機長に相当する8リングとした。
図ー6に示すように,連続した取り込み過多状態で掘進が行われている場合,単リング管理では,第5リングで修正処置を行う以外は,何の対策も行わずに,そのまま掘進を続けることとなるが,浸食に弱い地山の場合には,切羽~裏込注入間のシールド機直上の崩壊に対する地山の安定が問題のシールド機と同程度以上の径,機長の複数工事のデータを用いて,2~8リングの各リング数に応じた連続取り込み量の管理値を設定した。
(b) リアルタイム管理
管理は,単リング管理連続取込量管理のどちらで行うかにかかわらず,パソコン上でリアルタイムにグラフ表示される管理画面(リアルタイム管理画面)によって行う。
連続取込量管理表で計算された一次管理値,二次管理値,停止管理値を,下の管理画面に設定して,管理値のグラフと掘進実績のグラフをリアルタイムに表示しながら管理を行う。
もし管理値を超えた場合には,
一次管理値超 黄色回転灯
二次管理値超 赤色回転灯+ブザー
で,知らせる仕組みとなっている。
(c) 切羽崩壊探査及び崩壊対策
掘進時に起こった切羽天端部の崩壊を確認するため,シールド機本体に崩壊探査装置を設置し,次リング掘削後に緩み及び崩壊の高さを探査することとした。崩壊探査の結果により地山が不安定と判断された場合には,裏込注入を行うまでの崩壊防止対策として高粘性充填材によるシールド機周りの充填を行うこととした。また,取込量が一次管理値を超えた場合についても,同様に高粘性充填材の充填を行う。さらに,掘進時に大幅な取り込み過多が起こった場合には,切羽への影響を確認しながら,崩壊部に薬液注入を行う斜前方注入管を装備した。(図ー9)
(d) 裏込注入
裏込注入は,テールボイドに当該リング掘削時の取り込み過多の土量を加えた量に対し,全量注入を目標とし,注入圧と注入量の両方で管理を行うこととした。一次裏込注入において目標量が入らなかった場合には,二次裏込注入において全量注入を図り,それでも入り切らない場合には,残量に応じて沈下測量の測点増設・測定頻度増加等の監視強化を行って,異常の有無を確認し,必要に応じて薬液注入等の対策を行うこととした。(図ー9)
3)対応マニュアルの整備
通常掘進から異常の発生を想定し,掘進管理体制,掘進管理フロー,操作チェックポイント,管理値及び監視項目,連絡体制等をまとめた対応マニュアルを整備して関係者に配布した。図ー10に掘進管理フローの例を示す。
また,掘進管理フローに付随して,詳細実施内容記入シート(表ー1)を作成し,いつ,誰が,誰に対し,何をどうするかを具体的に示した。この対応マニュアルを参照することにより,異常時にも適切な対処が行えるようにして,危機管理に対応した。
4.おわりに
以上のような掘進管理手法を,標記工事に適用し,施工を継続中である。また,九州地方整備局管内における後続の同種工事においても,同様の手法を適用していく予定である。実際の施工において用いることにより,実効性を検証し,より実用性の高いものにしていくことを考えている。