河川災害における防災エキスパートの活動状況について
一防災ボランティアの現地報告一
一防災ボランティアの現地報告一
九州防災エキスパート会 本部事務局
土 師 近 文
九州防災エキスパート会 川内支部長
松 永 寿 人
九州防災エキスパート会 菊池川支部長
藤 本 克 之
九州防災エキスパート会は,現役時代に培った技術を地震や風水害など大規模災害の発生したときに役立てようと建設省OBからなるボランティア組織として,本部および17地区,会員674名で平成8年5月28日設立されたものであります。
基本的な活動内容は,会則第3条および活動要領に規定し,その柱は,
① 公共土木施設等の被害状況モニター
② 公共土木施設等の被災状況把握と応急対応の助言
③ 現地災害対策本部などへの支援等で被害の拡大防止に努めることとしています。
そこで,最近の主な現地活動状況を以下,報告いたします。
1 鹿児島県薩摩地方(北西部)地震災害
(1)流域特性
川内川の流域は,東西に約70㎞,南北約20㎞の細長い形状をなし,その面積は1600㎢である。川内川は,そのほぼ中央を,熊本,宮崎,鹿児島の3県を貫流し薩摩灘に注いでいる幹線流路延長137㎞の河川である。
地質は,川内市街部が沖積層となっているが,それより上流の大半がシラス層となっている。
(2)災害発生状況
① 発生原因:地震 震度5強・6弱
② 発生時期:平成9年3月26日 17時31分
平成9年5月13日 14時38分
③ 被災地域と規模
川内市~宮之城周辺が,主な被災地となった。震度4以上地域を表ー1に示す。
④ 主な河川の被害状況
川内川における,今回の一連地震による大規模被害箇所を表ー2に示す。
被害の特徴
a 堤防の亀裂が堤防軸方向に縦方向にでき,主として天端の中央部,または肩近くに発している。
b 樋門・樋管の箇所については,樋管本体上部堤防に管体と並行して横断的にヘアークラックが見られる箇所があり,また,門柱にもヘアークラックが発生している箇所があった。
c 護岸の被害は表面にクラックが生じており,そのクラックは目地部分,コンクリートブロック部分とまちまちであった。
d 液状化現象は,河川区域内において目視による確認はできなかったが,内部での発生が予想される箇所が1箇所(隈之城川合流点高水敷部)存在した。
(3)活動状況
今回の地震は,震源地の異なる地震が3月と5月に発生し,余震も相次いだことから余震の回数が増す毎に被害範囲,規模も変化した。
初回の3月地震対応については,被災調査,災害復旧も迅速に対応されていた。2回目の5月の地震に対しても被災箇所の状況は把握されていた。
このため,エキスパートは,これらの資料をもとに,一般的な被災発生時の活動と異なった形で,被災状況の再確認および復旧箇所の点検,対策工法の検討および助言を主たる目的で活動を行った。
以下経過を述べる。
① 地震発生時は,自主判断による待機。
② 5月21日,建設省川内川工事事務所の要請を受けて,地区リーダーを始め4名により既調査資料をもとに活動を行った。
◦調査月日 5月22日,23日,24日
◦調査範囲 河口~鶴田ダム間 0k/000~50k/300の区間および隈之城川,八間川,樋渡川の支川
◦調査箇所 川内川工事事務所による既調査箇所86箇所と新規27箇所を確認し合計113箇所の被害調査を行った。
③ 対策工法等の検討および助言
調査結果および対策工(案)については,下表の3-1,3-2のとおりまとめた。主な意見として,
a 堤防縦断方向の亀裂
左岸堤約700m,全断面置換H=2m:施工性,安全性,品質管理面で適性。
b 漏水防止:横断亀裂箇所
亀裂補修を行うと共に安全を期して漏水防止用の土俵の準備
c 樋門門柱および水位観測所の亀裂
樹脂による充填および鉄板巻の補強
d 護岸天端部(民家近接)の地盤沈下
コンクリート充填等の雨水防止対策。
(4)反省点
九州防災エキスパート設立より初めての出動要請で貴重な経験となった。今後の活動の参考にするために述べると
① 迅速に対応し助言するには,技術系の要員が不足した。
② 職場等の都合で要員確保が十分でなかった。
③ エキスパートの可能な行動範囲については,各地区と要請者(工事事務所)と事前に打合せて把握しておくことが必要と感じた。
2 菊池川災害
1)流域特性
菊池川は,熊本県最北端に位置し,その流域は,面積996km2,うち,山地79%,幹線延長71㎞,形状は,楕円形をなし九州の中でも最も内陸型気候をしている。
年間降雨量は,2700㎜程度,そのうち1/2~1/3が6~7月の梅雨期に集中し既往水害の主要因となっている。
2)災害発生状況
① 発生要因:梅雨前線による出水
② 発生時期および総降雨量:平成9年7月 6日~13日 ∑R1009㎜,最大時間雨量51㎜,7月9日4時~5時。
③ 被災地域と規模:菊池川本川山鹿地区,支川佐野地区,全川警戒水位を越え,一部計画水位を越えた。
④ 主な被害状況,河岸決潰27ケ所,うち,緊急災2ケ所
3)活動状況
◦7月9日7時20分菊池川工事事務所の出動要請により10人出動し分担を定めた。
※モニターグループ5人を4班にし,状況確認と報告,写真撮影等を行った。
A班:巡視中本川47/0付近広瀬橋下流左岸の漏水箇所を確認し,インフォメーションヘ報告,その後,地元消防団による月の輪工法を実施。
B班:本川48/0付近村田橋下流右岸が溢水の恐れがあるとの連絡を受け,現地確認のため出動し状況を報告。その後,川表側に盛土する。また,大板橋46/0左岸側の漏水箇所を現地確認を行い報告,その後,川裏法面に盛土を行った。
C班:本川43/0菰入橋付近が漏水の恐れがあるとの連絡を受け,現地確認のため出動し状況を報告,地元消防団により月の輪工法を実施。
D班:巡視中本川47/0付近の漏水現場を発見し報告,地元消防団などが月の輪工法を実施。更に上流を巡視,菊戸橋左岸上下流に堤防法面洗堀箇所を発見し報告,協力業者等により大型ブロック投入,シート張り工法を実施。
※インフォメーション:モニターからの報告を受け工務課へ伝達。事務所4人,出張所に1人派遣。
◦本川上流部の災害発生の恐れがあり情報収集に努めた。
◦出張所における情報収集に努めた。
●7月10日 モニター2人自主出動
支川合志川分田堰3/0付近,袖の高水敷が洗堀され,対策工法の検討助言と状況監視を行った。
●7月11日 9時10分菊池川工事事務所の出動要請により6人出動
※モニター3人:支川合志川の分田堰付近の洗堀が拡大し本堤への影響の恐れがあり,現地へ出動。引き続き対策工法の検討,助言,状況監視に努めた。
※インフォメーション 3人
◦工事事務所に待機し情報受信,伝達とKーコスモス携帯電話による本部への報告を行った。
4)反省点
① 情報通信システムと伝達体制に混乱が生じ計画どおりにはいかなかった。通信方法の再点検,用具の改善,模擬演習の取り組みが必要。
② 災害対策車が通行規制されるなど運行に支障を来たした。今後は,緊急車両の表示や通行確保に関する関係機関との事前協議が必要。
③ 防災エキスパートの工事事務所における作業室,専用電話等の必要を感じた。
3 今後の課題
エキスパート会の設立から今日まで本格的なボランティア活動は経験するに至りませんでした。
しかしながら,前述のとおり小規模ではありましたが様々なケースを経験したことは今後の指針に反映されることでしょう。
また,突発的な災害発生にいかにして対応するか,会員相互の協調と日頃からの身近な訓練が重要と考えられます。