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構造物の制振制御装置と機能(その2)

九州共立大学工学部教授
烏 野  清

前号(10号)において,構造物の基本的応答特性やパッシブコントロールについて述べた。
今回はその他の制振制御装置に関して解説する。

3.3 アクティブコントロール
3.3.1 概 要
航空・機械系の振動制御は近年の電子計算機やサーボモータ等の制御用機器の発展に伴い大いに発展してきた。一方,これらの振動制御法を土木や建築の構造物に応用するためには次に述べる問題点がある。
(1)土木・建築の構造物は他の分野に比べて質量が非常に大きい。3.2に示したパッシブコントロールにおいて,構造物の約1%程度の質量が必要とすれば,制振装置は大型となり,構造物に取り付ける場所の確保などの問題も生じる。そこで,振動制御力を外部からのエネルギーで供給しようとしたのが,アクティブコントロールである。しかし,構造物が大型であれば当然,制御力も大きくなり,エネルギー量も多大となる。
(2)土木・建築構造物に作用する外力は風,地震など発生時刻および波形の振動特性が不確実であり,制御方法が難しい。また,構造物の耐用寿命も長く,地震のようにいつ発生するかわからない現象に対して,常に正常に作動させるためには維持管理に十分配慮しなければならない。次に,外力が不規則波であることから,アクティブコントロールで制御する場合,構造物の応答を予測しつつ,制御力をコントロールしなければならない。
以上に示した問題点はあるものの,近年においては,ビルの高層化,橋梁の長大化による斜張橋および吊橋のタワーの巨大化などが進み,構造物本体の剛性が従来に比べて小さくなっている。これら柔構造物の対数減衰率は非常に小さいことから,風や地震による応答値は大きくなり,振動制御による対策が必然的に要求されるようになっていた。また,都市内の高架橋による振動公害の問題や情報化社会におけるライフライン施設の耐震性等も重要な問題となっている。
アクティブコントロールのシステムは風や地震外力および構造物本体の応答を加速度計等のセンサーで感知し,この情報から最適な制御力をコンピュータで求め,アクチュエータを作動させることにより制御する方法である。現在のところ,最適な制御力を求める理論は各種あるが,それぞれー長一短があり,完全な実用化までには時間が必要であろう。
3.3.2 アクティブ・マス・ダンパー
3.2.2に示したように,TMDは簡単なシステムではあるが,構造物の固有周期と完全に一致させなければならない。また,初期の外力に対して直ちに作動できず,制振効果を発揮するのにかなりの時間を必要とする。これらの欠点をカバーするために,アクチュエータを用いて制御力を加え,制振効果を高めたものがアクティブ・マス・ダンパーである。しかし,大地震時の大振幅振動時では大きな制御力が必要となり,現時点での実用化は難しいことから,高いタワーや建物の風に対する制振対策として用いられている。この場合,構造物の1次モードの振動に対して,先に示したパッシブによる制振方法に補助的にアクチュエータによる制御力を加えるハイブリッド式のマス・ダンパーが実用に供されている。
アクティブ・マス・ダンパーの適用としては二ューヨークのCitycorp Centerビル(高さ274m,重量18,200t,固有周期6.5秒)に重量約400tのマス・ダンパーが設置されており,応答振幅が約半分程度に低減していることが報告されている。一方,我が国で京橋成和ビル(高さ33m)に短辺方向およびねじれ振動の振動制御を行っている。
3.3.3 アクティブ・テンドン(グレース)
建物や鋼製高架橋のブレースの部分にアクチュエータを設置し,制御力を部材方向に加えることにより制振効果を得るものである。この方法は既存の部材を利用できること,アクチュエータのストロース量が小さくてすむこと等の利点があるが,テンドンが建物の中間階に設置された場合には高次モード振動を励起する可能性があること等が指摘されている。実際の高架橋における交通振動の制振対策として用いた結果,応答変位が約1/2程度に低減できることが報告されている。
3.3.4 セミ・アクティブコントロール
建物や土木構造物の剛性あるいは減衰をアクティブな構造で変化させ,制振を行う装置である。この方法としては両ロッド型の油圧シリンダを用いて,管内弁の開閉によりブレース剛性を数段階に切換えたり,オイルダンパーのバルブの操作によりダンパー性能を多段階に可変して制振効果を応答振幅の大きさに対応して高める方法である。
3.4 ハイブリッドコントロール
本法はパッシブコントロールとアクティブコントロールの組合せによって,制振効果を高めると共に,制御力に必要なエネルギーを少しでも小さくしようとするものである。したがって,制振対象構造物によっては,さまざまな組合せが可能であり,一部については,3.3の中でも述べた。
著者は滑り支承上の構造物上にアクティブコントロールを設置し,制振効果の確認を模型実験により検証したが,それぞれ単独の制振効果に比べかなり小さな制御力で効果が上ることが判った。地震時等では電源の確保に信頼がおけないことなどから,今後,この種の制振装置の開発が望まれる。

4 まとめ
近年,斜張橋や吊橋の主塔に対して,完成後の制振対策としてだけではなく,架設時の安全性の問題からも種々の制振装置が用いられている。
現在,施工中の我が国最大の吊橋である明石海峡吊橋の主塔に対しては,架設系の制振条件として共振風速16m/s以下において50gaℓ以下の応答加速度になるように,また,完成系においては曲げ1次振動に対して30cm,ねじれ1次振動に対して15cm以下になるように,TMDおよびセミアクティブTMDを採用している。今後,工事作業に対する安全性の確保など多くの目的をもって利用されていくものと考えられる。
表ー1は参考文献(1)に示されている実際の施工事例の中から,主なものを抜粋したものである。また,これらに関する参考文献も示していることから,利用して頂きたい。
図ー9および表ー2,3は九州に影響を及ぼした過去の地震記録で文献(28)より整理したものである。耐震や制振を考える場合の参考にして欲しい。

参考文献
(1) 振動制御コロキウム PART-A 構造物の振動制御,1991.7,土木学会構造工学委員会,振動制御小委員会
(2) 篠塚正宣:土木・建築における制御技術の現状,計測と制御 Vol.31,No.4,1992
(3) 野路利幸ほか:水のスロッシングを利用した制振装置の研究(その2),日本建築学会構造系論文報告集,No.419,1991-1
(4) 藤井邦雄:制振構造の実例(2)横浜マリンタワー,Structure,No.32,1989-10
(5) 和田克哉ほか:横浜ベイブリッジの耐風対策,橋梁と基礎,Vol.23,No.8,1989-8
(6) 江草拓ほか:橋梁の耐風安定性(その2)—制振対策編—,三菱重工技報,Vol.24,No.4,1987-6
(7) 金沢克義ほか:櫃石島橋塔架設時の動吸振器式制振装置,本四技報,Vol.11,No.41,1987-1
(8) 寺本隆幸:千葉ポートタワーのダイナミックダンパー,Structure,No.20,1986-10
(9) 木原硯美ほか:福岡タワーの振動性状(その1~3),日本建築学会大会学術講演梗概集,1989-10
(10) 松崎恵一ほか:歩道橋に取り付けた吸振器の効果について,土木学会論文報告集,No.261,1977-5
(11) 永田敬雄ほか:みなとみらい21ランドマークタワーの制振装置,日本建築学会大会学術講演梗概集,1990-10
(12) 佐藤ほか:A Damping Device on Main Tower Erection for the Suspension Bridge in Metropolitan Expressway ROUTE No.12,7th U.S-Japan Bridge Workshop,1991-5
(13) 小堀鐸二ほか:アクティブマスドライバー(AMD)システムの実用化研究,日本建築学会大会学術講演梗概集,1990-10
(14) 矢作枢ほか:耐震設計の変遷と現状,橋梁と基礎,No.10,1979-10
(15) 吉村健:荒津大橋ケーブルのレインバイブレーションの防振対策について,土木学会第44回年次講演会講演概要集,1989-10
(16) 烏野清ほか:斜張橋ケーブル制振用ダンパーの簡易設計法,構造工学論文集,Vol.37 A,1991-3
(17) 山田勝彦ほか:大鳴門橋照明柱の耐風検討,本四技報,Vol.9,No.36,1985-12
(18) 石黒康弘:制振構造の実例(5)フジタ工業新社屋,Structure,No.32,1989-10
(19) 巻幡敏秋ほか:向島大橋の吊材の耐風性について,橋梁,1972-5
(20) 辻松雄:構造力学的制振対策,日本風工学誌,No.20,1984-6
(21) 久我尚弘ほか:呼子大橋の動的諸実験,橋梁と基礎,Vol.23,No.9,1989-9
(22) 馬場賢三ほか:岩黒島・櫃石島橋ケーブル制振装置,本四技報,Vol.12,No.47,1988-7
(23) 加藤信夫ほか:名港西大橋(上部工)の設計,橋梁と基礎,Vol.17,No.12,1983-12
(24) 松村駿一郎ほか:ダンパーを用いた多径間連続橋の耐震設計,橋梁と基礎,No.2,1982-5
(25) 田川健吾ほか:球形タンク用VEM耐震ダンパーの開発,日本鋼管技報,No.76,1978
(26) 小堀鐸二ほか:摩擦ダンパーの超高層建物への適用(その4~5),日本建築学会大会学術講演梗概集,1989-10
(27) 飯田仲男ほか:摩擦ダンパーの超高層建物への適用,シンポジウム・制振構造の現状,建築学会,1989-12
(28) 宇津徳治総編集:地震の辞典,1987

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