最近の豪雨災害の特性と課題
元九州大学大学院教授
橋 本 晴 行
近年の豪雨災害の頻発は異常を極めている。最近の5年間に限ってみても、2017年九州北部豪雨災害、2018年西日本豪雨災害、2019年佐賀豪雨災害、台風19号災害(東日本豪雨)、2020年九州豪雨災害など、日本のどこかで激甚な豪雨災害が毎年のように発生している。本論では最近の豪雨災害の特性と課題について考えてみたい。
災害を引き起こした豪雨を対象として、代表的な特性量である最大時間雨量、連続累加雨量、降雨継続時間および雨域の広さなどの観点から、それぞれの豪雨の「異常」性の違いを見てみる。例えば、1999年、2003年の2回博多駅が浸水した福岡都市水害において御笠川を氾濫させた豪雨は、わずか数時間継続した「短時間豪雨」であった。一方、2005年宮崎市を始め県内各地に災害を引き起こした台風14号に伴う豪雨は3~4日間も降り続いた「長時間豪雨」であった。しかも雨域は広く、大淀川などでは本川と支川の合流付近で氾濫が続発するとともに、鰐塚山などで大規模な土石流も発生した。前者は最大時間雨量が大きく、後者は連続累加雨量が極めて大きいのが特徴的であった。重要なことは、水害も土砂災害も、時間雨量の大きな「猛烈な雨」が短時間降っても発生するし、時間雨量のそれほど強くない「激しい雨」が長時間降っても発生することである。
このように見てくると最近発生した豪雨の「異常」性がどこにあるかが分かる。例えば、2020年九州豪雨災害は、球磨川流域や筑後川流域において広範囲に比較的長時間豪雨が降った結果であり、平成で最悪の豪雨災害と言われた2018年西日本豪雨災害も同様なタイプであった。一方、朝倉市などで発生した2017年九州北部豪雨は最大時間雨量も連続累加雨量も記録的で甚大であったが、雨域は比較的限定的であった。
豪雨災害は様々な降雨シナリオのもとで発生している。特に、堤防の決壊や崩壊・土石流などは発生が突発的で且つ確率的でもあり、逃げ遅れて亡くなる住民が多い。一般に豪雨の場合、避難のタイミングが難しく、自治体から避難情報が発せられても逃げ遅れる住民が多い。
そのため、平常時から、自分の状況に合った「防災避難計画」を策定しておくとともに、災害時の適切な判断能力を養うため「避難判断訓練」も必要である。また、豪雨時には、気象庁から発せられる気象警報や自治体からの避難情報などの収集が重要である。しかしながら、それらの予測情報は空間的な分解能が数㎞単位で粗く、地域住民の生活空間スケール(数10m単位)から見ると精度が悪い。そのため地域スケールの観測情報も必要である。自宅の庭に簡易雨量計を設置したり、付近の川や道路斜面などの状況を目視により監視したりすることは観測情報として有効である。しかし、地域における直接的な監視活動には危険を伴う場合がある。簡易な雨量計や水位計、ビデオカメラの設置などリモート監視も押し進め、住民の早期避難につなげることが重要である。