春吉橋と空間再編
~福岡市の新たなシンボルとしての春吉橋のあり方~
~福岡市の新たなシンボルとしての春吉橋のあり方~
塚原浩司
キーワード:橋梁架替、空間再編、賑わい空間
1.はじめに
道路はクルマのためだけのものではなく、特に、都市部の一般道路では、クルマ以外にも、歩行者、自転車、新たなモビリティなど多様な利用者が通行している。クルマの交通の円滑化を主な目的とする幹線道路ネットワークの整備の進展に伴い、今後はクルマ以外の利用者も含め、多様な利用者が安全・安心して共存できる環境整備を積極的に進める必要がある。
2.国道202号国体道路及び春吉橋の概要
国道202号は、福岡県福岡市を起点とし、佐賀県唐津市および長崎県佐世保市等の主要都市を経由して、長崎県長崎市に至る延長約250㎞の主要幹線道路である。
その中でも、福岡市博多区祇園町から中央区大濠公園までの約4.5㎞区間については、昭和23年に福岡市で開催された第3回国民体育大会に併せて整備されたことにより、「国体道路」と市民の間で呼ばれ、親しまれている。
その国道202号国体道路は、人口150万人都市である福岡市におけるビジネスやショッピング等の2大集積地である「天神」と「博多」を結んだ4車線道路であり、春吉橋は福岡市都心部のほぼ中心に位置している。また、春吉橋周辺には博多祇園山笠に代表される祭りや櫛田神社等の神社仏閣、キャナルシティをはじめとする商業施設、今も残る昔ながらの路地や街並みなど、豊富な観光資源を有している(図-1)
春吉橋の交通量については、都心部の商業施設へのアクセスや通勤通学等で、自動車約35,000台/ 日、歩行者・自転車約2万人/ 日となっている。特に歩行者の利用においては、昼間より夜間の交通量が多いという特徴を有している(図-2)。
3.春吉橋架替事業の概要
春吉橋は、昭和36年に架設されて以来50年余りが経過しており、下部工の損傷が著しく、干潮区域(河口から約1.5㎞)にあるため、塩害も進行している。更に基礎が木杭であるため、地震に対する十分な耐力が期待できない(写真-2,図-3)
また、春吉橋が架かる那珂川は、平成21年7月の中国・九州北部豪雨では流域に甚大な浸水被害が発生したところであり、現在、福岡県で河川改修事業を進めている。春吉橋は、橋脚の間隔が短く、川幅も狭くなっているため、治水上のネックとなっている(写真-3,図-4)。
これらの課題を解消するため、平成25年度より春吉橋を架替える事業に着手した。
4.春吉橋架替時の迂回路橋の活用
春吉橋周辺は、“2. 国道202 号国体道路及び春吉橋の概要” にて述べたとおり、観光資源が多く点在しており、また福岡の都心中枢である「天神」と「博多」2つの都心を結ぶ中間に位置している。 この「天神」と「博多」が「競争と協調」によって共に発展していくためには、「回遊性」を高めることが重要な鍵といわれている。
しかし、その回遊性を支える春吉橋を含む国体道路付近は歩道幅員が約W=3.0mと歩行空間として狭小であり、その中に植栽帯、電線共同溝地上器、案内標識等の各種道路付属物が存置している。この様な過密な都心空間において、沿道に空間を創出することは非常に困難である。
そこで、一般的な橋の架替の場合は、仮設の迂回路橋を設置し、本橋の架替後にその迂回路橋を撤去するが、今回の春吉橋架替事業では、迂回路橋を永久橋として建設し、架替後も撤去せずに存置して「福岡の顔」となる賑わい空間として利用する計画としている(図-5)
5.春吉橋を核とした空間利活用に関する技術研究会
国体道路やその周辺は、歴史遺産や世間遺産などが多く残され、多彩な市民の暮らしがある一方、賑わいや快適性に欠け、更に老朽化したインフラや建物、公共交通の低い利便性などの課題がある。これに対して、現在、“ 回遊のまちづくり” の実現に向けて、福岡市、福岡県、国土交通省が一体となって、地下鉄七隈線延伸、那珂川河川改修事業、春吉橋架替事業など様々なプロジェクトが始動している。
その様な中、回遊のクロスポイントとなる『春吉橋』を核とした空間利活用の将来ビジョンを技術的見地から検討し、福博連携のシンボルと呼ぶに相応しい空間づくりを産学官及び地域とが連携して推進するための「春吉橋を核とした空間利活用に関する技術研究会」が平成25年11月25日に設置された。
研究会は、福岡市、福岡県、国土交通省福岡国道事務所が事務局となり、九州大学教授の坂口委員長を始め12人の学会、経済界等の委員により構成され、現地踏査を行うなど約1年7ヶ月(計5回)に渡って熱心に検討していただき、平成27年6月19日に提言書としてまとめていただいた(図-6,7,8)。
提言書は、大きく3章にまとめられており、その概要は下記のとおりとなっている。
第1章では、春吉橋が持つ“ ど真ん中” のポテンシャルとして、春吉橋架設時の迂回路橋を水上広場として活用した都市の新たな賑わいづくりを行うこと、地下鉄七隈線延伸により天神・春吉・中洲川端・博多ラインが結束されること、天神・博多駅周辺で都市機能が強化され、回遊人口の増大が見込まれること、そして昨年過去最高を更新するなど観光客数が増加していることを上げている。
第2章では、春吉橋の迂回路橋を活用した新たな水上広場が目指すべきイメージについて、「人々が集い、憩い、交わり、街ぶらを触発する磁場ゾーン」、「バザール的な賑わいが年中たえない水上広場」、「『川面に映える街』を昼も夜も撮りたくなるエリア」、「人間くささや界隈性にあふれるソウルストリートへの入り口」、「世界に誇るエンターテインメントストリート1丁目1番地」という5項目を提示いただいている。
第3章では、これからの取り組みとして以下の4点が重要であるとしている。
1点目は、市民を巻き込んだプロセスに配慮して「都市の新たな象徴となるイメージづくり」を検討していくこと。そして検討にあたっては、男性・女性そして子供ならではの視点や若者の活力をどの様に活かしていくかという視点を持つことが重要であるとしている。2点目は「オープンに向けた話題づくり」として、工事の進捗状況や空間デザインの具体化に関わる情報発信、空間のネーミングの募集などを段階的に行っていくこと。3点目は「事業性を生み出すビジネスの仕組みづくり」として、地域の魅力向上には、徹底した民間の視点と活力が必要であるため、水上広場の空間の企画・運営等のビジネスモデルについては、他地域の先行事例におけるメリット・デメリットを見極めながら民間の力を最大限活用し、今後の全国の先進例となるようなモデルを考慮していくこと。4点目は「回遊人口を支える安全・快適な交通環境づくり」として、国体道路周辺に隠された観光資源を案内出来るような表示を設置すること、歩道内の占用物件や放置自転車、道路の凹凸など歩道内の阻害要因を春吉橋前後において段階的に解消していくこと、夜間利用者が多いという特性があるため、夜間でも安全・快適な回遊が行える対策を行うこと、そして回遊性を高めるためには地下鉄やバスとの連携が必要である等の提言をしていただいた。
なお今後、春吉橋の迂回路橋を活用した賑わい空間のより具体的な計画については、賑わい空間の管理者となる福岡市が中心となり、地域等の意見を伺いながら、提言書のイメージに基づき策定していく予定となっている。
6.おわりに
多様な利用者が安全・安心して共存できるようにするためには、回遊性や交通安全性等を高める歩行空間を創出する必要がある。特に都市部において歩行空間を確保するためには、橋梁の迂回路橋を存置し空間再編に活用するなど新たな手法の検討も必要になってくる。また、都心空間のマネジメントのためには、道路以外も含めた総合的かつ持続的な取組みが必要であり、産学官よるエリアマネジメントを強化していくことが重要であると考えている。
春吉橋架替事業は、平成27年10月31日に起工式を行い現在P1橋脚の施工を行っている。
春吉橋を核とした空間利活用に関する技術研究会において提言書を策定していただいた九州大学教授の坂口委員長を始め12人の委員の皆様、そして当事業にご理解ご協力をいただきました地元及び関係者の皆様に厚く感謝申し上げたい。