新技術『工法比較表データベース』について
国土交通省 九州地方整備局
九州技術事務所 事務所長
九州技術事務所 事務所長
島 本 卓 三
国土交通省 九州地方整備局
筑後川河川事務所
総括保全対策官
筑後川河川事務所
総括保全対策官
小 柳 典 親
キーワード:生産性革命、新技術活用システム、NETIS(新技術情報提供システム)
1.はじめに
我が国は、現在、人口減少社会を迎えており、2050 年には人口が1 億人を割り込むと言われている。建設産業においても、建設業就業者数が1997 年をピークに減少しており、働き手の減少を上回る生産性の向上が求められている。
そのような背景のなかで、国土交通省では平成28 年を「生産性革命元年」と位置付け、生産性向上につながるあらゆる取組を加速化するための「生産性革命プロジェクト」を選定した。さらに平成29 年を生産性革命「前進の年」とし、そのプロジェクトのさらなる具体化に取り組んでいる。
一方で、国土交通省においては「新技術活用システム」が制度化し、新しい技術の情報収集・提供のツールとして整備した「新技術情報提供システム(以下、「NETIS」という)により運用を図っているところである。
今後、建設現場における生産性をより向上させるためには、省人化、省力化といった新技術の活用促進が必要となり、そのことが「生産性革命プロジェクト」を前進させる一翼を担うと考える。
2.新技術活用システムの概要
新技術活用システムは、整備局等がNETIS への登録申請を通じて民間事業者等(以下「開発者」という。)によって開発された新技術の技術的事項に関する情報等を収集することから始まり、新技術の活用→導入効果の検証・評価→新技術の改良といったフローでシステムが循環し、開発された技術の更なるスパイラルアップを図るものである(図- 1 参照)。
なお、現在NETIS には、土工、コンクリート工、基礎工等の33 工種に分類された多くの新技術(平成30 年4 月現在 約2800 件)が登録されており、その中にはICT 関連技術を初めとして、機械化、大型化、二次製品、軽量化・コンパクト化等の技術特性を持った技術も登録されている。
3.新技術活用の現状
ここ数年の九州地方整備局の新技術活用率(新技術を活用した工事件数を総工事件数で除したもの)の推移を見ると、平成20 年度に30%を超え、年々ほぼ増加傾向で推移しており、平成29 年度には54.8%の活用率(暫定速報値)を達成している(図- 2 参照)。
4.「発注者指定型」の活用促進
新技術の活用にあたっては、
・現場のニーズ等により必要となる新技術を対象に発注者の指定により活用を行う「発注者指定型」
・施工者(受注者)からの提案により活用を行う「施工者希望型」が大部分を占めているが、九州地方整備局では、その他「テーマ設定型」等4 タイプを含めた計6 タイプの活用方式にて活用を図っているところである。
・現場のニーズ等により必要となる新技術を対象に発注者の指定により活用を行う「発注者指定型」
・施工者(受注者)からの提案により活用を行う「施工者希望型」が大部分を占めているが、九州地方整備局では、その他「テーマ設定型」等4 タイプを含めた計6 タイプの活用方式にて活用を図っているところである。
なお、新技術の活用タイプ別毎の活用状況(平成25 年度~平成28 年度)は、「発注者指定型」、「施工者希望型」が多く、概ね2:8 の比率の活用件数で推移している状況である(図- 3 参照)。
次に、九州地方整備局における新技術の活用によるコスト縮減額は、平成29 年度ではNETIS 申請情報ベースで概ね26 億円であったが、活用タイプの内訳では、「発注者指定型」が約6 割を占めている(図- 4 参照)。
したがって、「発注者指定型」の活用件数は全活用件数の2割で、「施工者希望型」に比べ少ないにもかかわらず、コスト縮減効果が高い結果となっており、「発注者指定型」の活用促進を図る必要がある。
更に、現場に諸々の制約条件が存在するため、当該現場に適応した技術を選定することで公共工事の「品質向上」「工期短縮」「建設コストの縮減」等に寄与することを目的として、工事の根幹に関わる工種で活用するケースが多く、「発注者指定型」の活用を推進させることが必要不可欠である。
5.新技術活用検討時の課題
「発注者指定型」にて新技術を活用する際はNETIS 登録技術を検索して工法比較検討を行うが、採用する技術を選定する際に下記の課題を有する。
①選定を行う工法・工種において、複数の類似技術が登録されており、従来工法が統一されていないため、特徴(長所、短所)がわかりにくい。
②事後評価済み技術においても、全国で作成された「活用効果調査表」により評価されているため、九州地方への技術の適応性を検討するには必ずしも十分な情報となっていない。
それらを解決するために、従来技術を統一して類似技術の横並べを可能とし、また補完調査により得た各種試験結果、発注者ニーズへの適応性の評価も行った工法比較表を各技術毎に作成し、データベース化することで検索用件を選択するだけで現場に適応した技術を抽出することを可能とする手法を検討した。
6.課題への取組み
(1)工法比較表データベースの作成にあたって
以上のような課題を解決し、新技術を積極的に活用・促進するために、産学官にて構成されるワーキンググループ(以下「WG という。」)においてNETIS 技術の情報分析を行い、工法比較が適確に行えるよう検討を行い、その結果を広く情報共有することとした。検討する工種については、発注事務所へのアンケート調査の実施結果から、先ず『軟弱地盤処理工』及び『コンクリート構造物補修工』に着手した。
(2)「工法比較表」のコンセプト
今回「工法比較表」を作成するに当たっては、5.の課題を解決し、ユーザーが検索し易くすることを考慮し、下記のとおり大きく3 つのコンセプトを掲げてとりまとめを行った。
①統一した従来技術の設定
NETIS に新技術を登録する際の申請情報は、従来技術を技術毎に開発者が任意に設定し、その従来技術と比較した情報が提供されているために、多数の類似技術と並べて比較することが困難であったため「統一した従来技術」(原則として土木工事標準積算基準書に規定されている工種)を設定したことによって横並べによる比較をより行い易くした。
②補完調査により技術情報を充実
NETIS 申請情報で不足している情報(統一した従来技術に基づく施工費用・施工日数、各種試験結果、設計条件、施工機械の供給体制、現場条件への適応)を補完することで、現場条件に即した技術の選定を容易にする。
③現場の仕様と要件に合った技術を抽出
今回の「工法比較表データベース」においては、検索シートにより現場の仕様、要件に合った技術を抽出することが可能なものとした。
(3)「工法比較表」の構成
今回の「工法比較表」は(2)で示したコンセプトをベースとした構成とし、図- 6 に示すように4 つのパートに分け1 技術毎(1 技術に複数仕様がある場合は1 仕様毎)に工法比較表を作成した。
① NETIS 情報
NETIS 申請情報から必要な情報(技術概要、施工条件、適用条件等)を抜粋したもので、補完調査で得た情報も追記した。
②評価情報
新技術を活用後に提出される調査表を基に行う事後評価の結果と、調査表に記載されて技術の特徴を示す代表的なコメントをまとめたもの。さらに、九州での適用性がより把握できるように評価結果の中から九州の活用実績だけ抜粋したものを併記した。
③補完情報
統一した従来技術に基づいた補完調査による概算施工費用・概算施工日数や各種試験結果、現場条件への適応性をとりまとめたものであるが、補完情報の項目については全ての工種で統一されるものではなく、工種毎に必要とされる項目が異なるのでとりまとめ内容は異なってくる。
④総括
①~③について、各技術において特徴的な情報についてとりまとめた。
以上、①~④の構成により「工法比較表」をEXCEL 形式で技術(または仕様)毎に作成し、それらをデータベース化し、検索シートより条件をチェックすると適合した技術が全て抽出される(図- 5 参照)。
(4)「工法比較表データベース」による工法選定フロー
前述のとおり、「工法比較表データベース」において工法選定を行う場合、現場の仕様及び必要とする条件をチェックすることで、適合する技術を全て抽出するため、複数の技術が抽出されることも多々ある。
そこで、最終的に1 つの技術を選定するための手順として、今回「工法比較表データベース」とセットで提供している「ユーザーマニュアル」にも記載しているが、このデータベースは実施設計時において新技術の適用を検討する場合、該当現場の仕様と現場条件に合致した技術を抽出する一次選定サポートツールとしてあえて位置づけた。
次に、各現場において最も必要とされる項目の重み付け(現場において何を一番重要視するのか)と、その現場条件に即した経済性等を横並べし最終的に1 つに技術を絞り込むといったフローを想定している。
軟弱地盤処理工の深層混合処理工(機械撹拌工)を例に見てみると、まず図- 5 の前段でエクセルで作成した「検索条件入力シート」のチェック項目の、該当現場において地盤改良する改良長、改良径、土質の仕様要件と発注者ニーズ(現場で必要とする要件)を選択項目の中から選ぶと、それらの条件に適合した全ての技術を抽出し、抽出結果(抽出した技術数)をシートの下段に表すようにした。抽出結果は、「結果シート」に抽出された全ての技術の「工法比較表」を並べて出力するようにし、それぞれの技術の特徴を横並べで比較することができ、一次選定終了となる。
その後に、当該現場毎に一次選定結果に基づき、現場条件に即した施工費、現場で必要とする要件の重み付け(例えば、該当する現場に家屋が近接し、施工ヤードが狭く、騒音・振動に留意が必要な現場の場合:「発注者ニーズへの適応性」㉓、㉖の項目の評価が高いものをより高く評価する等)及びその他の補完情報を考慮した二次比較表を作成し、最終的に1 つの技術を選定することとなる。
7.おわりに
以上「発注者指定型」による新技術活用促進に係る九州地方整備局の取り組みついて紹介したが、「工法比較表データベース」の活用がユーザーにとって使い勝手のよいツールとなることを期待している。現在、活用にあたってはアンケートも行っており、意見によってはフィードバックも行ってきている。
このことによって、新技術の活用が増え工事全般の品質(工程、品質・出来形、安全等)が向上し、さらに生産性向上が図られると考えている。
最後に、今後も開発者の新技術の開発意欲が沸くような新たな仕組み作りを推進して、安全安心な暮らしを支える社会資本整備に寄与できるよう努めていく。
謝辞
今回の執筆に当たり、国土交通省九州地方整備局と九州大学との連携・協力に関する協定書に基づいた「社会基盤技術創造研究推進協議会」に設置された「九州のフィールドに適応した新技術の活用促進に関する研究プロジェクトチーム」、「軟弱地盤処理工WG」、「コンクリート構造物補修工WG」において対象技術の評価・検討およびそのとりまとめ等を実施して頂いた関係者各位、貴重な資料や情報の提供を頂いた新技術開発者各位に感謝の意を表す。