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新しい入札・契約制度とその運用について

建設省九州地方建設局
 企画部技術審査官
木 下 茂 廣

1 はじめに
わが国における,公共工事の入札・契約制度としては,明治33年の指名競争方式の創設から約90年,指名競争方式を基本としてきました。
しかしながら,公共工事およびその担い手である建設産業を取り巻く諸情勢は近年大きく変化してきています。
地球環境問題への意識の向上,高度情報化の進展,国の内外からの貿易摩擦の解消や規制緩和といった課題が提起され,さらには,公共工事の発注をめぐる一連の不祥事をきっかけに,平成5年12月21日の「中央建設業審議会建議」に基づき,透明性・客観性,競争性を大幅に高め,不正が起きにくいシステム構築を目指して,90年振りに,公共工事の入札・契約制度の大改革が進められてきました。その後,平成9年4月政府の「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」,および建設省としての「公共工事コスト縮減対策に関する行動計画」が策定され,平成10年2月4日には「中央建設業審議会建議」が出され,さらには,「公共工事の品質確保等のための行動指針」により,「発注者責任」として,発注者の役割を整理するとともに,個別施策について行動指針がとりまとめられました。

2 「中央建設業審議会の建議」および「公共工事の品質確保等のための行動指針」について
平成5年12月の中央建設業審議会(以下中建審という)「公共工事に関する入札・契約制度の改革について」の建議を受け,既に,平成6年度より一般競争入札方式の採用,指名競争入札方式の改善(公募型,工事希望型方式の採用等)が実施されており,入札手続きの透明性・客観性,競争性を高めているところですが,平成10年2月4日の建議では,
建設市場の構造変化に対応した今後の建設業の目指すべき方向について
~技術と経営に優れた企業が伸びられる透明で競争性の高い市場環境の整備~
について,今後の目指すべき目標と位置づけられています。
また,公共工事の建設費縮減に対する国民の要請を受け,平成9年4月に政府としての「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」および建設省としての「公共工事コスト縮減対策に関する行動計画」が策定されました。
競争性の増大,コストの縮減は,いずれも公共工事の品質確保が極めて重要な課題となったことから,平成6年12月に農林水産省,運輸省,建設省が共同で事務局となり,学識経験者よりなる「公共工事の品質に関する委員会」(委員長:近藤次郎東京大学名誉教授)を設置し,公共工事の品質を確保・向上するための方策の検討を進め,平成8年1月に当委員会により,報告書がとりまとめられました。
さらに,平成8年9月,省内に「公共工事の品質確保等のための行動指針検討委員会」(委員長:技監)を設置し,平成10年2月に発注者の役割を「発注者責任」として整理するとともに,個別施策についての行動指針をとりまとめました。
本行動指針によれば,
発注者の役割とは,
良質なモノを低廉な価格でタイムリーに調達する責任がある。
とされており,「造る」立場から「買う」立場により近づく必要があると発注者の役割・立場の明確化が提言されています。
その中で,企業評価の見直しについても検討されており,「等級制の運用によっては,企業の自由な競争を制限することとなり,発注者責任を十分に果たせない恐れがあるため,施工能力を有する企業が競争に参入できる環境を整備する観点から,等級区分の統合,工事の技術的難易度の適切な反映方策などについて検討すべきである。」との指摘もあり,今後検討を進めていくこととなります。
また,

公共工事の品質確保等のための主要施策としては
1 技術者・技術者の技能向上と能力を発揮できる環境の整備
2 技術情報データベースの整備,建設CALS/ECの構築等技術研究開発の促進と技術基盤の整備
3 品質確保・向上のインセンティブ付与
4 VE・DB,CM等民間の技術力を活用する方式の導入
が重要であるとされ,さらにはPFIやBOT等民間資本による社会資本整備の議論もなされています。これら発注者責任の理念に基づいて,全ての発注者が適切に対応するようにルールを確立すべきであり,今後,懇談会を設け,さらに具体の方策を検討していく方針となっています。

3 入札・契約の制度の改革
(1)一般競争入札方式の採用,指名競争入札の改善
平成5年12月の中建審建議「公共工事に関する入札・契約制度の改革について」を受け,一般競争入札方式の採用,指名競争入札方式の改善(公募型,工事希望型方式の採用等)が平成6年度より実施されており,入札手続きの透明性・客観性,競争性を高めています。
また,透明性・客観性を向上させる方策として,平成10年度から予定価格の事後公表を実施しています。
図ー1は各年度別の発注方式別割合(年度当初の工事費ベース)を示したものですが,上記3方式の割合が確実に増大していることがわかります。

(2)多様な入札・契約方式の試行
「VE」とは,目的物の機能を低下させずにコストを低減する,または同等のコストで機能を向上させるための技術です。建設工事における「VE」は実施する段階に応じて,「設計VE」,「入札時VE」,「契約後VE」に分類できます。また,工事価格のみではなく,ライフサイクルコスト等を含めて総合的に評価する「技術提案総合評価方式」や,設計・施工技術の一体的活用を図る「デザインビルド方式」等も存在し,これらを含めて多様な入札・契約方式と呼んでいます。

これら多様な入札・契約方式は「中建審の建議」および「公共工事の品質確保等のための行動指針」でもその導入が提唱されており,九州地建でも平成8年度に初めて試行し,平成9年度には別紙のとおり19件についてその試行がなされています。
これらの試行結果の総括としては,次のとおりです。
1 入札時VE7件については,当初の予想以上にVE提案数が多かった(平均では参加業者13.3社中,採用7.0社で,採用率約53%)。
2 入札時VEのVE提案について,業界からの要望として(当初のアンケート調査では),提案にかなりの時間を要しているため,書類の簡素化,標準仕様の情報量を増やして欲しいとの意見が出されていました。
 一方,VE提案を評価する発注者側としては,当初は受注者側もVE提案について十分な理解がなされていない場合があり,提案に手戻り(ヒアリングによる補完が必要)が生じ,その整理・評価に相当の時間を要している等の意見がありました。
3 契約後VE10件については,現在までVE提案として採用された工事はありません(現在までに4件は標準案で施工,1件は提案不採用,残り5件については現在検討中となっています)。

【別 紙】
平成9年度多様な入札・契約方式の試行状況について(総括)

1 九州地建における「多様な入札・契約方式」の試行件数について
  ① 設計VE(基本設計着手後VE) 1件
  ② 入札時VE(価格競争型)    7件
  ③ 契約後VE           10件
  ④ 詳細設計付き競争入札方式    1件
 ______________________
        計          19件

2 入札時VEにおけるVE提案状況

3 契約後VEにおけるVE提案状

4 おわりに
建設業は国内総生産の約2割弱に相当する建設投資を担うとともに全就業人口の約1割を擁するわが国の基幹産業で,国民生活を支える住宅・社会資本整備の担い手として重要な役割を果たしています。
21世紀を目前に控え,社会的にも転換期である今こそ,豊かさを実感できる質の高い社会資本整備を,より安く,国民のコンセンサスの下に着実に進めるべき時と考えられます。
今後,これらの観点から「多様な入札・契約方式」の導入に当たっては,平成9年度の試行を通じて,さらに良い制度として定着が図れるように努力していきたいと考えています。
なお,入札・契約制度関係における一層の透明性を確保するため,個人情報の保護を勘案しながら,次のとおり情報公開がなされています。
今後は,これらの施策を含め,中建審建議および「公共工事の品質確保等のための行動指針」で提唱されている新しい施策等の導入に当たっては国民のコンセンサスが得られる,より良い施策となるように,さらなる検討を進めていきたいと考えています。

〇発注予定情報の公表(年度当初,下半期,補正予算成立時等)
  一般競争入札,公募型指名競争入札,工事希望型指名競争入札,および簡易公募型以上のコンサルタント業務について発注予定工事名(業務名),工事概要(業務概要),発注予定時期等を公表しています。
【九州地建の掲示板およびインターネットのホームページ,関係工事事務所の掲示板に掲載】

〇九州地建契約工事および上記のコンサルタント業務の掲示等
  発注前に詳細な工事(業務)情報を掲示し,一般公募を行います。
【九州地建の掲示板およびインターネットのホームページ,関係工事事務所の掲示板に掲載】

〇入札結果および予定価格の事後公表
  関係発注機関(本局,各担当工事事務所)の契約担当課において公表しています。
【本局,各担当工事事務所の契約担当課において閲覧方式】

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