技術提案・交渉方式について
森田康夫
キーワード:技術提案・交渉方式、ガイドライン、価格等の交渉
1 はじめに
現在、国土交通省の直轄工事のほとんどにおいて、一般競争入札・総合評価落札方式が適用されている。しかしながら、今日、大深度地下空間での工事、都市部での狭隘な空間での工事、重要な幹線道路で通行止めが許されない状況での実施が求められる修繕工事、大規模災害の被災地における短期間での実施が求められる復興工事等、これまでにない厳しい条件下で高度な技術が必要とされる工事の調達が想定され、従来の方式だけでない多様な調達方式の整備が求められる。
この様な背景のもと、平成26年6月4日に公布され、即日施行された「公共工事の品質確保の促進に関する法律の一部を改正する法律」(平成26年法律第56号)により、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(平成17 年法律第18号。以下「品確法」という。)第18条に「技術提案の審査及び価格等の交渉による方式」(以下「技術提案・交渉方式」という。)が規定された。
その後、国土交通省が設置している「発注者責任を果たすための今後の建設生産・管理システムのあり方に関する懇談会(座長:小澤 一雅東京大学大学院工学系研究科教授)」で技術提案・交渉方式について検討され、その結果を踏まえ、平成27 年6 月に「国土交通省直轄工事における技術提案・交渉方式の運用ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)が策定された。ガイドラインによる技術提案・交渉方式では、技術提案で優先交渉権者を選定し、優先交渉権者と価格等の交渉を行った後、交渉の結果に基づいて予定価格を作成することとなる。
本稿ではガイドラインの記載に基づき、技術提案・交渉方式の概要について説明する。
2 概要
2.1 適用が想定される工事
技術提案・交渉方式は、品確法第18 条の規定に基づき、当該工事の性格等により、発注者が仕様の確定が困難な場合に適用される。
具体的に適用される工事としては、
①「発注者が最適な仕様を設定できない工事」
②「仕様の前提となる条件の確定が困難な工事」
が想定される。それぞれの工事の例等を表-1に示す。具体の適用に当たっては学識経験者等で構成される第三者委員会において、適用の妥当性について審査を実施するものとする。
2.2 契約タイプ
技術提案・交渉方式は、施工者独自の高度で専門的なノウハウや工法等を活用することを目的としており、この目的を達成するため、一般的な「工事の施工のみを発注する方式」と異なり、設計段階において施工者が参画することが必要となる。
ガイドラインでは技術提案・交渉方式として、①設計・施工一括タイプ、②技術協力・施工タイプ及び③設計交渉・施工タイプの3 種類の契約タイプに分類しており、図-1の選定フローを参考に契約タイプの選定を行う。以下、各タイプの概要について説明する。
(1)設計・施工一括タイプ(図-2)
「発注者が最適な仕様を設定できない工事」において、技術提案に基づき選定された優先交渉権者と価格等の交渉を行い、交渉が成立した場合に設計及び施工の契約を締結する。
(2)技術協力・施工タイプ(図-3)
「発注者が最適な仕様を設定できない工事」又は「仕様の前提となる条件の確定が困難な工事」において、技術提案に基づき選定された優先交渉権者と技術協力業務の契約を締結し、別の契約に基づき実施している設計に技術提案内容を反映させながら価格等の交渉を行い、交渉が成立した場合に施工の契約を締結する。
優先交渉権者とは技術協力業務の契約と同時に、工事の契約に至るまでの手続に関する基本協定を締結し、円滑に価格等の交渉を行うものとする。また、優先交渉権者の技術提案を踏まえた設計を円滑に実施するため、技術協力業務及び設計業務の仕様書に発注者、設計者及び優先交渉権者の三者間の協力に関する取り決めを記載するか、三者間で設計協力協定を締結するものとする。
優先交渉権者が発注者に提出した技術提案とその技術情報は、発注者から設計者に提供され、設計者がその内容の確認と評価を行い、その後、発注者、設計者及び優先交渉権者の三者で設計への適用の可能性や有効性、課題等について協議した上で、発注者の判断により、設計への反映を設計者に指示するものとする。
(3)設計交渉・施工タイプ(図-4)
「発注者が最適な仕様を設定できない工事」又は「仕様の前提となる条件の確定が困難な工事」において、技術提案に基づき選定された優先交渉権者と設計業務の契約を締結し、設計の過程で価格等の交渉を行い、交渉が成立した場合に施工の契約を締結する。
設計段階では優先交渉権者と設計業務の契約を締結する。優先交渉権者とは設計業務の契約と同時に、工事の契約に至るまでの手続に関する基本協定を締結し、円滑に価格等の交渉を行うものとする。
2.3 技術提案の評価項目
「発注者が最適な仕様を設定できない工事」では、総合評価落札方式技術提案評価型A型と基本的には同様な評価項目となる。一方、「仕様の前提となる条件の確定が困難な工事」では、定量的な提案や評価が困難なため、実施方針や事業目標を達成するための手法、アイデア等を評価することとなる。評価項目の例を表-2に示す。
なお、工程短縮やコスト縮減の提案においては、施工方法や使用資機材の見直しなど合理的な根拠に基づき、適正な工期、施工体制等を確保することを前提とする。また、提案内容の評価においては、無理な工期、価格によって品質・安全が損なわれる、あるいは下請、労働者等に適正な支払いがなされない恐れがないよう留意する。
2.4 参考額の設定
技術提案・交渉方式では、競争参加者にとっては技術提案の自由度が高い反面、仕様が確定していないことから、場合によっては、提案する目的物の品質・性能と価格等のバランスの判断が困難となり、発注者にとって過剰な品質で高価格な提案となる恐れがある。また、競争参加者により提案された目的物の品質・性能や価格等に大きなバラツキがある場合、発注者がその内容の評価を適切に実施することが困難となることも想定される。そのため、競争参加者の提案する目的物の品質・性能のレベルの目安として、予め、発注者が参考額を設定することができる。
なお、参考額は単なる目安であり、予算決算及び会計令第99 条の5 に規定された予定価格ではなく、その範囲内での契約を要するものではない。
参考額の設定方法として、以下の2 通りが考えられる。
①既往設計、予算規模、過去の同種工事等を参考に設定した参考額を説明書に明示する。
②競争参加者に見積りの提示を求め、提示された見積りを参考に予算規模と調整した上で参考額を設定する。
2.5 優先交渉権者の選定
競争参加者から提出された技術提案内容を、技術評価点の高い者から順位付けし、第1位の者を優先交渉権者とする。支出負担行為担当官又は分任支出負担行為担当官は、当該技術提案を提出した者に対して優先交渉権者に選定された旨を通知する。また、次順位以降となった各競争参加者に対して次順位以降の交渉権者として選定された旨を通知する。
2.6 価格等の交渉
価格等の交渉の成立については、発注者としての説明責任を有していることに留意し、成立条件を含めて学識経験者への意見聴取結果を踏まえて決定する。交渉の成立条件は、以下のような条件を満たしているものとする。
・参考額又は予定事業規模と見積りの総額が著しく乖離していない。また、乖離している場合もその内容の妥当性や必要性が認められる。
・各工種の直接工事費が積算基準や特別調査結果(建設資材及び施工歩掛)等と著しく乖離していない。また、乖離している場合でもその根拠として信頼性のある資料の提示がある。
優先交渉権者との交渉が成立した場合、次順位以降の交渉権者に対し、その理由を付して非特定の通知を行う。
2.7 予定価格の作成と工事請負契約の締結
予定価格については発注者としての説明責任を有していることに留意し、価格等の交渉の過程における学識経験者への意見聴取結果を踏まえて定める。作成に当たっては、価格等の交渉を通じて合意した技術提案を実施するために必要となる設計数量等(数量総括表、内訳書、単価表等の内容)について確認を行う。確認の結果を踏まえ諸積算基準類により予定価格を算定する。積算基準類に該当する歩掛や単価がない工種等に関しては、価格等の交渉の合意内容に基づくものとする。
予定価格の作成後、発注者と優先交渉権者で見積合せを実施し、最終的な見積書等の工事金額が予定価格を下回った場合は、優先交渉権者と工事請負契約を締結する。
2.8 交渉不成立時の対応
優先交渉権者との価格等の交渉を不成立とした場合には、優先交渉権者にその理由を付して非特定の通知を行うとともに、技術評価点の次順位の交渉権者に対して優先交渉権者となった旨を通知する。次順位の交渉権者に対しては価格等の交渉の意思の有無を確認した上で、交渉を開始するものとする。
2.9 価格等の交渉結果の公表
発注者は契約手続の透明性・公正性を確保するため、価格等の交渉について、その実施方法及び経過に関する結果を、工事の契約後早期に公表するものとする。
2.10 中立かつ公正な審査・評価の確保
技術提案・交渉方式の適用に当たっては、発注者の恣意を排除し、中立かつ公正な審査・評価を行うことが重要である。よって学識経験者より、個別工事の公示前、技術審査段階及び価格等の交渉の各段階において意見聴取を行う。
3 今後の検討課題
工事費の透明性の向上のため、工事費をマネジメント契約によるコスト+フィーで支払いを行い、オープンブックによって当該コストを検証することが考えられる。しかしながら、これらの運用に当たっては契約図書の整備や積算基準の見直し等が必要となることから、その実施については今後の検討課題とする。
4 おわりに
今後、制約条件の厳しい工事において、技術提案・交渉方式が活用され、施工者の有する技術により効率的で効果的な調達が実現されれば幸いである。ガイドラインの詳細については下記のURL を参考されたい。
http://www.mlit.go.jp/tec/koushouhoushikigaido.html