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建設騒音振動対策マニュアル(案)について

建設省九州技術事務所長
新  英 司

建設省九州技術事務所 
機械課長
宅 間 義 明

建設省九州技術事務所 
機械課
平 川 良 一

1 まえがき
最近の建設工事の機械化促進と使用機械の大型化現象は,施工の効率を高めた反面,騒音振動による公害問題を引き起こす事にもなってきた。
特に,市街地における工事については,地域住民の生活環境の保全を前提に,各規制法との関係を十分に理解しておかないと円滑な工事施工ができないことさえある。
さらに,平成元年4月1日から20年ぶりに騒音規制法が改正され規制強化もなされた。
このように騒音振動に対する現状は年々厳しいものとなって来ている。しかしながら,建設機械に関する騒音振動の基礎知識を掲載した多くの専門書1)は出版されているものの,現場技術者の間では十分に活用されていないのが現状のように思われる。
そこで,騒音振動についての要点を簡潔にまとめるとともに,九州地建管内で施工された建設工事の騒音振動の実測データ2)を基に各機種ごとの距離減衰グラフを作成し,現場技術者の手引書となる「騒音振動対策マニュアル(案)」の作成を行ったので,概要の報告を行うものである。

2 公害問題の概況
図ー1は公害に対する苦情件数を公害の種類別に表したものである。公害対策基本法で規定されている大気汚染,水質汚濁,土壊汚染,地盤沈下,悪臭,騒音,振動のいわゆる典型7公害で,全体の約88%を占めており,その中でも騒音や振動に対する苦情が約64%と多くなっている。

図ー2は騒音振動に対する苦情を種類別に表したものである。苦情の種類としては,うるさいとか不快感を覚えるという精神的なものが約71%と最も多く,次いで家屋の損傷などの物的被害が約15%となっている。

図ー3は騒音振動の被害地域の特性を表したものである。第1種住居専用地域,第2種住居専用地域,その他の住居地域の合計で,全体の約52%を占めている。
このように,騒音振動は公害の中で大きなウェートを占め,さらに,住民生活と密接に関係しており大変重要な問題であると言える。

3 建設工事に伴う騒音振動規制
騒音規制法は生活環境の保全と国民の健康の保護を目的とし,昭和43年に制定された。
建設工事を行う場合に騒音規制の対象となるのは指定地域内における特定建設作業であり,くい打機,びょう打機,さく岩機,空気圧縮機,コンクリートプラント等を使用する作業である。
騒音規制法は,平成元年4月1日より基準が改正されたが,その要点を表ー1に示す。

また,騒音規制法第27条では,指定地域内で行われる特定建設作業以外の作業について,条例で必要な規制を定めることを妨げるものでないとされている。各地方公共団体は公害防止条例などにより特定建設作業以外の作業の規制を行っている例が多い。
九州管内における条例の実態を表ー2に示すが,これらの詳細については,市町村の公害担当窓口に照会することが必要である。規制の方法は,法規制に準拠した形で行われており,さらに進んだものとしては規制基準の遵守義務,住民への事前説明義務などを盛り込んだ条件も見受けられる。

振動規制法も,生活環境の保全と国民の健康の保護を目的とし,昭和51年に制定された。
建設工事を行う場合に,振動規制の対象となるのは指定地域内における特定建設作業であり,くい打機,鋼球,舗装版破砕機,ブレーカー等を使用する作業である。
表ー3に特定建設作業に伴って発生する振動規制に関する現行基準を示す。
振動の場合も,騒音と同じように条例により規制を行っており,表ー4に九州管内における条例を示す。

4 建設騒音振動の低減対策
4.1 低減対策のフローチャート
平成元年4月1日より,騒音規制法が改正になり,今まで以上に厳しい低減対策を考えなければならないようになった。
しかし,建設騒音振動の低減対策について総合的かつ具体的に述べた専門書は皆無に等しい。
図ー4は低減対策のフローチャートである。

このような低減対策の流れの中で,最も重要なのは対象機種の選定や目標点の騒音振動レベルの予測である。しかし,レベルの予測を行うのに適切な資料がないのが現況である。
そこで,その問題点を解決するために,実測データーから距離減衰グラフの作成を行った。
4.2 距離減衰グラフ
図ー5はディーゼルパイルハンマの騒音の距離減衰グラフである。横軸は発生源からの距離,縦軸は騒音レベルである。図中のプロットしてある点は測定データーで,直線は測定データーを回帰分析することにより求めた回帰直線である。

グラフにおいて発生源からの距離の点から垂線を引き,回帰直線との交点を求める。この点が騒音レベルの予測値になる。
ただし,測定データーは同一機種において測定を行っても,周囲の建物などの現地状況によりバラツキを生じる。したがってより安全側を考えて交点の値に7dB加えた値を予測値の上限とする。
次に図ー6はディーゼルパイルハンマの振動の距離減衰グラフである。振動の場合についても,騒音の場合と同様にして予測値を求める。
他の機種についても同様にして,騒音振動レベルの予測値を求めればよい。図ー7(a)~(d)に騒音の距離減衰グラフ,図ー8(a)~(d)に振動の距離減衰グラフを示す。

4.3 建設騒音振動レベルの伝播
(1)騒音の伝播(距離減衰)
個々の建設機械より発生する騒音の減衰は,通常理論減衰値6dB(A)/DD(倍距離減衰)に近似することが多い。しかし,工事現場では現場条件(地面の起伏,周囲の建物,建設機械の複数稼働等)によって多少異なった減衰をすることもある。表ー5は主要10機種について,騒音の回帰式,相関係数,減衰値を示したものである。表中のXは発生源からの距離,Yはレベルの予測値である。各機種の減衰煩向については,ディーゼルパイルハンマなど大半の機種が理論減衰値に近似した5~7dB(A)/DDの範囲で減衰している。
しかし,超高周波杭打機は8dB(A)/DDと減衰が大きく,オールケーシング掘削機とドロップハンマは4dB(A)/DDにとどまった。

(2)振動の伝播(距離減衰)
振動の距離減衰は,地質および発生する周波数など種々の要因によって異なるといわれ,まだ解明されていない点も多い。
表ー6は主要10機種について,振動の回帰式,相関係数,減衰値を示したものである。
各機種について減衰傾向をみると,ディーゼルパイルハンマなどの5機種は6~7dB(A)/DDの減衰を示している。
しかし,大型ブレーカなど3機種は8~11dB(A)/DDと減衰が大きく,オールケーシング掘削機とダンプトラックは4dB(A)/DDの減衰にとどまった。

4.4 距離減衰グラフの使用効果
距離減衰グラフを使用することにより,次の効果が考えられる。
① 音源,振源より目標点までの距離がわかれば,知りたい地点の騒音レベル,振動レベルが推定できる。
② 騒音規制法や振動規制法による基準値との対比が可能である。
③ 工事費の積算段階で機種選定の目安となる。
④ 地元説明会の招集範囲を知ることができる。
4.5 低減対策の検討
現在行われている低減対策の具体的事例を若干紹介する。
(1)既製杭を対象とした場合
(ⅰ)ディーゼルパイルハンマ
 従来のディーゼルパイルハンマに防音カバーを装備すると10~20dB(A)程度の騒音低減が可能である。
 また,最近は低騒音型ディーゼルパイルハンマが開発されている。
(ⅱ)油圧ハンマ
 杭の打撃時における騒音を低減し,油の飛散や排煙を生じない工法である。
 従来のディーゼルパイルハンマに比べて10~15dB(A)程度の騒音低減が可能である。
 既製杭施工時の騒音振動を低減する工法として,掘削併用工法が多数開発されている。
 その主な工法として,アースオーガやアースドリル等の掘削機械を併用した中掘工法やプレボーリング工法がある。
 こうした杭先端打込み工法は,頭打ち工法に比べて15dB(A)程度の低減が可能である。
(2)鋼矢板、鋼杭を対象とした場合
(ⅰ)超高周波杭打機
 騒音振動対策型鋼矢板工法として,近年開発された工法であり,振動パイルドライバに比べ騒音で2~3dB(A),振動で10~15dB(A)程度の低減が可能である。
(ⅱ)油圧式杭圧入引抜機
 無騒音,無振動,無削孔で杭の圧入,引抜を行う工法である。暗騒音,暗振動とほぼ同じ程度の施工が可能である。
(3)伝搬経路上の遮断
 遮音壁を回折して伝搬した音は,塀がない場合に直接伝わる音よりも小さい。このような回折による音の低減効果は,塀がある場合とない場合の音の伝搬距離の差(行路差)と音の周波数によって異なり,行路差が大きいほど,また音の周波数が高いほど,回折による防音効果は大きくなる。

5 あとがき
今後,建設騒音振動に関する苦情件数は増加傾向をたどるものと考えられる。そのような状況の中で,本稿が現場技術者の資料として参考にされ,建設工事の円滑化の一助となることを期待する。
なお,今後は現在測定データーの少ないものについてデーターの蓄積を行っていき,現在蓄積されているデーターについても更に検討を加え,より一層の内容の充実を図っていきたいと考えている。

参考文献
1 日本建設機械化協会:建設工事に伴う騒音振動対策ハンドブック,1977(1987 改訂)等
2 建設省 九州技術事務所:建設騒音振動調査報告書,1972~1987

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