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建設業界におけるISOの動向

㈲アーバンシステム 代表取締役
 品質システム主任審査員
中 田 勝 康

はじめに
ISOという名称を新聞やTVで見かける機会が多くなったように感じる。実際に一般の市民からも“ISOを認証している企業なのに,XXXの問題があるのはおかしい”等のクレームが審査機関(ISO認証を審査する機関で国内には約50機関存在している)に舞い込む時代だから,ISOへの認識の底辺が広がり初めていることは間違いないだろう。
このレポートは,ISO(国際標準規格)9000,14000等を中心とする建設業界における認証動向を報告するとともに,ISOというツールの効果的な使い方等について,外部審査員(ISOの認証と継続状況を審査する審査機関所属の審査員)の眼から提示しておきたい。

1 ISOは今どうなっているか
(1)ISO 9000,14000はシステム規格である
一口にISOといっても多種多様な規格がありISO 001はネジ,ISO 400はフィルム感度,ISO 6934はPC鋼材といったように,基本的には製品規格としての国際標準が中心であった。
ところがISO 9000の初版が発行された1980年代からは,製品規格でなくシステム規格,すなわち作られた物ではなく,作る仕組み(システム)に対して国際的標準を適用しようとする議論が高まり,アメリカ,イギリスを中心にした検討が行われた。二者監査(発注者が受注者に対する直接的な監査)で十分と考えるアメリカと,三者監査(客観的な外部審査機関が企業を監査)を主張するイギリスの議論があり,結果的に1994年ISO 9000(第2版)が三者監査モデル(すなわちイギリス型モデル)として発行されたのである。
我が国におけるシステム規格との本格的な出会いは,この1994年版が最初であると考えてよく,ISO 9000(1994年)のJIS版が1998年に4年遅れて発行されたことからも当初の乗り遅れ状況が分かる。
そしてその後ISO 9001(品質),ISO 14001(環境),ISO 17799(情報セキュリティ),OHSAS 18001(労働安全衛生)等の,いわゆるシステム規格が建設業を中心とする国内企業へと浸透しはじめ,2003年7月現在では全数で約43,000社(ISO 9001:32,000社,ISO 14001:11,000社 但し重複有)が認証を果たしている。このようなシステム規格導入の国内での評判はいかがだろうか。
正直に言ってあまり芳しくないと認識しているが,その原因は記録に対する日本人の不慣れさに起因することが多いようである。
単一民族・単一言語の我が国では,発注者と受注者あるいは生産者と消費者相互の信頼はフェイス ツゥ フェイスで確保でき紙の記録よりも胸襟を開いて会話することの方が重要性が高かった。
その結果国内的には居心地の良い協調社会を形成する一方で、根回し,談合といった日本独特の(国際的には理解しにくい)習慣も産み出してきた。
しかしながら急速な国際化の進展や,PL法消費者保護法,株主訴訟法等の出現は,これまでのような“話せば分る”時代から,“明確な証拠を提示しなければならない”時代へと変わらざるを得なくなってきており,このギャップがシステム規格に対する一部の悲鳴へと結びついていると考えてよいだろう。

(2)建設業がリーディング産業である
システム規格としては,ISO 9001(品質),ISO 14001(環境),OHSAS 18001(労働安全衛生)が建設業界には馴染みが深い。
特にISO 9001は全認証企業の29%が建設業であるし,ISO 14001においても建設業が8%のシェアを有している。
OHSAS 18001についてはまだ始動し始めたばかりで認証数は少ないが,幻のISO 16000とも言われ建設業界もいずれその必要性に迫られると考えていてよい。
このようにシステム規格の認証については,諸般の事情(特に外部要因が多い)から,建設業がリーディング産業となっている。

2 建設業界においてISOは役立っているか 一外部審査員の眼から一
ISOの審査機関に所属し,建設業各社の認証及びその維持の取り組みの実状を外部審査(いわゆる三者監査)させて頂いて,既に約100社の訪問を体験した。
私なりのISOの有効性の判断ポイントは,
 ① 組織に対する外的および内的な視線への感度が高いか
 ② 組織として,マイナス要因がプラスヘと転じているか
の2点であり,このような視点から九州における建設業でのシステム維持の実状を報告してみよう。

(1)視線への感度が高いか
“見られることで,人は美しくなる”と言われる。他人の視線を意識するだけで,姿勢や話ぶりまでもが向上する事例は多々ある。
ISOには,実に多くの内外からの視線を受けるツールが準備されている。
ISOで要求している内部監査や外部監査等は,通常は株式上場企業でしか実行してないのだが,ISO認証企業では規模がどんなに小さくても必須要件である。

ただし,いかに多くの視線に晒されようと,組織の受信感度が高くなければ姿勢は美しくならない。視線を敏感に感じ取り,その視線の意味を理解し,次の手を積極的に実施する組織は,ISOが有効に機能している。
そしてそのような組織が九州にも数多く存在している。
特に鹿児島県や奄美大島等の地方部において,地場企業が地域のリーダーとしての誇りを持って,真剣に感度を高める努力をされている実状に出会うと,ISOによって建設業態の組織としての基礎カの底上げが進んでいると感じている。

(2)マイナスをプラスヘ転じているか
“ISOは役立っている”,“社員が変わった”等のISO導入の効果を聞くこともあるが,一方で“コストが掛かる”,“記録が大変だ”といった悲鳴を聞くことも多い。
確かに多くの悲鳴は,そのとおりだと感じることも多いが,既に述べたように安全に恵まれた単一言語民族のカルチャーショックであることも事実だ。
不平・不満を愚痴ってそれだけで済むならいいのだが,組織経営という観点から見るなら,マイナスをプラスに切り替える発想が必要となってこよう。
確かにコストは掛かる。しかしそれが“事前に芽を摘む”行為に反映されているなら,その予想被害額と比べて安いコストかもしれない。
記録も多い,何故こんなに検査や検証が必要かと感じることもある,しかしその記録が“宝の山”となって組織の工程改善に生かされるならば,効率化の向上が図れるはずである。

この2点目の効果については,建設業は他の産業と比べてまだまだ効果が少ない。
それは顧客クレームや欠陥品等のマイナス部分を表面化する習慣(報告する・記録する等)が,従来から少なかったことが一つの原因である。
また顧客(主に官公庁)が要求する顧客ごとに異なる検査様式(含検査項目)とシステム規格が要求する様式(含要求項目)とに残念ながらズレがあり,記録の二重構造が一部に生じていることにも,もう一つの原因がある。
特に記録様式(業務計画書や各種検査記録等)における顧客要求項目とシステム規格要求項目との整合については,これから大いに議論を行う必要がある。

(3)組織間の差はついている
ISOを組織の立場からみると,3つの立場がある。マラソンで例えるなら,トップグループを形成している人,後ろから遅れがちに付いている人,そしてそれを観戦している人である。
ISOはシステムツールであるから,上手に利用している組織と,そうでない組織とは差がついている。
さらに上手に使いこなしきってないと言っても,実行している組織と単に観戦している組織(非認証組織)とは,明確に差がついている。
この差をもっと明確に顧客が評価して欲しいとの声が,認証組織から聞く事が多いが最もな主張であると認識している。
例えば九州の建設業の2社ほどに,システム規格導入の効果を回答してもらった(表4参照)が,“社内の連帯感が高まった”,“問題を少しずつ整理できている”等,前向きなコメントが得られており,組織体制としての基礎力の底上げが認識できる。

特に“組織の掃除をしているようなものかもしれない”といったコメントを見ると,システム規格の導入は個々のスキルの向上よりも,建設業の組織としての機能を整備し,企業力をパワーアップするツールとして役立っていると考えて良い。

3 役立つシステムツールを利用する
ISO等のシステム規格は,規格を構成している各々のシステムツールの実行を要求している。
ツールであるから,そのツールの利用の仕方によって効果も上がる一方で負担になる場合もある。
私はその中でも表ー1で紹介した3つのシステム規格に共通に含まれている,目標管理ツールと再発防止ツールの利用の仕方が最も大事だし,効果があがるツールだと考えている。

(1)背伸びをすれば背が伸びる…目標管理ツール
「日本人は複雑な問題に直面すると行動を起こさなくなる。単純明快な優先順位を決めると効果がある」(2002.12)と,日産自動車の業績回復を果したカルロス・ゴーン社長は語っている。
ISOツールの中に存在している目標管理ツールは,まさにゴーン社長の言葉を具現化できるツールである。
明快な目標(品質,環境,労働安全衛生)設定と達成度の判定による成果の確認の繰返しによって,企業業績を伸長しうる可能性を有している。
デミング氏の提唱した計画(P)実行(D)確認(C)処置(A)のデミングサイクルを回すことによって,背伸びをすれば本当に背が伸びるツールなのである。

(2)災い転じて福となす…再発防止ツール
是正処置あるいは再発防止処置などと言うと堅苦しいが,病院に行ったと思えば分かりやすい。医師は必ず再発防止処置を施し,貴方の健康を回復させようと図るはずだ。

ISOツールの中に存在している再発防止ツール,はこの病気の事例と同じく,利用の仕方によって企業の健康回復に役立つツールである。
そしてそのためには,災いの種を探す努力が大切である。
災いの種は設備等のハードなものから社員の意識まで幅広く内在していることが多い。
リスクマネージメントの分野では,損失の可能性をもたらし損失を増加させる状況,すなわちハザードを除去することが,損失の最小化に結び付くと教えている。

ISO等のシステム規格はシステムハザードを取り除くことにより,損失の発生の最小化を目指しているのだと考えることが必要だろう。
すなわち再発防止ツールは“災い転じて福となす”が実現できるツールである。

おわりに
ここで紹介したISO等のシステム規格は、当初は我が国の風土・風習からは馴染みにくく,それぞれの立場(審査員,認証企業)で違和感があったのも事実である。
しかしながらISO 9000(第2版)の発行された1994年以後の9年間で,約4万社の企業がシステム導入に取組むまで,裾野が急激に広がったことも事実である。
その間,当初存在した違和感もやや薄れ,特に次世代経営者を含む若い人達が積極的にシステム規格を利用しようという前向きな意識がでてきたと感じている。
このようなシステム規格への前向きな取組みが,古いタイプであった建設業態を,新しいタイプの業態へ変革させる一つの切っ掛けとなるのではと,大いに期待している。

参考文献
1)「ISO 9001:2000の見えない線を解読する」筆者
2)「OASAS 18001労働安全衛生マネジメントシステム対訳と解説」日本規格協会

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