平成12年度技術士試験を省みて
(建設部門における出題傾向と解答例)
(建設部門における出題傾向と解答例)
九州技術士センター 普及啓発委員会 専門委員
総 括 津 城 正
九州技術士センター
普及啓発委員会 副委員長
普及啓発委員会 副委員長
土質および基礎 大 友 久 人
中央コンサルタンツ㈱
技術部長
技術部長
鋼構造およびコンクリート 薄 達 哉
九州電力㈱ 福岡支店
技術部 土木建築グループ長
技術部 土木建築グループ長
河川,砂防および海岸 萬 運
第一復建㈱ 水工部 次長
道 路 湯 地 三子弘
大分県宇佐土木事務所
企画調査課 副主幹
企画調査課 副主幹
建 設 環 境 井 芹 寧
西日本技術開発㈱ 環境部
環境技術開発室 研究開発課長
環境技術開発室 研究開発課長
1 平成12年度技術士第二次試験結果について
平成12年度技術士第二次試験は,昨年8月23日および24日に福岡市他全国9箇所において,筆記試験が実施された。その後,筆記試験合格者に対する面接口頭試験は,12月1日から12月12日までの間に東京において実施された。
受験申込者数は,39,300名(うち建設部門25,588名)で,最終合格者数は,3,373名(うち建設部門1,991名)となり,合格率は8.6%と相変わらず狭き門であった。
前年度と比較してみると,受験申込者数は15.0%(5,117名)増加し,合格者数は14.6%(431名)増えたが,合格率は,前年と殆ど同じであった。
なお,合格者の内訳については,次の通りである。(数字は%)
(1)年代別占有率(平均年齢:42.5歳)
20代→1.2,30代→38.9,40代→38.6,50代→19.4,60代→1.8,70代→0.1
(2)勤務先別占有率
国立機関→5.9,地方自治体→8.4,大学→0.6,公社公団等→5.1,民間→79.4,自営他→0.8
(3)最終学歴別占有率
大学→89.3,新旧高専→3.9,短大→0.9,その他→5.9
2 技術士法改正の主要点
平成12年4月に技術士法の一部改正,平成12年12月に技術士法施行規則の一部改正が行われ,平成13年度技術士第二次試験から新制度で実施されることになった。技術士法の主な改正点は,次の通りである。
(1)試験制度の改善
① 第一次試験受験資格要件に関するもの。
② 第二次試験受験資格要件に関するもの。
③ 総合技術監理部門の新設に関するもの。
(2)技術士等の資格に関する特例
①技術士等の資格に関する一定の外国の資格を有する者との国際的相互承認。
②第一次試験の合格と同等であると認められた大学等教育機関の課程(JABEE)を修了した者は,技術士補となる資格を有する。
(3)技術士等の公益確保の責務
(4)技術士の資質向上の責務
(5)日本技術士会の目的に.技術士の研修に関する事務が追加。
3 筆記試験体験業務(Ⅰ-1)
(1)出題問題と内容
建設部門における体験論文の出題問題は,選択科目によって異なるのが通例である。そこで建設部門を代表して道路(9-7)の例を示す。
Ⅰ-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙5枚以内にまとめよ。)
あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について,あなたが技術的責任者として実際に行った仕事のうち,技術士としてふさわしいと思われるものを3例略記せよ。(3例で1枚程度)
さらに,その中の1例について,(1)業務内容,(2)あなたの技術的責任者としての役割,(3)技術的問題点とあなたが採った措置,(4)現在の技術水準から見た評価と改善すべき点について詳述せよ。
問題は,受験者が体験した技術士にふさわしい業務について,概略業務と詳述業務について解答が求められる。
1)概略業務数
建設部門全体としては,概略業務数は,2~3件出題される選択科目分野が多いが,例外的に「鉄道」等概略業務数のない科目もある。
2)詳述業務数
詳述業務数は,1~2件であるが,2件出題される科目は,概略業務数も2件である。
3)業務概要の内容
業務概要の内容は,選択科目によって異なるが,次のものを幾つか組合せて出題されている。
① 業務名等(工事名,件名,場所,時期,あなたの地位・役割)
② 業務概要(概要,工事概要)
③ その他(目的,特色,技術的特徴)
4)業務詳述の内容
詳述の内容も次のものを幾つか組合せて出題されている。
① 業務内容
② 技術的課題(問題点,課題)
③ 技術的解決策(創意・工夫した点,技術的提案,対処方法,採った措置)
④ その結果(成果,効果)
5)評価と今後の展望の内容
① 現時点での評価(再評価,反省)
② 将来の展望(技術的応用性,今後の課題,改善すべき点)
③ 技術士にふさわしい理由(ふさわしい点)
(2)問題設問の経年変化
1)業務記述数の変化
出題される業務記述数は,主に次の4つのパターンに分かれる。
① 概略業務数なし,詳述業務数1件 (鉄道)
② 概略業務数1件,詳述業務数1件 (電力土木)
③ 概略業務数なし,詳述業務数2件 (土質他)
④ 概略業務数3件,詳述業務数1件 (道路他)
業務記述数は殆ど変化しないが,例外的に①が②になったり(平成12年電力土木),④が②に変化したり(平成11年建設環境)することがあり,業務記述数の変化には注意して受験準備を進める。
2)業務記述内容の変化
業務記述内容は,毎年設問の趣旨は変わらないが,上記内容の組み合わせが毎年変化している。
(3)体験論文の基本的3要素
体験論文作成にあたっては,基本的に次の3要素を念頭におく。
1)体験業務が論文として纏められること。
2)自分が関与した業務であること。
3)技術士としてふさわしい業務であること。
(4)論文作成の留意点
① 「専門とする事項」と論文の見出し(テーマ)とが一致し,目的実現に大変苦労し,技術的な創意・工夫を発揮して問題解決を図った内容にする。
② 分かり易い文章とは,入口(出発点)が明確であり,途中の道筋が整備されており,読み手が確実に出口(結論)に到達できる文章である。
③ 文章の構成は,序論(起)→本論(承・転)→結論(結)の3部構成にして,論理的に展開する。
④ 自分の開発技術や研究期間の研究成果をどのように苦労して活用したかを巧みに説明する。
⑤ 現時点からの高次の提言や大胆な将来展望を力説する。
4 筆記試験必須科目(Ⅱ)
必須科目における出題の狙いは,受験生が技術士として技術的・社会的見識,洞察力,およびその根底にある健全な公益確保の思想について表現する能力を問うものである。
(1)出題問題の傾向
建設部門全体に共通する問題として,毎年2題出題される。解答はその中の1問を選択して解答するものである。毎年出題される共通事項を分類してみると次の4種類に分かれる。
① 社会資本整備に関するもの(この問題の出題は,制約条件は変化するが,毎年出題されると思って良い)
② 建設部門に関するもの(建設部門のあり方,コスト縮減の課題,国際的技術水準の現状等)
③ 建設技術(または技術開発)に関するもの(技術開発のあり方,建設技術の課題,建設技術の果たす役割等)
④ その他,品質,防災等に関する基礎技術
次ぎに,平成12年度の必須科目(建設一般)問題を示す。
次の2問題のうち1問題を選んで建設部門全体の問題として解答せよ。
(茶色の答案用紙を使用し,解答問題番号を明記し,4枚以内にまとめよ。)
(茶色の答案用紙を使用し,解答問題番号を明記し,4枚以内にまとめよ。)
1 循環型社会の構築に向けた社会資本整備のあり方について,あなたの意見を述べよ。
2 建設分野における情報化技術の現状と今後のあり方について,あなたの意見を述べよ。
(2)情報収集のための参考資料
必須科目問題に解答するための主な参考資料として,以下の資料から収集する方法がある。
① 建設白書(毎年7~8月頃発行される。)
② 土木学会誌(巻頭言,座談会等)
③ 土木学会等主催のセミナー(今日的話題が多い)
④ 建設業界(日本経済と公共投資に関する話題)
⑤ 技術雑誌(最新技術の話題)
⑥ 新聞
⑦ インターネット
(3)論文作成の留意点
① 必須科目における予想テーマは,トピックス,災害の発生,最新の技術動向等に関して技術雑誌に記載された話題から出題されることが多い。
② 「社会資本整備」については,殆ど毎年出題されるので,設問の視点が次のように変化しても対応できるように準備しておく。
・財政危機状態における公共投資のあり方
・持続可能な循環型社会の構築
・少子高齢化社会の到来
・国民の合意形成
③ 必須科目の問題は,社会資本整備や技術開発等高次元のテーマとなるので,これらがどのように社会へのインパクトを与えるかについても述べる。
④ 答案はキーワード方式による採点となることが多いので,論文は,箇条書きを活用して多くのキーワードを網羅する。
⑤ 設問は,「あなたの意見を述べよ」と出題される。従って,意見は建設白書等からの借り物であっても,自分の意見(「…でなければならない」,「…の必要があると考える」等)として表現する。
⑥ 論文の締めくくりとして「技術的将来の動向」,「建設部門の社会的使命」,「技術者としての自分の役割・抱負」等を述べることが望ましい。
5 筆記試験専門選択科目(Ⅱ-2)
(1)出題問題の傾向
設問は,殆どの選択科目分野においてAグループとBグループから構成されている。殆どの分野で選択制を採用しているが,「港湾および空港」分野においては,2問題ともに必須となっている。また「道路」分野においては,1問題は必須,1問題は選択となっている。
(2)論文作成の留意点
1)次元の大きい設問に対する論文構成
① 問題の背景,技術的な動向・状況を論述する。
② 前提条件,課題,その影響を展開して問題を提示する。
③ 解決策を技術的に説明し,対策を技術的・経済的に評価する。
④ 技術的な将来動向を論じ,自分の意見,将来の抱負をのべる。
2)基礎技術的小さい設問に対する論文構成
① 問題の原理・定義・概念を説明する。
② 問題の技術的課題・対策を説明する。
③ 技術的動向・将来の考察を論じる。
④ その技術に対する意見を論じる。
(3)論文解答例
以上が平成12年度技術士筆記試験の概要ならびに出題傾向とその対策である。以下は,平成12年度筆記試験専門選択科目の中から5問題を選定し,当普及啓発委員会の技術士に模範解答例として執筆を依頼したもので,参考例として示す。
土質および基礎 Ⅰ-2-2(A)
市街地において,斜面を切土した敷地に建物を建設する計画がある。
建物の躯体で土圧を受けることとし,基礎杭は既製杭を使用し,埋込杭として中掘り工法で施工する。
以下の設問に答えよ。
(1)杭基礎の設計に当たって必要と考えられる検討事項を3つ挙げ,それぞれについて説明せよ。また,各検討事項について必要な調査・試験項目を挙げよ。
(2)当該現場において,杭基礎の施工に当たり留意すべき事項を4つ挙げ,それぞれについて説明せよ。
(1)中掘り杭基礎の設計にあたって考慮すべき検討事項および必要な調査・試験項目
① 沖積粘性士層(N値=4)の沈下に対する検討
軟弱な沖積粘性土層の沈下および沈下に伴う杭のネガティブフリクションヘの対処について検討が必要である。
必要な調査・試験項目
ボーリング…地層区分,地下水位
標準貫入試験…N値,粘着力
一軸圧縮試験…一軸圧縮強度,変形係数
三軸圧縮試験…せん断抵抗角
圧密試験…圧密状況を確認
② 建物の躯体で受け持たせる土圧に対する検討
建物に受け持たせる土圧は躯体を介して杭に作用するため,杭の水平耐力についての検討が必要である。また,杭の水平耐力に大きく影響する地盤範囲は軟弱な沖積粘性土層となるため十分な検討が必要である。
必要な調査・試験項目
ボーリング…地層区分,地下水位
標準貫入試験…N値,粘着力
一軸圧縮試験…一軸圧縮強度
孔内横方向載荷試験…杭の横方向K値
③ 支持層となる洪積砂礫層の検討
洪積砂礫層は大きく傾斜して不陸が多いことから,地盤の分布状態を的確に把握し,杭の根入れ長を決定する必要がある。また,杭長は各々異なることが予想され,杭の不同沈下および設計支持力について十分な検討が必要である。
必要な調査・試験項目
ボーリング…地層区分,礫の粒径
標準貫入試験…N値
(2)中掘り杭基礎の施工にあたり留意すべき事項
① 杭の施工基面の検討
当該現場条件より杭の施工に当たっては,施工基面の位置について検討が必要である。
斜面を切土する前では,斜面上に杭施工桟橋等を設置して施工基面とする。この場合杭の施工は,桟橋上からのヤットコ施工を検討する必要がある。
斜面を切土した後では,施工基面が軟弱な沖積粘性土層面に位置するため,施工機械等の設置にあたっての地耐力について十分検討する必要がある。また,切土面に仮設土留め工の設置が必要である。
② 洪積砂質土層(N値=20)部の施工
砂質土層では掘削に伴う過度の振動により地盤が締め固められ,掘削が困難となる恐れがある。また,オーガー出力,送気量,排土量などが過大であると杭の先端地盤がボイリングを起こし,杭の外周面の土も排土され周面地盤が緩められることがある。このため,砂質土層部での杭の施工にあたっては,地盤性状に合った適切な施工管理が必要である。
③ 杭の打止め管理
支持層となる洪積砂礫層は大きく傾斜している地盤で且つ不陸が多い。このため,支持層の確認は確実に行う必要がある。
確認の方法としては,ⓐオーガー駆動装置の電流値を利用する,ⓑ試験杭を施工する,ⓒ掘削排土で確認する等を実施するとともに,設計図書との整合性を十分検討し,杭先端が確実に支持層に根入れされている事を確認する。
④ 市街地での施工管理
比較的低騒音,低振動である中掘り工法であるが,コンプレッサーの騒音など他の施工機械から発生する騒音・振動についても十分考慮する必要がある。
特に,杭の先端処理法に最終打撃方式が採用されている場合は,周辺環境に十分配慮して施工を行う必要がある。
鋼構造およびコンクリート Ⅰ-2-3(A)
あなたの専門とする立場から,鋼構造物の耐震性を向上させるための留意点を挙げるとともに,今後開発・改良すべき技術についてあなたの意見を述べよ。
鉄骨造は,中低層建物から超高層ビルや大空間建築物まで幅広く適用されており,年間着工床面積の1/3を超えている。したがって,鉄骨造建築物の耐震性を向上させることは,人命,財産,社会資本を守る上で大変重要である。
ここでは,基本的な構造計画と兵庫県南部地震被害の面から,鉄骨造建築物の耐震性向上の留意点と今後の技術関発について述べる。
1 構造計画について
鉄骨造建築物はラーメン架構とブレースの組み合わせにより,大地震時において靱性抵抗型や強度抵抗型の耐震性能を発揮する。
そこで,耐震性に大きな影響を与えるブレースを,バランス良く配置することが重要である。平面的には,地震時にねじれが生じないように偏心率を小さくし,立面的には,ある階だけに大きな変形が集中しないように剛性率を大きくする必要がある。ブレースが座屈すると急激に耐力が低下してラーメン架構に地震力が流れることにも配慮が必要である。
また,靱性抵抗型の架構として十分な塑性変形能力を持つには,局部座屈が生じないように各部材の幅厚比を小さくして,仕口・継手部を保有耐力接合に,梁材を保有耐力横補剛にすることが重要である。
2 耐震性を向上させるための留意点
兵庫県南部地震では,従来から懸念されていた不良施工による被害や旧耐震基準による既存建築物の被害が多かった。ここでは,最も教訓的な被害があった柱梁接合部と柱脚について述べる。
(1)柱梁接合部の留意点
柱梁接合部では,完全溶け込み溶接とすべきところを隅肉溶接とした不良溶接による被害と,適正に製作された完全溶け込み溶接近傍がほとんど塑性変形せず脆性破断した被害があった。後者の被害は,スカラップ部からの破断,エンドタブ・裏当て金の仮付け溶接部からの破断,熱影響部や溶接金属の破断であった。
不良溶接以外の脆性破断を防止するには,SN規格材など良質な鋼材の採用や応力集中が起こりにくいノンスカラップ工法,改良型スカラップ工法の採用が考えられる。また,応力集中箇所への裏当て金,エンドタブの仮付け溶接や冷間成形角形鋼管コーナ一部などの材質劣化部分への溶接を避ける必要がある。
(2)柱脚部の留意点
柱脚の被害では,露出形式・根巻形式・埋込形式のうち,最も多用されている露出形式柱脚での被害が多かった。具体的には,ベースプレート下モルタルの破損やアンカーボルトの破断,伸び,抜けだし等であった。
これらに対しては,アンカーボルトに軸力を導入するなどの建設大臣認定工法を採用することや,露出形式柱脚を簡単にピンと仮定せず実際に作用する応力状態を十分考慮して設計することが必要である。
3 今後開発・改良すべき技術的事項
以下の項目について,開発・改良が必要である。
(1)兵庫県南部地震の被害で多かった溶接部の問題をなくすためには,より高度化した溶接ロボッ卜の開発が重要である。高齢化社会に向かい優れた溶接技能者も少なくなるため,鋼材や作業条件に応じて,入熱量・パス間温度などを適切に制御して施工する溶接ロボットの開発が必要である。
(2)旧耐震基準による既存建築物の耐震補強をさらに普及させるために,施工性の良い耐震補強用の制振装置や既存プレースの座屈を防止する方法などの技術開発が必要である。
(3)鉄骨造建築物の場合,内装などの仕上げ材があるため地震被害が発見され難いので,危険度判定や耐震補強のために被害状況が迅速かつ的確に確認できる装置の開発が必要である。
河川・砂防および海岸 Ⅰ-2-2
日本における水循環系を取り巻く状況変化を踏まえ.健全な水循環系を構築するための方策について述べよ。
1 はじめに
都市化の進展に伴う流域の変化が,自然が本来有していた水循環を大きく変化させ,社会・経済活動に様々な影響を与えている。一方,より安全で総合的な水資源の開発や,潤いと憩いの水辺環境を復元し,都市のより快適な環境を創造しようとする取り組みが試みられている。
2 水循環の現状と課題
(1)流域の開発,都市化による洪水流出量の増大
流域の開発に伴い,流域の被覆状態が保水・遊水機能を有する森林・田畑から.不浸透性のものを主体としたものに変化してきている。また,河川改修においては.整正断面で低水路に護岸を施し.洪水を安全に速やかに流下させようとする方式を採用してきた。その結果,洪水総流出量や洪水ピーク流量の増大,洪水到達時間の短縮をもたらしている。
(2)河川の維持流量の減少と水質の悪化
流域の保水・遊水機能の減少により,平常時の河川流最の減少と水質の悪化が顕著になっている。
(3)地下水の過大な揚水
地下水は,その水質・水温が良好なことから,積極的な利用がなされてきた。しかしながら,過大な揚水や,地下水涵養機能の低下などにより,地下水位の低下とそれにともなう地盤沈下,塩水化,地下水の汚染や湧水の枯渇などの様々な障害が発生している。
(4)地球温暖化や都市気象変化による降雨形態の変化
地球規模による気象の変化や都市気象の変化により,総降水最の減少傾向や,短期降雨の増加傾向,多雨と寡雨期に2分される傾向などが指摘されている。
3 今後の対応
水循環の健全化あるいは再構築を図るため,次に示すような種々の施策を積極的に展開していく必要がある。
(1)森林の保全機能の解明と総合的な流域管理
森林の水源涵養機能を定量的に解明するとともに,森林流域の適切な維持管理を行う。
(2)流域を含めた総合的な治水対策
河道のみならず,流域一体となった遊水地や調節池,土地利用規制などによる総合的な洪水処理対策を行わなければならない。さらに,山地部や丘陵地での保水機能,河道沿い低地での遊水機能等の維持・増進,生態系に配慮した護岸の整備などを図り,河川本来の機能を復元する施策を展開していく。
(3)雨水の貯留,雨水の浸透
総合的な治水対策と関連するが,治水的な効果,雑用水,渇水時の補給水,防災用水などの水資源としての効果のみならず,環境用水の補給,地下水の涵養都市気象の緩和等の効果も期待できる。
(4)総合的な水利用計画
ダムの総合的な運用を図り,河川の維持流量等の環境用水を確保する。また,水の再利用,処理水の利用,海水の淡水化,節水対策等の取り組みを図っていく。
(5)適正な地下水利用
地下水も河川水と同様の公水と位置づけた総合的な法制の確立と,水系あるいは地下水盆単位の適正な地下水管理計画の策定などを行っていく。
(6)降雨形態に対する対応
現象の解明に努め,地球温暖化防止や都市の気象環境を緩和する事業を推進する。
その他,水利権の見直し,ダム群や取排水系統の再編成や溜池や下水道施設での貯留と利用,雪資源の有効利用などの施策を推進していくことが極めて重要である。
4 おわりに
河川事業に,水循環の概念を取り入れることが重要である。水循環をトータルシステムとしてとらえ,水循環の健全化を推進するためには,そのための技術の開発と水行政の一元化,事業者を含めた社会全体の取り組みが必須の条件といえる。
道路 Ⅰ-2-1
道路の機能と果たすべき役割について都市部と地方部の特質を踏まえてあなたの意見を述べよ。
1 はじめに
20世紀に私達は,道路整備と自動車普及により豊かな暮らしと産業・経済の繁栄を享受してきた。しかし,一方では,交通需要の増加や国民ニーズの変化に,道路が質・最的にも十分な対応ができない状況となっており,交通事故の多発,交通渋滞の激化,環境負荷の増大等,「20世紀の負の遺産」が大きな課題となっている。
まず,交通事故については,平成11年の交通事故死者数は,9,006人と4年連続して1万人を下回ったものの発生件数は7年連続して過去最悪を記録し,負傷者数は100万人台に乗る等極めて厳しい状況である。
次に,交通渋滞による社会損失は,国民一人あたり年間約42時間,全体で53億時間,金額換算で約12兆円に達しており,物流コストをはじめ,社会・経済の高コスト構造の大きな要因となっている。
さらに,自動車による環境悪化として,CO2の排出が問題となっている。国内におけるCO2の総排出量のうち自動車部門の排出量は約19%を占め,ここ10年間で年均約4.3%ずつ増加している。
道路整備や車社会における課題について述べたが,次に,都市部と地方部における道路の機能と果たすべき役割について記述する。なお,都市部を,3大都市圏や政令指定都市のような人口密集地で,鉄道や地下鉄等の公共交通機関が発達した地域と捉え,地方部をその他の都市や中山間地域等いわゆる過疎地域と捉えて考察する。
2 都市部における道路の機能と役割
都市部の道路機能を分類すると
(1)交通輸送空間としての機能
(2)歩行や人のたまり空間としての機能
(3)防災空間としての機能
(4)緩衝帯としての環境保全機能
などがあげられる。
次に,それぞれの機能と果たすべき役割について記述する。
(1)交通輸送空間としての機能
経済・社会活動の中心地として都市が担う役割を果たすために,環状道路の整備やボトルネック部の解消による渋滞緩和など,都市部の道路整備に求められている期待は大きい。
(2)歩行や人のたまり空間としての機能
公共交通機関が発達した都市生活の方が歩行距離が長く,豊かな都市生活を営む上で,歩行空間のバリアフリー化やたまり空間としての歩道整備が求められている。
(3)防災空間としての機能
阪神大震災の教訓からも,災害時に幅の広い道路が防火帯の役割を果たし,避難路や救援物資の輸送路となる都市内のオープンスペースとしての役割が見直されている。
(4)緩衝帯としての環境保全機能
自動車の排気ガスによる大気汚染やSPM(粉塵)が大きな社会問題になっている。街路樹のグリーンベルトは,緩衝緑地帯として自然環境保全の役割を果たし,都市景観を生み出す社会環境創出の役割も果たしている。
3 地方部における道路の機能と役割
地方部の道路機能を分類すると
(1)交通輸送空間としての機能
(2)産業振興や地域づくりを支える甚盤としての機能
(3)広域行政をはかるための機能
(4)シビルミニマムを満足するための機能などがあげられる。
次に,それぞれの機能と果たすべき役割について記述する。
(1)交通輸送空間としての機能
地方部においては公共輸送機関が十分整備されておらず,現代の暮らしにおいて自動車を利用した移動は必要不可欠である。さらに地方部において,高速道路等の高規格道路の整備状況は未だ途についたばかりであり,生活道路を含めた一般道路の整備も住民が望む水準に達しておらず,道路整備に対する住民の要望も高く,交通輸送空間として道路の果たす役割は都市部より大きい。
(2)産業振興や地域づくりを支える基盤としての機能
地方は都市部で消費される農水産品等の供給地であり,生鮮食料品を始め地方で生産される商品の大部分は道路を利用して都市部に輸送されている。また,グリーンツーリズム等都市部から地方部への交流人口が拡大されており,地域づくりを進めるうえでも道路整備に期待されることは多い。
(3)広域行政を支援するための機能
多くの過疎地域を有する地方部では,急激な少子高齢化が進んでおり,今後,医療・福祉・教育・環境衛生などの広域行政を支援するためにも,道路整備に求められている役割は大きい。
(4)シビルミニマムを満足するための機能
情報交流が進み,都市部と地方部で同様の社会生活が営まれる現代社会のなかで,地方部の中山間地における生活道路の整備水準は低く,シビルミニマムを満足しているとは言えない。
4 おわりに
本格的な少子・高齢化社会に突入し.これまでのような生産性が今後望めないわが国において,今後.道路整備の進め方が見直されようとしている。その中で,量的拡充であるハード施策から,交通をマネジメントするソフト施策にシフトしていく必要がある。都市部,地方部において道路の機能と果たすべき役割は多種多様であり,それぞれの施策を体系的に捉え,社会全体の交通問題として取り組んでいくことが重要と考える。
建設環境 Ⅰ-2-8(B)
夏期にアオコが発生しているダム貯水池において,考えられる水質保全対策をいくつか列挙しそれぞれの対策手法の考え方と適用性について述べよ。
1 はじめに
アオコとしてもっとも代表的なミクロキスティスによるアオコに関する貯水池内対策を検討することとする。対策を検討するにあたり,アオコの発生要因を把握することが不可欠である。発生要因を十分に把握しないまま,対策を適用し効果が得られず失敗する例が少なくない。
2 アオコの発生条件
一般的に,アオコ発生の基本的な条件として,①高水温:表層の水温が20~30℃を上回る。②高流入負荷:流入河川水から豊富なリン,窒素等の栄養塩供給がある。③高内部負荷:成層期に底層が嫌気的条件となりリン酸態リン,アンモニア態窒素および鉄イオン等の底泥からの溶出による栄養塩供給がある。④アオコが増殖可能な滞留時間が確保されている。⑤自然の湖岸帯が貧弱で水生生物相が単純である等があげられる。また,アオコの特質として他の藻類との増殖競争に有利となる要因と考えられているものに,⑥鉛直移動性ガス胞を有し鉛直的に日周運動をし,効率的に昼は光合成,夜は底層での栄養塩吸収を行う。⑦水平移動性:表層に集積したアオコが吹送流等による流動により水平移動する。これにより,流入水から栄養塩供給がある入江部に集積するなど栄養塩を吸収する機会が増える。⑧群体形成:群体を形成し大型化することにより動物プランクトンの捕食から逃れたり,群体周囲の粘質の作用により栄養塩のストックを行う。⑨高pH:一般の藻類が炭素源として利用しにくい高pH条件で炭素イオンを吸収することができる。⑩底泥中に分裂可能なアオコの細胞が大量に分布している。等がある。
これらの,発生要因を踏まえ,対象水或においてアオコ発生に対してどの要因の影響が大きいか現地調査などで明らかにした上,それらの要因を抑制・阻害する手法を選定することが効率的なアオコの制御につながる。次に,対策法について記す。
3 水質保全対策の考え方と適用性
(1)曝気循環法
●浅層曝気循環(対応要因:①,②,④,⑥,⑦,⑨):散気管曝気により気泡で湖水を連行し鉛直混合層を形成する。表層の水温およびpHを低下させる作用があり,アオコの日周運動を阻害し,下層の暗所に送り込むことによる光制限作用(光合成阻害)でアオコの増殖を抑制する。水温躍層の位置をコントロールし栄養塩を含んだ水温の低い流入水を下層に送り込む流動制御効果も期待できる。
●全層曝気循環(対応要因:②,③,⑥,⑦,⑨):全層曝気は円筒内を間欠的に砲弾状の空気塊が上昇することにより下層の水を上層に引き上げる間欠式空気揚水筒の適用例が多い。散気管を底層部に設置する方式も試みられている。本方式は浅層曝気の各効果を増大させることになるが,必要工ネルギーは増大する。浅層曝気循環の効果に底層の嫌気化を防ぐ効果が加わる。躍層を破壊することになるので,濁水長期化対策で選択取水を行っている貯水池には不適である。
曝気循環法は鉛直混合層を十分に形成できる空気量の確保が必要である。貯水池の形状にも影響されるので,あらかじめシミュレーション等を用いて,設置位置,規模,稼働時期を決定する。また,表層水温を低下させるので,適用にあたっては貯水池内,下流水域の魚類等の水生生物への影響,稲作冷水害への影響に関して事前評価が必要である。
(2)深層曝気(対応要因:③,⑥)
湖面から底層まで設置した円筒内を曝気により底層水を揚水し,酸素を送り込み,送水用の円筒を通じて下層へ還流する方式やホースで底層水をくみ上げ,加圧や剪断力により発生させた微細気泡(空気,酸素)を含ませ,返送する方法等がある。本法は,底層の嫌気化を抑制し,硫化水素臭.赤水障害等を防ぐとともに,底泥からの栄養塩溶出の削減効果が期待できる。浅層曝気循環とあわせて運用すると,水温躍層を破壊しない水質保全対策法として機能する。
(3)藻類増殖制御フェンス(対応要因:②,⑦)
藻類増殖制御フェンスは,水面から水深5~10mの不透水性のフェンスを貯水池の横断方向に設置するもので,アオコの水平移動,拡散を阻害するとともに,フェンス下流側水温躍層の発達を促し,水温が低く低密度の流入河川水を下層へ潜り込ませ,表層に分布するアオコヘの栄養塩供給を妨げる。本法は,運転にエネルギーを要せず,維持管理費用が比較的安価であり,濁水長期化軽減効果も合わせ持つなど,従来の手法にない特徴を有する。ただし,十分な効果を発揮させるためには,貯水池の水温成層形成状況および池水流動形態を十分に把握した上,シミュレーションモデル等を用いた設置位置,遮蔽水深を決定する必要がある。出水時および水位低下時に安全管理上取り外しが必要なこともあり,その手間が課題である。また,曝気循環法との連係による水質保全促進効果に関しても不明な点が多く,今後,実施水域のモニタリング等により確認する必要がある。
(4)浚渫(対応要因:③,⑩)
全体の栄養塩負荷のうち底層からの溶出栄養塩負荷の割合が大きい水域では,浚渫は供給元を直接水域外に取り除くので抜本的な対策となる。また,アオコの種場を集中的に浚渫することで効率的なアオコ発生抑制が可能となる。しかしながら,汚泥を十分に取り除くことが困難な場合が多く,処理後かえって溶出栄養塩の増大が起き,アオコの増殖を促進することがある。また,適用にあたっては,浚渫土の処理,再利用等の検討もあわせて実施しなければならない。
(5)人工生態礁,人工浮島(対応要因:⑤,⑧)
アオコを捕食する等,水質浄化の担い手である動物プランクトンや付着微生物群の増殖を促す。魚の捕食から動物プランクトンや根圏を保護するネットを取り付けた浮島,アオコの群体を物理的衝撃で分散させ,捕食しやすい形にしたうえ生態礁に導流する方式など,水質浄化機能を高める工夫が試みられている。
4 おわりに
現状では,貯水池内対策に関して決定的な対策法は確立されていないため,各対策の特性をとらえ,それらの水質保全相乗効果を高める組み合わせを考慮し適用することが重要である。また,貯水池内対策は対処療法的手法であることを踏まえ,流入負荷削減対策等の根本的な対策をあわせて実施しなければならない。
口頭試験問題の傾向とその対策
技術士試験は,技術コンサルタントとして十分な能力と資質を持っているかどうかを問う試験であると言える。試験時間は,30分程度であるが,受験者1人に対して,試験官2~3名から質問を受ける相当に厳しい口頭試験である。
以下,質問の内容とそれに対する研修方法ならびに面接時の心得について述べる。
(1)質問の内容
質問の内容は,大きく分けて次の7項目にわけられ,その例を示す。
1)受験の動機,将来計画,資格取得と仕事との関係等に関する質問
例① 受験の動機と資格取得後の将来計画は何ですか?
例② 他に資格があるのに,何故,技術士を受験したのですか?
2)業務経歴,特許・著述の有無,コンサルタント経験等に関する質問
例① 体験業務で書かれた以外で,失敗例や反省事例はありませんか?
例② 特許や論文の発表がありますか?
3)筆記試験に関する質問
例① 体験論文における技術上の問題点について詳細に述べて下さい。
例② 体験論文のどういうところが技術士としてふさわしいと思うか
4)技術に関する質問
例① 解析手法の選定や地盤常数の選定に最新の注意を払うとありますが,具体的にどういうことですか?
例② 21世紀の建設業界はどのようになると思いますか?
5)碁礎知織に関する質問
例① 建設リサイクルについてどう考えるか?
例② 循環型社会をどのようにイメージしているか?
6)技術士制度の認識に関する質問
例① 技術士の倫理・義務に何かありますか?
例② 技術士法の改正により,技術士法の義務に新たな責務が追加されるが,知っていたら答えて下さい。
7)その他(一般常識,語学力等)の質問
例① 重大事故が起った場合,あなたの立場でまず何をしますか?
例② ITへの取組を具体的に説明して下さい。
(2)研修方法の留意点
① 受験申込書に記入した職務内容を説明できるようにしておく。
② 筆記試験の答案を整理して補足,修正,不備箇所の見直しを行う。
③ 技術的知識(選択しなかった問題の技術,体験業務の周辺技術,最新技術等)を整理し,理解しておく。
④ 技術士法改正の主な変更事項を理解しておく。特に技術士法の5義務は,暗記しておく。
⑤ できれば,技術士の先輩等に模擬面接試験をしてもらうと本番の試験において落ち着いて対応できる。
(3)面接時の留意点
① 受験の態度は,背筋を伸ばして腰掛け,やたらと手足をうごかさないこと。質問をうけ解答するときは,試験官に柔らかい視線をあてながら答える。
② 質問は良く聞き,慌てず一呼吸おいて答える。
③ 質問の内容が不明な場合には,「恐縮ですが,もう一度お願いできませんでしょうか」,または「ご質問(の趣旨)は・・・・・・でよいでしょうか」と伺ってみる。
④ 論議に際しては,相反する「安易な妥協」と「自説への固執」に慎重な均衡を図り,争論・喧嘩は絶対にしてはいけない。
⑤ 女性も採点者(答弁態度,試験官との癒着等のチェック)であることを認識しておく。