平成7年度技術士試験をかえりみて
建設部門出題傾向と解答例
建設部門出題傾向と解答例
日本技術士会九州地方技術士センター 育成委員会専門委員
総 括 矢 野 友 厚
土質および基礎 野 林 輝 生
鋼構造およびコンクリート 是 石 俊 文
河川砂防および海岸 中 島 義 明
道 路 斉 田 護
平成7年度技術士第2次試験の筆記試験は,昨年8月23日おび24日に福岡市ほか8ケ所の試験場で実施され,筆記試験合格者に対する面接口頭試験は,同年11月25日から12月10日までの間に東京で実施された。技術士試験の指定試験機関である㈳日本技術士会の発表では,7年度の技術士第2次試験の受験申込者総数は23,326名で,前年度に比し2,018名(+9.5%)の増で,2万人の大台を軽く突破したほか,10年前の昭和60年度の8,234人に対して2.8倍強,合格者総数もまた,昨年度を3.4%上回る2,074名に達したと報じている。(なお,平成8年度の受験申込者総数は26,167名に達し,うち福岡試験場での受験申込者数は2,055名である。)
また,昨7年度の建設部門の受験申込者総数は全部門申込者総数の60.3%に当る14,601名で,このうち筆記試験受験者数は8,088名,最終合格者数は1,195名で,合格率は筆記試験受験者数に対して14.8%,受験申込者総数に対して8.2%で国家資格としてますます評価が高まるなか,これまでどおり試験合格は相当に厳しく狭き門であることを示している。
なお,合格者について分析した結果は
(1)年代別試験結果ではその占有率は
20代……0.6%,30代……40.3%,40代……41.8%,
50代……15.2%,60代……2.0%,70代……0.1%
合格者の平均年齢は42.2才となっている。
(2)合格者勤務先別試験結果
国立機関……5.0%,地方自治体……5.6%,大学……0.1%,
公社公団等……3.6%,民間……84.9%,自営……0.5%,無職……0.3%となっている。
(3)最終学歴では
大学……87.6%,新旧高専……4.3%,短大……1.3%,その他6.8%である。
一方,平成7年度の筆記試験ならびに面接口頭試験の試験科目と設問傾向には殆ど変化はなく,具体例をあげてその概要を記述すると次のとおりである。
まず,筆記試験選択科目Ⅰ-1(午前9時~12時の3時間で解答記述)の問題は,受験者がこれまで体験してきた技術士に相応しい業務をいくつか具体的に示させ,その業務における技術的問題点と,それに対して受験者が採った技術的解決策を具体的に記述させ,その業務の技術的特色を明らかにさせる仕組としている。このⅠ-1の問題は,建設部門の11種類の専門科目の全てにおいてこの10余年間,問題設問文章の文言に多少の変化はあるものの本質的に内容として同性質の設問形式をとっている。ここに一例として河川砂防および海岸Ⅰ-1,このほか道路Ⅰ-1の問題全文を示して受験における考え方を説明する。
選択科目(9-4) 河川砂防および海岸 9時~12時
Ⅰ-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙5枚以内にまとめよ。)
あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について,技術的責任者として実際に行った仕事のうちから一例を挙げ,技術的に説明し,現時点で評価して満足する点および反省すべき点について説明するとともに今後の技術的課題について述べよ。
選択科目(9-7) 道路 9時~12時
Ⅰ-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙5枚以内にまとめよ。)
あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について,技術的責任者として実際に行った仕事のうち,技術士にふさわしいと思われるものをいくつか略記せよ。
さらに,そのうち一つを選び,その業務内容,あなたの役割について述べるとともに,技術的問題点,あなたがとった措置並びに現在の技術水準からみた評価と反省について詳述せよ。
(1)テーマ選定の基本
テーマ選定の基本を全く誤解している人が意外と多い。例えば①大規模な事業に従事したこと,②有名なプロジェクトに関与したこと,③目新しい仕事をなしたこと等,全く必要でない。どこにでも見受けられるような平凡な仕事であっても,「自分の頭で考えて創意工夫を生み出した」という中身なのである。自分自身の体験業務を選定することのみが試験官の要求している内容で,必ず埋解しておかねばならない不可欠事項である。
なお,体験論文を仮に他人に書いてもらって筆記試験をパスしても,口頭試験の際の厳しい設問において,必ず化けの皮をはがされる運命をたどるので,絶対に自己の体験業務であること。
(2)テーマ表現の良否の事例
業務の背景をうたい込み,業務の中に施した自分の働きを表現した特色を出すこと。
悪い例 △△橋の設計,道路の計画
良い例 路線選定を伴う山岳道路橋の調査,計画と評価
(3)体験論文作成上の具体的配慮
① 受験申込書に記入した「専門とする事項」に整合していること。
② 専門的応用能力を発揮した内容であること。
③ 社会性,経済性,地域性に富む内容であること。
④ 施工性に対する検討がなされていること。
(4)論文の流れの基本
一般に「起・承・転・結」,換言すれば「序論・本論・結論」という文章構成が必要である。
論文構成の概要は,①はじめに,②問題点,③技術的対応,④現時点からの批判,⑤おわりにのようにまとめたら書きやすい。
ここに文章構成の全体の流れを有する形態を紹介する。
“この事象の原因を○○○の方法で調査した。特に留意した項目は△△△であり,得られたデータを□□□の方法で分析したところ○○○であることが分かった。したがって原因は△△△であると判断し,対策の検討を行った。設計にあたっては,□□□のような点に留意し,いろいろなことを比較検討してこのような計画を立てた。結果も非常に良好であった。
論文をドラマチックに盛りあげるよい方法であると思われる。
(5)「現時点での評価」記載の一例
昨平成7年は阪神・淡路大震災が発生し,国土・建造物等は大災害を受け,今年もまた,北海道の道路トンネル大崩壊に直面している。一方,地球環境に関する諸問題はますます重要度を加えている。
したがって,体験論文が構造物であれは,その安全性と環境に及ぼす影響の二点から,反省評価を加えることも忘れてはならない。
(6)体験論文合格が全試験合格の第一ハードル
筆記試験は午前の部として体験論文,午後の部には選択科目の必須問題と専門問題の解答を要求されるが,結果的に午後の部がいくら良くできても,午前の部の判定結果が合格ラインに達していなければ全体での合格ラインに達し得ない。
なぜか,午後の部の問題は知識を問う傾向が強く,技術士合格の補完的役割を演じているためである。したがって,まず体験論文作成に全力を投入されたい。
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次に,筆記試験選択科目Ⅰ-2(午後1時~5時の間に,Ⅱの問題と一緒に出題)の問題は,各選択専門科目ごとに,各専門技術分野における最近の技術動向をふまえ,専門的事項について解答論述させるもので,設問内容は本稿の次頁以降に土質および基礎,鋼構造およびコンクリート,河川砂防および海岸,道路の4科目についてそれぞれ一例を示したように比較的各技術分野の基礎的技術にかかわるものが主体となっている。
Ⅰ-2の問題と一緒に出題される筆記試験必須科目,Ⅱの問題は,建設部門全体に共通する事項で例年2題出題し,いずれか1題を解答させる方式で,平成7年度の問題は次のとおりである。
必須科目(9)建設一般 1時~5時
Ⅱ 次の2問題のうち1問題を選んで建設部門全体の問題として解答せよ。(茶色の答案用紙を使用し,解答問題番号を明記し,4枚以内にまとめよ。)
Ⅱ-1 大震災や風水害,異常気象等の災害から国土を守り,安全で快適な環境を実現するために,我が国の社会資本整備はいかにあるべきか。あなたの考えを述べよ。
Ⅱ-2 市場開放や規制緩和に関する国際的な要求の高まりの中で,建設業界は新たな競争の時代に入ったといわれているが,建設業界の今後のあり方についてあなたの考えを述べよ。
以上のⅠ-1,Ⅰ-2,Ⅱの3科目の問題のうち,Ⅰ-1は前述のとおり問題設問文章が本質的に固定化に近い状況のため,予定答案をあらかじめ作成し,完全に丸暗記して試験に臨むことが可能であり,3時間の解答時間で制限文字数いっばいの解答を書くのが普通である。しかし,Ⅰ-2およびⅡの午後からの科目問題に対しては,受険者自身の筆記速度を考慮し,各問題に対しバランスのとれた時間配分を行うことが肝要で,以降頁の解答例に付記しているような留意が必要である。
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筆記試験合格者に対して行われる面接口頭試験における設問事項にも,これまでと異なった傾向は殆ど認められず,平成7年度試験においても設問項目は次の3項目に分類要約できるようである。
① 受験者の技術的体験を主眼とする経歴の内容と応用能力を問う。
② 必須科目および選択科目に関する,技術士として必要な専門知識と見識を問う。
③ 技術士としての適格性および一般的知識を問う。
以上が平成7年度技術士試験の概要と出題傾向であるが,以下に同年度筆記試験選択科目の4問題を選定し,当育成委員会の技術士に解答の執筆を求め,模範解答例として参考のため例示する。
当技術士センター育成委員会は,例年技術士試験受験者のための総合受験対策講座を継続的に実施し,九州地域受験者の受験対策に役立ってきており,技術士資格取得を目指す技術者は気軽に当センターに相談されるようお奨めする。
なお,平成8年度の必須科目Ⅱの問題中1問は,
最近発生した大震災や災害を教訓として,全国的な安全で安心できる地域づくり,まちづくりの基本的な取組方針について述べよ。
または,これに類する出題がなされることが予想される。
土質および基礎 平成7年度
Ⅰ-2 次の10問題のうち4問題を選んで解答せよ。ただし,Aグループから2問題,Bグループから2問題を選択すること。(緑色の答案用紙を使用し,問題ごとに用紙を替えて解答問題番号を明記し,Aグループについては1問題1枚以内,Bグループについては1問題2枚以内にまとめよ。)
ここではBグループの1問について解答例を示すこととする。
Ⅰ-2-10(B)
次図に示す湛水池に面した岩盤斜面がある。斜面は比較的層理間隔が狭い頁岩・砂岩の互層からなり,傾斜角30度程度の粘土を含む規模の大きい断層を境にし,層理の傾斜が上盤と下盤で異なっている。すなわち,下盤は傾斜が急な受け盤構造となっている。上盤は40~50度の流れ盤を呈している。なお,通常の斜面内の地下水位は湛水位とほぼ同じである。
以下の設問に答えよ。
(1)かなり強い集中豪雨により,図に示す2ケ所に数条のクラックが発生した。そのメカニズムを述べよ。
(2)合理的な安定対策工を選定し,その理由を述べよ。
(1)クラック発生のメカニズムについて
当該岩盤斜面の上部(用地境界付近)および道路肩部にクラックが発生した原因として次のような項目が挙げられる。
① 集中豪雨により道路部に集中した雨水が,岩盤斜面内(頁岩・砂岩互層)に急激に浸透して表面から10~15mの位置に存在する断層粘土層上面に滞留することにより,この断層粘土層を不透水層とした滞水層を形成することになる。この滞水層が岩盤斜面内の間隙水圧を異常に上昇させて有効応力の低下を招き,さらに断層粘土が塑性破壊を起こすことによっていわゆる斜面崩壊を誘発し道路肩部のクラックを発生させたものと考える。
② Patton等の提案するbi-Lincar Law(複線形則)によれば,岩盤内における低垂直応力領域内では不連続面上の突起の影響が大きいことから粘着要素力が0に等しいため,わずかな垂直応力の変化で岩盤内のセン断強度が大きく変化することが指摘されている。当該斜面においても,道路築造に伴う法面掘削によって応力開放を実施していることから,上記間隙水圧の上昇による有効応力の低下は斜面を形成する岩盤の大幅なセン断強度の低下を招き,さらに層理面の傾斜が流れ盤となっていることも相俣って斜面先が強度的な飽和状態いわゆる極限平衡状態となって局部的に破壊し,この局部的な破壊が斜面先から斜面上面に伝播され,用地境界付近のクラックを発生させたものと考えられる。
(2)安定対策工について
① 深層地下水排除工
当該斜面は地質構造的に滞水層が形成され易いため,基本的に雨水等の滲透水を排除して徐々にセン断力を減少させセン断抵抗力を増加させる必要があることから,安定対策工として水抜水平ボーリング工・集水井工・排水トンネル工等の工法が挙げられる。設置位置としては道路吹付コンクリート法面からの滲透水の排除が最も有効であると考えられる。水抜水平ボーリング工は比較的施工が容易であるが,掘進中に堅い転石等により孔曲がりが生じ所定の位置に達しない場合があるため,十分な施工計画の検討が不可欠である。また滞水層に胚胎される地下水の量・斜面崩壊の規模等によっては集水ボーリングを併用した集水井工・排水トンネル工も併せて検討することも必要であろう。
② 抑止工
当該工法は斜面のセン断抵抗力を増加させる工法であり,斜面崩壊を構造物によって抑止することを目的とするものである。一般的に斜面崩壊における全滑動力とバランスするような構造物の設置は工費の観点から不可能に近いが,斜面崩壊区域内のある一部分を安定化するために,もしくは二次的な小規模斜面崩壊を抑止するためには有効な工法といえる。安定対策工として抑止杭工・シャフト工等が挙げられ,特に当該斜面では道路路肩部の安定に極めて有効であると考えられる。
③ グラウンドアンカー工
斜面崩壊を斜面前面で抑止する工法であり,いわゆる押さえ盛土に近い効果を期待する工法であるといえる。設置位置としては道路部吹付コンクリート法面付近が最も有効であると考えられる。
一般的に道路築造に伴う切土法面は法面掘削によって応力開放を実施していることから,Patton等の提案するところの低垂直応力領域内であると考えられるため,グラウンドアンカー工により岩盤内のセン断強度を増加させる効果を併せて期待することが可能であると考えられる。当該工法は定着部の風化による緩み・プレテンション導入手法等に対する多くの課題が残されているが,今後の法面安定対策工の主力工法であると考えられる。
コンクリート 平成7年度
Ⅰ-2-10(C)
コンクリート構造物の非破壊試験方法の種類を挙げ,それぞれの特徴と今後の展望について述べよ。
1 反発度法-強度推定-
コンクリート表面を重錘で打撃し,重錘の反発度から既往の換算式を用いて圧縮強度を推定する。
特徴として,測定が容易で構造物に損傷を与えないため広く実用されている。しかし,構造体コンクリートと同種のコンクリートについての適切な換算式が得られていないと,推定精度に問題が生じる。その場合はコアを採取して既往の換算式を修正するか超音波伝播速度法を併用するなどして,強度推定精度を向上させることができる。今後各種配合,材令などについての換算式が整備されれば適用範囲が拡大すると思われる。
2 超音波法-ひびわれ深さ測定-
図ー1のように振動子からひびわれまでの距離α1,α2とし,それぞれの振動子間隔での超音波伝播時間をt1,t2とするとひび割れ深さの推定値yは次式で与えられる。
この方法は実務的で,比較的使用頻度が高いことが特徴といえる。
ただし,ひびわれを挟んで鉄筋が存在すると,ひびわれ先端を回折して到達する超音波よりも,鉄筋を介して伝播した超音波が先に受信され,計測結果の誤差が問題となる。
そこで最近,超音波伝播時間ではなく周波数領域の応答特性を解析する「超音波スペクトロスコピー法」が研究されている。この方法は鉄筋の存在の影響を受けないと考えられ,RC構造物への適用が期待されている。
3 自然電位法
鋼材が腐食する場合には腐食電池が形成され,アノード部(腐食部)とカソード部(非腐食部)とで,維持している電位(自然電位E)が変化する。この電位を測定してコンクリート中の鋼材の腐食の有無を判定する方法で,特徴として測定機器方法がシンプルで,既に基準もあり広く使用されている。ASTM規格によればEの範囲がE≦-350mVの場合,90%以上の確率で腐食があるとされている。実構造物においては10~50cmの間隔で自然電位を測定し,コンピュータ処理して等電位分布図を作成し,鋼材腐食位置を推定する。
今後はさらに直線分極抵抗法を併用した定期的な計測を行って,鋼材の腐食速度から鋼材腐食量を定量化し,構造物の劣化程度の指標を得ることが期待されている。
4 赤外線サーモグラフィー法-外装材剥離検査など-
構造物表層付近の空隙は,空気層の存在により熱の不伝導体となり,健全な部分に比べて表面温度が大きく異なる傾向を持つ。これらの温度変化および分布を赤外線カメラで測定し,その画像からタイルの剥離部,ひびわれ位置などを特定することができる。
この方法の特徴として,足場が不要で測定車からの遠隔測定で一度に広範囲の測定が可能で,視覚画像のデータが得られる。しかし,天候・気温・測定時間帯・被写体撮影角度など各種測定条件下における適用可能範囲については,未だ不明な点もあり,今後データの集積によってより診断精度を高めることが期待されている。
5 X線透過法-鉄筋位置の探査-
鉄筋コンクリートのX線透過写真は,鉄筋部分では鉄筋のない部分に比べて黒さが薄くなる。この透過写真を観察して鉄筋の大きさや配筋状態を検知する。
一回の照射によって二次元の透過像が得られ,客観的に評価でき,精度的にも良好なのが特徴といえる。
最近,X線フィルムの代わりにイメージングプレートを用いコンピュータで画像処理解析することで,コンクリートの適用厚さの増大と測定精度の向上を図る技術が開発されつつある。
河川砂防および海岸 平成7年度
Ⅰ-2-1(A)
源流から海岸域まで含めた流域・沿岸にわたる広域的な土砂管理のあり方について述べよ。
はじめに
河川は水と土砂の流路である。その機能は降水を海まで流下させるとともに,地表の浸食作用による土砂の搬送を担い,地球上の水循環システムの一過程を形成する。この流域内に人々の生活(社会)があり,河川とのかかわりが生じてくる。この河川と人(社会)とのかかわり合いの一つに土砂災害がある。
1 土砂災害の現状について
わが国は,急峻な地形がほとんどで,気象的には集中豪雨などが度々あり,山地からの土砂流出による災害が度々発生している。また,国土の利用・開発が山地にまで進んできており土砂流出による災害の危険性も高まってきていること,さらには,地球の温暖化等の地球環境問題が深刻な課題としてとりあげられていることなどから,治山・治水対策における土砂管理は,安全で快適な生活環境を確保するうえでの重要な課題の一つとなっている。
2 土砂災害の分類
土砂災害にはいくつかの種類があり,災害の場における分類としては河川流域で発生する土砂害,海岸域で発生する土砂害,およびそれ以外の場で発生する土砂害とに分けられる。河川流域で発生する土砂害の主因は降雨であり,海岸域で発生する土砂害の主因は風によるものが多い。
また,直接的な土砂災害と間接的な土砂災害とに分類すれば,山崩れ,地滑り,土石流の直撃によって社会生活に直接的に影響をもたらす土砂災害,および流出土砂によるダム貯水池の埋没や河床の上昇による洪水疎通能力の低下なと,間接的に影響をもたらす土砂災害とに分類される。
3 土砂管理の課題と対応
前述のように分類した土砂災害の形態をふまえて,土砂管理の問題とその対応方法について考察すれば次のようなことが課題としてあげられる。
① 源流から海岸までの水系一貫した土砂管理計画が必要であること。
土砂氾濫などの直接的な土砂災害の軽減とともに,河床上昇による洪水の氾濫,貯水ダムの容量の確保,河道内構造物の機能低下,あるいは土砂による河口閉塞,海岸の浸食といった土砂問題に対応していくためには,水系一貫した総合的な土砂管理計画が必要であり,流域の各地点での最適な流砂量を評価する土砂管理追跡モデルなどのシステム開発が望まれる。また,砂防ダムや流路工といった点と線によるこれまでの対策から一歩進んだ土砂生産源対策など流域全般での面的な整備計画が望まれる。
② 自然生態系の再生など環境保全面での土砂管理計画が必要であること。
健全な生態系の生育環境の確保,あるいは地域住民へのレクリエーションの場の提供など,望ましい環境を確保するための土砂管理計画が必要であり,今後,環境リーデイング事業の積極的な取り組みとともに,環境に関する新たな知見の集積と技術の開発が望まれる。
③ 地球の温暖化などの地球環境問題での土砂管理計画が必要であること。
地球の温暖化にともなう降水特性や植生の変化は,土砂流出を起因とする氾濫被害などを助長し,あるいは土砂災害の新たな誘因となることが考えられる。したがって,降水特性の変化による土砂生産・流出量の変化への対応策や,酸性雨による森林の荒廃,海面上昇にともなう土砂災害などの地球環境問題への対応策などとともに,対策技術の開発が望まれる。
道路 平成7年度
Ⅰ-2-1
都市部における道路の渋滞対策について,道路整備と交通需要マネージメントの両面から述べよ。
1 はじめに
道路は,経済・社会活動にとって欠くことのできない最も基本的な社会資本である。昭和29年から始まった第1次道路整備5ケ年計画から現在までの40有余年の間に,わが国の道路の整備水準は大幅に改善されてきた。しかしこの間の自動車保有台数の伸びは,道路整備をはるかに上回っており,今日の交通混雑,渋滞激化の大きな要因となっている。
特に都市部においては,都市活動の活発化に伴い,道路交通需要はますます増大しており,交通渋滞は,国民生活や産業活動に深刻な影響を与えているのが実情である。
これへの対策として,従来からの計画・実施されてきたのは,交通需要を前提とした,供給サイドの整備充実であった。すなわち道路・公共交通機関などの交通容量を拡大する施策であり,道路施設整備,交通管理等が含まれる。これらは,道路管理者,交通管理者などの公共機関が主体的に実施する施策である。
一方,自動車交通発生の本源である交通ニーズ(需要)を修正・誘導・管理する政策に変革しようとする発想が交通需要マネージメントである。すなわち,需要サイドの施策であって,発生する交通の時間帯や,手段,ルート,車の効率的利用などの交通ニーズに直接働きかけるものであり,個人,民間企業等の交通需要者の意思決定メカニズムに働きかけるものである。マイカー利用からバスヘの転換,カープール等の相乗り,時差出勤等がその例であり,物流に関しては,共同集配送や帰り荷斡旋システム等が含まれる。
以下,それぞれについての具体的施策について記述する。
2 道路整備について
(1)一般道の改良・整備
まず,特定渋滞箇所(ボトルネック)の緊急対策としては,交差点部の改良(右左折車線の増設・隅角部の切取り等),踏切の立体交差化,狭隘部の拡幅等がある。
次に,中長期的な対策としてのネットワーク形成では,環状道路(分散・迂回効果),バイパスの新設,河川断面の混雑緩和策としての橋梁の新設がある。
(2)自動車専用道路の改良・整備
緊急に実施する部分改良として,部分拡幅(車線増),オフランプの新設がある。次に中長期的対策としてのネットワーク形成では,環状道路(分散・迂回効果),連絡道路(分散効果)がある。
(3)既存道路の有効利用のための施策
交通情報提供の充実として,道路情報板,情報ターミナル,駐車場案内システムの整備がある。また,渋滞原因の一つである道路工事方法の改善策として,集中工事の実施,混雑期の道路工事の抑制,工事調整の一層の推進が必要である。
(4)公共交通機関としての連携強化対策
駅前広場,駐輪場,新交通・都市モノレールの整備があげられる。
3 交通需要マネージメントについて
(1)輸送効率の向上対策
これは,車の効率的利用や,交通手段の変更を図ることによって自動車交通量の減少を図るものである。
◦通勤者の相乗り(カープール)
◦公共交通機関の利用促進
◦自転車,徒歩への転換
◦輸送貨物の帰り荷斡旋システム
◦輸送貨物の共同輸配送システム
(2)交通需要の時間的平準化対策
これは,利用時間の変更,経路の変更をうながすことによって,自動車交通量の平準化を図るものである。
◦フレックスタイム制,時差出勤の導入
◦ノーカーデイ,公共交通促進運動
◦バスレーンの特定により公共交通機関の利便性向上
◦輸配送の時間・日の平準化
◦混雑情報の提供
(3)交通負荷の小さな都市づくり対策
これは,需要の発生源を調整することによって自動車移動の減少を図るものである。
◦在宅勤務,サテライトオフィス勤務の導入
◦ビル等への駐車場付置義務基準の見直し
◦荷さばき施設の設置誘導
◦パークアンドライド等の施設整備
4 おわりに
渋滞対策としての道路整備は,我々にとっては旧知のものであるが,一方,交通需要マネージメントに対しては全く新しい観点からの取組み・アプローチが必要と思われる。すなわち,前述のマネージメント諸施策をみると,民間ベース,雇用主ベースで事業を進めざるを得ないものばかりである。そのためには,行政が雇用主に負担を求めるばかりではなく,雇用主がメリットを享受できるようなシステムを検討することが必要である。
また,実行委員会方式による官民一体の取組み等,わが国にマッチした交通需要マネージメント施設を開発していくことがその展開にとって一番求められるところである。
付記
解答用紙はB-5版の横書き,左綴じで,1行当り25字を表面に14行,裏面に18行を配した800字詰めの原稿用紙である。答案の作成に当っては,次の諸点に留意する必要がある。
① 筆記速度を養成し,Ⅰ-1以外の全問題答案へ指定枚数の80%以上が埋められること。
② 設問文の意図内容を充分に把握したうえ,なるべく多くの事柄が盛り込まれること。
③ 報告文ではない形の論文となるためには,自分の意見・見解が述べられること。
④ 記載順序を体系づけて,論文の展開へ配慮し,主張内容に一本の筋が通されること。
⑤ 多義的に読める曖昧な表現を避け,一義的にしか読まれない文章が書かれていること。