平成大堰における防鳥対策工法について
建設省 山国川ダム・堰統合管理事務所
所長
所長
山 下 洋 征
建設省 山国川ダム・堰統合管理事務所
管理第一課 管理係長
管理第一課 管理係長
高 山 善 光
建設省 山国川ダム・堰統合管理事務所
管理第一課 電気通信係員
管理第一課 電気通信係員
中水流 晃
1 はじめに
平成大堰は,一級河川山国川河口から3k960地点に全長218m,堰高さ3.15mの鋼製ローラゲート4門を有する可動堰として,平成2年度に完成した。
堰管理において鳥類の糞害防止は課題であり,本堰においても,鳥類の糞・ワイヤーロープヘの羽の付着がゲート塗膜劣化およびワイヤーロープの発錆・油の剥離等の一因となっており景観上も好ましくないため,堰ゲート施設等への鳥類飛来防止を目的として鳥類の行動・被害状況等を調査検討し防鳥対策工の設計を行ったので,ここに報告する。
2 調査内容
(1)被害状況調査
糞害等の被害状況を把握するため,堰本体・管理橋・護岸・魚道周辺・量水塔周辺・管理事務所・市場橋の7地点(図-1)において調査を実施した結果,以下に示す被害状況が確認された。
① 堰本体
a 操作室
巻上機下のワイヤー侵入部に,鳥類の侵入可能な隙間があるため,誤って侵入したものと考えられる鳩の死骸がある。室内の糞による被害は少量である。
b 堰柱(写真-1)
操作室と堰柱の間に隙間があり,鳩が入り込んでいた。この隙間にとまっている鳥類の落とす糞が,床や戸当り部,扉体に堆積しており,糞被害の多い場所となっている。はしごや休止フックはとまりに利用されており,糞が付着している。
c 扉体(写真-2)
扉体両端のシーブ部に鳥がとまれるスペースがあり,とまりに利用されているため,被害が見られる。
② 管理橋
高欄部および路面上には被害がみられないが,主桁部については,川下側のみに糞害や営巣等の被害が大きい。
③ 護岸・魚道周辺・量水塔周辺・管理事務所・市場橋
大きな被害は確認されなかった。
構造上,休憩場所・営巣等に利用しやすい堰本体において,被害が大きいことが判断できる。
(2)鳥類調査
堰に飛来する種や,飛来方向等から行動パターンを確認するため,3地点(図-2)から定点記録法により調査を実施した。
① 時間毎の出現状況(表-1)
a 目的
堰に飛来する種の個体数の時間変動を把握および種別による時間変動の把握
b 調査結果
堰を利用する個体数が最も多いのはカワラバトで,次に多いのはムクドリである。その他の種についてはほとんどは利用は見られない。カワラバトは,朝に最も多く確認され,午後は個体数が減少する傾向にある。ムクドリは朝に多く確認された。
c 考えられる生態的理由
カワラバトの午前中の確認数が多いのは,夜明け後にねぐらから飛び立った個体が昼前にかけて活発に採餌を行うためと考えられ,午後に個体数が減少するのは,日中周辺への耕作地等へ飛去してしまうためと考えられる。ムクドリが朝多く確認されるのは,管理橋や護床工の上に集結し,採餌を行うためである。
② 確認種の優先状況(グラフ-1)
a 目的
堰への飛来種について優先種を把握
b 調査結果
2度の調査でカワラバトが約80%,ムクドリが約14%であった。
c 考えられる生態的理由
カワラバトは,体のサイズがムクドリやスズメに対して大きいので競争力が強い。かつ,堰の構造がカワラバトの営巣場所として適している。風や雨よけになる上に,操作室下面がL字型で営巣場所に適した構造であることがあげられる。
③ 場所毎の利用状況
a 目的
堰(堰柱・ゲート)における場所の飛来状況把握
b 調査結果
ゲートに比べ堰柱を利用する個体が多く堰柱では特にP2~P4を利用する個体が多い。
c 考えられる生態的理由
ゲート上は水飲み場として利用されているのみであり,堰内での主な休息場所である堰柱での確認が多い。ただし,ゲートシーブ部はポケット状の構造で隠れ場所や風よけに適しており,個体が確認されている。
④ 各種および全体の出現場所(グラフ-2)
a 目的
種毎の堰柱,ゲート別の利用頻度把握
b 調査結果
カワラバトの全体の6割以上が堰柱に飛来しており特にP2~P4までに多い。ムクドリは堰柱のみを利用している。スズメはP4およびP5を利用している。
c 考えられる生態的理由
カワラバトは,本来の営巣場所である峡谷や岩の割れ目などの代替品ともいえる構造を持っている堰柱を好む。ムクドリは,生態的に樹木の下部に比べ樹木上付近を休息場として利用する傾向が強く,中央部に鉄骨などの構造を持つ堰柱が樹木上の環境に類似している。スズメは,確認された個体数が3,4羽のため,利用としては不明であるが,堰柱とケーブルラックの隙間にねぐらを設け利用しているのが確認された。なぜ,P2~P4までの個体数が多くなっているのかという点では,P1およびP5は両岸側の道路に近く人や車が通行するため飛来数が少ないものと考えられた。
⑤ 場所・時間毎の出現状況
a 目的
「③ 場所毎の利用状況」の調査結果より,堰柱の利用頻度が多いことが分かったので,堰柱を縦方向に見た場合の利用頻度の違いの把握
b 調査結果
7:30頃から行動を開始する。8:30~10:00にかけて,堰柱を利用する個体が多い。午前中,左岸側の護岸上で休息する40~60羽ほどの群が確認された。午後から調査終了時刻まで堰への飛来は少ない。
c 考えられる生態的理由
8:30~10:00にかけて堰柱を利用する個体が多いのは,近くの耕作地へ採餌へ向かう個体などカワラバトの活動が最も活発化し,個体数も増加する傾向にある。左岸側の護岸で休息するのが確認された理由として,午前中は日当たりがよいためである。
⑥飛来方向(表-2)
a 目的
堰周辺における種別の飛来方向を把握し,堰における利用目的と,移動する理由を解析
b 調査結果
カワラバトは,東西から堰への飛来が多い傾向で,ムクドリは南北からの飛来が多い傾向であった。
c 考えられる生態的理由
カワラバトは,東西方向に耕作地が広がるため採餌のために集合している群が堰に飛来する。ムクドリは,南北方向にねぐらがあるため,この方向より飛来する。
⑦堰周辺における出現状況(グラフ-3)
a 目的
堰以外の施設等の利用状況を把握し,堰に多く集まる理由およびその他の施設に集まる理由の解析
b 調査結果
堰周辺における出現状況は,堰内が18%,堰周辺を通過が28%でその他堰からの移動が9%,護岸上での確認が27%等であった。
c 考えられる理由
護岸上で確認された個体については,「⑤ 場所・時間毎の出現状況」でも述べたとおりである。
3 被害の解析・とりまとめ
現地調査から見られる被害,立地条件から見られる被害の資料を整理した結果,堰における糞害等の被害は,飛来する鳥類種の利用と堰の構造が密に関係していると考えられた。被害原因種の行動と被害箇所の特性整理から堰における被害実態について解析し,防鳥対策工法の参考とした。
(1)被害原因種の行動特性の解析
堰に最も被害を及ぼす種はカワラバトであり,その行動特性の整理を行った。
◦カワラバトは留鳥であり,年間を通して被害を及ぼす。
◦営巣,ねぐらとして利用されているのは,鳥類の帰巣本能によるものと考えられる。
◦戸当りは,止まりとしてよく利用されているが営巣,ねぐらへ帰るときの一時的な休憩場所として利用している。
◦ゲート上は,水飲み場として利用されている。
◦被害原因種であるカワラバトに対する防鳥対策を実施後は,その次に優位な種のムクドリが原因種となることが考えられる。
(2)被害箇所の特性整理
被害の著しい箇所は,営巣やねぐらに利用されている利用時間の長い場所であった。被害箇所の特徴整理を行った。
① 営巣,ねぐらでの利用
場所は,操作室ワイヤー下,扉体シープ部,管理橋であった。先ほども述べたとおり利用時間の一番長い場所であるので,被害も大きいものとなっている。
② 止まりによる利用
場所は,操作室屋根やデッキ等であった。
③ 間接的被害
堰柱付近の構造物で,ワイヤーロープヘの羽の付着等が見られた。
(3)対策重要箇所の整理
堰管理上からすると,操作室への誤侵入による死骸,施設内への営巣,糞や羽による塗装面の劣化は,堰操作の信頼性・機能保全,鳥類の保護といった周辺環境との調和に支障をきたすと考え,防烏対策箇所の抽出を行った結果,本堰においては,営巣およびねぐらとして利用され被害の甚大な操作室ワイヤー下,扉体シープ部また営巣・ねぐらへの帰巣時休憩場所として利用される取り外し戸当り部への防烏対策工を実施することとした。
4 防鳥対策工法の検討
対策については,中小型鳥類に見られる性質や行為を妨げる対策や,器具や薬剤を用いて物理的に妨げる対策,捕獲により根本的に被害原因を絶つ方法等7工法において検討を行ったが,ここでは,本堰において有効と考えられた3工法について紹介する。
(1)薬剤による忌避
① 対策内容
忌避剤(ペースト状)を使用する。
② 概要
薬剤を利用される箇所に塗布することにより,粘着物による不快感からその場所を忌避するようになったり,忌避剤で処理した餌を摂食させ,味覚を刺激させ忌避行動を起こさせる。また,臭いの強い薬剤により,嗅覚を刺激し追い払う。
③ 利点
器具の設置が難しい場所(構造の複雑な場所)で利用できる。
④ 欠点
忌避効果を発揮するだけで,侵入防止の抜本的対策とならない。また,有効範囲が狭く,薬剤が降雨で流されてしまう。
(2)器具による忌諱
① 対策内容
粘着テープ,針状の器具,テグス,ネットを設置する。
② 概要
鳥類の触覚刺激を応用することで,忌避行動をとらせる。事例として,針状の器具は物理的に鳥類がとまれない状況を作り,テグスは鳥類がテグスに羽が触れることを避けることを活用した対策である。
③ 利点
針状の器具は,物理的にとまりを不可能にするので期待できる。テグスは安価で設置も簡単。また,透明なものを使用すれば景観も損ねない。
④ 欠点
針状の器具は景観上痛々しい感じを受ける。忌避効果を発揮するだけで,侵入防止の抜本的対策とならない。
(3)捕獲
① 対策内容
捕獲箱の設置。
② 概要
ドバトについては,組立式の捕獲箱が市販されており,知能も鳥類の中では低い方なので捕獲は比較的容易にできる。
③ 利点
設置直後はあまり接近しないが,数日後には箱内に入り以後連続して捕獲が可能。被害原因種を抜本的に除去することになるので効果が大きい。
④ 欠点
糞の堆積による病原菌汚染を起こさせないために回収時に箱内の清掃,殺菌剤散布を行わなければならない。回収は専門業者に依頼している事例が多く維持管理費がかかる。
以上のような工法検討の結果,本堰においては,器具による忌諱を採用した。
5 防鳥対策工法の検討
(1)操作室ワイヤー下部
開口部をできる限り塞ぎ,ワイヤー・休止フックの可動に耐え得る構造とするため,ワイヤー通過部はPPブラシを使用し,休止フック部は開閉可能な構造とした(図-3)。
(2)扉体シーブ部
開口部をできる限り塞ぎ,取り外し可能な構造とするため,クランプ止めとした。材料は,ステンレス金網を使用する(図-4)。
(3)取り外し戸当り部
H鋼上に,造巣防止マットを設置することにより,鳥が止まれない構造とした(図-5)。
6 おわりに
平成11年度に取り外し戸当り部への施工を行っている。現在のところ,鳥類が寄りつく様子はないが,慣れ等があるため,今後も調査が必要である。
また,操作室ワイヤー下部および扉休シーブ部への施工も鋭意実施していく予定である。