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少子高齢社会に求められる「減災」のまちづくり

福岡大学大学院 工学研究科 建設工学専攻1年
徳 山 裕 也

1 はじめに
現在,我が国は少子高齢社会の最中にある。このことを「災害」の観点から見ると,災害時に要援護者となる高齢者が増加し,援護者となる若者が減少するということである。つまり,災害時のリスクがより高まる時代に突入するのだ。実際,自然災害による高齢者の被災例は後を絶たない。
ここで,災害を地震に特化して取り上げる。地震への防災として最初に考えられる「家屋の耐震化」は,個人負担が原則のため,なかなか普及しない。災害という非日常を日常に組み込む防災は,国民の意識がまだ軽薄であるために,大幅な進展の兆しが見えないのが現状だ。
防災と併せてキーになるのが「減災(被害の軽減)」である。減災は防災と違い,災害意識が軽薄であっても日常の努力により実現が可能なものである。本論文は,大きな可能性を秘めた減災に対して,ハード・ソフト両面からアプローチし,災害に強い地域の在り方について述べたものである。

2 阪神・淡路大震災からの教訓
(1)ハード面からの教訓
減災として重要になるのが,「避難路としての道路」,「避難所としての公園」の整備である。ここで,阪神・淡路大震災における道路の幅員と延焼防止の関係を図-1に示す。
図-1より,道路は12m以上の幅員があれば,避難路としての役割を果たす道路となり得る。では,2005年3月,大地震が発生した福岡県の都市計画道路で12m以上の幅員を持つ道路の延長は,総延長に対してどの程度なのか。以下の表-1に全国と福岡県の都市計画道路の整備状況を幅員別に示す。

図-1 道路の幅員と延焼防止の関係

表-1 都市計画道路の整備状況

表-1より,幅員が12m未満の都市計画道路の延長は,総延長に対して,全国が9.0%に対して,福岡県は7.2%と,割合としては低い割合を示しているが,延焼の可能性が高い道路ゆえに対策を講じる必要はある。特に木造建築物の密集する市街地においては,大規模な火災が次々と延焼していく危険性があるので,重点的な道路整備が必要となる。また,災害時に避難所となる公園は,徒歩圏内に配置しておく必要がある。
(2)ソフト面からの教訓
阪神・淡路大震災では,救助された人の約8割が近隣の住民によるものであった。(図-2)生存率に関しても,消防隊や自衛隊よりも近隣の住民によって救助された方が高かった。これは発災後,時間の経過とともに生存率が低下することや,大規模な災害の場合は消防・救急活動を迅速に行うことができないことが要因である。

図-2 阪神淡路大震災の救出要因と生存率

しかし,地域のコミュニティーが強ければ強いほど連帯意識が強く,災害時の死因として多いとされる生き埋め者の早期発見・早期救出・早期治療に繋がり,生存率も高くなる。
このことから分かるように,日頃から自治体や地域住民が一体となり,コミュニティーの形成を図ることが,自然と減災に繋がるのである。

3 「減災」を考えたまちづくり
(1)ハード面の減災まちづくり
これまでの公共事業は,すべての社会資本に対して,総花的に投資されてきた。しかし,現在は公共事業の削減と少子高齢化が社会問題となっており,これらは一体のものとして考えられなければならない。そのためには,「選択と集中」の概念に基づいて,減災対策に重点を置いた整備を行っていくのが適切ではないだろうか。道路,公園,広場の整備はもとより,街路樹についても火災時の延焼防止の機能を持ち合わせており,そういった社会資本を中心に整備していくべきである。そして,国や自治体がより多くの対策を講じるためには,住民主導のまちづくりが重要となる。道路や公園などの管理を住民やNPOなどに委託することで,公共事業コストの縮減に繋がる。さらに,無駄な社会資本の排除や利用の転換を図ることで,道路や公園などが増え,減災の効果がより高まる。
(2)ソフト面の減災まちづくり
我が国が成熟社会である今,個々の社会資本の必要性に対して,私たち一人一人が厳しい目を持ち,国や自治体に積極的に働きかけていくべきである。これからは量より質を重視した社会資本整備を行っていかなければならない。
例えば,少子化が進めば,小学校の廃校が増え,その跡地利用の仕方が大きな課題となる。廃校になったまま手を施していない小学校もあり,放ってはおけない問題である。様々な利用法が考えられるが,校舎をそのまま残し,公民館やまちづくり協議会の協議の場として利用すると,住民主導のまちづくりが行いやすくなり,効率的な行政活動が展開できるのではないだろうか。跡地利用を考える際,国や自治体などで一方的に決めるのではなく,地域住民の意見をしっかり聴き入れるべきである。そういった場を設けることで,住民のニーズにより対応した場が形成され,その過程において,減災対策としてのコミュニティーの形成が期待できる。
(3)ハードとソフトの比較
こうして見てくると,「減災」を考えたまちづくりとしては,時代背景を考えると,ハード面よりもソフト面の方が,費用対効果の点,そして地域の本来の在り方の点で,有効である。そのためには,やはりコミュニティー形成を目的とした住民主導のまちづくりが重要となる。

4 具体的なコミュニティー形成手法
住民主導のまちづくりとして,私が注目したいのが「アダプト・プログラム」という公共施設の管理手法である。この手法は,地域住民が道路や公園,河川などの公共施設を“養子(Adopt)”に見立てて管理し,清掃活動などを行うというものである。メリットを以下に列挙する。
 ・自治体の管理コストの縮減
 ・地方分権制度強化の起爆剤
 ・環境の改善
 ・景観形成
 ・地域の活性化
 ・高齢者の外出促進
 ・コミュニティーの形成

「アダプト・プログラム」では,地域住民が一体となり,清掃活動やイベントなどを行っていくことで,子供からお年寄りまで幅広い人脈が構築される。そして,その活動を通して,人と人との結び付きが強くなればなるほど,災害時に助け合う気持ちが芽生え,減災に大きく寄与する。さらにアダプト・プログラムによる管理コストの縮減分を防災システムの強化に充てることも期待できる。自治体の財政状況の改善が進めば,家屋の耐震化のための手厚い支援も可能になり,住民の耐震化への意欲を掻き立てるかもしれない。地震による火災の際,延焼の可能性が高いとされる,幅員12m未満の道路の広幅貞化の事業費に充てることもできるだろう。
つまり,減災として重要になる「コミュニティーの形成」,「避難路としての道路」,「避難所としての公園」の整備が,すべてこのアダプト・プログラムをきっかけに進展していくことが期待できるのだ。

5 おわりに
このようなメリットの宝庫であるアダプト・プログラムこそ,まさに「少子高齢社会に求められる減災のまちづくり」であると言えるだろう。そして,この取組みが全国各地で当たり前になる時代が来れば,こんなに最高な時代はない。
今後は,地域間で連携して,情報交換の場を設けたり,「地域コミュニティー力」という指標を作り出し,地域間でその数値の大小を競い合うことでお互いに高め合ったりと,単発的なものではなく他の地域,または後世のまちづくりに波及していくような,まちづくりシステムの構築が必要となってくるだろう。

参考文献
・国土交通省 資料
・(財)都市計画協会:「平成17年度 都市計画年報」
・愛知県阿久比町ホームページ

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