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小戸之橋(おどのはし)美術館プロジェクト
~橋の架替えをきっかけとしたまちづくり~
大谷真宏

キーワード:小戸之橋、架替え、美術館

1.はじめに
小戸之橋は、宮崎市の南北を結ぶ都市計画道路昭和通線(しょうわとおりせん)の中心部に位置しており、一級河川大淀川(おおよどがわ)を渡河する橋梁である。
旧橋は、昭和38年に建設され、高度経済成長とともに宮崎の人とまちの変化を見届け、人々の生活の一部として愛されてきた。

しかし、①建設後50年以上が経過し老朽化が著しい、②幅員が車道部6m、歩道部2mと狭隘である(写真-1)、③橋脚の数が多く河川を大きく阻害している(写真-2)などの理由から、架替えによる整備を実施することとなった。
架替え前後の橋の諸元を表-1に示す。

2.架替え事業について
今回の事業の特徴は、一般的に橋の架替えに先立って設置する、迂回路用の仮橋を設けずに架替えを実施するところにある。
平成25年11月1日に橋を通行止めにして工事に着手し、平成25年度は旧橋の右岸側半分、平成26年度は左岸側半分の撤去を行い、平成27年5月で旧橋の撤去が完了した。
11月からは新橋の設置に着手し、平成33年3 月に新橋が完成する予定である(写真-3, 4)。

橋を通行止めにして旧橋を撤去し、同じ場所に新橋を架けることで、①仮橋設置にかかるコストを削減できる、②従前の道路線形を確保できる、というメリットはあるものの、7年半という長期にわたって橋を通行止めにすることは、これまで小戸之橋を利用して来た方や周辺の住民に大きな負担を強いることとなる。
しかし、公共事業費の増加が見込めない中、近い将来訪れるインフラの大量更新においては、「不便さ」を受け入れていかなければならない。
この不便さを享受出来るように、全国的にも例を見ない「仮橋をつくらない架替え事業」を、インフラ老朽化時代における公共事業のあり方のフロントランナーとして示すとともに、橋の架替えをきっかけとした新たなまちづくりを目指して実施した、さまざまな取り組みを以下に紹介する。

3.さよならイベントの実施
橋を通行止めにした直後の平成25年11月2日に、小戸之橋とともに生活してきた地元住民が中心となり、旧橋への感謝と新橋への期待を込めたさよならイベント「ありがとう小戸之橋さよならフェスティバル」が開催された。
当日は1万5千人を超える方が小戸之橋を訪れ、橋の上での演奏会やトラック市、花火などさまざまなイベントで大いに賑わい、橋に対する深い想いが伝わってきた(写真-5, 6, 7)。
なお、このイベントで数十年ぶりに地元神社の神輿が復活するなど、橋をきっかけとした地域のつながりも生まれた(写真-8)。

4.小戸之橋美術館プロジェクト
前述のとおり、平成25年度より架替え工事に着手しており、当該年度は工事を広く周知するための意味も含めて大々的なさよならイベントを実施した。
平成26年度は、イベントの主旨を引き継ぎながらも、より「つながり」を意識した取り組みを実施した。
小戸之橋美術館プロジェクトとは、これまでの橋に対する想いや、新しい橋への期待を、記憶やかたちに残すことで、旧橋から新橋に生まれ変わる時間をつないでいくための取り組みの総称である。
いったん「切れて」、ふたたび「つながる」小戸之橋をきっかけに、「人」から「まち」へと広がってくれることを目指している。
具体的な取り組みを以下に紹介する

①地元小学生への特別授業(H26.10.17)
小戸之橋に近い南北の小学校において、新橋の景観設計に深く関わっていただいた大学の先生を講師に迎え、ユーモアを交えながら、さまざまな「はし」についての授業を行った(写真-9,10)。

対象児童は、橋が完成する予定である平成33年3月に高校生となり、通学などで橋を渡ることが増えるであろう小学3年生とした。
橋に興味を持ってもらうだけでなく、将来土木技術者を志す若者が育ってくれれば幸いである。

②小戸之橋フォトストーリー(H26.11.1 ~ 3)
一般公募により選ばれた方をモデルに、プロのカメラマンが旧橋をバックに撮影を行い、橋が完成したときに、同じモデルでもう一度撮影する企画である。
新婚夫婦や親子連れ、親子3 代の大家族や友人同士、スポーツ少年団の子供など、バリエーションに富んだ31組210名のモデルが撮影を行った(写真- 11,12)。
新しい橋の上で、モデルの成長したすがたを撮影してフォトストーリーは完成する。2枚の写真が、橋の生まれ変わりやモデルの歩んだ道のりをつないでくれることを期待している。

③小戸之橋魚群アート(H26.11.16)
宮崎市中心市街地で活動している若手アーティストたちによる、撤去途中の半分になった旧橋の上に描いた巨大アート。
残っていた約250mの橋の上をいっぱいに使い、さまざまな魚たちが躍動している素晴らしい作品となった(写真-13)。

1日限りの一般開放も行い、約500名の方が橋を訪れ、アートを楽しんだ(写真- 14,15)。

魚群アートは橋とともに撤去されたが、今後も記録した動画や写真を活用していく予定である。
また、橋と若手アーティストたちがつながったことにより、アートを通じた中心市街地におけるまちづくりへの展開など、多くの可能性が広がった。

④小戸之橋美術館デザインパネルの作成、設置
より多くの方に小戸之橋のことを知ってもらうために、これまでの取り組みをまとめたパネルを作成した。前述のアーティストたちが中心となり、人目を引くデザインを重視しながらも、今回の取り組みの主旨をしっかりと伝えるメッセージを盛り込んだ素晴らしいパネルが完成した(写真- 16)。

現在、宮崎市役所内に設置しているが、今後さまざまな場所に設置することで、これまで小戸之橋と直接関連のなかった方たちにも、少しでも興味を持ってもらえれば幸いである。

⑤沿線マップの作成、配布
通行止めにより交通量が減少した橋の南北沿線にある店舗を対象に、お店を紹介するマップを作成し、店舗に配布した。
このマップが、お店と地域とをつなぐツールとなり、将来的には地元が一体となって、まちの活性化につながるきっかけとなることを目指している。

5.今後の取り組み
前述のとおり、今回の事業ではこれまでの公共事業にはない、さまざまな取り組みを行ってきた。
取り組みを通じて、色々な方たちとつながり、少しずつではあるが広がり始めている。
今はまだ種を蒔いている段階であるが、今後は地元とアーティストの連携や、中心市街地と橋の連携など、「まち」へと広がり、まちづくりのきっかけとなることを期待している。

6.おわりに
小戸之橋は旧橋がなくなり、撤去から再生へとシフトしていく時期を迎えている。
新しい橋が単なる川を渡るための構造物ではなく、いろんな人たちのさまざまな想いをつなぐ橋になるとともに、長きに渡ってまちづくりの「橋わたし」のきっかけ、シンボルとなれるように、今後も取り組んでいきたい。
なお、今回の執筆にあたり、事業に対して多大なる指導、助言を頂いた熊本大学の小林一郎先生をはじめ、この取り組みに関わって頂いたすべての方に感謝の意を表す。

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