県民の安全で安心な暮らしと地域の発展を支える社会資本整備
山﨑日出男
キーワード:有明海沿岸道路、広域幹線道路ネットワークと交通拠点の連携、治水対策、土地区画整理事業
1.はじめに
佐賀県は、北は玄界灘、南は有明海に面し、それぞれ固有の地形・地質・気象条件下にあり、これまで、水害・土砂・高潮等の災害に悩まされてきました。県内の平地の多くが浸水の危険性のある浸水想定区域となっており、特に、有明海の沿岸地域は、潮汐の影響を大きく受ける自然排水困難な低平地となっています。
このようなことから、過去に災害が発生した箇所の河川改修と併せて排水機場や水門などの整備を行ってきました。
また、本県は小さな都市が各地に分散する分散型県土を形成しており、地域や産業の活性化、更には救急搬送や災害発生時の救援活動を円滑に実施するためには、高速交通ネットワークによる時間短縮と定時性の確保が重要であり、地域にとって将来の発展のベースとなる広域幹線道路ネットワークの整備は不可欠です。
一方で、高齢者や障害のある方などいわゆる交通弱者と言われる方々が自由に外出するための移動手段の確保が必要となっていますが、利用者の減少等によるバス路線の廃止など、公共交通機関の利便性の低下が課題となっています。
この他にも、建築物の耐震化や社会資本の老朽化対策など社会資本を「つくる」ことだけでなく、地域経済の活性化のため、佐賀空港におけるLCCの誘致や伊万里港、唐津港を中心とした港湾のポートセールスなど、整備した社会資本を最大限「つかう」ということにも重点を置き、取組を進めています。
2.将来の活力ある佐賀県の実現に向けた、 社会資本整備の推進について
国の平成28年度予算においては、「東日本大震災からの復興加速」、「国民の安全・安心の確保」、「豊かで利便性の高い地域社会の実現」及び成長戦略を通じた「日本経済の再生」に取り組むこととされています。
本県においても、東日本大震災や中央自動車道の笹子トンネルの天井板崩落事故を契機として、また、先般の台風17、18 号に伴う豪雨による河川氾濫等を目の当たりにして、地震や津波、豪雨などの激甚化する自然災害や社会資本の老朽化に伴う事故などに対して、これまで以上に、安全・安心な暮らしを望む声が高まっています。このようなことから、信頼性の高い社会資本の提供、整備された社会資本の適切な維持管理・有効活用が重要となります。
さらに、整備された社会資本が本来の機能を発揮することで、継続的に効率性・生産性が向上し、新たな投資や成長を呼び込む、いわゆるストック効果により、地域の実情にあったまちづくりの推進や地域間連携による産業活動の活性化など将来の佐賀県の発展を下支えすることが期待されています。
これまでは、社会資本整備により短期的に雇用・消費等が拡大するフロー効果が注目されてきましたが、今後はストック効果にも重点を置きながら、社会資本の整備を行っていくことが一層求められることとなります。
次に本県におけるストック効果の事例を紹介します。
3.社会資本整備による波及効果(ストック効果)の事例について
(1)有明海沿岸道路の整備がもたらす本県への新たな人の流れ
有明海沿岸道路は、三池港、佐賀空港などの広域交通拠点や大牟田市、柳川市、大川市、佐賀市、鹿島市などの有明海沿岸の都市を結び、地域産業の活性化等、有明海沿岸地域の更なる発展に寄与する道路です。
現在は、福岡県側の一部を除く区間と、佐賀県側の佐賀市と小城市を結ぶ一部の区間が開通し、ストック効果が既に発現しており、残りの区間の整備による、さらなる効果が期待されています。
平成20年3月の有明海沿岸道路(福岡県区間)の開通を契機として、佐賀空港の利用者数は毎年増加しており、昨年度の利用者数は過去最高の55万人を記録しました。順調な利用者の増加を背景に国内便では、羽田便が2便増加し、新たに成田便が就航し、国際便では上海便、ソウル便が就航しました。
九州のゲートウェイ空港としてLCCの拠点空港化を目指す佐賀空港にとって有明海沿岸道路の整備は空港利用者の増加に直結するものであり、新たな路線誘致には必要不可欠です。今後、有明海沿岸道路が福岡側から佐賀へ延伸することで、一層のアクセス向上が図られ、さらなる空港利用者の増加と経済波及効果が期待されます。
また、佐賀市で毎年秋に開催される「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」は、80万人を越える来場者数を誇る国際競技大会であり、有明海沿岸道路(福岡県区間)の開通後は、鹿児島県と熊本県からの来場者数が約2倍に、全体の観光消費額も開通前と比べ、約1.2倍に増加しています。
今後の佐賀県区間への延伸、福岡県区間の全線供用によりアクセスが向上することで、福岡県南西部や熊本県だけでなく、長崎県や鹿児島県から本県への「あらたな人の流れ」が生まれ、さらなる経済波及効果が見込まれます。
(2)治水対策と土地区画整理事業の一体的な整備による地域の発展
佐賀市北部を流れる巨勢川の流域は、これまでに何度も水害が発生している地域ですが、近年、下流域は市街化が進展している地域です。
このため、国、県、市が一体となって「治水対策」と「土地区画整理事業」を実施し、この地域における浸水リスクを低減するとともに都市基盤を整備することで、優良な住宅地や公園など安全で快適な街なみが形成され、生活環境の向上や良好な居住環境の創出につながっています。
その結果、定住人口が約1.8倍に増加するとともに、商業施設が約280店舗出店し、年間売上高約500億円という経済効果を生み出しており、治水安全度の向上により、この地域が今後の佐賀市のまちづくりにとって重要な役割を果たしていくことになると考えます。
4.おわりに
今後の社会資本の整備は、人口減少社会に向かうとともに厳しい財政状況の中で、必要な予算を確保し、計画的に進めていく必要があります。
社会資本整備による直接的な事業効果だけでなく、整備された施設が機能し、長期的にその地域の生産性や安全性を高めるストック効果が発揮され、今後の本県の発展に寄与する真に必要な社会資本の整備及び維持管理に引き続き取り組んでまいります。