大分県の砂防の歴史
吉 用 光 春
1.はじめに
大分県の砂防事業は、明治44 年(西暦1911)に治山事業の地盤保護工事をはじめとし現在に至っております。
ここで約100年間の大分の砂防の歴史を簡単に振り返ってみたいと思います。
2.地勢
本県は、九州の北東部に位置し、地形・地質と
も多様なため、豊かな自然を生み出しています。「九州の屋根」と呼ばれる、くじゅう山群をはじめ由布・鶴見、祖母・傾の山々が連なり、県土の約7 割が山林で占められています。
も多様なため、豊かな自然を生み出しています。「九州の屋根」と呼ばれる、くじゅう山群をはじめ由布・鶴見、祖母・傾の山々が連なり、県土の約7 割が山林で占められています。
また、南北にかけて霧島火山帯、西北にかけて白山火山帯が走っているため、県内いたるところに温泉が湧出しています。
3.戦前の砂防
明治44 年に治山事業として別府市野田(速見郡御越村野田)で地盤保護工事を実施したことが当県の砂防の起源です。これに引き続き、昭和6年まで筑後川、大分川、駅館川の上流や国東半島などでも地盤保護工事を実施してきました。
昭和7年以降からは、別府市の境川、春木川、朝見川で砂防工事が始まり、境川では昭和18年迄に砂防堰堤24基、床固工39基が設置されました。
これは、活火山である鶴見岳・伽藍岳の山腹の荒廃の影響や河川の急勾配により、度々土砂災害を受けていたことによります。
現在このような砂防施設は、県第二位の都市「湯のまち別府」の安全・安心を確保しています。
その後、昭和20年には9水系、13渓流で砂防工事に着手しています。
4.戦後の砂防
昭和21年に、当県に砂防課が設置されたことを契機に砂防事業は飛躍的に増大しました。
戦時中の昭和18年に番匠川上流で大小様々な崩壊が40箇所以上発生し、河床が5~7m高くなりました。このため、年間約100,000㎥土砂が流下していた番匠川上流因尾川をはじめとした22渓流25箇所で砂防工事を実施しました。
その後も砂防事業は県下全域で整備され、現在、1,247基の砂防堰堤が土石流などの被害から住民を守り続けています。
昭和28年からは、地すべり防止対策事業を別府市乙原、大分市黒仁田、日田市前津江村などの地区で地すべり防止工事に着手しました。地すべり事業では、山際地区(日田市)、明礬地区(別府市)など規模の大きなものをはじめ、現在では70地区が概成しています。
また、昭和39年には建設省所管以外の省庁の省庁による事業と調整を図るため国土総合開発事業調整費により砂防事業を促進するようになり、柑橘パイロット事業が行われていた国東半島一帯で砂防堰堤や渓流保全工等24箇所の整備を実施しました。
急傾斜地崩壊対策事業においては、昭和42年の臼杵市坪江地区を皮切りに、県下全域に実施されるようになり、現在までに1,080地区が整備され、今後も多くの地区の整備が待たれているところです。
5.宮崎堰堤
昭和31年4月18日、当時の大分県砂防課長 宮崎孝介氏(旧建設省採用)は由布山嶺中の津房川を調査中に約8m下の河床に転落し、翌19日に不幸にも不帰の人となりました。
この調査は前年の由布山崩壊による津房川の荒廃に対し、アーチ式堰堤設置を目的としたものでした。
事故は、陣頭に立って現場の調査に当たっていた最中のことでした。
昭和34年に完成した堰堤は宮崎堰堤と名付けられ、住民の故宮崎課長に対する感謝の念が示されたものです。堰堤のそばに当時の大分県知事 :木下郁の名前で「公僕誠心の鏡」として功績が讃えられた記念碑が建立されています。
6.風倒木災害対策
(1)風倒木災害の実態
平成3年9月の台風19号は全国の森林に史上最悪の被害を与えました。なかでも当県の被害は大きく400億円を超える被害となり、全国の森林被害1,500億円の1/4を占めるほどでした。
特に被害の激しかった、日田・玖珠・中津地域では総面積の約10%の森林が被災しました。
被災した風倒木地の倒木のほとんどが根こそぎ転倒しており、表層土は著しく擾乱されていました。
このため、それらの倒木が平成4年の次期出水期に土石流とともに流下し、人命・家屋・橋梁などに影響を与えることが大いに懸念されたことから、風倒木発生直後からハード・ソフト対策を車の両輪として実施しました。
(2)二次災害の被害状況
風倒木災害発生2 年後の平成5年6月18日に降雨規模(日雨量272㎜、最大時間雨量70㎜)としては比較的小さなものにもかかわらず各地で崩壊や土石流が約4,000箇所発生しました。これは、予測していたとおりに風倒木により山地間の表面が擾乱されていたことに起因するものでした。
このとき日田市上津江村では災害パトロール中の村役場職員2名が土石流に巻き込まれ死亡するだけでなく、住宅や耕地にも甚大な被害を与えました。
(3)実施した対策
これらを受け、ハード対策として、平成3年~8年度迄に約515億円を投入し、砂防堰堤273基、急傾斜地崩壊対策事業では38地区を概成させ、土砂災害対策を充実させることができました。
ソフト対策としては、平成4 年の台風期迄に有識者で構成される委員会を開催し、風倒木による二次災害対策として土石流警戒避難基準雨量を設定しました。また、地元の警戒避難体制整備を強化するため、土石流発生監視システムを整備し、地元市町村への説明会を行いました。
7.おわりに
本県の砂防事業は、明治44年に地盤保護工事を施工して以来、県民生活の安定はもとより、県土の発展の礎づくりに多大な貢献をしてきました。
今後も、これまでの諸先輩方の功績に敬意を表し、ハード・ソフト一体となった土砂災害対策を推進するとともに、適時適切な維持管理を行い、土砂災害による犠牲者ゼロを目指したいと考えています。