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大井手堰(SR合成起伏堰)機械設備について

国土交通省 九州地方整備局
 武雄河川事務所 機械課長
松 室 康 士

1 はじめに
大井手堰は,佐賀県多久市の六角川水系牛津川(22k220ー60)に河川改修に伴う補償工事として設置したものである。本工事では,河川の流下断面の確保を目的として農業用の取水堰である旧堰(固定堰)の改築を行い,九州の直轄工事では最初となるSR合成起伏堰(鋼製パネル付合成起伏堰)を採用したのでここに概要を紹介する。
写真ー1に旧堰(固定堰)全景写真,写真ー2に新堰(SR合成起伏堰)全景写真を示す。また,図ー1に全体平面図および背面図を示す。

2 ゲート構造の検討
本ゲートに考えられる水門扉の種類としては,ローラゲート,シェル構造ローラゲート,起伏ゲート及びライジングセクターゲートが挙げられるが,工事費等を勘案するとシェル構造ローラゲートと起伏ゲートが比較の対象となる。

(1)シェル構造ローラゲートと起伏ゲートの比較
本ゲートは,農業用水の取水目的の堰であり,微少の流量調節の必要がないこと,堰柱の高さを減じて上部の景観をすっきりすることが出来る等から起伏ゲート形式の採用が適当である。ここでは,起伏ゲート構造として,鋼製起伏ゲート,ゴム引布製起伏ゲート及び鋼製パネル付合成起伏ゲートについて比較検討を行う。

(2)3種類の起伏ゲートの比較
① 鋼製起伏ゲート
流量調節,土砂流下等の機能的には最も優れているが,建設費は最も高価となる。
② ゴム引布製起伏ゲート
流量調節の機能がなく,転石による袋体の損傷の可能性があるが,建設費は比較的安価である。
③ 鋼製パネル付合成起伏ゲート
大まかな流量調節が可能であり,袋体は鋼製パネルにより保護されており,損傷に対する安全性は比較的高い。建設費は,ゴム引布製起伏ゲートと大差なく比較的安価である。

(3)ゲート構造の決定
① 大井手堰は農業用水の取水目的の堰であるが,ある程度の段階倒伏操作が予測される。
② 本堰地点では,砂礫の流下が考えられる。
これらに対し,鋼製パネル付合成起伏ゲートは機能的に充足する事が出来て建設費が安価である。
以上の理由により鋼製パネル付合成起伏ゲート(SR合成起伏ゲート)を選定した。

3 設備の概要
SR合成起伏堰は,扉体が鋼製,起伏装置にゴム引布製の袋体を使用するハイブリッド堰である。
ゲート起立時断面図及び倒伏時断面図は,それぞれ図ー2及び図ー3に示す。SR合成起伏堰は,扉体下流部に設置したゴム引布製空気袋に圧縮空気を給排気することにより,袋体が膨張・収縮し,扉体を起立・倒伏させる構造となっている。
扉体下端部はゴム引布製定着ゴムにより敷金物と固定され,形状は袋体の端部と同様に30゜の楔形状になっており,それがクランプにより敷金物に固定される。又,ゴム引布製引留帯は,扉体背面と下部工に固定され,上流側への反転防止材として設置されている。

4 設計仕様
形 式        SR合成起伏堰
門 数        1門
純径間        31.560m
有効高        1.990m
設計水位        上流水位TP.+27.950m
           下流水位TP.+25.660m
操作水位        上流水位TP.+27.850m
(電気式自動操作)  下流水位TP.+25.660m
(機械式自動倒伏操作)上流水位TP.+27.950m
           下流水位TP.+25.660m
ゲート敷高      TP.+25.660m
起伏方式       空気圧入・自然排出式
起立角度       57゜(開閉角度60°)
駆動方式       常用:電動   予備:エンジン
水密方式        前面3方ゴム水密
操作方式        機側押釦操作及び自動倒伏
電 源        動力:3相3線200V 60Hz
           制御:単相2線100V 60Hz
主要材質       SUS304

5 構造概要
(1)扉体
扉体は8単位の分割構造になっており,各々をゴム引布製中間水密ゴムとゴム押え金物で連結している。又,扉体両端部には,堰軸方向への傾きを押さえるためにサイドローラを取付けている。
扉体形状は,上流側に曲げ応力に対する補強リブを配し,下流方向には水の流下を円滑にして渦の発生や堆砂を押えたり,横方向の剛性を確保するために円弧形状にしている。

(2)ゴム引布製品(空気袋・中間水密ゴム・定着ゴム・側面水密ゴム・引留帯)
上記のゴム引布製品の中で特徴的なのは,空気袋及び定着ゴムの端部にあり,各々30゜の楔形状となっている点で,楔部を河床部に埋め込まれている敷金物にクランプ(SCS)で固定される工法で,これが米国の会社の特許となっている。
又クランプを締め付けるアンカーボルト(SUS304N2)はねじ面の焼き付き防止のため,アルミ酸化物による表面処理を行った特殊ボルトを使用している。

(3)開閉装置
開閉装置は,空気圧縮機(常用),エンジン式空気圧縮機(予備),エアドライヤ,エアタンク,空気制御盤,空気袋により構成されている。
空気制御図を図ー4に示す。

常用には15Kw,空気量1,660L/min,予備にはエンジン駆動4.4Kw,空気量490L/minの空気圧縮機を使用している。
空気圧縮機より吐出された空気はエアドライヤにて除湿し,空気制御盤,空気配管を介して空気袋に給気している。空気制御盤には,起立・倒伏用の電磁弁と手動弁,減圧弁,安全弁,圧力スイッチを内蔵している。エアドライヤを介して除湿された空気も温度差により結露を生じるが,片勾配の空気配管の端部に設けた結露溜りより強制的に排出するために結露排出装置を設置し,容易に排出できる構造となっている。

(4)制御装置
制御装置は機側操作盤,水位計,フロート装置により構成されている。
操作方法は機側操作盤の押釦による起立・倒伏と,ゲート上流側に設置した水位計(常用)及びフロート装置(停電時)による設定水位での自動倒伏になっている。水位計(電気式自動倒伏操作)の設定水位とフロート装置(機械式自動倒伏操作)の設定水位には,停電時の機能として10cmの差を設けている。

6 おわりに
工事は,平成15年1月に発注,現在据付作業も完了し,旧堰撤去後に行われる通水時の試運転,調整作業を残すのみとなっている。
写真ー3に戸当り金物据付状況,写真ー4にクランプ締付状況を示す。

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