地下鉄福岡空港ヘ延びる
(福岡市高速鉄道1号線 博多・福岡空港間建設工事の計画と施工)
(福岡市高速鉄道1号線 博多・福岡空港間建設工事の計画と施工)
福岡市交通局建設部長
松 下 征 雄
西松・飛島・佐藤・銭高建設共同企業体
福岡地下鉄出張所所長
福岡地下鉄出張所所長
満 下 直 紀
1 まえがき
福岡市の交通問題解決について都市交通審議会(現運輸政策審議会)は,運輸大臣の諮問に基づき昭和46年3月に「福岡市及び北九州市を中心とする北部九州都市圏における旅客輸送力の整備増強に関する基本計画について」答申を行い,(答申第12号)その中で,福岡市については,次の路線が示された。
① 都心部から西南部方面に至る路線
② 都心部から箱崎方面に至る路線
③ 都心部から福岡空港方面に至る路線
この答申により,九州運輸局を中心に,九州地方建設局,福岡県,福岡市,警察,国鉄,交通事業者等の都市交通の関係者で構成された「福岡都市圏交通対策協議会」が設置された。その中で,都心部から西南部方面及び福岡空港方面に至る路線として,姪浜・福岡空港間を1号線,都心部から箱崎方面に至る路線として,中洲川端・貝塚間を2号線とし,そのうち1号線の姪浜・博多間及び2号線の全線を緊急整備区間として福岡市が地下鉄方式により建設することになり,昭和50年度より建設工事に着手した。
この建設工事も約11年にわたる歳月と7回の部分開業により,昭和61年11月には全線(1号線9.8km,2号線4.7km,計14.5km)が開通し,現在,1日約23万人の通勤・通学等の足として地域社会,市民生活に大きく貢献している。
しかしながら,本市の東南部地域は,急激な都市化により,人口の増加が著しく,都心部へ向う通勤,通学の交通需要も著しく増加し,また空の玄関口の福岡空港の利用客は,年々,増加の一途をたどり,昭和62年には,年間1,000万人の大台を突破した。
このようなことから,福岡市においては,答申12号に基づき,1号線を博多から福岡空港まで延伸することにより,当地域の通勤,通学者及び,空港利用者に定時性,高速性に優れた大量輸送機関を提供し,総合交通体系を確立することとした(図ー1)。
以下,この事業の概要と工事の施工について,紹介することとする。
2 計画概要
(1)計画概要
現在建設中の博多・福岡空港間は,既設1号線姪浜・博多間の延伸工事であることから,建設基準をはじめ,諸規格については,既設営業区間と同じ考え方で計画した。その概要は,表ー1のとおりである。
(2)路線の概要
博多・福岡空港間路線の建設キロは延長約3.1km(営業キロ3.3km)で全線地下鉄道方式である。路線は既設博多駅(JR博多駅と交差する地下3層構造駅)の中心から東へ340mの地点を工事起点(姪浜起点10k100m)として市道博多駅・山王線の道路を南下し,国の合同庁舎東側を経て,中比恵公園から東の方向に半径180mの曲線で大きくカーブしながら2級河川御笠川(幅員36m)を横断し,国道3号と百年橋通りの交差する東比恵交差点に至る。
この交差点に,中間駅である東比恵駅(仮称)を設置する。
路線は,このあと百年橋通りを東進し,都市高速道路2号線との交差を経て,再び民有地内にカーブし空港滑走路を避けて空港場内を斜めに横断したあと,空港第2ターミナルビルの北側に至り,福岡空港駅(仮称)を設置する(図ー2)。
(3)駅計画
博多・福岡空港間の中間駅となる東比恵駅は博多駅から1.2km東に位置し,付近は倉庫業,運送業,卸売業等の業務を主体とした事業所が立地する準工業地域である。
駅は,百年橋通りの道路下に設置し,その構造は,地下2層の島式ホーム端階段駅である。
また,終端駅となる福岡空港駅は,空港の交通広場の下に設置し,地下2層の島式ホーム中央階段駅である。
なお,各駅の乗降人員は昭和68年開業時において東比恵駅が19,316人/日,福岡空港駅が25,002/日を見込んでいる。
3 地質の概要
今回の建設路線は,福岡市の東南部に位置し,JR博多駅と福岡空港とを結ぶ路線である。途中,御笠川を横断し,その標高は,比恵大橋部でT.P+6.0m,国道3号東比恵交差点部でT.P+4.0m,福岡空港内でT.P+3.5~+4.0m程度の平坦地である。
福岡地盤図によると,福岡市の地質は,古生代の三郡変成岩類,中生代の花崗岩類,新生代の古第三紀層から構成されている。この路線の地質は御笠川右岸の地質構造線を境にして異っている。この境界は,西落ち70°断層であり,御笠川下部の頁岩は,かなり粉砕されている。
これより博多側では,古第三紀層を基盤にした沖積・洪積の砂層であり,この古第三紀層は,石炭層を介在した頁岩層と,一部固い砂岩層からなり,岩に亀裂が多く,トンネル掘削時には,大量の湧水が予想される。
また,空港側は,中生代の花崗岩層を基盤にした沖積・洪積の砂層であり,この花崗岩層は,空港エプロン部までは,風化が激しく,マサ状と化し手で押しつぶせる状態である。これに対し,空港ターミナルの下では,未風化の固い層が,隆起している。
地質の分布状況は,図ー3のとおりである。
4 施工の方法
工法の選定については,地上部の地形,土地利用状況,地質及び地下水の状況,構造断面の大きさ,並びに工事中の交通処理等を総合的に検討し安全で経済的な工法を選定した(図ー2及び図ー3)。以下その概要を述べる。工事起点から御笠川左岸までは,基盤層は古第三紀頁岩層であり,地上部の道路幅員は狭く,トンネルの一部が民有地を通過するため,本線路に隣接する中比恵公園内に立坑を設け,山岳トンネル工法(NATM)で施工する。御笠川横断部は,断層により頁岩層が破砕されており,山岳トンネル工法では異常出水などの危険が伴うおそれがあるため,河床に鉄樋を架け,開削工法で施工する。これに続く東比恵駅の部分も,断面の関係から開削工法で施工する。
東比恵駅終端より空港エプロン部までは,基盤層は風化花崗岩層(マサ状)であり,地上部は道路,民有地及び空港場内であるため,地表面に影響の少ない泥水加圧式シールド工法で施工する。
また,福岡空港駅は,断面の関係から,開削工法で施工し,前後の取り付け部は,花崗岩層が一部未風化の状態であり,地上部は空港場内および民有地であるため,山岳トンネル工法(NATM)で施工する。
5 シールド施工による榎田東工区
東比恵駅終端より空港エプロン部までのシールド区間(1,840m)は,ほぼ中央部に位置する榎田中間換気所を発進立坑にして,東西二方向に分けて,施工する。ここでは榎田中間換気所から,空港場内を横断し,空港エプロン部に至る榎田東工区(延長984m)の施工計画の概要について述べる。
榎田東工区は,延長984mのうち,80%が空港場内の施工であり,地表面への影響を考慮して,泥水加圧式シールド工法によって施工する。
掘削径10.2mは,九州地区で最大径のシールドである(図ー4)。
平面線形は,R=600mの曲線及び直線で,縦断線形は2‰,15‰,25‰の上り勾配である。
セグメントは,ダクタイルセグメント(外径φ10.0m,厚さh=0.35m,幅b=1.0m)と鉄筋コンクリートセグメント(中子形,外径φ10.0m,厚さh=0.55m,幅b=1.0m)を使用し,ダクタイル部については,厚さ20cmの鉄筋コンクリートで2次覆工を行う。
補助工法としては,発進防護にブライン式の凍結工法及び薬液注入,シールド機のビット交換位置に,圧気工法及び薬液注入,到達部に薬液注入を計画している。
地質の特徴は,次のとおりである。(図ー3)
① 掘削対象地盤の大部分が強風化をうけている風化花崗岩である(N値50以上)。
② 土被りは16.5m~7.3m(1.6D~0.7D)であり,土被り部分の土質は沖積層の砂シルト,洪積層の砂レキの互層で比較的軟弱である。
③ 地下水位は,GL-1.0mの位置に存在し,シールドに作用する間ゲキ水圧は,自然水圧と同等と考えられる。
④ 到達部付近(空港エプロン部)は,シールド掘削断面内に,未風化の花崗岩(一軸圧縮強度500kgf/cm2~30kgf/cm2)と比較的ゆるい洪積砂層が同時に出現する。
これらの地質条件に対応する為に,シールドマシンの設計,泥水の配合,泥水輸送計装設備,泥水処理設備は以下の通りの基本計画とした。
(1)シールドマシンの計画
シールドマシンは過去の複線断面泥水加圧式シールドの実績と硬岩掘削用TBMの実績により基本計画を行った(図ー5及び表ー2)。
風化花崗岩は,構成鉱物が石英,長石類を主としている為,粒子は粗く硬い。風化花崗岩特有の未風化部「岩芯」を残している可能性がある。
そこでカッターフェイスは,ディスクローラーカッター及びティースカッターを配置し,耐摩耗度を向上させたものとするとともに,チャンバー内よりビット交換が可能な構造とする。また,曲線部対応の為に油圧ジャッキ式コピーカッタ2基を装備する。
カッターディスクの支持機構は,切羽圧,ラスストカを負担しやすく,切羽土砂がスムーズに流動化し,周辺コーナ一部に土砂の付着しにくい中間支持方式とし,駆動方式は,パワーユニットからの熱,騒音が少なく,岩盤,礫地盤における大断面シールドで実績があり技術的評価も高い電動駆動方式とした。
カッタースリットの開口率は26%とし,シールド停止時等における崩壊流入の防止対策として,外周上部に山留方式のスリット遮蔽装置を設けた。
チャンバー内においては,土砂の沈降防止,泥土攪拌及び排泥管口閉塞を目的として,アジテーター装置を2基装備するとともにチャンバー内土砂付着防止策としてバルクヘッドにウォータージエットを取り付けている。
バルクヘッドにはマンロックを1基装備し,カッタービットの点検,交換及びチャンバー内諸点検の為に切羽での根定圧気が可能となる様に配慮した。
シールド本体先端の上部に,頂部の地山の状態を把握する目的で,油圧ジャッキ操作による圧力センサー検知式の切羽崩壊探査装置と手動押込み操作の崩壊検知棒装置を配置することとした。
岩盤掘進時の振動防止策として,シールド前胴部にグリッパーを装備し,又,岩盤塊を破砕するため,カッターチャンバー排泥口に機内クラッシャーを装備した。
土砂シールは,ウレタン製の4リップ3段型,テールシールは,硬鋼線ワイヤーブラシとバネ鋼により構成されるワイヤブラシタイプとしそれぞれ泥水圧,裏込注入圧等に十分耐えかつ施工中摩耗,破損の少ない材質,形状のものとした。
(2)泥水配合
泥水の品質は,切羽の安定の為に重要な要因であることはいうまでもない。特に到達部付近は土被りが浅く(7.3m),崩壊性の高い地山がシールド断面内に現出することから,泥水の配合の選定には注意を要する。
現在,最適な泥水配合を決定する為に,使用予定のベントナイト,粉末粘土,CMCを組み合わせ各種の泥水を調合し,その泥水特性を調べるとともに,立坑部より類似の土質資料と泥水との浸透実験,シールド模型実験を実施している。泥水配合の決定までのフローは図ー6に示すとおりである。
配合は,切羽防護のため,連続掘進時,長期停止時のそれぞれに適応するものを別々に選定する。
泥水の特性試験としては,比重,レオロジー特性(AV,PV,YV,GS),ろ過,安定性,PH,砂分の試験を実施し,それぞれの適正範囲内の配合を選定する。
浸透実験は,泥水特性試験で選定された泥水配合が掘削対象地盤に対して適するかどうかを判断するために行うものであり,実験装置は図ー7に示すとおりである。
施工時には,これらの室内試験より得られた最適配合を基本として,掘進に伴う逸水量,地山の安定等を調査しながら泥水の品質管理を行う。
(3)泥水輸送計装設備
シールドカッターにより掘削された土砂は,バルクヘッド内においてアジテータ等より送泥水と混合攪拌され,排泥管を経て流体輸送される。流体輸送された泥水は,後述の泥水処理設備により掘削土砂を分離し,所定の比重,粘性をもった泥水に調整され,送泥管を経て切羽に再循環される。送泥ポンプは,調整槽近くに設置する渦流可変制御ポンプを使用し,掘進時の切羽水圧の調整,保持を行う。
掘削された岩片,大径礫を処理するため排泥ラインに水中クラッシャーを設け,連続した掘削ができるようにするとともに,バルクヘッドと水中クラッシャー間の排泥管は,大径礫,岩片が通過できるように管径を太くする。
管径を太くすることによる流速の減少に対しては,循環ポンプを設置して一定の流速を保持して沈降による閉塞がないようにする。送泥管は12B(300ⅿm)とし,排泥管はシールド機から水中クラッシャーまでは14B(350mm),それ以降は8B(200mm)で2系列とする。
掘進に伴う管の延長は,伸縮管装置を使用し,掘進と鋼管の挿入を連続して行う。
鋼管の接続,掘削準備運転,緊急時の停止等の場合の切羽水圧保持のため,自動バイパスバルブを設置する。
泥水シールド掘進の総合判断,及び運用をするため中央管理室を設備する。泥水輸送及びシールド機の運転状況等を集中管理できる様に各管理項目を1台のコンソールボックスにまとめる。また測定されたデータをパソコンに入力し,掘削乾砂量等の演算及び掘削状況の記録をする。演算結果及び記録は随時デイスプレイに表示できるものとする。
1リング掘進完了毎に各掘進データはプリントアウトされ,中央管理室のオペレータはそのデータを解析し,掘進状況,地山の状態,及び余掘りの有無等が確認出来る様にする。
設備の概要は,図ー8に示すとおりである。
(4)泥水処理設備
泥水処理設備とは,泥水中の土砂を分離し,再び送泥水を生産するものである。一次分離機構,送泥水生産機構,二次分離機構,公害対策機構に分かれ,それぞれ次の動きをもっている(図ー9)。
① 一次分離機構
排泥水より掘削された岩片,礫,砂をサンドセパレータで第一段階の分離を行う。岩片,礫等の粗粒子を除去した排泥水は,次に液体サイクロンに送り砂分を分離する。分離された砂分は,再びサンドセパレータにより脱水され,脱水された岩片,礫,砂分はベルトコンベアにより土砂ストック場に集積する。
② 送泥水生産機構
一次分離機構により岩片,礫,砂分を除去された排泥水は,調整槽に送られ,比重を計測された後,稀釈,又は濃縮され,所定の比重値になるように調整される。調整された泥水は,送泥ポンプにより再び切羽に送られ循環水となる。
③ 二次分離機構
分離槽で余った泥水は,余剰泥水槽に一時的にストックされ送泥水が不足した場合は,再び調整槽に戻し送泥水として使用される。完全に不必要となった時は高分子凝集材を添加してスラリー槽に送り,混合反応された後,高圧サンドポンプによりフィルタープレスに送られ,加圧ろ過脱水される。脱水された微粒子土砂分は,ケーキ状にされベルトコンベヤにより土砂ストック場に集積される。一方ろ過水は,稀釈水槽に送られてストックされる。ストックされた水は稀釈水,作泥水等に使用される。
④ 公害対策機構
坑内より発生する濁水は,坑内排水処理ユニットに送られ,高分子凝集材を添加して,凝集沈澱させたあと,二次分離機構に送り,加圧ろ過脱水される。
坑内排水処理ユニットの上澄水,及びろ過水が不必要となった場合は中和処理設備にて,法的規制値のPH値に処理して放流する。
以上が泥水加圧式シールド工法で施工する榎田東工区の施工計画の概要である。現在,発進立坑となる榎田中間換気所を構築中で,64年8月を発進目標としている。
6 おわりに
本事業は昭和61年10月第一種鉄道事業の免許を受け,その後,都市計画決定並びに運輸省,建設省の工事施行認可等の許認可手続を経て,昭和63年5月までに全線3.1kmを7工区に分けて工事発注を完了し,昭和68年春の開業にむけて現在鋭意工事を進めているところである。
本事業が完成すれば,地下鉄1,2号線を主軸としてJR並びに西鉄の各線と福岡空港が一体的に結節され,これに伴い福岡市をはじめ都市圏全体の交通体系は飛躍的に改善されることになる。
特に福岡空港から都心部の博多駅へは5分で,天神までは11分で到達することになり通勤,通学の混雑解消はもとより,地下鉄を経由して全国の各都市へ,またアジア太平洋の各国へと全国でも最も便利な空港アクセスが実現する。
国際化の時代にふさわしい交通機関としての地下鉄が一日も早く完成することを目指し,関係者が一丸となって努力しているところである。
また,関係機関並びに関係各位の御指導,御協力を賜わり,厚くお礼申し上げます。