土木コンクリート構造物の品質向上対策について
山 川 武 春
キーワード:耐久性の照査、スランプ設定、温度ひび割れ照査、専門評価機関の活用、工事監理連絡会
1.はじめに
現在からさかのぼること10数年前の1999年には、新幹線トンネル覆工コンクリートの剥落や高架橋の床版コンクリートの塩害による劣化などコンクリート構造物の不具合が相次いで顕在化し、社会的信頼性を揺るがす状況が生じている。
そこでこれらを背景に、2001年3月には国土交通省が「土木コンクリート構造物の品質確保について」通達を発し、九州地方整備局でもこれを受け「土木コンクリート構造物品質評価委員会」等を設置し、様々な提言・改訂等を経て、2008年4月に「土木コンクリート構造物の設計・施工指針(案)」を策定した。
本稿は、同設計・施工指針(案)の円滑な実運用に向け、それを補完する手引書(案)の骨子について述べるものである。
2.手引書(案)の策定
土木コンクリート構造物の品質向上を図るための手引書(案)は「九州地区における土木コンクリート構造物設計・施工指針(案)」(2008年4月策定)〔以下、指針(案)と称する〕の円滑な運用に向け、マニュアルとして策定されたものであり、指針(案)を補完する実務書として位置づけられる。
そこで指針(案)のスムーズな運用を目的として、耐久性照査や温度ひび割れ照査、打込みの最小スランプ設定のほか専門評価機関や工事監理連絡会の活用の考え方についての説明を加えた「九州地区における土木コンクリート構造物設計・施工指針(案)手引書(案)」〔以下、手引書(案)と称する〕を2011年3月に策定した。なお、手引書(案)の目次は、図1に示す。
3.手引書(案)の内容
(Ⅰ)耐久性の照査
1)対象項目
手引書(案)においては、中性化・塩害・アルカリ骨材反応での照査を取り扱っている。なお、凍害・化学的浸食については影響を受ける地域等が限定されることから、必要に応じて検討を行うこととしている。
2)中性化並びに塩害の照査
両照査は、構造物が設計耐用期間にわたり所要の性能を確保しなければならないため、当面の運用として道路橋示方書等に加え、指針(案)の算定式により照査を実施するものである。
なお、中性化については「ルートt則」を用いる方法、塩害については「Fickの拡散方程式」による解を用いる方法であり、手引書(案)ではフローチャートを用いて両照査の流れを解説している。
当手引書(案)では、ノモグラムの活用も紹介しており、中性化の照査では横軸のW/Cや水結合比から縦軸の必要かぶりを読み取ることができる(図2参照)。
更に塩害照査では、縦軸の拡散係数から横軸の海岸線迄の距離に応じた最小かぶり厚を読み取ることが可能となっている。
3)アルカリ骨材反応の照査
九州地域では、アルカリ骨材反応による劣化事例が散見されており、施工段階において使用する骨材が反応性骨材であると判断された場合の対策等のみならず、設計段階から構造物の建設予定地の環境条件、アルカリ供給の有無及び周囲の既存構造物などを調査している。なお、アルカリ骨材反応による劣化が懸念される場合は、事前に抑制対策を検討することとしている。また、これらは三者連絡会(工事監理連絡会)において、設計者から施工者へ留意を促すこととしている。
(Ⅱ)スランプの設定(打込み最小スランプ)
1)最小スランプ設定の考え方
コンクリートのスランプは、施工できる範囲内で“できるだけ小さく”することが基本である。昭和49年版のコンクリート標準示方書において、スランプの標準値が一般の場合5~12㎝と記載されたことを受け、これの平均値8㎝が「土木用コンクリートスランプの標準(8㎝)」として扱われるようになった。
しかし、近年では耐震性能の要求水準の引き上げによる鋼材の増加に伴い、コンクリート施工の難度が増大し、充填不足などの初期欠陥が発生する問題も生じている。
そこで、コンクリート標準示方書では「2007年制定版」において、構造や施工条件に応じた“打込みの最小スランプ”について新たな考え方が導入されているため、手引書(案)においても最小スランプの設定を取り入れた。
2)最小スランプを考慮した荷卸し箇所のスランプ設定
設計段階において荷卸し箇所のスランプを設定するには、まず部材の種類、鋼材量、鋼材の最小あき、締固め作業高さ等から最小スランプを選定するが、標準的な施工条件を仮定しても構わない。次に、最小スランプに現場内運搬(ポンプ圧送等)や日平均気温を考慮したスランプロスを加えた値を求める。
最後にコンクリート製造時の品質管理幅(+1.5㎝)を加え、この値がJISA5308に該当しない場合は、直近のJIS規格(8,10,12,15㎝)から選ぶものとしている。
なお、スランプは材料分離抵抗性の低下や単位水量の増加による品質低下を抑制するため、施工可能な範囲で出来るだけ小さくすることが基本であり、事前に締固め高さを小さくしたり、入念な締固め方法など施工面での十分な検討が必要である。
(Ⅲ)温度ひび割れの照査
1)基本的な考え方及び温度ひび割れ照査フロー
手引書(案)では、橋台・橋脚・ボックスカルバートについて九州地方整備局管内の既往施工事例等を分析し、構造物の照査に対して①照査を省略できるケース、②簡易照査を行うケース、③詳細照査を行うケースの3 ケースに分け、設計段階から施工計画段階における照査の運用を図ることとしている。
なお、簡略化した温度ひび割れ照査フローを図3に示すが、当面の対象構造物は橋台・橋脚・ボックスカルバートとし、それ以外は構造物の重要性を勘案して判断するものとする。
2)目標とするひび割れ指数
一般的な構造物では、目標とするひび割れ指数を「ひび割れの発生を許容するがひび割れ幅が過大とならない様に制限したい場合の値」である1.0としている。
なお、構造物の重要性や周辺環境等に特に留意が必要な場合、専門評価機関の活用も考慮することが重要である。
3)温度ひび割れ対策
温度ひび割れを抑制するための基本は、急激な温度変化を抑え、収縮ひずみを低減することであり、対策としては、低発熱型セメント等特殊な材料、膨張材を用いる方法、プレクーリングを活用する方法、適切なひび割れ誘発目地の設置、保温養生や適切な養生期間など様々な方法が考えられる。更に、その抑制対策の検討には、1つもしくは複数の対策パターンを抽出し、対策効果の程度及び施工性や経済性等について総合的に比較し、最も適切な対策工を選定する必要がある。
(Ⅳ)専門評価機関の活用
専門評価機関の導入は、当事者のみで技術的な懸案事項や問題点を解決することが難しい場合の支援、業務の透明性や公平性の確保のみならず、国民に対する説明責任の明確化にも貢献する。
そこで、2011年8月にはコンクリートの専門的知識を有する学識者等から構成される「九州地方整備局コンクリート評価委員会」を設置している。なお、発注者が当機関の活用が必要と判断した場合は、複数名の評価委員会委員から構成される“小委員会”を開催し技術指導や助言をもとに諸問題の解決を図るものとしている。
(Ⅴ)工事監理連絡会
工事発注後に発注者・設計者・施工者により開催される工事監理連絡会(三者会議)において、設計者の設計意図の確認などにより、施工段階で発生が予測される問題について協議および調整を行うものとしている。
なお、構造物の重要度や施工の難度に応じて、工事監理連絡会に専門評価機関を交えて検討を行う。
4.平成23年度における管内の試行予定概要
平成23年度の当該試行は、管内8事務所、河川(橋梁・樋門・樋管)関係の5案件、道路(橋梁・鉄筋コンクリートカルバート)関係の21案件である。なお、試行内容の検証については、本年度に実施する予定である。
5.おわりに
本稿で述べている指針(案)及び手引書(案)については、九州地区における土木コンクリート構造物の品質向上に向けて約10年間多くの検討を行ってきた集大成であり、関係者の皆様方の協力・支援に対して、この場を借りまして感謝申し上げます。
【「九州地区における土木コンクリート構造物設計・施工指針(案)及び手引書(案)」ダウンロード先】
「建設技術情報等」→「土木工事に関する施工基準等」→「コンクリート指針」
【参考文献】
社団法人土木学会「コンクリート標準示方書(2007年制定)」
設計時の構造形式・形状寸法の設定