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国道10号別大拡幅(高崎山地区)におけるフレア護岸について
川内学
田中宏二
成島大輔

キーワード:別大拡幅、フレア護岸、越波対策

1. はじめに

一般国道10号の別府市~大分市間は「別大国道」と呼ばれ、別府と大分を結ぶ唯一の幹線道路であり、交通量は九州で上位区間の一つ(約70,000台/日)である。また、沿線には「高崎山」、「うみたまご」等、観光施設が充実している。
そのため平日の朝・夕のピーク時や大型連休での交通渋滞が慢性化していた。さらに、別府湾に面しているため、台風等により越波が発生した場合には、交通規制を余儀なくされ、交通幹線道路の機能を著しく低下させることとなっていた。
この事態を解消し円滑な交通を確保するため、大分河川国道事務所では平成5年度から別大国道(別大地区)の6車線拡幅化に着手し、新技術である「フレア護岸」を採用することにより、越波対策にも取り組むこととした。

2. 別大拡幅事業(別大地区)の計画
拡幅事業の計画延長は写真-1のようになっており、完成後の幅員構成は図-1のようになる。
平成23年7月現在で別大地区7.0㎞のうち、高崎山付近の500mを除くすべての区間が供用中であり、今年度中に全線供用する予定となっている。

3. 別大国道の歴史

別大国道は、昭和7年より継続的に整備されている。簡単な経緯は下記の通りである。

  1. 昭和 7年度;別府~大分間延長約7,400mの道路拡幅および舗装工事。以後継続的に整備、拡幅が行われていく(写真-2)。
  2. 昭和36年度;二次改築(別大地区の4車線暫定化、別府地区の6車線化)に着手。
  3. 昭和47年度;別大電車廃止、大分拡幅(生石、金池地区)に着手。
  4. 昭和53年度;別大地区4車線暫定拡幅完成。
  5. 平成 5年度;別大地区の6車線化開始。
  6. 平成15年度;田ノ浦~西大分間6車線化完成。
  7. 平成16年度;マリーンパレス地区6車線化完成。
  8. 平成19年度;うみたまご地区、東別府地区6車化完成。
  9. 平成22年度;高崎山地区一部完成。
  10. 平成23年度;全線供用予定。

4. 6車線化への課題

高崎山の前後4.9㎞区間は越波による「特殊通行規制区間」に指定されていて、越波対策は必要不可欠である。しかし、東別府からうみたまごまでのL=1.8㎞区間は、海岸沿いの平坦部が狭く(幅30~50m)、特に、高崎山付近の800mについては、山腹から40°の勾配が深さ60mまで続き、地形上、消波ブロックが設置不可能であった(この区間を急峻部と呼ぶ)(図-2)。
このため、学識者による検討委員会を組織し検討を行った。

5. 非越波型波返し擁壁の計画

上記の地理的制限、コスト及び景観性を考慮したうえで、越波阻止性能に優れる「フレア護岸(NETIS登録No.KK-040019)」と呼ばれる「非越波型波返し擁壁」を計画した。
フレア護岸の利点は、護岸を山側に寄せることができるため海岸傾斜の厳しい高崎山地区では有効である。さらに、既設護岸より天端高さを抑えることができるため、コスト縮減及び、車道とJR車窓から一望できる別府湾の景観性を損なわない施工が可能となった。
このフレア護岸による越波対策の実績は、全国でも広島の大迫港に次いで2例目であり、幹線道路の護岸としては初めての施工となる。そのためフレア護岸の採用にあたっては、既往研究成果を踏まえ、当該海域の海象条件を考慮した水理模型実験(写真-3)により検証し、許容越波量を満足する護岸の高さを決定した。また、同検討委員会においては最終構造形式を次の通りとしている。
・一般部‥‥前面フレア型の重力式護岸
・急峻部‥‥前面フレア型の鋼管杭式護岸+控え杭
急峻部については、重力式フレア護岸の設置が難しくなっているため、抑止杭を施工し、それを基礎としてフレア擁壁を設置することとした。一般部と急峻部のフレア護岸の異なりを図-3に示す。

6. 施工手順

下記に急峻部(鋼管杭式護岸)での施工手順を示す(写真-4)。
  1. 起重機船により既設消波ブロック、矢板工施工箇所の自然石を撤去する。
  2. 起重機船により、ガンパイラー(特殊バイプロハンマ)を使用し、先端補強鋼を溶接した鋼矢板及び控え杭を打設する。
  3. 起重機船により、裏込め材の投入を行う。
  4. オールケーシングを据付け掘削する。掘削完了後、鋼管杭を建込み、コンクリートを充填する。
  5. 起重機船を用いて海上からフレア護岸の据付を行う。
  6. 据付完了後、杭頭剛結工(杭頭部と擁壁の連結コンクリートの施工)を行う。
  7. 盛土材をダンプトラックにて運搬し、ブルドーザー・バックホウにより敷均し、ローラーにて転圧を行う。

7. 急峻部の施工状況
最後の施工区間500mは、最も急峻部な箇所のため、海底の地盤線が他の区間よりさらに深くなっている。このことから、今までで最も長い鋼矢板(27m)、控え杭(H鋼)、鋼管(34m)の施工が必要となった(図-4)。加えて現況地盤は、玉石や転石が多く分布し、さらに非常駐車帯部においては、過去の護岸の基礎コンクリートが想定より広く現れる等(図-5)、様々な課題に直面した。そこで硬質地盤でも施工可能となる工法を選定し、矢板と控え杭の施工については「ガンパイル工法」、鋼管については「全周回転式オールケーシング」、非常駐車帯部の鋼矢板については「硬質地盤クリア工法」にて施工を行った。

8. 台風時での越波低減状況

平成17年8月末に発生した台風14号(アジ名;ナービー)は、最低気圧925hPa、最大風
速50m/sという大型台風であり、広い暴風域を維持したまま、ゆっくりとした速度で進んだため、各地に甚大な被害を与えた。
本箇所でも据付未着手の「消波ブロック被覆護岸」の一部では、越波による交通規制を行った。
このような状況のなか、フレア護岸施工箇所では、施工途中ではあったもののフレア擁壁の据付が完了していたため、写真-5のように越波阻止状況をみると、水理実験と同様の効果が確認できた。
フレア護岸設置前は据付箇所において、過去36年間で21度の通行規制を行ってきたが、フレア護岸の施工完了後は据付区間において規制は行っていない。

9. おわりに

本事業区間はJRと併走しているため、本区間のフレア護岸による越波対策は自動車網だけでなく鉄道網の安全性にも大きく貢献し、さらには車道、JR車窓から望める別府湾景観も失わない施工が行えた(写真-6、7)。
本区間は古くから「別大国道」と呼ばれ、地域のシンボル道路となっている。物流の幹線道路としてだけでなく、美しい景観を活用した観光拠点となっており、別府大分毎日マラソンや別大ウォークのコースとなっている他、別大国道マイツリー植樹など様々なイベントが行われる等、地元との繋がりも非常に強い。別大拡幅事業により観光・産業の活性化、防災面の向上等様々な便益が期待される。

10. 謝辞
別大拡幅事業は平成5年から始まり、来年2月に別大地区全線6車線化が行われる。今まで携わってきた多くの諸先輩方の努力に御礼を申し上げこの稿を閉じる。

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