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嘉瀬川ダム巡航RCD工法の開発
九州地方整備局 永松和彦
九州地方整備局 岩渕光生

嘉瀬川ダムでは、堤体打設を行うにあたり、従来、外部コンクリートを先行して打設(外部先行打設)していたものを、コンクリート打設の更なる合理化を図るため、合理化・経済的に優れた連続・高速施工の打設方法の検討を行い、内部コンクリートの先行打設等(巡航RCD工法)を実施することにより打設効率の向上を図った。その結果、施工条件によっては従来の外部先行打設による工法の1.3倍程度の打設速度を確認している。

キーワード:コンクリートダム、RCD工法、合理化施工、法肩締固め

1.はじめに

嘉瀬川ダムは、1級河川嘉瀬川水系嘉瀬川の上流部、佐賀県佐賀市富士町に建設中の多目的ダムであり、RCD工法にて施工する重力式コンクリートダムである。昭和63年に建設事業に着手後、平成17年9月に基礎掘削を開始し、平成19年10月から本体打設を行っており、平成23年度完成を予定している。
堤体打設をRCD工法にて施工するにあたり、これまでもRCD工法の合理化が図られてきたが、昨今の社会・経済情勢の下、より一層の合理化に向けた技術開発が求められている。
嘉瀬川ダムにおいて、現在のRCD工法をより合理化し、連続・高速施工を実現するために、従来、外部コンクリートを先行して打設(外部先行打設)していたものを、内部コンクリートを先行打設するべく、個別技術課題の検討を積み重ね、「巡航RCD工法」として本体の一部で実施した。
ここでは、巡航RCD工法を構成する個別技術を整理し、嘉瀬川ダムにおける施工実績等について報告するものである。嘉瀬川ダムの諸元を表-1、RCDコンクリートの施工範囲については図-1に示す。

2.巡航RCD工法の開発
(1)従来のRCD工法と巡航RCD工法の開発目標について

従来のRCD工法による施工の課題としては、外部コンクリート(有スランプ)と内部コンクリート(RCD)の打継時間規制等の制約から1回の打設施工エリアが限られてしまうこと、打止め型枠の設置手間により打設が中断してしまうこと等により打設効率が低下していたことがあげられる。
これら課題分析から、施工の高速化、効率化を図るためには、以下の3点の実現が必要と考えられた。
①「打継面処理」や「型枠移動」の技術開発により3分割打設(さらには2分割打設)の連続性を確保する。
②外部・内部コンクリートの分離施工によって打設設備を効率的に稼動させる。
③打止め型枠施工時の打設中断を回避する。
巡航RCD工法とは、内部コンクリートを先行打設し、外部コンクリートを後行打設し、上記①~③を実現する施工法(図-2、3)であり、打設速度の高速化・平準化を達成し連続・高速施工を実現するものである。なお、巡航RCD工法は、検討の中で開発された6個の個別技術の組合せで構成されている。それについては、(2)において述べる。図-4に、従来のRCD工法の課題、巡航RCD工法の目標等についてまとめた巡航RCD工法の開発趣旨を示す。

(2)巡航RCD工法を実現するための個別技術

巡航RCD工法を構成する6つの個別技術がある。これらの課題と内容を表-2に示す。ここでは、法肩締固め技術及び外部コンクリートと内部コンクリートの一体化、傾斜打止めに関する試験結果について述べる。

・RCD法肩締固め技術開発

巡航RCD工法では、内部コンクリートを先行打設するため、RCDコンクリートの法肩部の締固めが必要となる。堤体の法肩部を十分かつ均一に締固める事で法肩接合部に必要な密度を確保し、かつ内部コンクリートと外部コンクリートの一体化を図る必要がある。そこで今回、巡航RCD工法を実現する法肩締固め機(図-5)を開発した。
また、この法肩締固め機を用いて一か所あたり30秒の締固めにより振動ローラと同等な密度が得られた(図-6)。

・外部コンクリートと内部コンクリートの一体化

異種配合である外部コンクリートと内部コンクリートが確実に一体化が図られているかを試験施工において確認した。試験施工では、外部コンクリートと内部コンクリートを打継いだ供試体を作成し、接合面のせん断強度を確認し、一体化され品質上問題ないことを確認した。図-7に示すとおり、外部コンクリートの打継時間が72hr であってもコア状況からも接合面は密着し一体化されていることが確認された。
また、打継面の敷モルタルの有無でせん断強度をRCDコンクリートの内部コンクリートの内部せん断強度と比較すると、せん断強度に大きな違いはないことを確認した(図-8)。

・傾斜打止めに関する試験

先行打設における傾斜面の敷均し・締固めの施工性及び後行打設におけるモルタル敷設の流出、転圧状況等について確認したところ、良好な施工状況であった。また、傾斜打継ぎ面は一体化されていることが確認されている。また、先行打設のエッジ先端の薄く緩んだ箇所については、24h以内に、バックホウ等で処理が可能であることを確認している(図-9、10)。

3.嘉瀬川ダムにおける巡航RCD工法施工実績

ここでは、嘉瀬川ダムにおいて、巡航RCD工法によって施工が行われた範囲(EL.252.5m~267.5m間の一部)の施工データをもとに、打設速度およびその特徴を述べる。
ほぼ同等の施工条件下での従来RCD工法と巡航RCD工法での施工速度(1打設区画の平均速度)を比較したものを表-3に示す。いずれの平均打設速度も巡航RCD工法が従来のRCD工法に比べ大きいことがわかるが、特に、本体、洪水吐き及び減勢工を同時に打設しているような、材料供給条件が厳しい状況においても、巡航RCD工法は打設速度を他の条件に比べ落とすことなく、従来のRCD工法より約1.3倍の打設速度が得られていることがわかる。従来のRCD工法と巡航RCD工法による施工時のコンクリート搬出状況の分析から、以下の特徴がわかった。
・現行RCD工法の場合は、連続区間(堤内構造物がなくRCDコンクリートを連続して打設している区間)であっても外部コンクリート打設の際に打設速度が低下し、その出現はほぼ一定間隔(2~3時間程度)で規則的に打設速度が変動する。これに対し、巡航RCD工法の場合は、打設速度の変動は少なく、連続区間ではピーク打設が連続する。
・巡航RCD工法では、後行打設される外部コンクリート打設能力を上げるか、あるいはRCDコンクリート打設との並行施工することによって全体の施工速度向上が見込めると想定できる。図-11に巡航RCD工法による施工状況を示す。

4.嘉瀬川ダムをモデルとした打設シミュレーション
①シミュレーション概要と条件
巡航RCD工法の効果を明らかにすることを目的として、従来のRCD工法と巡航RCD工法で嘉瀬川ダム全体を施工した場合のリフトシミュレーションを行った。
RCD工法で打設する範囲のみ(EL214.5m~EL.284.5m)を対象とし、堤内構造物はないものとして、打設量と打設能力のみで試算した。なお、シミュレーションによるモデル標高を4標高A-1(EL.255m)、A-2(EL.235m)、B(EL.225m)、C(EL.275m)と設定した。図-12にH-A曲線とモデル標高を示す。打設能力等のシミュレーションの主な条件は、表-5のように設定した。なお、設定した打設速度は、嘉瀬川ダム本体での実施工データの分析結果を基に設定したものである。

②シミュレーション結果
1リフトでの日平均打設速度でみると、巡航RCD工法で打設した場合、従来のRCD工法の1.16~1.50倍となる(表-4参照)。A-1、A-2の様に1リフト当たりのRCD量が大きくなるほど、巡航RCD工法の優位性は高まる。また、3.における施工実績よりもより顕著に巡航RCD工法の優位性が見られるのは、実打設実績では、シミュレーションのように本体打設のみの施工で行われているものではなく、堤内構造物が実際には配置されているなどの理由によるものである。

次に、検討対象範囲全体のシミュレーションの結果、従来のRCD工法では総打設回数が263回となった。これに対し、巡航RCD工法では、日当たり打設量が増大すること、堤体上部においては2分割打設が可能であることによって総分割数は197回までに減少し、打設工期の短縮が図られるという結果となった。

5.まとめ

嘉瀬川ダム本体打設において、これまで目指してきた「打設効率の向上」に対して、実施工の結果から相当な効果を上げていると評価できる。施工条件によっては、外部先行打設による従来工法の1.3倍程度の打設速度を確認しているため、定量的にも大きな効果を上げていると言える。
また、堤内構造物がないという条件下において、従来のRCD工法と巡航RCD工法で嘉瀬川ダム全体を施工した場合のリフトシミュレーションを行った結果についても、巡航RCD工法の優位性が示された。
嘉瀬川ダムにおける巡航RCD工法に対する検討については、上記のような成果を得られたが、後発ダムにおいて、巡航RCD工法を採用する場合、設計段階においては構造物(放流管等)の配置、施工スピードと施工設備の能力の最適化、細部技術の向上等の合理化を検討する必要がある。また、本成果がそれらに役立てられれば幸いである。

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