嘉瀬川ダムの試験湛水状況について
永松和彦
尾後大輔
尾後大輔
キーワード:コンクリートダム、試験湛水、計測項目
1.はじめに
佐賀県佐賀市富士町に建設している洪水調節・流水の正常な機能の維持・かんがい用水及び都市用水の供給と発電を目的とする重力式コンクリートの多目的ダムである。嘉瀬川ダムの諸元を図-1、全景写真を写真-1に示す。
昭和63年に建設事業着手後、平成17年9月に基礎掘削を開始し、平成19年10月から本体打設を、平成22年10月から試験湛水を開始しており、平成23年度末の完成を予定している。
2.試験湛水の意義と役割
ダムは、治水や利水を目的として大量の水を貯留する施設である。このため、ダムがもし決壊した場合、その被害の大きさは計りしれないものがある。また、ダムに設置した放流設備などもその機能が損なわれればダム本来の効用を失うばかりでなく、ダム下流域へ被害をもたらす危険性が有る。そこで、ダムを築造して初めての湛水にあたる場合には、ダム基礎地盤の安全性、更には放流設備や、それに関わる諸設備の動作状況、操作の信頼性を確実なものにしておかなければならない。貯水池周辺の斜面も、ダム湛水に伴って地すべりや崩壊をもたらすことがある。
したがって、ダムは確実な設計・施工により築造しているわけであるが、ダムの初期湛水時にあたっては、その挙動を計測、監視し、安全性を再確認することが必要となるため、サーチャージ水位以下の範囲内で、貯水位を上昇及び下降させる試験湛水を行うものである。
3.試験湛水における監視項目
嘉瀬川ダムは堤高97mの重力式コンクリートダムであり、必要な安全管理に関する計測項目としては、特に重要なものとして漏水量、揚圧力、変形量が挙げられる。
また、その他の計測項目として表-2に挙げる5項目について計測している。
4.試験湛水
1)試験湛水開始
試験湛水は、平成22年10月19日より開始した。なお、当日は九州地方整備局河川部長を筆頭に湛水式を行い、その後、堤内仮排水路のゲート降下により湛水が開始された。
写真-2に河川部長挨拶、写真-3に河川部長をはじめ、嘉瀬川ダム対策協議会会長らによる降下スイッチ起動、写真-4にゲート閉塞を示す。
2)試験湛水状況
平成23年5月26日8時時点において、貯水位は、EL260.32m、貯水率約12%である。
「3.試験湛水における監視項目」で述べた計測項目の監視状況としては、いずれもダム及びダム基礎地盤の安全性を脅かすものは確認されていない。また、貯水池周辺の地山も異常は確認されていない。今後もこれらの状況を日々監視していき、ダムの安全性を確認し、平成23年度末完成を目指す予定である。
図-3に堤体上流面図に貯水位を記載したものを、写真-5~7にダム堤体及び貯水池状況を示す。
5.おわりに
昭和48年4月の実施計画調査開始以来、約40年経て、ようやく事業完成まであと少しというところまできました。
この嘉瀬川ダム建設事業が無事完了し、事業目的である洪水被害の軽減や農業及び都市用水、発電をすみやかに発揮できるよう、ダムの安全性確認を実施して参ります。
これもひとえに地域の方々、また、嘉瀬川ダム建設事業に携わった諸先輩方、施工業者の皆様のおかげであり、ここに感謝の意を表します。