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千歳橋の補強工事

建設省 佐賀国道工事事務所
 管理第二課長
萩 尾 浩 次

1 はじめに
平成5年11月政府の規制緩和の一環として車両の大型化が図られ,車両制限令において車両の総重量が20tfから25tfに引き上げられたのを機に,道路橋の設計活荷重がTLー20体系から新しい25tf活荷重体系に改訂された。
建設省では,この改訂に伴って,既設橋梁については,主要部材の耐荷力照査を行い,補強の要否を判定して必要なものは補強工事を実施している。
特にコンクリートゲルバー橋は,構造的弱点となるかけ違い部を有するため,原則的に補強することとしているが,在来のゲルバ一部補強工法は,直接的なかけ違い部の耐荷力向上ではなく,かけ違い部の損傷抑制効果あるいは破損時仮受け効果(落橋防止効果)を目的とした暫定的対策であり,長期供用は難しく,将来的には架け替えが必要となるものが多い中で,長期供用を目的とした新たなかけ違い部の補強工法を検討することが全国的課題として浮かび上がった。
こうした中で千歳橋のゲルバ一部補強は,かけ違い部の直接的耐荷力向上を図る工法として,国内初の試みである連続ケーブル桁吊工法を採用した。外ケーブルを用い,かけ違い部に作用する吊桁の死荷重反力を軽減する積極的なかけ違い補強工法で,外部から容易に張力管理を行うことが可能で持続的な補強効果が得られる長期供用を可能とする対策であり,特に耐荷力不足による将来的な架け替えを計画する必要がなく,長期管理も容易である点で在来工法に比べ建設コストの優位性は高いものと考えられる。
さらに,一般的に行われている直接的応力改善の方法としての外ケーブル補強と異なり,荷重を外ケーブルにより負担させるという,PC材料をプレストレス導入以外の目的で使用する点で,PC技術の新分野への適用の開発といえる。
一方,本工法の採用は,外ケーブルに関する基準が整備されていない我が国の現状においては,解明されるべき問題点を多く含んでいる。そこで,本工法については,補強工事と並行して種々の実橋試験を実施し,設計・施工方法の妥当性および補強効果について検証した。
本報告は,この千歳橋補強工事における連続ケーブル桁吊工法について述べるものである。

2 千歳橋の概要
千歳橋は昭和30年に架設された鉄筋コンクリートゲルバーT桁橋であるが,その概要を表ー1に,一般図を図ー2に示す。

3 橋梁調査結果
千歳橋補強計画を行うにあたり事前に調査を行った。その結果をまとめて以下に示す。
(1) かけ違い部を除く主桁各部は,25tf活荷重に対しレーン走行状態で必要耐荷力を保有し,また耐荷力不足に起因する損傷も認められないことから,当面は補強を行わず,暫定供用(レーン走行)が可能であると判断する。よってかけ違い部を除く主桁各部は特に補強の必要はない。
(2) 主桁かけ違い部は,支承鉛直ひびわれ・切り欠き部斜めひびわれ等ゲルバーヒンジ部特有の損傷が発生している(写真一1,2)。かけ違いを有する欠陥部位の弱点がすでに損傷として顕在化していることから,今後活荷重の増加に対してはゲルバー橋かけ違い部の十分な補強を行う必要があると判定した。
(3) コンクリートの品質は,圧縮強度300kgf/cm2以上で十分な強度を有しているが中性化がすでに鉄筋まで達しており,ひびわれ・鉄筋露出等鉄筋腐食に起因する損傷が発生していることから,コンクリート中の鉄筋は腐食環境におかれており,部分的には腐食が進んでいると判断される。

以上より,主桁はかけ違い部の補強および鉄筋腐食損傷に対する補修が必要である。このほか床版はひびわれが多く,鉄筋量・床版厚とも不足しているため補強が必要である。
この結果から必要な対策として以下のような工法を選定した。
 ・損傷に対する補修—表面被覆(鉄筋腐食抑制)
           断面修復(欠損断面復旧)
 ・桁かけ違い部補強—連続ケーブル桁吊工法
 ・床版補強—下面増厚工法

4 RCゲルバー橋かけ違い部補強設計
(1)かけ違い部補強工法の選定
RCゲルバー橋かけ違い部の補強工法としては次の方法が考えられる。
 ・吊り桁支点反力軽減(支点反力受け替え構造)—吊桁支持方式・桁吊方式
 ・かけ違い構造改良(かけ違い部連結連続桁構造)—PCまたはRC連結方式
各工法の構造概要を図ー3に示す。
本橋は,架け替え計画は具体化されておらず,長期供用を予定しているため,かけ違い部の直接的構造改良となるPCまたはRC連結連続桁方式が望ましいと考えられるが,現況交通最が2万5千台/日と2車線では非常に多く,長期間の交通規制が困難なことから連結方式の施工は困難である。また桁下からH.W.Lまでの余裕が1m程度しかなく桁下に大きな支持部材を設けることができないことから天秤方式の採用も難しい。よって橋面交通規制が少なく,また桁下への影響も少ない「桁吊工法」がもっとも適当と判断しこれを採用する。

(2)桁吊工法基本構造の検討
桁吊工法の構造概要は以下のように考えた。

1) 図ー4に示すように,吊桁支点に外ケーブルを配置し,ケーブルに張力を与えることにより吊桁支点に張力の鉛直分力だけ負反力を作用させ,支点反力を軽減させようとする構造である。つまり,外ケーブルに張力を与えることにより,ケーブルに支点反力の一部を受け替えさせる構造となる。このケーブルを吊ケーブルと呼ぶ。
2) 軽減する反力は,1支点につき設計当初活荷重(S14年示方書13t荷重)に対しB活荷重による増加反力分約30tf以上とし,これに必要な張力をケーブルに与える。
3) 吊ケーブルは,全橋にわたって配置し,吊桁支点部は偏向具を用いた支承を設け反力をケーブルに受け替えさせる構造とする。吊桁部と定着桁部はケーブル配置を対称形とすることにより,主桁にケーブル張力による作用力の影響が小さくなる構造とした。
4) ケーブル端部の定着は,両橋台側の桁端部に横桁を設けこれに定着させる。横桁に定着したケーブルの張力が主桁に作用しないよう,外部反力装置を設けこれに端部横桁からアンカーケーブルにより支持させる構造とする。外部反力装置は,河川堤防断面に影響を及ぼさないよう,河川堤防外に場所打ち杭で支持されたアンカーブロックを設ける構造とした。
これら基本構造をまとめて桁吊り工法の構造図を作成したものが図ー5である。

(3)構造検討結果
1) 解析条件
① 解析方法は,吊りケーブル・アンカーケーブルとも弦部材としてモデル化し平面骨組み解析によった。
② 各弦部材の張力は各偏向部における摩擦ロスを考慮した。偏向部摩擦係数はμ=0.3/radと仮定する。
③ 各ケーブル張力は,吊桁1支点あたり軽減反力を30tf確保できる値を導入する。主桁部材にケーブル張力の不均一による作用ができるだけ小さくなるよう張力調整を行った。
④ 使用するケーブルは桁間の吊ケーブルは3S15.2Bを6本,外部定着用アンカーケーブルは5S15.2B 4本の配置とした。橋軸方向には吊ケーブルは3分割配置の両側緊張とし,アンカーケーブルは横桁側の片側緊張で計画した(図ー5参照)。
2) 解析結果
解析結果によるケーブル張力分布状態を図ー6に,支点反力状態を表ー2に,主桁応力度状態を表ー3に示す。いずれも目標値および許容値を満足している。

5 桁吊工法による補強工事の施工と実橋試験結果
(1)桁吊工法の施工
桁吊工法の施工は次の要領で行った。
1) ケーブルの緊張は全面通行止めによる活荷重無載荷状態で行った。
2) ケーブル緊張は,アンカーブロックを含め,橋軸方向1列5組10カ所を同時に行い,摩擦力のバランスをとりながら,吊ケーブル1列毎に目標値を満足するまで緊張した。アンカーケーブルは左右のバランスをとるため左右も同時緊張とした。
(2)実橋試験結果
補強工事と並行して実橋試験として①吊桁支点反力②ケーブル張力③主桁たわみ④主桁主鉄筋ひずみ⑤桁・橋脚・アンカーブロックの水平変位を緊張の各段階において計測し補強工事着手前および完了直後において⑥静的載荷試験による主桁ひずみおよびたわみの計測を行った。その結果得られた成果をまとめて以下に述べる。

1) すべての吊り桁支点部で吊ケーブルによる負反力が32tf以上確保されており,目標軽減反力30tf以上を十分満足し所定の補強目的は十分得られている。
2) 解析値と計測値は比較的よく一致しており設計で用いた解析モデルは適正である。
3) 鋼製デビエータとケーブルの摩擦係数は場所によってばらつきが多く今回の施工で特定することは困難であったが,今回設計上仮定した0.3/radを考慮すれば十分安全である。
4) 補強前後の載荷試験においては,主桁の曲げ性状が等しく,曲げ剛性の変化を伴わない補強が行われており,本補強は,吊り桁反力の軽減のみを目的とし,桁の構造性に影響を与えないという補強目的にあった有効な補強工法である。
5) 桁・橋脚の水平移動はほとんど発生せず,横軸方向に1列のケーブルを複数のジャッキを使用して同時緊張する方法はやや繁雑ではあるが,安全な施工を行う上で有効である。

6 おわりに
本補強工法の結果,所定の補強効果は十分得られており,設計の妥当性・施工の確実性が検証されたことから,連続ケーブルによる桁吊工法はRCゲルバー橋のかけ違い部の補強に有効な工法であることが確認された。
今後は,種々の要因からケーブルの張力変化が生じる恐れがあり,長期にわたってケーブルの張力管理を行い,必要に応じて再緊張を行って長期に必要張力を維持していくことが重要である。
長期張力管理のため張力管理計画および再緊張マニュアル等の作成も必要である。今回の試験の中で加速度計を用いた強制振動法によるケーブル張力測定の有効性が確認されており,これを用いた張力管理を平成9年度から実施している。

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