公共工事を取り巻く最近の動向
国土交通省 九州地方整備局
企画部 技術管理課長
企画部 技術管理課長
沖 田 学
はじめに
ここでは,公共工事を取り巻く最近の動向について紹介するが,はじめに発注者責任のあり方と建設産業の構造改善の動きを紹介する。これらを背景として入札・契約から施工,検査に至る最近の取り組みの目まぐるしい動きがあることをご理解いただきたい。
1)発注者責任について
国民の代理者である発注者は,「公正さを確保しつつ良質なモノを低廉な価格でタイムリーに調達し提供する」という発注者責任を有している。
発注者責任研究懇談会において,①工事内容の評価と工事特性に応じた多様な入札契約方式の選択,②企業の技術力の適正な評価,③発注者評価と発注者支援制度の確立などが議論されている。
2)建設産業の構造改善について
バブル経済期とその崩壊後の厳しい経営環境の時代を経験して,建設産業も大きな転換期にある。さらには建設投資が将来的にも大きな伸びが期待できないなか,建設産業も競争の激化,優勝劣敗,淘汰の時代を迎えている。
「建設産業構造改善推進3カ年計画」において,①不良不適格業者の排除の徹底,②建設生産システムにおける合理化の推進,③生産性の向上,④優秀な人材確保・育成と雇用労働条件の改善が課題とされている。
1 公共工事の入札および契約の適正化の促進に関する法律
(以下,適正化法という)
公共工事に対する国民の偏頼の確保と建設業の健全な発達を目的とする。
①透明性の確保 ②公平な競争の促進 ③適正な施工の確保 ④不正行為の排除の徹底の碁本原則のもと,発注工事名,時期等,毎年度の発注見通しの公表。入札参加者の資格,入札者・入札金額,落札者および金額等,入札契約に係る情報の公表。マル投げの全面禁止,現場施工体制の報告,発注者による現場点検等,施工体制の適正化。不正事実の公正取引委員会,建設業許可部局への通知等の不正行為に対する措置が発注者に義務づけがなされた。
2 工事現場における施工体制の点検要領の改正
適正化法および適正化指針により従前の点検要領等が改正された。主な内容は,①入札前,入札後契約後における監理技術者の専任の確認,②現場における施工体制の点検(監理技術者の資格者証・同一性・常駐状況,施工体制台帳,施工体系図,施工体制等)であり,適正化法に違反した事実を把握したときは,建設業許可部局に通知するとともに工事成績に反映することとなっている。
3 工事成績評定要領の改正
工事成績を「工事成績」「技術的難易度」「VE提案等」に分離して評定している。従前の評定に加えて,施工プロセス,優れた技術力や創意工夫,社会性等について,積極的に評価することとなった。また,請負者は,通知された工事成績の内容について説明を求めることができ,第三者委員会により,工事成績評定要領の運用全般について審議がなされる。
4 多様な入札契約制度
公正な競争の確保,建設業者の技術力向上・技術開発促進の観点から,入札および契約の方法の改善に多様な方式で実験的に取り組んでいる。既に実施事例のあるVE方式のほか,①設計施工一括発注:入札時に設計案等の技術提案を受け付け,設計と施工を一括して発注。②総合評価:価格以外の要素(環境維持,交通確保,特別な安全対策等)を重視すべき工事では技術提案に基づき総合的に評価。③性能規定:仕様(形状,材質等)ではなく,性能を規定して発注することで技術提案を活用。等々。その他,入札手続と方法,企業の評価と選定,適正な施工体制確保,設計業務関係においても多様な取り組みを行っている。
実験,検証を経て,多様で新たな入札契約制度が定着していくこととなる。
5 CALS/ECの導入
公共工事に係る各種情報を電子化し,発・受注者等の関係者間において,情報の交換・共有・連携を行い,品質の確保・向上,建設コストの縮減,事業執行の効率化並びに透明性の確保などを目指す。電子入札:今年度から一部実施,15年度からの完全実施を目指す。電子納品:業務は今年度から全面実施,工事は一部で実施し,15年度完全実施を目指す。
6 総合的なコスト縮減
平成9年度コスト縮減に取り組んでいるが,厳しい財政事情の下で,引き続き着実な社会資本整備を着実に進めるため,12年度からは従前の①直接的な工事コストの低減に加え,②工事の時間的コスト ③ライフサイクルコスト ④工事における社会的コスト ⑤工事の効率性向上による長期的コストの低減の取り組みにより,総合的なコスト縮減を目指している。
7 新技術の活用
NETISによる新技術活用促進システムを運用しているが,13年度から,これを含む「公共工事における新技術活用システム」を運用している。
①技術指定システム:従来のシステムをさらに発展させて,新技術のより一層の活用促進を図る。
②工事選定技術募集システム:技術提案を活用する工事を選定して,技術提案を受け入れる入札契約方式により,現場への技術導入を図る。
③テーマ設定技術募集システム:社会・行政ニーズ等による技術募集テーマを設定し,選定された技術の現場での施工機会を確保する。
おわりに
ほかにも,建設リサイクル法,グリーン購入法,ISO等々,公共工事を取り巻く動きは枚挙に暇がない。本稿で紹介した事項はホームページでも紹介されており,詳しくはそちらを参照されたい。
技術力の向上と,公平性・透明性をもった競争への積極的な努力は,公共工事の信頼性の向上と企業経営にとって不可欠であることは論を待たない。