佐賀県における「低平地研究会」の発足について
佐賀県土木部長
宮 崎 雄二郎
最近は,共生という言葉が以前ほど使われていないが,本県の平野部に住む多くの人々にとって,今日までの「水」との関係は,まさに共生の歴史であり,将来的にもこの共生の関係が無くなることはないと思われる。今日まで進められてきた有明海における干満差を利用しての干拓事業や平野部における内水管理のための佐賀特有のクリークの整備は,我々の安寧な生活と生産活動を維持するための,つまり,水と共生するための最大の努力であったといえる。そして今後,どのように形が変わるにしろ,水との共生関係を続けるための大いなる努力がここに住む人達には強制されることとなる。
そうした関係からみると,有明海の6mにも及ぶ干満差の影響を受け,世界的にも類を見ない典型的な低平地であるこの佐賀平野における今日までの低平地研究は,必ずしも十分であったとはいえない。勿論,今日までの河川行政がどちらかといえば高水対策に重点がおかれたこともあって,低平地の水理機構に対する研究・対策が遅れてきたともいえる。現在,佐賀市を中心とした低平地域における河川流域での都市化の進展は,人口,資産等を集中させ,この結果ダメージポテンシャルを大幅に増大させ,一方で流域の保水・遊水機能も確実に低下させてきている。こうした現況に加え,近年では気象変動と相侯って,集中豪雨等による水害も年間数回に及ぶこともあり,これらの災害に対処するために有明沿岸域における低平地対策事業を鋭意実施しているところである。
そして,今日までの低平地のこのような状況に対応するために,我々も手をこまねいていたわけでなく,低平地にたいする研究機関の設置に地元の佐賀大学とともに懸命に努力しこの結果,遅れ馳せながら平成3年,佐賀大学低平地防災研究センターが,10年間の期限付きではあるが開設された。現在は,所長の佐賀大学・三浦哲彦教授を中心に様々な研究が進められており,私どもが実施する低平地対策事業において多くの助言をいただいているところである。しかし,低平地である佐賀平野において我々が水と共生するために,このような研究的・学究的なものから建設技術,防災技術,環境改善技術など多くの部門において,さらに実践的な対策も進めていくことが必要であり,そうした目的で,産業界,行政機関を加えた,もっと幅広い連携を行うことが必要である。
幸い,平成3年度の建設省,通産省,運輸省の3省共同による「九州北部学園都市整備計画調査」において低平地研究が重要研究テーマとして取り上げられており,県としても改めて低平地研究への認識を深め,対応の必要性を痛感していたところである。
「低平地研究会」は,こうした主旨から県内の産・官・学が,一体となって低平地に関する研究および情報交換と,これらを支援していくために,平成5年11月1日に発足した。本県における低平地研究はまだ端緒についたばかりではあるが,低平地におけるこれからの研究が「低平地学」として成立し,「低平地研究会」が佐賀県ばかりでなく,低平地研究に対する世界への情報発信地として活躍する事を期待しているところである。