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二代目「芳雄橋」誕生物語
九州地方整備局 小田禎彦
1 はじめに

飯塚市の中心部を流れる遠賀川と穂波川をまたぐ「芳雄橋」この橋は、昭和3年、わが国の鉄筋コンクリート橋の草創期に架けられ、地域の人々のくらしを支え続けていた。

旧・芳雄橋

ところが、平成15年7月19日未明の集中豪雨により飯塚市を大洪水が襲った。これを契機に床上浸水対策特別緊急事業「床対事業」が採択され、その一環として架け替えることとなり、災害から5年後の平成20年11月29日、二代目「芳雄橋」として生まれ変わった。

ここでは、5年間という床対事業の限られた事業期間の中、さらには出水期(6月~9月)に河川内の工事が行えないという河川工事の時間的制約の中で、水害復興のシンボルをつくろうと市民と行政が1つのテーブルにつき、そして、市民の希望するデザインどおりの橋梁をつくるために産学官の土木技術者が知恵を出し合った。この市民・行政・土木技術者が連携し、一体となったものづくりの軌跡を芳雄橋の特徴を紹介しながら振り返る。

2 短期事業でも丁寧に市民合意形成を図り、決定されたデザインを忠実に実現

旧芳雄橋は、戦前に造られ、長年飯塚市民に親しまれており、撤去を惜しむ声の多い橋梁であった。このため新しい芳雄橋は、旧橋の歴史を引き継ぎ、地域の文化を体現するようなデザインとする必要があり、飯塚市民の合意形成に重点をおいた。2年間にわたり12回の意見交換会を行い、基本となるデザイン2点に絞り込んだ上で、市民による投票を行った。その結果、旧橋踏襲型の天然石を基調とした重厚感あるデザインが採用となった。

市民との意見交換会の様子


2年の歳月を経て決定した新・芳雄橋イメージパース


完成した新・芳雄橋(H21.5.14 現在)

上のイメージパースと下の完成写真を見比べてください。決定したデザインを忠実に具現化していると市民からも好評である。

3 橋脚(石積み型枠工法)・高欄・桁隠し・地覆に至るまで天然石を使用(伝統技術と新技術の融合)

石を基調とした重厚感ある橋梁デザインが採用となったため、天然石(中国産御影石1800トン)を使用。伝統石工技術と新技術を融合させて施工した。

① 橋脚は、御影石自体を型枠として使用した(石積残存型枠)
橋脚は、壁厚約2m、幅約20mであることから「温度ひび割れ」の発生が懸念された。さらに石積み型枠は残存型枠であるため、施工後のコンクリート表面が目視できず、確実な充填性の確保が課題であった。今回は、温度応力解析を行い、ひび割れ指数1以上を目標として、リフト高、養生方法、コンクリート材料などを検討し、施工に反映させた。効果は温度応力解析により確認している。

石積型枠の施工の様子:1 つ1 つ丁寧に積み上げた

完成した下部工(H19.5 末):橋台2基・橋脚5基

② 膨大な御影石の割付図、加工、施工に苦慮
芳雄橋の御影石のパーツは数千点に及び、その一つ一つが予め決められた部分にのみ合致するように造られたオーダーメイドであった。また割付図の作成にあたっては、芳雄橋では地覆と高欄の目地が通るように努力した。施工においては、専門業者が独自に取り付方法を開発。さらに、石によって性状が異なるため、取り付け金具を複数種類用意し、使い分けた。特に桁隠しについて充填性とひび割れ防止の観点からコンクリートの配合試験及び試験施工を行い、短繊維入りコンクリートを採用した。なお、故意に不具合(砂すじ)を生じさせた箇所で落下しないかどうかを確認するための試験施工も実施した。

左:試験施工(H20.3 下旬)  右:化粧石施工状況

4 中空床版橋の施工及び品質管理に新たな手法を採用
① 中空床版橋の採用理由
中空床版橋は、薄いスラブ厚にできるという特性がある。芳雄橋は、歩行者の利用を優先してデザインした橋梁であったため、歩行者が渡りやすい橋とするために道路縦断勾配を緩くする必要があった。また、芳雄橋が治水事業により架け替えられるという経緯から、流下断面を阻害しないよう、桁下空間の確保は必須であった。さらに、河川空間から橋を見上げた時の圧迫感を和らげるためにスレンダーなプロポーションを実現する必要があった。

② 中空床版橋の施工と品質管理
コンクリートの充填不足が危惧される中空床版橋を採用したため、充填センサーを設置した。さらに透明型枠を採用し、締め固めには細径長尺バイブレータを使用した。またひび割れ防止対策として、温度応力解析を行い、ひび割れ指数1以上を目標として、養生方法、コンクリート材料などを検討し、施工に反映させた。コンクリート打ち継ぎ目付近のひび割れ防止には、プレストレスを導入(横締め緊張)した。

ボイドの下の透明型枠・充填センサー設置状況

5 川を見渡すバルコニー(屋根付き)と橋梁中央に河川への昇降施設を設置

芳雄橋には、遠賀川の河川空間の眺望を楽しむことのできる憩いの空間であるバルコニー(屋根付き)を設けた。橋脚毎にもテラスを設けた。河川と道路の結節点としての役割を果たす芳雄橋とするため、中之島への昇降施設を設置した。中之島は、遠賀川と穂波川の間にある背割堤であり、都市の中の自然環境空間として飯塚市民に親しまれてきた。この芳雄橋を「市民のコミュニケーションスペースにしよう」との想いで反映させた。

左:橋脚テラスイメージパース 右:橋脚テラス完成写真

屋根付きバルコニーイメージパース

屋根付きバルコニー完成写真


弱視者が視覚障害者誘導ブロック選定に協力


飯塚警察署パトカー先導による供用開始の瞬間

6 おわりに

飯塚市のシンボルになるようにと旧芳雄橋の歴史を振り返りながら、2年にわたり行政と市民の意見交換会で決定した芳雄橋のデザイン。計画に市民の意見を重要視していることが市民から好評であった。これを実現するために産学官が一体となり、建設プロセスの各段階において技術者の「誇り」と市民の「郷土愛」が込められ、丁寧で確実な施工により優れた造形の橋が完成。渡り初め式典も市民中心で企画し、多数の市民で完成を祝った。また、創立40周年を迎える飯塚ロータリークラブが「5年前の水害を受けられた方へのメモリアル」「祝・新芳雄橋」「未来を担う子供達へ素晴らしい夢と希望と感動を」をコンセプトに12月半ばから芳雄橋を電飾。多数の市民の歓声で湧いた。これからも地域の人たちによって、完成した芳雄橋を中心にたくさんの物語がつくられることに期待する。

ここに携わった土木技術者は「多くの人に喜んでもらって本当によかった」と口にする。我々は土木というものづくりの楽しさを満喫した。土木技術者は、ものづくりをもっともっと楽しまなければならない。

最後に、芳雄橋の工事関係者が、平成20年4月に発生した、飯塚市中心商店街大火災の瓦礫搬出にボランティアで協力。また、自分たちで現場見学会を企画。この見学会には小学生350人が集まり非常に好評であった。これらのことは、新聞・テレビでも取り上げられ、地域から多くの感謝の言葉をいただいた。そして、11月29日の一般供用開始の瞬間、携わった技術者たちが、大粒の涙を流したことを紹介しておく。


イルミネーション点灯式(H20.12.12)


現場見学会の様子:小学生350人が参加(H20.9.5)

※社団法人プレストレストコンクリート技術協会
平成20年度技術協会賞(施工技術部門)受賞
※柳田公司、石村勇樹:【みえないコンクリートの品質管理】九州技報第42号2008.1、
平成19年度九州国土交通研究会論文集(参考文献)
※渡邊文恵:【芳雄橋の品質管理】平成20年度国土交通省国土技術研究会論文集(参考文献)

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