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九州横断自動車道の整備によるストック効果について
野口浩

キーワード:九州横断自動車道、工業生産、観光振興

1.はじめに
日本の最西端に位置し、県土の多くが離島・半島で構成される本県にとって、人口減少と県民所得の低迷が大きな問題となっています。
本県の地方創生には、社会生活を下支えする道路整備のストック効果による活力ある地域づくりを経済の好循環に結びつけていくことが重要です。

2.県内の高速道路
九州横断自動車道長崎大分線は、長崎市を起点とし、佐賀県、福岡県を経て終点大分市へと続く約255㎞の高速自動車道路です。高速道路の整備によって、長崎から他の都市までのアクセス時間が大幅に短縮され、観光客の増加や輸送の効率化などの効果がもたらされてきました。

3.高速道路と工業
長崎県内の高速自動車道路は、昭和46年からNEXCO西日本により整備が進められ、平成2年には大村IC.武雄北方IC間の開通により、長崎多良見.鳥栖間が1本につながりました。
長崎県の中央に位置する諫早市と大村市には、工業を行う上で重要な条件である土地と水はありましたが、他の都市までの運送時間が問題でした。高速自動車道が開通したことにより、これまで諫早から博多まで4時間以上かかっていた移動時間が、2時間程度に短縮され、アクセス面が大幅に改善し、両市の工業が発展するようになりました。

諫早市は、諫早ICから2㎞の位置に、昭和55年から諫早中核工業団地の分譲を開始しました。電子機器、半導体、航空宇宙関連などの企業の進出が相次ぎ、平成4年に分譲完了しています。

すぐ脇には以前より開発されていた貝津金属工業団地と山の手工業団地があり、合わせて約200社が集積し、約9,400人の雇用を産み出しています。また、新たな団地も造成分譲中です。
大村市でも大村ICから北東へ2㎞の位置に大村ハイテクパークやオフィスパークを開発し、半導体メーカーや自動車部品メーカーなど約30 社が集積しています。

4.工業生産と経済成長
高速自動車道路の着工を開始した直後の昭和50年頃は、日本は高度経済成長期の終焉を迎え、オイルショックを経て安定成長期と呼ばれています。日本全体で年4%強の経済成長を遂げ、昭和50年から昭和60年までの10年間で製造品出荷額が日本全体で2.1倍に成長しています。

昭和50年の長崎県製造品出荷額は、7,630億円あり、その内、諫早市・大村市は630億円でした。昭和57年に大村~長崎多良見間が開通したことにより、次第に製造品生産額が増加していきました。昭和60年の製造品生産額は、昭和50年の約2.4倍に成長し、1,530億円となっています。全国平均の2.1倍を上回る成長を遂げています。
さらに、平成2年には鳥栖まで供用が始まり、九州を南北に縦貫する九州縦貫自動車道鹿児島線と接続したことで、両市の利便性が向上しました。この結果、平成7年には製造品出荷額が昭和60年の2.3倍に成長し、3,520億円となっています。同時期の全国平均は、1.2倍の成長であり、大幅に発展を遂げたと言えます。また、県内に占める製造品出荷額の割合も増加し、昭和50年から平成7年までの20年間で8%から22%まで伸びています。単年度では景気の影響により、多少の増減がありますが、諫早市・大村市の製造品出荷額は、おおよそ右肩上がりで増加傾向にあります。
平成25年の統計では、諫早市が電子製品の生産地全国第4位になり、日本有数の生産地に成長しました。また、隣の大村市で製造した電子部
品の基盤が、諫早市の製品に使用されているため、両市が互いに成長しています。
平成27年2月には、某大手企業がセンサーを対象に、780億円増資することが決定しました。今後、ますますの経済成長が期待されます。

5.工業の発展とともに
長崎県の人口は、昭和34年の179万人をピークとして次第に減少しています。しかし、この諫早市・大村市においては、製造業が発展することで雇用が拡大し、昭和55年から平成26年までの35年間で25%の人口が増加しています。
特に、働き手年齢である40才以下の世代が県の平均と比べて高いことが統計結果で示されています。同時に40才以下は子育て世代であるため、
20才未満の年少人口も多くなっています。

6.高速道路と観光
九州横断自動車道の最後の未整備区間である長崎多良見IC~長崎IC間の約11㎞区間が平成16年に開通し、長崎市へのアクセス強化が図られました。

このことにより、長崎市を自動車で訪れる観光客が増加し、減少傾向を示していた観光客数がV字回復しており、平成26年には過去最高の631万人が訪れるとともに、観光消費額も過去最高を記録するなど観光振興に大きく貢献しています。

さらに、平成26年7月に「明治日本の産業革命遺産 鉄鋼・製鋼、造船、石炭産業」が世界遺産に登録されるとともに、今後「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」も世界遺産に登録されれば、よりいっそう道路整備のストック効果が拡大されます。
また、地図を見てわかるとおり、長崎港は上海をはじめ、東南アジアに最も近い九州本土の港で、色々な船が寄港しています。

特に、国外クルーズ船においては、平成26年度から日本政府がビザの発給要件を緩和したこと、中国経済の成長並びに円安を背景に、平成
26年の72隻から平成27年の131隻と大幅に増加しています。長崎内の商店街では、外国人が大量の商品を購入している姿をよく見かけるようになりました。
開通した高速道路を観光バス等で移動すれば、港周辺だけでなく、旅行中の限られた時間で近隣の都市まで移動できます。国際港のない都市が観光客を誘客するうえで、高速道路の有無は、非常に重要であると言えます。

7.終わりに
これまで、持続的に実施してきた社会資本整備によるストック効果が、地域経済の振興に寄与してきたことは疑う余地のないところです。
今後の人口減少社会において、地域間競争が激しくなっていくことが予想される中、長崎は日本の最西端であり、東京などの国内中心部における競争では不利であることは否定できませんが、世界、特にアジアにおける競争では非常に恵まれた位置にあります。
このアドバンテージをうまく生かせるような社会資本を整備することが我々の努めであると考えています。
参考文献)
図-1 ©yahoo japan ©OPeNBooK
図-2・7 © 国土地理院
写真-1 ©昭和堂印刷㈱
図-9 グーグルアース

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