九州技報 第22号 巻頭言
熊本大学工学部環境システム工学科
教 授
教 授
鈴 木 敦 巳
近年社会の高度化と共に地球環境問題が世界的に取り上げられ,工学系の分野には環境保全型の技術が求められ,自動車産業を始めとする種々のメーカーにおいては,その社会的要求に応えるべく日々技術開発が行われています。我が建設分野においては,社会基盤整備の過程で直接自然に働きかけて,目に見える形で環境を変化させるため,社会からはとくに厳しい監視の目で見られているこの頃です。
一方大学の工学部には広い視野を持った高度の技術者の育成が求められ,熊本大学工学部においても,平成8年4月より従来の10学科から5学科にまとまり,土木環境工学科と建築学科と合わせて環境システム工学科となりました。環境システム工学科の中では土木系教室と建築系教室に分かれてはいるものの,これまでより幅広い教育が可能なカリキュラムに変わりつつあり,教官自身も建設技術と環境に関する意識がかなり強まって来ています。このように大きな変化は私が大学に着任した時(1966年)にはとても予想できませんでした。
従来の建設技術は第1に機能性,第2に経済性が追究され,環境との調和が軽んじられてきたように思われます。しかしながら,上記のような社会的背景の下,これからの社会基盤整備には,「自然環境との調和を図りつつ,より豊かで安全な社会環境を創造する」と言う理念が必要であることは言うまでもありません。自然環境との調和を図ることは機能性や経済性と相反するように聞こえますが,決してそうではなく技術が高度化することによって共に満足されるものと思われます。
これからの建設系分野には,このような理念を持った技術者の育成とその理念を実現するための総合的な技術の発展が強く望まれています。
ここで総合的な技術とは,自然環境特性の調査と把握,自然環境に対する社会基盤整備の影響の事前評価,それらの結果を反映した一連の計画・設計・施工,さらには影響の事前評価に対する事後の検証までを総合した技術を意味しています。この中で施工技術は最終段階で理念実現の成否を決定するもので,施工中の環境への影響も重要な問題になります。
水俣湾公害防止事業で開発された環境修復技術から環境保全における建設技術の役割が明確にされ,最近では多自然型河川改修や人工海浜の造成等の環境を配慮した社会基盤施設を実現する過程で多様な施工技術が目覚ましい発展を遂げつつあり,社会全体にとって誠に喜ばしい事です。
技術者の卵を育てる立場の者として今後とも一層優れた施工技術の開発を祈念する次第です。