〈整備後の効果〉
熊本県 土木部
河川港湾局 河川課
参事
河川港湾局 河川課
参事
髙 群 健 太
キーワード:御溝川、放水路、令和2年7月豪雨
1.はじめに
球磨川水系御溝川は、熊本県人吉市に位置し山江村万江甲の御溝頭首工で万江川から分流し、水田や人吉市街地を流下した後、人吉市下薩摩瀬町で福川に合流する流路延長6.0km、流域面積5.5km2の一級河川である。
御溝川は右岸域に広がる人吉市合ノ原町の水田地帯への灌漑用水供給の用水路としての機能が高く、河道形状は、河川からの取水を容易とするため、水深が浅く、多くの箇所において取水ゲート及び簡易用水施設が設置されている。また、上流域は田畑が広がっているが、下流域になると沿川に住家が密集している。
本河川の流域は、人吉市の中心市街地の一部を含み、JR人吉駅や主要国道が走る交通の要衝であり、人吉球磨地方において社会経済の中心地の一角をなしている。また、流域内には、青井阿蘇神社神殿、大村横穴群などの文化財や史跡などがある。
御溝川二次放水路は、このような地域の特徴から計画されたものであるが、この度、令和7年3月に完成したため事業の経緯及びその整備後の効果について報告する。
2.二次放水路を整備するに至った経緯
御溝川下流部の合之原町及び瓦屋町は、梅雨期や台風による豪雨により浸水被害が発生している。
浸水被害の軽減のためには、御溝川のほぼ全区間で河道改修が必要であるが、沿川には家屋が密集しているため、河道改修のみでは、治水安全上必要な拡幅が難しい状況であった。そのため、山江川合流後の全流量を万江川へ放流する二次放水路を先行して整備することとした。



3.「御溝川二次放水路」事業概要
(延長) L= 1,300 m
(目標流量)23m3/s
(総事業費)約24 億円
(事業期間)平成14年度~令和6年度
4.事業の目的
御溝川下流域は、御溝川沿川に家屋が密集しており、河道拡幅には相当の期間を要することから先行して二次放水路を整備し山江川合流点部で23m3/sの流量をすべて万江川に放流することで、人吉市街地部の浸水被害の軽減を図る。

5.事業の経緯
事業の開始にあたっては、平成9年に地元住民を委員とする「御溝川河川懇談会」を設置し、御溝川の河川改修計画について住民の意見を取り入れながら検討することとし、平成10年から二次放水路のルート検討に着手した。平成14年度に事業化し、詳細な計画を策定後、平成16年に地元説明を行ったが、二次放水路のルートについて同意が得られず事業がストップした。地元代表者の協力を得ながら粘り強い交渉を続け、平成27年にようやく二次放水路ルートについての同意を得た。その後、必要な調査を完了させ、平成29年には用地交渉に入り平成31年にはすべての用地買収が完了した。同年には工事に着手し、工事が本格化しようとする最中、令和2年7月豪雨が発生した。
6.令和2年7月豪雨の発生
■令和2年7月豪雨の概要
【気象概要】
・九州では7月3日、4日の2日間で、7月1ヶ月の平均雨量に相当する降雨量を観測。
・ 球磨川流域では線状降水帯が形成され、時間雨量30mmを超える激しい雨を、8時間にわたって連続して観測。

【観測雨量】
・ 球磨川本川の中流部から上流部、最大支川の川辺川の観測所において観測開始以来最大の雨量を観測。
・ 球磨川本川の中流部から上流部及び支川川辺川の各雨量観測所における降雨量は、6時間雨量、12時間雨量及び24時間雨量において、戦後最大の洪水被害をもたらした昭和40年7月洪水や昭和57年7月洪水を上回る降雨を記録した。

【家屋被害】
・ 球磨川や川辺川等の支川の氾濫により、人吉市と山江村では家屋全壊822戸、家屋半壊1,420戸、一部破損290戸、床上浸水3,775戸、床下浸水906戸の被害が発生。
・ 人吉市街部では広範囲で浸水、場所によっては建物の2 階まで浸水。青井阿蘇神社では、昭和40年7月洪水を約1.5m上回り、寛文9年洪水(1669年)と同程度の浸水深を確認。
【施設被害】
・ 橋梁17橋が流出。国管理区間、県管理区間とも堤防決壊のほか、堤防損傷、護岸欠損が多数発生。

7.令和2年7月豪雨後
令和3年1月、令和2年7月豪雨を踏まえ、3つの柱を設けた「球磨川水系緊急治水対策プロジェクト」を取りまとめ、流域のあらゆる関係者が協働し、まちづくりと連携した治水対策に着手した。

御溝川二次放水路整備を「氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策」としてプロジェクトに位置付けて整備を加速化。地元からも早期完成の声が高まる。
8.御溝川二次放水路整備工事の本格化~早期完成するための工夫~
■通年施工へ変更
【課題1】 用水路の機能確保
二次放水路の事業区間には主要な水路が1箇所横断していた。当初、農繁期(取水期間)である5月~ 9月を避けて施工する計画としていたが、早期の完成のためには、通年施工による施工計画の変更が必要となった。
そこで、水路の切り回し方法について土地改良区、農地所有者、施工業者、熊本県の4者で協議を重ね、一部の農地を借地し、仮設用水樋を利用した切り回しを行うこととなった。


【課題2】 工事車両進入路の確保
二次放水路工事車両の進入路は限られており、御溝川本川を横断する必要があった。当初は、大型土嚢、コルゲート管による仮設盛土での進入路を計画していたが、通年施工を考慮すると出水期には御溝川の断面を確保することが必須となるため、仮設橋梁を設置することとした。

■通年施工へ変更した結果
通年施工を行うことで出水期に施工が可能になることはもちろん、仮設道路や仮設ヤードの設置撤去などの手戻りの発生を防ぐことができた。その他、工事の分割発注や地元との調整を密に行うことにより、工事をスムーズに進めることができ、約10カ月の工期を短縮することができた。
9.御溝川二次放水路の完成
令和7年3月、地元住民や耕作者、施工業者、地元の代表者、その他関係者の皆様のご協力により念願の二次放水路が完成した。

10.御溝川二次放水路の整備効果
令和7年5月21日の降雨時に整備後初となる二次放水路へ放流する操作を実施した。
【観測雨量】
時間最大雨量 20ミリ、12時間雨量13ミリ
【分流施設ゲート操作】
大雨が予想されたため、降り始め前の5月20日18 時8分より分流施設の放水ゲートを開扉。

【効果検証】
人吉市瓦屋町に設置された河川監視カメラ設置箇所(1 頁「図- 1 位置図」参照)地点でHQ 式を用いて検証した結果、最大約40㎝の水位の低減効果を発揮したことが確認できた。その効果により道路の冠水を防ぎ、通行止めを回避することができた。

11.さいごに
御溝川二次放水路の整備は、ルート検討を含めると完成まで約22年の期間を要したが関係する皆様のご協力によりこの度、完成を迎えることができた。
完成から2か月後に水位低減の効果を発揮できたが、今後も更なる効果を発揮し、人吉市街地の浸水被害の軽減に繋がることを期待したい。
結びに、本事業にご協力を頂いた地元自治体をはじめ、地元関係者並びに施工関係者の皆様に深く感謝申し上げたい。