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南海トラフ巨大地震に備える「九州道路啓開計画」の改定について
~令和6年能登半島地震を踏まえた緊急提言を受けて~

国土交通省 九州地方整備局
道路部 道路構造保全官
若 松 正 樹

キーワード:九州道路啓開計画、九州道路啓開等協議会、南海トラフ地震

1.はじめに
九州道路啓開計画の検討経緯を説明する。南海トラフ地震における道路啓開について関係機関の連携・協力により、強力かつ着実に推進していくことを目的に『九州道路啓開等協議会』が平成27年10月に設置され、平成28年3月に『九州道路啓開計画』(初版)が策定されている。
また、『南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画』(中央防災会議幹事会)(平成27年3月30日策定、令和5年5月23日改訂)(以下「具体計画」という。)の改訂等と令和6年6月に『令和6年能登半島地震を踏まえた緊急提言』(社会資本整備審議会)(図-1)が公表されたことを受け今般、九州道路啓開計画(初版)を改定し、令和6年12月に『九州道路啓開計画』(第2 版)を策定した。
本稿では、改定の概要と継続検討内容、今後の課題等について紹介する。

図1 令和6年能登半島地震を踏まえた緊急提言

2.計画の概要
(1)計画の背景・目的・位置付け
九州では南海トラフ地震の発生により九州東側沿岸を中心に津波被災をはじめとする甚大な被害が危惧される。
「具体計画」に示された緊急輸送ルートについて、道路啓開調査(緊急点検)、道路啓開作業の実施者及びタイムライン、人員・資機材等の体制構築、被災情報の把握・情報集約等を定め、より実行可能な計画として『九州道路啓開計画』(初版)を策定している。
『令和6年能登半島地震を踏まえた緊急提言』や関連計画の改定等を踏まえ今般、『九州道路啓開計画』(第2 版)のとりまとめを行った。防災基本計画や国土交通省防災業務計画を上位計画とし、「具体計画」等と整合を図り、南海トラフ地震が発災した際に九州地方整備局管内で道路管理者等が行う道路啓開の具体的な実施方法等を定めている。

(2)九州東進作戦
本計画では、南海トラフ地震発生の際、九州地方において震度6 強以上の震度が観測された場合、又は大津波警報が発表された場合、全国及び九州各地からアクセスが可能となるよう、高速道路、国道、県道等を活用し、九州東側沿岸に向けて一斉に道路啓開へ出動、進行する作戦『九州東進作戦』(図-2)を実行することとしている。
九州東進作戦では、各道路管理者、関係機関が連携・協力のもと情報を共有し、緊急輸送ルートを緊急通行車両走行のため、最低1車線を確保することで、より短時間で道路啓開していくこととしている。
道路啓開がその後の消火活動や救命・救助活動、緊急物資の輸送等を支えることより、人命救助の72時間の壁を意識した「具体計画」に基づき、タイムラインに応じて、発災後、24時間以内に広域移動ルート、拠点接続ルートの概ねの道路啓開、72時間以内に被災地内ルートの概ねの道路啓開を完了することを目標としている。

図2 九州東進作戦(概念図)

3.事前の備え
(1)道路におけるリスク情報の把握
道路啓開にあたっては、道路の被災状況を出来るだけ正確に把握した上で道路啓開活動を行う必要があるが、南海トラフ地震の発災時には、地震の規模や震源、発生日時や被害の程度等によっては、道路啓開調査すら満足に行えず、被災状況に関する情報がほとんど入手できないといった事態も生じうる。こうした不測の事態に備えつつ、道路啓開を行う上で、道路に関係する潜在的なリスク情報について、可能な限り把握しておくことが重要である。
道路に関係する潜在的リスク情報としては、震度想定や津波浸水区域等の被災想定に関するもの、道路構造(耐震対策未実施箇所、老朽化の状況、集水地形上の盛土、法面要対策箇所や幅員狭小区間等)に関するもの等がある。こうした潜在的リスク情報について、道路啓開計画における緊急輸送ルートそれぞれが有する道路事情や地域の状況・被災の様相等を適切に踏まえ、道路啓開を行うことが重要である。
九州地方における道路に関係する潜在的リスク情報の一部として、南海トラフ巨大地震発生時の被災想定を示す(図-3)。

図3 南海トラフ巨大地震発生時の被害想定(揺れ・津波)

(2)被害の想定
道路啓開計画にあたっての基礎情報として、まず想定される被災状況を可能な限り具体的に想定することが必要である。そこで、内閣府中央防災会議並びに各県算出の被害規模をもとに、被害の種別ごとに各種条件を設定し、発生する道路被害を想定する。なお、緊急輸送ルートに設定されている高速自動車国道(以下「高速道路」)、国管理国道(以下「直轄国道」)及び県、政令市が管理する国道(以下「補助国道」)における被害想定の例を以下に示す。
①道路本体(橋梁部)
建設年数が比較的古く、耐震化対策未実施の橋梁については、地震の揺れによる支承部からの逸脱や液状化による橋台背面の段差を想定。
②道路本体(土工部)
道路面上に崩落した土砂を取除く程度の作業および崩壊の規模が比較的小さく緊急盛土による道路機能回復程度の作業を想定。
③沿道施設
沿線において、地震、津波によるガレキ等(災害廃棄物、津波堆積物)の散乱が想定。なお、沿道建物の倒壊、ガラスや看板等の落下物などについては大部分が歩道や路側の範囲で収まると想定(東日本大震災の実績)。津波被害については、広範囲に渡る木造家屋やガレキ等の堆積による通行不可が想定。
④道路占用物件
沿線において、電柱、標識等の倒壊による通行不可が想定。
⑤路上車両
発災後には、津波浸水区間において立ち往生車両、放置車両ほか、被災して移動不能となった車両などの路上車両が想定。
⑥通信の途絶
地震、津波発生に伴い一般電話並びに携帯電話等、通信の途絶が想定。

(3)緊急輸送ルートの選定
緊急輸送ルートは、全国及び九州各地から広域応援部隊や緊急物資輸送車両の広域的な移動を確保するとともに、甚大な地震・津波被害が見込まれる区域及び防災拠点に到達するために、国土の骨格をなす幹線道路である高速道路、直轄国道を中心に必要に応じて県等が管理する道路も含めネットワークを選定。各ルートの役割を勘案して個別路線名を具体的に明示している(図-4)。
①広域移動ルート
・部隊等の広域的な移動のためのルート
・主に高速道路又は直轄国道により構成
②サブルート
・広域移動ルートにおいて、機能が確保できない場合における部隊等の移動の為のルート。
③被災地内ルート
・甚大な被害が想定される地域内のルート。
④代替ルート
・被災地内ルートのうち、通行できない可能性が高い場合に考慮するルート。
⑤拠点接続ルート
・人命の安全確保のために特に重要で代替拠点を確保することが困難と見込まれる航空輸送拠点及び製油所・油槽所、活動拠点と上記のルートの間を接続するルート。
⑥その他の緊急輸送ルート
・その他の防災拠点(進出拠点、救助活動拠点、広域物資輸送拠点、海上輸送拠点)と広域移動ルート等を結ぶ緊急輸送ルート。

図4 緊急輸送ルート、各種防災拠点一覧図

(4)防災拠点の設定(図-4、表- 1、図-5)
具体計画に示されている救助・救急、消火や医療等に関する「防災拠点」に、南海トラフ地震発生に伴い甚大な被害が想定される大分県、宮崎県、鹿児島県における県庁及び市町村役場を「活動拠点」として設定。南海トラフ地震におけるTEC-FORCE活動計画に定められた「現地進出拠点」を追加。

表1 防災拠点の一覧

図5 防災拠点と緊急輸送ルートの関係

(5)道路啓開調査・作業
発災時には、被災箇所・被災規模の状況を調査し、災害対策基本法76条の6による区間指定を行う。各道路管理者は、緊急輸送ルートを構成するそれぞれの管理路線の道路啓開調査・作業を実施する(表- 2)。(調査については被災県の要請により、国による実施の場合もある。)

表2 道路啓開調査・作業主体の基本的な考え方

(6)タイムラインの作成
南海トラフ地震発災後、九州東進作戦を実施するにあたり、いつ何をするかについて明らかにした具体的な行動計画(以下、「タイムライン」という。)を作成しておくことは、迅速な道路啓開を実施する上で、啓開活動に従事する者の意識醸成の観点でも極めて有効である。従って、九州東進作戦のルート別に詳細なタイムラインを作成することとする。タイムラインは、啓開ルートの調査・作業にあたるそれぞれの道路啓開を担当する各道路管理者により速やかに作成し、実走により予め確認しておくものとする。タイムライン作成にあたり、国や地方自治体が平時から連携し、事前に議論しておくことで、被災後の迅速な対応につながる。災害時に発生する状況を予め想定し、各機関が実施する災害対応を時系列で整理した防災行動計画(タイムライン)(図-6)を作成するよう努める。

図6 道路啓開タイムライン(イメージ)

(7)人員、資機材等の体制構築
初動体制を如何に迅速かつ確実に確保できるかが円滑な道路啓開活動はもとより後の消火活動、救急救命活動等に大きく影響することとなる。従って、道路啓開活動を発災後迅速に開始し、円滑に実施できるように、必要な人員体制・資機材の確保を図る。

(8)訓練の実施・事前広報の実施
本計画の実効性を高めるため、実践的な訓練を通じ、道路啓開に従事する者が地震発生後に何をどのタイミングで何に留意して行うかといった具体的な行動について習熟しておくことは非常に重要である。従って、平時から南海トラフ地震の発生を想定した実働訓練・情報伝達訓練等の各種訓練を関係機関(国、地方公共団体、民間企業)の連携・協力のもとに定期的に実施し、平時から防災関係機関等との横断的連携強化を図ることで、現場対応力の向上を図る。また、訓練の実施を通じて得られた知見や課題等を踏まえ、本計画及び訓練の内容・方法について必要な見直しを行う。また、災害対策基本法の改正により、緊急通行車両の通行を確保するため、車両等について道路管理者が自ら移動等の措置を実施することができることとなった。これを踏まえ、定期的な訓練やホイールローダ等による車両撤去など新たな手法への重点的・技術的訓練等を通じ、障害物の迅速な撤去についても技能の習熟を図る(写真- 1)。

写真1 九州地方整備局等の防災実働訓練の様子

地震発災時の心得やとるべき行動等については、平時からドライバーへのチラシやパネル等を通じ周知徹底を図り、道路啓開への協力について理解を求めていくこととする。道路管理者は、被災地域内の交通負荷を可能な限り軽減するために、発災時に高速道路上を走っている車両を遠方の出口へ誘導することがある旨等について、あらかじめ利用者に理解と協力を求める。また、発災後は適切にこれらの誘導等を促すなど、被災地全体の交通制御を見据えた現地体制、迂回路の設定や情報収集・提供装置の確保など、誘導方策等についてあらかじめ検討する。

4.発災後の対応
(1)被災状況の把握・情報集約・共有
各道路管理者は、発災後直ちに体制を立ち上げ、緊急輸送ルートの道路啓開調査を開始し、速やかに被災状況を把握するものとする。
壊滅的被害が発生しているエリア等(道路啓開調査が困難な路線・区間)では、ヘリコプター等を活用し、上空から被災状況の確認を行う(図-7)。

図7 ヘリコプターによる調査【東海岸線被災状況】

早期の道路啓開のため、バイク・自転車隊・AI webカメラやUAV(無人航空機)、ETC2.0及び民間プローブデータなどの交通情報等や民間が保有する情報を活用する。また、情報集約ツールとして総合防災情報システム(SOBO-WEB)の活用を行う。
把握した道路被災状況は今後の道路啓開活動における情報として一元的に集約することが重要である。(各道路管理者から九州地方整備局へ、市道については各県により情報を集約し定期的に情報提供)
情報は随時、各道路管理者、関係機関等に情報共有するものとする(図-8)。

図8 道路啓開情報収集の主な流れ

(2)道路啓開の実施内容(図-9)
【啓開調査】
・道路啓開調査では緊急通行車両の通行可否の確認を優先するとともに軽微な補修を実施。
【啓開作業】
・道路啓開調査の結果、迂回路(別路線)も確保されない場合は、道路啓開作業を実施し、緊急通行車両の通行を早期に確保。
・道路啓開作業は、1車線確保を基本。(離合場所は適宜設置)但し、中央分離帯設置区間は、上下毎1車線を基本。
・道路啓開作業や作業後においては必要に応じて、カラーコーンや看板の設置等、一般車両の進入を防止する措置を警察と協力のもと、道路管理者が適切に実施。

図9 発災直後・道路啓開実施後の道路状況イメージ(片側1車線道路)

(3)関係機関との連携(図-10)
九州地方整備局は発災後速やかに現地情報連絡班(リエゾン)を各県、政令市、市町村等へ派遣し、九州地方整備局と地方公共団体相互の情報共有及びTEC-FORCEや災害対策車両等の派遣、支援要請の調整を行う。
道路管理者と関係機関は連携し、各県・政令市の災害対策本部と九州地方整備局との密な情報共有等を図る。

図10 道路啓開に関する関係機関との情報共有・調整フロー

(4)発災後の広報の実施
発災後、各道路管理者は通行可否情報を以下の方法等によって周知を行う。
①道路情報板による情報提供
②日本道路交通情報センターを活用した情報提供
③ホームページ・記者発表
④ SNS 等
⑤立て看板等

5.おわりに
本計画では、南海トラフ地震の発生に際し、関係機関との情報共有・必要な調整のもと、各道路管理者が道路啓開を迅速に進めるための基本的な考え方、具体的方法や役割分担等についてまとめている。しかしながら、本計画はあくまで現在の想定をもとに作成したものであることや、実際の災害時の具体的なオペレーションについては更に詳細な検討が必要であることから、実際の災害の様相に合わせ、本計画を基本としつつも臨機応変な対応が求められる。従って、現在の備えだけでは十分ではないことを肝に銘じ、計画の実効性をさらに担保していくために、今後とも本協議会を活用し、連携・協力体制を構築するとともに、以降、改正(令和7年4月16日施行)した道路法第22条の3に基づく「道路啓開計画」の策定にあたり以下の事項について継続的に取り組むこととする。

①情報伝達、情報共有の手段が平時のみならず災害時においても確保できるよう検討。
②各県建設業協会と連絡系統、班体制、役割分担、連携方法を検討。
③ガレキ置き場の選定。
④道路管理者は休日や深夜など、あらゆる時間帯で対応できる体制構築を検討。
⑤訓練を通じ、検証・改善を行うことで計画のスパイラルアップを図る。
⑥平時より道路啓開を行う各道路の被災リスクを把握し、関係機関と共有を行う。
⑦海路・空路を活用した道路啓開を行う場合の上陸地点の候補地点の抽出、検討を行う。

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