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筑後川におけるネイチャーポジティブの取り組み
~河道掘削における環境の創出と樹木伐採による利活用への配慮~

国土交通省 九州地方整備局
筑後川河川事務所
久留米出張所 出張所長
塚 本 太 一

国土交通省 九州地方整備局
筑後川河川事務所
片ノ瀬出張所 出張所長
大 島 正 一

キーワード:筑後川、巨瀬川、河道掘削、ネイチャーポジティブ、環境創出、利活用

1.はじめに
筑後川は、熊本県阿蘇郡瀬の本高原に発し、巨瀬川などの多くの支川を合わせながら有明海へ注ぐ幹川流路延長143km、流域面積2,860km2の九州最大の1級河川である。筑後川流域は毎年のように記録的な豪雨に見舞われ、令和5年7月の豪雨では巨瀬川の中央橋観測所は観測史上1位、筑後川の瀬ノ下水位観測所は観測史上2位の水位を記録し、特に巨瀬川流域は越水等による甚大な被害が発生している。このような中、少しでも出水への被害軽減を図るため、筑後川、巨瀬川では河道掘削などの治水対策を進めている。また、広大な河川敷の河岸の一部は樹木が繁茂し、流下阻害等の懸念もあり樹木伐採を行っている。筑後川や巨瀬川ですすめている河道掘削等では、生物多様性の損失を食い止め、反転させ、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」の考えを取り入れ、樹木伐採では利活用に配慮した取り組みも行っている。今回これらの紹介を行うものである(図-1)。

図1 筑後川流域図

2.筑後川河道掘削及び樹木伐採について
(1)筑後川砂州掘削(筋堀・環境保全)
筑後川31k500~33k600 付近の区間は河道内3箇所発達傾向(堆積傾向)の砂州が形成されていた。(図-2)少しでも流下断面を確保するため、施工性等考慮し起工測量時の水位(平常時水位相当)から0.05mまで一律砂州を切り下げる掘削を行った。砂州は湾曲内岸側が流れも遅く、出水等により再度砂州が発達しやすい環境にあるため、砂州部へ継続的に水を流入し、土砂が下流へ流れることを期待して、砂州の上流端付近から幅10~15m、深さ0.5mの直線の掘削(筋堀)を実施した。この筋堀は平坦な砂州部や澪筋部とも水深が異なった新たな水域で、巨大なプールのようなワンドとしての生物多様性の機能も期待している。
また、排水樋管からの流末の水が砂州と河岸の隙間を緩やかに流れ、多様な環境が形成されていると推察される箇所は保全する形で掘削を実施した(写真-1、写真-2)。

図2 砂州掘削箇所

・砂州① _ 筋堀_ 幅約10m、延長約280m
・砂州② _ 筋堀_ 幅約10m、延長約360m
・砂州③ _ 筋堀 _ 幅約 15m、延長約 300m

写真1 砂州②掘削箇所(着工前)

写真2 砂州②掘削箇所(完了後)

(2)筑後川砂州・河岸掘削(筋堀・ワンド)
筑後川左岸39k500~40k200付近の区間は、砂州と河岸掘削を実施している。幅10mの筋堀を実施、筋堀上流端については、筋堀への水の導水効果を期待し、延長約20mの筋堀水制(仮称)の整備を行った。河岸掘削は施工ボリューム等考慮し勾配2 割とし、河岸掘削下流端は河岸を大きく切り込み、筋堀と連結させたワンドを整備した。ワンド入口幅約20m、奥行き約65m、ワンドの中は筋堀の深さ0.5mより約0.2m~0.3mさらに深みを設け、多孔質な環境を意識し、水際に玉石を並べた。ワンドの勾配もエコトーンに配慮し最大4 割の緩やかな勾配とした(図-3、写真-3、写真-4、写真-5)。

図3 掘削イメージ

写真3 ②砂州・河岸掘削削(着工前)

写真4 ②砂州・河岸掘削削(完了後)

写真5 ワンド状況

砂州周辺は礫河原が見られ、掘削にあたり、極力礫を残すため、BHのアタッチメントをスケルトンに変え、ふるい分けした礫を河岸に敷き均し、礫河原の保全に努めた(写真-6)。

写真6 筋堀水制(仮称)・礫敷き均し状況

(3)筑後川樹木伐採(利活用配慮)
筑後川右岸30k300~30k800 付近は河岸付近に樹木が繁茂しており、右岸側の宮ノ陣地区においては、地元の市民団体等により高水敷の利活用をすすめる取り組みが少しずつ見られているが、「樹木で川が見えない」といった声も聞かれ、流下阻害の懸念もあり、樹木伐採を実施した(写真-7)。樹木伐採後、R6年12月に堤防天端には間伐竹を活用したツリーの設置、堤防法面は延長約200mのライトアップ、この風景をバックにマルシェ・BBQ などの賑わい創出の実証実験のイベントが地元主催で行われた(写真-8、写真-9、写真-10)。

写真7 樹木伐採後前後

写真8 ツリー写真-9 ライトアップ

写真10 イベント状況

(4)取り組んでみて
砂州部の掘削は、地形等の関係で再堆積が懸念されるが、少しでも筋堀を実施したことで再堆積防止や新たな水域として河川環境の多様化に繋がることを期待したい。ワンド内の玉石や筋堀水制(仮称)は施工業者の提案で実施しており、筋堀の向き等についても「どの向きにしたら水が流れやすくなるか」など施工業者の方と意見交換しながら掘削を行った。施工業者皆様の熱意ある協力に感謝申し上げるとともに、今後も「ネイチャーポジティブ」を意識した事業を進めていきたい。樹木伐採が流下阻害対応だけでなく、川が見える景色に繋がり、そのことで地元の方々の賑わい創出への意欲向上に寄与でき改めて良かったと感じている。今後の継続した賑わい創出を期待したい。

3.巨瀬川ハード対策に伴う環境の創出
(1)令和5年7月出水後の河川整備の加速
令和5年7月豪雨により甚大な被害が発生した巨瀬川流域において、強靱な地域づくりを目指すための対策として、巨瀬川流域治水推進会議により「筑後川水系巨瀬川流域 緊急治水対策プロジェクト」の実施計画が策定され、3つの柱を掲げ、概ね5ヶ年計画として各種治水対策の推進が加速されることとなった(写真-11)。
 ①氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策
 ②被害対象を減少させるための対策
 ③被害の軽減、早期復旧・復興のための対策

写真11 令和5年7月豪雨(巨瀬川流域浸水状況)

(2)河川整備と共に環境の創出
河川環境の創出にあたっては、施工の前段として動植物の生息・生育環境に対して、アドバイザーの意見を聴取した上で、施工イメージを考えることとしている。
今回、これまで実施されてきた治水、環境、周辺地域のくらし・歴史との調和に加え、河川工事を契機に更なる良好な河川環境の創出(ネイチャーポジティブ)をめざしたコンセプトを巨瀬川づくり構想に盛り込み、多様な水際環境の創出を目標に掲げ、環境創出に取り組んでいる。

(3)環境創出の取り組み事例
①巨瀬川7k600付近
当地区においては、築堤工事に併せて施工に際し設置した河川内工事用道路を撤去する際に単一な河川とならないよう、ワンドの形成や自然石の配置、施工において瀬替えを行った流路を分流として存置する工夫などを試みた(写真-12、13)。

写真12 灰塚地区(施工前)

写真13 灰塚地区(施工後)

②巨瀬川8k200付近
当地区においては、二枚貝(産卵母貝)の保全を試みるため、施工における瀬替え時の土砂を仮締切前面に仮置きし、施工後に水際へ再び戻す試み、旧窪地を再現するワンドの形成や砂州部分を存置し巨石等の置き石による水際環境への配慮、中州に凹凸部を設け次期出水等の影響により自然な湿地環境が創出を促す状態づくりなどを試みた(写真-14、写真-15、写真-16)

写真14 志塚島地区(施工前)

写真15 志塚島地区(施工後)

写真16 二枚貝保全のイメージ

③取り組んでみて
今回の施工にあたっては、施工業者にアドバイザーの意見を踏まえたイメージを伝え、主体となって考えてもらい、発注者はその考えを尊重し今回の環境の創出を試みた。これから施工後初の出水期を迎え、今回手を加えた環境の創出が無くなるものあれば、維持されていくもの、攪乱により新しく創出されていくものもある。その繰り返しにより巨瀬川本来のなりたい自然な形に落ち着くのが楽しみであり、その経過を見守っていきたいと考える。
また、今回の環境創出にあたり、各施工業者さんもこれまでの築堤護岸工事などに加え、施工に伴う環境に対する意識向上にも繋がったのではないかと思われる。

4.おわりに
取り組みにあたり、学識者、施工業者、現場監督関係者等携わった方々皆様に感謝申し上げる。

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