~遠隔操作による無人化ICT施工~
宮崎県 県土整備部
砂防課 主査
砂防課 主査
三 浦 正 大
キーワード:鹿野遊谷川、災害関連緊急砂防事業、令和2年台風第10号
1.はじめに
2級河川耳川水系 鹿野遊谷(かなすびたに)川は、宮崎県北西部に位置する東臼杵郡椎葉村に流れる渓流です。
椎葉村は、総面積の約96%が山林であり、宮崎県の中でも山間部に位置する「日本三大秘境」の一つにも数えられる自然豊かな中山間の村です。
2.被災状況
2020年9月の台風第10号の影響により鹿野遊谷川の流域内の山腹が崩壊し土石流が発生、下流域の人家1 戸が土石流に巻き込まれ全壊し、死者4名、負傷者1名の被害が発生した。
土石流が発生したメカニズムとしては、台風当時、椎葉村の雨量観測所で総雨量576mm、最大時間雨量39mmの降雨が発生したことに伴い、地下水が集中し、斜面中腹部の風化土が崩壊、その後上部斜面にまで表層崩壊が拡大し、崩壊した土砂が土石流となり流出したと考えられる。
なお、土石流は下流域を流れる十根川の対岸にまで達していた(図- 1、写真- 1)。


3.工事の概要
●災害関連緊急砂防事業
砂防堰堤1 基(H=11.5m L=26.3m V=965m3)
●特定緊急砂防事業(災害関連フォロー)
山腹工(現場吹付法枠工 A=8,803m2、
アンカー工 N=267 本、
モルタル吹付工 A=1,292m2)

4.砂防堰堤施工時の安全対策
現場は、災害関連緊急砂防事業で砂防堰堤1基、災害関連フォローで山腹工を整備する計画であり、先行して渓流の最下流域に砂防堰堤を整備することにしていたが、渓流の平均河床勾配は1/1.6 と非常に急勾配であること、また、渓流内には山腹崩壊により発生した崩壊土砂が堆積している状況であることから、施工箇所は非常に危険な状態であった。
このため、作業員の安全確保が重要な課題であったことから、以下の対策を講じた。
(1)仮設の落石防止網工設置
施工箇所の10m程度上流域に仮設の落石防止網工を設置し、落石等への防止対策を講じた。
(2)土石流センサーネット設置
施工中の突然の土石流や落石が発生した際に作業員が避難できる対策として、落石等によってセンサーネットが突き破られた場合に緊急警報と赤色回転灯で危険を知らせる仕組みの土石流センサーネットを砂防堰堤施工箇所より20m程度上流域に設置した。
(3)不安定土塊の除去
渓流内に堆積している不安定土塊を、急斜面を自在に移動し掘削することが可能なクライミングバックホウを使用して除去した(写真- 2)。

(4)遠隔操作による無人化バックホウでの施工
土石流や落石が発生した際に作業員が被災することがないよう、作業手法について検討した結果、掘削等の作業の際に作業員が渓流内に立ち入らなくて済むように、遠隔操作で施工できる無人化バックホウの使用を検討した。
ただ、現場着手時の機種では遠隔操作での施工は可能であったが、マシンガイダンスシステムが搭載されたICT施工が可能な機種がなかったことから、丁張り設置時やバックホウ作業時に作業員が渓流内に立ち入って作業する必要があった(図- 3)。

このことから、作業員が渓流内に立ち入ることなく安全にバックホウ作業ができないか検討を行った。
その結果、マシンガイダンス搭載バックホウのICTモニターを外部のタブレット等で見る事ができれば、遠隔操作でのICT施工が可能ではないかと考え、バックホウ室内にICTモニターを写すためのカメラを設置し、ICTモニターに照準をあわせ、ネット回線を使用してタブレットで見られるようにした。
しかし、以下の問題点が確認された。
【問題点1】
山間部でネット環境が悪く、数秒~数分単位で映像遅延が発生、最悪フリーズすることもあった。
【問題点2】
バックホウの振動によりカメラが傾きICTモニターを30 分以上捉えられない状況があった。
また、カメラの角度調整のため作業員が現場内に立ち入る必要があった。
以上の問題を解決するために更に試行錯誤を繰り返し行い、また同時に建設機械リース会社にも協力を要請し検討を重ねた結果、外部タブレットにICTモニターの画像を直接映し出すことに成功した。
その結果、映像遅延もほとんどなく、外部のタブレットでICT画面をクリアに見ることができ、三脚にタブレットをセットし、オペレータの任意の立ち位置でICT施工が可能となった。
この技術を「どこでもICT」と名付けた(図- 4)。

このことにより、本当の意味での無人化施工を実現することができた
また、この技術を活用することで、安全性の向上だけでなく、丁張り設置の手間が省けるなど、生産性を向上させることもできた。
(5)労働基準監督署との検討会の実施
今回開発した遠隔操作バックホウを使った作業は、初めての経験になるため、作業手順書を新たに作成する必要があった。
作業手順書の作成にあたり、延岡労働基準監督署の監督官を現場に招き、合同で遠隔操作バックホウ使用時の作業手順等に関する検討会を実施し、その検討会で得られた結果を基に作業手順書を作成し、現場内の作業員への周知会を実施した。
検討会で決まった事項の一例として、遠隔操作時にオペレータが現場全体を俯瞰して見られる安全な位置にステージを設けた(写真- 3)。

これらの安全対策を講じたことにより、作業員の事故等が発生することなく、安全に砂防堰堤を完成させることができた。
5.おわりに
今回の砂防堰堤の整備を事故等なく安全に完成させることができたのは、受注者である旭建設株式会社の工事関係者の皆様のご尽力の賜です。
また、本稿作成にあたり、資料や情報提供をいただくなど工事関係者の皆様に多大なるご協力を賜りました。
この場をお借りして感謝申し上げます。
