一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
人手不足に対応した工事施工の今昔
~働き方改革シリーズVol. 2~

国土交通省 九州地方整備局
企画部 技術管理課 課長補佐
藤 岡 慎 介

キーワード:働き方改革、生産性向上、意識改革

1.はじめに
建設業の働き方改革は待ったなしの課題である。
全国の建設業就業者数は、平成9年をピークに減少に歯止めがかからず、高齢化が進行している。60歳以上の技能者は建設技能者全体の約4分の1を占め、10年後にはその大半が引退することが見込まれ、建設業では次世代への技術承継の課題や企業経営の持続可能性が危ぶまれる状況となっている。
令和6年6月に改正された、第三次・担い手3法においても、「インフラ整備の担い手・地域の守り手である建設業等がその役割を果たし続けられるよう、『担い手確保』・『生産性向上』・『地域における対応力強化』」を目的に改正がなされた。
これら喫緊の課題の解消に取り組むには、従来の工事に比べ施工体制や管理・手法や考え方などの変革が伴うことから、受発注者双方で意識を変えていかなければ、適切な取り組みに繋がらない。
このため、従来から継承されている意識を変えるための新たな取り組みを紹介する。

2.人手不足に対応した主な取り組み
(1)プレキャスト製品の活用
<これまで(昔)>
・建設現場ごとの一品受注生産であり、現場打ち施工が主流。
・技術面やコスト面を重点に比較し設計を実施。
・安価となる現場打ち施工にて積算。
≪これからは(今)≫
・コンクリート工の効率性を高める手法の一つとして、プレキャストの活用は有効。
・直接工事費だけではなく、仮設費用等も考慮したコスト比較。プレキャスト化による工期短縮などの効果も含め価値の高い工法を採用。
・九州では、中型までのプレキャスト製品で運搬可能なものは、原則、二次製品を採用としている(工事の適正執行のための勘所に記載)。
ただし、現場・運搬条件等によっては、採用出来ない場合もある。
・大型プレキャストの場合は、VFM比較により有利であればプレキャスト製品の導入が可能。
【期待される効用】
省人化・施工性・安全性・工期短縮など

図1 工法選定フロー

図2 VFMの概念

(2)控え35㎝大型ブロックの活用
<これまで(昔)>
・道路土工-擁壁工指針で、既往の被災事例等の経験を尊重し、積みブロックは目地がそろわない谷積とする記載あり。
・これまで、多くの現場では間知ブロックを谷積みで施工していた。
≪これからは(今)≫
・これまで調査研究が進められ、積みブロックの構造特性確認マニュアル(案)としてまとめられた。
・ブロックと胴込コンクリートの一体化しやすい形状、上下ブロックの接合部における胴込コンクリート断面積の割合や、施工時の胴込コンクリートの打ち継ぎ位置を留意することで、有意な差は無いことが確認されている。
・これらマニュアル等が改訂されたことを参考とし石工等の技術者不足も踏まえ、控え35㎝の大型ブロックの活用を促している。
【期待される効用】
省人化・施工性・安全性・工期短縮など

写真1 積みブロック形式(土木研究所・全国土木コンクリートブロック協会資料より引用

(3)技術者の交代要件
<これまで(昔)>
・監理技術者の交代は、下記の要件を満たせば交代を可能としていた。
①病気・死亡・退職等やむを得ない場合
②受注者の責によらない契約事項の変更(工期延期)を伴う場合、交代が合理的な場合
≪これからは(今)≫
・従前に加え、九州では工程上一定の区切りと認められる場合(品質・出来形管理が必要な工種の完了)も可能と明記(工事の適正執行のための勘所や特記仕様書等に記載)。
【期待される効用】
働き方など

図3 途中交代イメージ

(4)書類限定検査
<これまで(昔)>
・工事に必要な一連の書類等を、技術検査官は検査にて確認。
≪これからは(今)≫
・監督職員と技術検査官の重複確認を廃止徹底と受注者における説明用資料等の書類削減を行い、技術検査官による書面検査の効率化を図る。
・技術検査官の検査時の書類44 種類を10 種類に書類を限定し検査することを標準化。
【期待される効用】
省人化、時間外労働の縮減・働き方など

図4 書類限定検査10種類

(5)工程管理と適切な変更
<これまで(昔)>
・数量の増加や一時中止がある場合に限り、工期延期を実施していた。
・このため、工期の遅れをフォローアップするため、現場では班数や作業員を増加するなどの対応を行い、工期末までの企業努力を強いられていた。
≪これからは(今)≫
・工事監理連絡会等にて、工事工程のクリティカルパスを受発注者にて確認し共有を図る。
・降雨等による受注者の責によらない要因でクリティカルパスに遅れが生じる場合は、工期を適正に変更できるものである。
・受注者の段取り不足等は当然対象とならない。
【期待される効用】
働き方など

図5 クリティカルパス共有と適正な変更

(6)賃金へのしわ寄せリスクの軽減等
地域の事情に応じ、適切に変更手続きを行うことで、賃金へのしわ寄せリスクの軽減や円滑な施工体制の確保に期待される取り組みも行っている。
■歩掛と現場施工の乖離の際の見積活用
小規模工事や維持修繕工事、地域特性や現場条件が厳しい現場など、標準日当たり作業量や歩掛が現場施工と合っていないことがあり現場を悩ませていた。
受注者より主任監督員への報告に加え、技術副所長等が一括して相談を受け、設計変更協議会を活用して設計変更を行うなど適切に対応する。
対応例としては、「現場の実態にあった歩掛や積算価格にて変更設計」「見積りを活用して設計変更」など適切な対応を行う。
■遠隔地からの労働者確保・資材調達
急激な需要増により工事箇所近隣だけでは労働者を確保できず、遠隔地からの労働者で対応せざるを得ない場合がある。
この場合、必要となる赴任旅費や宿泊費等の間接工事費について、標準的な積算基準を上回って必要になる分を設計変更で対応する。

図6 間接費の変更

建設資材についても同様に、地域によっては近隣地域から調達している砕石等の資材の供給不足が生じる恐れがあり、不足分を他地域から調達した場合は、他地域から工事現場への輸送費がかかり、積算価格と乖離が生じる。
この場合、他地域からの調達により変更せざるを得ない場合には、設計変更を行う。

図7 間接費の変更

3.さいごに
今回紹介した項目の他にも働き方改革などに対する取り組みが進められている。
これまでの建設プロセスや主義・風土から、昨今の建設業の課題を踏まえ従前からのプロセスや慣習・思い込み・しがらみなど、受発注者ともに一人ひとりが意識を改変しなければ、将来の建設業界の果たせる役割が持続されない。
これらは一気に解決できる訳ではないが、このような取り組みを現場で出来るものから着実に実践していくことが重要となる。
また、これらの働き方改革は、建設業全体の課題であり直轄工事に限ることではない。このことから、まずは国により取り組みを加速化・牽引することで、自治体を含む公共工事発注機関の意識改革に繋げていきたい 。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧