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若松大橋の耐震補強について

長崎県 土木部 道路維持課
市町道・環境班
主任技師
岩 永 拓 也

キーワード:若松大橋、耐震補強、STEP工法

1.はじめに
若松大橋の位置する長崎県新上五島町は、五島列島の北部(図-1)に位置し、7 つの有人島と60 の無人島からなり、大部分が西海国立公園に指定されており、山と海の自然豊かな町である。また、同町友住郷にある頭ヶ島天主堂(かしらがしまてんしゅどう)は「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産として平成30年に世界文化遺産に登録された。
主要地方道若松白魚線は、同町若松郷(若松島)(図-2)を起点とし、同町宿ノ浦郷(中通島)に至る4.7kmの路線である。
若松大橋は、当路線において、平成3年9月の開通以降、中通島と若松島の経済・福祉・行政などを支える重要な役割を担っている。
また、当路線は第1次緊急輸送道路に指定されており、地震発生の際、避難・救助をはじめ、物資供給等の応急活動のために、緊急車両の通行を確保することが求められている。
このような中、若松大橋(図-2)は、長崎県の定める橋梁長寿命化修繕計画に基づき、第一段階の対策として、県内で発生が予想される最大の地震動(想定波)に対する対策を行っている。
本稿は、若松大橋下部工の耐震補強工事にて実施する巻立てコンクリートの施工にあたり、仮締切工のSTEP工法について述べるものである。

図1 位置図

図2 若松大橋位置図

2.橋梁概要
橋梁名:若松大橋
所在地:南松浦郡新上五島町若松郷
橋 長:522m(トラス部分は472m)
上部工形式:3径間連続トラス橋、単純鋼鈑桁
下部工形式:橋台 逆T式、橋脚 RC壁式橋脚
基礎形式:橋台 直接基礎、橋脚 鋼殻ケーソン

3.工事概要
橋脚補強:N=2基 
P 1橋脚:コンクリート(RC)巻立て V=109m3
     仮締切 N=1式
P 2橋脚:コンクリート(RC)巻立て V=123m3
     仮締切 N=1式
工期:令和3年3月19日~ 令和7年3月25日
工事金額:約13.1 億円 
    ※ P1→ P2 の順で施工

4.工事における課題
今回、海上に設置されてる橋脚2基をコンクリートで巻立てる(図-3)にあたり、橋脚の周囲をドライな状態にする必要があり、海水の流入を防ぐための仮設工(仮締切)が必要となった。
施工に際し、仮締切内へ大量の海水が流入した場合、作業員の人命に関わるため、外部からの海水を確実に締切るための止水処理が重要な課題となる。
なお、施工に際し、下記に示す現場条件のとおり、国内でも事例が少ない施工となった。
(現場条件)
①潮の干満時に発生する潮流が速く、安定性を確保することが課題
P1:2.0m/s、P2:3.0m/s
②海面から橋脚の基礎天端までが深く、鋼矢板の圧入等が困難
P1:約11.3m、P2:13.7m
上記課題に対し、各種ある仮締切工の中から適応可能な2つの工法の比較検討を行った。
1つ目は、このような条件下で一般的な工法であるNDR(Neo-Dry Repair Method)工法である。NDR工法は工場等で制作した鋼製函体を用いた鋼製締切工法であり、函体を現地へ運搬・曳航し据え付けることで、ドライな空間を確保することができる工法である。
もう一方の、同じ鋼製締切工法である『STEP工法』においても、潮流3.0m/s および海上波浪に対応が可能であり、近年事例が増加している工法である。
若松大橋の耐震設計以前に実施した生月大橋の耐震設計にて、STEP工法が採用されており、若松大橋についても、NDR工法とSTEP工法が比較検討され、当工法に使用する部材の一部を転用することで、経済性に優れることが確認されたため、STEP工法を採用した。

図3 若松大橋 全体一般図

5.STEP工法について
STEP(Steelpanel Temporary Enclose by Pressinstyle)工法の特徴は、空頭制限の厳しい場合に有効な仮設工法である。
STEP工法は、図-4 に示すとおり分割された締切鋼板(鋼製パネル)を橋脚の周りに組み立て、橋脚のケーソン基礎天端に沈設し、圧入ジャッキによりケーソンと仮締切鋼材との密着を促す。水中不分離コンクリートなどによる止水処理後、締切鋼板内を排水してドライな作業空間を確保する工法である。

図4 STEP工法概要図

STEP工法は図-5 に示すように、仮締切鋼材と反力ブラケットに大別される。仮締切鋼材はドライな空間を確保するため、海水を締め切る部材であり、反力ブラケットは締め切り後に、仮締切鋼材を下向きに加圧するための鋼材である。

図5 STEP工法施工手順

6.仮締切に関する当初設計
4.で述べたとおり、作業員の人命に関わるため、止水処理が重要な課題となり、当初は止水処理に関して、下記のとおり設計を実施した(図-6)。
①締切下端部を水中不分離コンクリートにより止水処理を行う。

図6 端部止水処理図(当初)

7.仮締切に関する設計変更
現地精査の結果、下記課題が判明したため、施工方法の再検討を行い、P1橋脚の施工に着手した。
①水中不分離コンクリートでは、道路上から打設した場合、材料分離や、圧送管が閉塞することが懸念された。
②ケーソン基礎天端に不陸があり、仮締切鋼材との接地面に隙間が生じることが懸念された。
③締切側及び海側の下端部に隙間が生じ、そこからの海水の流入が懸念された。
これらの課題に対し、再検討の結果、下記のとおり対策を講じた(図-7)。
①水中不分離モルタルに変更し、材料分離及び管閉塞を防いだ。
②締切鋼板下端部にゴム板を設置し、接地面が密着するように加工を行った。
③両側の下端部に耐水性エポキシ樹脂、水中型枠を設置し、海水の海側からの流入及び締切側への漏水対策を行った。

図7 端部止水処理図(変更)

8.設計変更を行った結果
前述の設計変更を踏まえ止水処理を行ったが、止水処理後、ポンプにより締切内部の海水を排水していたところ、水位が低下しない事象が発生したため、ポンプを増設して対応をおこなった。後続作業として、既設躯体の鉄筋探査などが控えていたが、現地に立ち入れるようになるまでに排水の日数を17日間要した。なお、P1の排水後の現地確認後、水中不分離モルタルの上面にクラックが生じており、そこからの漏水の可能性もあった。
そのため、P1より条件が厳しくなるP2 の水中不分離モルタルについては、図-8 に示すとおり止水処理時における水中型枠設置時に鉄筋を環状に設け、外からの圧力に対する対策を行ったところ、クラックの発生を抑制でき、より確実な止水処理ができた。なお、現地立ち入り可能までに要した排水日数はP1同様17日間に留めることができた。

図8 端部止水詳細図

9.終わりに
今回の工事は、海水を締切り、締切内部での作業となるため、万が一大量の海水が流入した場合、作業員の命に係わる重大な事故につながる。今回の様な現場条件下で、いかに安定して安全な空間を確保するかが大きな課題であった。施工業者、コンサルを交え、入念な検討を行い、P1の施工が無事完了したことは大きな成果である。引き続きP2 も安全に工事を進めていきたい。
また、前述のとおり、今回の工事後、仮締切部材の一部を生月大橋(長崎県平戸市)の耐震工事にも転用(図-9)し、同様にSTEP工法にて施工する予定である。今回現場で生じたことは、生月大橋でも生じる可能性があるため、甚だ僭越であるが、この工事が生月大橋の工事の一助となれば幸いである。

図9 若松大橋と生月大橋<

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