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ダム管理の高度化運用に向けたドローン巡視の試行に向けて

国土交通省 九州地方整備局
河川部 河川管理課
ダム管理係長
新 山 幸 宏

キーワード:ダム管理、DX

1.はじめに
ダムの高度化運用に向けた取り組みとして、直轄管理ダムにおいて、DX化を進めているところです。現在、平常時の貯水池・施設管理及び洪水調節開始前の巡視を職員等が警報車で行っています。
この対応を新型ドローンと言われるVTOL 無人航空機(垂直離着陸)を活用し、上空から監視することで、従来のダム施設及び貯水池の巡視で確認できていた項目に加え、ダム貯水池の斜面崩落や土砂移動の状態把握や、更にはゲート放流前巡視の自動化等によるダム管理の高度化をめざしている。今回は、試行的に松原ダムにおいて試行的な巡視に向けた取り組みについて、ご紹介いたします。

2.松原ダムの概要
今回、試行を実施する松原ダムは、筑後川は九州北部の福岡県、佐賀県、大分県、熊本県にまたがり、松原ダムは、筑後川河口より筑後川本川の約94k地点の大分県日田市に位置している。(下筌ダムは、松原ダムより約5km上流(支川津江川)に位置する。)

図 九州地図

図 筑後川流域図

写真 松原ダム

図 松原ダム諸元

3.警報・巡視区間
洪水時には、松原ダムのゲート放流前の警報、河川巡視として約17km(松原ダム管理支所~玖珠川合流部)を警報車にて実施している。
・松原ダム管理区間 筑後川本川の直轄管理区間及び 支川津江川を下筌ダムまで(図- 1)

図1<

4.DX出張所
出張所は現場の最前線であり、「公物管理」 と「工事監督」等を実施している。
職員数が数名の出張所は、少人数でもあり業務の効率化が不可欠となっている。
出張所の規模にもよるが、数名の職員のほかに委託技術員が常駐しており、少ない職員で効率よく委託技術員や施工業者等と意思疎通をはかることが求められている。
そこで先端技術等を活用した新たな働き方をモデル的に実践していくことをめざしている。
これまで一般的な通信機器を用いた効率化を各出張所で進めてきているが、少数の職員で多くの委託技術員や施工業者と意思疎通をはかって「公物管理」、「工事監督」を実施するためには、高度な通信機器等を導入することによる更なる効率化が必要である。
現場条件の異なる複数の出張所において高度な通信機器等を試行的に導入し、全国展開のための先行事例とすることに加え、今後の出張所の勤務体制の在り方の検討にも用いる。
若手職員に現場管理を学ばせるための教育用、若年者がやりがいを持てるような環境(VRキットや、ドローン、執務室の改善)等としての整備も必要と考えている。今回は、その1つの取り組みである。

5.試行巡視計画
松原ダムのゲート放流前の河川巡視として約17km(松原ダム管理支所~玖珠川合流部)をVTOL 無人航空機(垂直離着陸)により試行区間とした。
・松原ダム貯水池内の法面崩落などの災害において、VTOL 無人航空機による崩落箇所の点群データ入手により、崩落箇所の被害状況把握、貯水池内に崩落し堆積した土砂量の推定に利用。
・配備するVTOL 無人航空機は、長距離は、低燃費・高速で移動が可能な飛行機形態となり、詳細な調査が必要な場合は、マルチコプター形態で空中での制止や多方向への移動が可能。
・VTOL 無人航空機の機体制御及び撮影した映像等の伝送に用いる無線回線として、自営通信網K-PASS(以下、後述)を整備する。K-PASSは、河川管理用光ファイバーネットワークに接続されており、民間の無線通信網が届かない場合においても監視制御が可能となる。

写真(VTOL(垂直離着陸)無人航空機)

写真(VTOL(垂直離着陸)無人航空機)

表(VTOL(垂直離着陸)無人航空機)

無人航空機の2台配備しており、1台が故障した場合においてももう1台でリカバリーするため、2台を導入した。デザインは、九州地方整備局が所有する防災ヘリ「はるかぜ」に近いものを採用した。

写真 無人航空機本体

飛行目的に合わせ、各機器を搭載するため、機体中央部に撮影用カメラ(河川の状況確認等)、スピーカー(放流前のアナウンス等)、投光器(夜間時の巡視等)を搭載可能なものとなっている。なお、本体は、防水加工されており、荒天時でも使用なものとなっている。

写真 搭載可能機器

写真 無人航空機本体内部

各機器のうち1台のみ搭載が可能となっているため、今後試行にて搭載した機器による有効性を検証予定としている。

図 VTOL(無人航空機)のダム巡視

6.K-PASS を用いた機体制御
・K-PASS は、河川管理用光ファイバーネットワークに接続して、無人航空機との通信を行うとともに、様々な機器と無線通信が行える設備であり、現地端末の監視、制御、映像の送受信を無線通信により実施する機能も有している。
・松原ダムより下流約17kmに12 箇所 約1.5kmに1 箇所設置。
・飛行の可否を判断する風速の計測は、2 箇所に1 箇所毎に設置。
・松原ダムより上流下筌ダムまでの約6kmに3 箇所 約2kmに1 箇所設置。

○ 通信支援設備「K-PASS」(仮称)とは
K-PASS(Kokudokotsusyo – Patrol SupportSystem)は,直轄河川や直轄国道に敷設された施設管理用光ファイバ網を利用しているCCTVカメラや観測所、情報板等に無線LAN基地局を設置し、巡視する区間に無線による自営通信網を構築するシステム。

図  K-PASS配置状況

写真-(ダム堤頂部)(無線LANアンテナ)

7.フライト環境アシストシステム
フライト環境アシストシステムにて飛行ルート上でのイベント状況、風速、K-PASS 稼働状況を確認し、今回試行経路で一般の方が飛行する場合、フライト管理システムへの登録、他の飛行計画の確認を行い、K-PASS による無線LAN での通信を行うが通信が途絶えた場合に備え民間のLTE 通信を配置することも考えられる。
飛行前にフライト環境アシストシステムにてK-PASS 機器の状況、風速状況について確認し飛行実施の判断を行う。

システム模式図 

図 フライト環境アシストシステム 

フライト環境アシストシステム パソコン画面

フライト環境アシストシステム タブレット画面

プリフライトチェックを実施し、飛行高度、障害物・周囲との距離、緊急着陸箇所などのチェックを行い、飛行前の点検として、電源投入前、投入後、セーフティモード解除後で機体制御装置の点検を実施した。

8.今後の課題
令和6年度試行を実施し、実際の風速の条件や飛行ルート上でのイベントや他の機関によるドローン運航などの情報を収集するとともに、試行のなかで必要となった運航のための条件などをもとに、本運用においても安全な運航が行えるよう「管理運用要領」の検討を行っていく。

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