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令和4年9月の台風14号に伴う大雨により損傷被災した
球磨大橋の早期復旧に向けた取り組みについて

国土交通省 九州地方整備局
八代復興事務所
工務第二課長
重 草  通

キーワード:令和4年9月豪雨、球磨川、災害復旧、復旧検討、橋梁設計

1.はじめに
令和4年9月台風14号の豪雨により、球磨川の水位が上昇し、熊本県が管理する一般県道覚井一武線の「球磨大橋」が被災した。これによる影響は、球磨大橋の橋脚沈下、さらに車道部や歩道部では舗装面が波打った状態となり、全面通行止めまでに至るものとなった。橋梁の早期復旧が望まれる一方で、本格的な復旧(以下、本復旧)には高度な知見と技術力が必要であったことから、国の権限代行による災害復旧事業として、本復旧を実施することとなった。
本稿では損傷被災した球磨大橋について、被災状況や被災メカニズム、復旧方針の設定、橋梁形式の選定に至るまで「球磨川橋梁復旧技術検討会」(以下,「検討会」)等で検討した復旧プロセス・取り組み内容について報告する。

2.球磨川水系の流域及び橋梁概要
(1)球磨川水系について
一級河川球磨川は、熊本県球磨郡水上村の銚子笠(標高1,489m)に発し、川辺川など多くの支川と合流しながら人吉・球磨盆地を経由し,不知火海(八代海)に注ぐ、幹川流路延長115km、流域面積1,880m2の熊本県内最大、九州3番目の長さとなる河川である。

(2)球磨大橋の概要
球磨大橋は熊本県球磨郡錦町に位置する一級河川球磨川を渡河する橋長340.7m、有効幅員7.5mの橋梁であり、車道部は1957年(昭和32年)、拡幅した歩道部は1977年(昭和52年)に完成し、車道部の竣工から65年が経過した。橋梁形式は以下に示す通りであり、図-1 に橋梁概要図を示す。
【上部工形式】車道部:RC ゲルバー桁
    歩道部:ポステンT 桁(全15径間)
【下部工形式】橋台:重力式橋台、
    橋脚:壁式橋脚(車道部)
    柱式橋脚(歩道部)
【基礎工形式】車道部:ケーソン基礎、
    歩道部:直接基礎

図1 概要図

図1 概要図

3.球磨大橋の被災概要
(1)豪雨状況及び被災状況の概要
令和4年9月に発生した台風14号は935hPaで鹿児島市に上陸し、上陸後勢力を弱めながら遅い速度20km/h で九州を縦断した。これにより、九州全域で大雨や暴風、越波により長時間に及ぶ全面通行止めに至り甚大な被害をもたらした(図-2)。

図2 台風14号概要

球磨地域においても、令和2年7月豪雨に次ぐ水位となり、球磨大橋では令和4年9月19日(月)1時37分頃にP9橋脚等の沈下を確認したため、同日から全面通行止めとした(写真- 1、現在は応急組立橋により仮復旧済み)。

写真1 被災状況

(2)球磨大橋の主たる損傷状況
P9、P10橋脚の周辺地盤は台風の影響により著しく洗掘し、写真- 2 に示すように、鉛直方向に525mm(ヒンジ部で628mm)の沈下が確認されたとともに、車道部、歩道部では舗装面が波打った状態となった。また、沈下が著しいP9橋脚については、躯体のひび割れも確認された。
また、被災メカニズムの究明に向けた更なる調査の一つとして実施した3Dレーザースキャナ調査により、写真- 3 に示すように、P9、P10 の歩道部フーチングが露頭していることが分かった。さらに、潜水調査により歩道部フーチング近傍を中心に洗掘状況を目視した結果、P9橋脚歩道部のフーチングは、柱と分離し洗掘された河床の左岸側に傾斜し落下している状況であることが判明した。

写真2 損傷状況(外観確認)

写真3 損傷状況

4.橋梁形式選定に至るまでのプロセス
令和2年7月豪雨により被災した球磨川に架かる橋梁の早期本復旧に向けて設置された検討会に本橋の検討も追加し、被災原因やメカニズム、最もふさわしい復旧方針等を計2回にわたり議論した(写真- 4)。第1回目の検討会では、被災要因・被災メカニズムの推定及び再度災害防止に留意した橋梁形式選定における配慮事項等を主として議論した。第2回目の検討会では、架橋位置にふさわしい橋梁形式の選定について議論した。以降、検討会で議論をした内容について詳述する。

写真4 球磨川橋梁復旧技術検討会の開催状況

(1)被災要因及び被災メカニズムの推定
①被災要因の推定
・澪筋の移動
図-3 に示す通り、架橋位置の澪筋は洗掘を繰り返しながら、徐々に右岸から左岸方向に移動していることがわかる。平成11年頃迄に現在の澪筋の位置(P9、10 付近)となり、さらに、その後に発生した令和2年7月等の大雨による出水を受け、基礎周辺の洗堀が助長されたものと推定された。
・洗掘されやすい地盤構成  
現在の澪筋付近の河床にはDg-2層が分布する。この層は玉石混じり砂礫層であるが、不規則に細粒分(シルト~細砂分)を多く含む洗堀されやすい特異な地層とされる。図-4 に示す通り、澪筋際にあたるP8 は、Dg-2層の試験値(地中、未洗掘)と同様にシルト~細砂分を多く含むのに対し、流芯に近いP9、P10周辺は中砂~粗砂主体の堆積物(澪筋内、洗掘後)であったことからも、出水時に、P9、P10基礎周辺地盤の細粒分は流出したものと推定された。

図3 澪筋の移動

図4 河床の地盤構成

②被災メカニズムの推定
以上の被災要因をふまえ、被災メカニズムを図-5に示す通り推定した。
潜水調査の結果、上流側底版とともに歩道部基礎でも洗掘が発生していることが判明した。そして、洗掘進行に伴い、歩道部の重量も含めて車道部の下流側基礎底面に荷重が作用することとなったため、沈下が生じたものと推定された。また、下流側へ倒れる変位を上部工が拘束し、橋脚はほぼ真っすぐ沈下したものと推定された。

図5 被災メカニズムの推定

(2)球磨大橋の復旧方針及び架橋位置
球磨大橋付近は、澪筋が経年的に変化しており、今後も現在の位置で澪筋が固定されるかは予測が困難である。また、洗掘されやすいと判断される特異な地層が既設橋脚位置に対して広範囲にわたって分布している状況となっており、今後の出水等でも同様の被災が懸念される。このため、再度災害防止を図るための対応を行う必要があった。したがって球磨大橋の復旧方針は、上記の内容に対応するため、「全橋架替」とするものとした。
球磨大橋(新橋)を含む県道覚井一武線の付替えルートは、支川の分合流部、水衝部を回避した位置で、前後交差点の接続位置の利便性等に配慮し迂回延長を極力短くする復旧方針に基づき、現橋位置の直近上流側(約40m)で復旧する計画とした(図-6)。

図6 架橋位置の検討

(3)橋梁形式の選定
①橋梁形式の前提条件
橋梁形式選定における前提条件では、桁下高は治水対策実施後の水位(計画高水位+ 余裕高相当)以上を基本として、下記に示す現行法令(河川管理施設等構造令、道路橋示方書等)に遵守して計画することを確認した。

【前提条件】
・橋台を河川流下断面内に設けない
・径間長は、河川管理施設等構造令で定められた最低基準径間長以上確保
・河積阻害率は、5%以内とする
・堤防の法先、低水路の法肩及び法先から10m以上離隔を確保(図-7)
・近接橋の特則は、5年以内の既設橋撤去を前提とするため、適用外とする
・橋脚根入れは、将来の河床変動を考慮した根入れ長を確保

図7橋脚配置の前提条件

②被災メカニズムを踏まえた橋梁形式選定における配慮事項
前述の前提条件に加え、再度災害防止に向けて、被災要因・被災メカニズムの推定を踏まえた新橋の橋梁形式選定の配慮事項を以下の通り整理した。

・洗掘されにくい橋脚配置
局所洗掘による河床変動の影響を受けないように、図-8 に示す通り、現在の澪筋を避けた位置に橋脚を配置する。

図8 澪筋を回避した橋脚配置

・特異な地盤に対応した安全・確実な支持層選定
旧橋の橋脚基礎周辺地盤(Dg-2層)は、洗掘されやすい特異な地盤構成(不規則に砂分を多く含む)であったため、橋脚周りで局所洗掘が発生したことから、新橋の支持層には長期安定性が期待される安全で確実な支持層を選定することへの配慮が重要であった。そこで、地質調査を実施し、旧橋の支持層であるDg-2層(細粒分を多く含む玉石混じり砂礫層)より更に深いGL-30m 以深のDg-4層(新鮮礫を多く含む玉石混じり砂礫層)を支持層に選定した。当該層は、十分な支持力があるとともに、図-9 に示す通り、洗掘しにくい材料構成を有する地層として評価された。また、現場密度試験等の原位置試験等も実施し、Dg-4層はDg-2層と比較し、砂層が少なく新鮮礫の割合も多いため相対的に洗掘されにくい地層であるものと評価された。
ただし、当該層の一部には不規則に軟質部(シルト層等)も確認されているため、施工時に地盤情報を的確に把握する等の配慮が必要であることを確認した。

図9 支持層の選定

・その他(護床工の設置)
今後の澪筋移動による洗掘リスクへの対策として、図-10 に示す通り、各橋脚位置の河床には護床工を設置することに配慮した。

図10 護床工(設置イメージ)

c)基礎形式の選定
橋台基礎は、流下断面外であり、当該位置の地盤条件を踏まえ経済的となる「場所打ち杭基礎」を選定した。
橋脚基礎は、旧橋付近でR4.9豪雨で最も洗堀された深さ(=最深河床高として設定)から2m以上根入れを確保した上で、支持層の一部が不規則に軟質部を含む特異な地盤であることへの対応として、施工時に地盤情報を的確に把握することが可能である「ニューマチックケーソン基礎」を選定した(図-11)。また、前述の通り、洗掘防止対策として、河床に護床工を設置することとした。

図11 ニューマチックケーソン基礎の選定

d)橋梁形式の決定
本橋の橋梁形式は、早期復旧かつ施工性、景観性、経済性を重視し、総合的に優位となった、図-12 に示す「鋼3径間連続トラス橋+鋼単純鋼床版箱桁橋」を選定した。また、架設方法は、A1 ~ P2間及びP3 ~ A2間をトラッククレーンベント工法、P2 ~ P3間をトラベラクレーン工法とした。

図12(a) 新橋の橋梁概要図

図12(b) 新橋の橋梁イメージ図

特に、図-13 に示す通り、本橋梁形式及び架設工法の採用により、澪筋部を跨ぐP2 ~ P3間を出水期中においても、トラベラクレーンにより桁を張り出しながらの上空架設が可能となるため、最も架設期間が短く、早期復旧が実現できる形式として推奨された。

図13 上部工の架設概要図

5.おわりに
令和4年9月豪雨で被災した球磨川を渡河する球磨大橋 について、橋梁の本復旧へ向け「球磨川橋梁復旧技術検討会」において、被災要因・メカニズムの究明及び新橋の復旧方針等について議論を重ねてきた。
早期復旧を目指し、早速、昨年度末から本橋の本復旧工事が始まった。河川内での施工となることから非出水期施工など制約条件もあるが、一刻も早い復旧を目指し、工事を推進したい。
これまで、検討会に参加いただいた学識経験者、国土技術政策総合研究所の皆様に深く感謝の意を申し上げるとともに、引き続きのご指導ご支援を賜りますようお願い申し上げます。当事務所としても、地域の皆様をはじめ熊本県及び錦町等と連携しながら、1日も早い復興を目指して尽力していきます。

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