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遠賀川水辺館における継続的な人材育成の取り組み
~第10回世界水フォーラムへの参加~

国土交通省 九州地方整備局
遠賀川河川事務所
直方出張所長
髙 木 耕太郎

キーワード:直方川づくり交流会、遠賀川水辺館、世界水フォーラム

1.はじめに
直方川づくり交流会(以下、交流会)は、平成8年の発足以来、遠賀川における住民参加型の川づくりに貢献するとともに、遠賀川水辺館(以下、水辺館)(写真-1)を活動拠点として地域の子ども達に河川教育を提供してきた。
その成果の一旦として、令和6年5月、インドネシア・バリ島で開催された第10 回世界水フォーラムにおいて、幼少期に水辺館で活動していた大学生ら5人の若者が参加し、世界に遠賀川の魅力を発信した。水辺館で育った若者が同フォーラムに参加するのは、今回で6回目となる。
本稿では、今回参加した若者の活躍を紹介するとともに交流会が実践してきた若者の人材育成の具体的な取り組みについても紹介する。

写真1 遠賀川水辺館

2.若者を育てる遠賀川水辺館
(1)遠賀川水辺館での活動
遠賀川水辺館は、平成16年に遠賀川の地域防災施設として直方市に開館した。平常時は防災学習や河川環境学習の場として位置づけられており、遠賀川をフィールドとした子供たち向けの自然体験学習である「リバーチャレンジスクール(年6 回開催)」をはじめとして、ビオトープでの生き物調べ(写真-2)やカヌー体験(写真-3)等の活動を実施してきた。
これらの活動に参加するのは、小学生が中心であるが、これまで川で遊んだ経験がなかった子どもたちが、水辺館での活動で初めて遠賀川の自然に触れ、川の生き物や環境に興味を持ったというケースは多く、中には高校や大学でも自然や環境に関わる分野で研究活動を続けていく者もいる。

写真2 ビオトープでの生き物調べ

写真3 遠賀川でのカヌー体験

(2)川づくりは人づくり
交流会では、活動テーマとして「川づくりは人づくり」を掲げており、ふるさとを大事にする子どもたちを育てたいという思いがある。そのため、水辺館での様々な活動に対して、子どもたちに体験させるだけでなく、その体験を通じて感じたことや発見したこと等の感想をみんなの前で発表してもらうようにしている(写真-4)。そして、それを全員で拍手して讃える。正解を求めるものではなく、自分が体験したことを人前で伝えるだけでも素晴らしいことなのだという意識が芽生える。そのような小さな成功体験を重ねて行くことで、子どもたちは少しずつ自信をつけていくと考えている。

写真4 水辺館での活動発表

また、水辺館の活動に参加する小学生の中には、中学生になるとサポーターとして後輩の指導に当たる子どもも多数いる(写真-5)。自分が小さい時に教えてもらった事を自信をもって後輩に伝える。そうした先輩の姿を見て自分もこうなりたいと頑張る。この仕組みが子どもを更なる成長に導いていくのである。

写真5 スタッフとしての指導の様子

(3)対外的な発表活動
交流会では、水辺館で活動した子どもたちに対外的な発表の場を与えることに重きを置いている。例えば、ふくおか水もり自慢(写真-6)や九州川のワークショップなどである。発表内容は、水辺館での活動の紹介、面白かったこと、発見したこと等の感想が中心であるが、本番では原稿を読まずに自分の言葉で伝えるように指導している。そのため、発表前には交流会のメンバーが付きっきりで練習を積んでいる。そうすることによって、本番でも自信を持って臨むことができるのである。
こうした発表活動では、普段の学校とは違って見ず知らずの大勢の大人たちの前で話すことになるため、通常より緊張を強いられることになるが、このような経験することによって度胸がつくというメリットがあると考える。

写真6 ふくおか水もり自慢での発表

(4)発表の舞台は世界へ
こうして、様々な場所で数多くの子どもたちが発表活動を続けていき、遂には平成18年にメキシコで開催された第4 回世界水フォーラム(写真-7)に参加を果たすのである。

写真7 第4回世界水フォーラム(メキシコ)

それ以降も、トルコ、フランス、韓国、ブラジルと参加を続け、遠賀川での活動を世界に発信してきた。遠賀川は、世界水フォーラムにユース世代を継続的に送り続けてきた唯一の流域となっている(表-1)。

表1 世界水フォーラムへの参加実績

3.第10回世界水フォーラムへの参加
(1)概要
世界水フォーラムは、3年に一度、世界中の水に関する関係者が一堂に集まり、地球上の水と衛生に関わる様々な問題を解決するための議論や展示などが行われる国際会議である。会議のほか、展示会場には、各国のブースがあり、それぞれの団体が水をテーマにしたパネル展示やプレゼン発表を行う。
今年は、インドネシア・バリ島(ヌサドゥアコンベンションセンター)で第10回目が開催され、令和6年5月20日~25日の期間中に、160か国からのべ64,000人が参加した(写真-8)。

写真8 展示会場の様子

(2)参加メンバー
遠賀川水辺館から6回目の参加となる今回は、登壇者として5名(表-2、写真-9)が参加し、サポートとして、小職と彼らを長年見守り続けてきた交流会のメンバーの一人も参加した。
小山、吉柳、吉峯の3名は今回が初参加、熊谷、坂本の両名は3回目の参加となる。今回参加した5名もこれまでの参加者と同様に、子供の頃に水辺館で活動していたメンバーであり、当時からお互いを認識していた関係でもあったため、事前の打合せや発表資料作成等については、お互いが協力してスムーズに進められた。

表2 参加メンバー

写真9 参加メンバーでの集合写真

(3)遠賀川の魅力を世界に発信
大会2日目の5月21日に、日本パビリオンのブースでプレゼンテーションを行った(写真-10)。

写真10 プレゼンテーション状況

発表では、各々がこれまで水辺館でどのような活動をしてきたか、また今後その経験をどのように活かしていきたいかをリレー形式で発表するとともに、遠賀川の魅力や水辺館の継続的な人材育成についても紹介した。
メンバーの一人は、小学生の時に水辺館の生き物調査に参加して、「タイコウチ」という水生昆虫に魅了されたのをきっかけに「タイコウチ博士」と呼ばれる程のめり込み、中学、高校でも昆虫の研究を続けていく中で、河川環境の重要性に気付いたことで、今度は自分が次世代に環境教育として伝えていきたいと話した(図- 1)。
これは他のメンバーも発表で言及していたが、自分たちは遠賀川、特に水辺館で育ててもらったという思いが強く、それを今度は自分たちが次の世代を育てる側に回って、人づくりを繋げていきたいということが共通の思いとして有り、実際にカヌーのインストラクターの資格を取得して指導にあたっているメンバーもいる。

図1 プレゼンテーション資料

発表の最後には、流域治水の推進に多世代の参画が必要で、特に若い世代の継続した人づくりが重要であることを伝え、流域治水を表す英語の一部である「by all」という言葉で締めくくった。

(4)会場の反応
今回の発表にあたっては、事前に予告のチラシを配布していたこと、また数少ない若い世代の発表ということもあって、様々な国の多くの方々に聞いてもらうことができた。英語での発表であったが、海外でも通じる「オタク」という言葉を用いて自分たちを紹介するなど、相手に伝わることを意識してプレゼンテーションを行った。
その結果として遠賀川での活動への数多くの質問(写真-11)や水辺館の継続的な人材育成への驚きと賛辞をもらうなど、今回の発表で伝えたかった遠賀川の魅力が十分に伝わったと言える。

写真11 会場からの質問

(5)メンバーが得たこと
今回の世界水フォーラムへの参加で、得られたことをメンバーに聞いたところ以下の回答が得られた。
・英語で遠賀川の魅力を伝えることができ、様々な国の人と交流ができたことが自信になった(写真-12)。
・日本の他団体の同世代のメンバーと交流し、繋がりができた。
・他国のユース世代の活動内容や現状を知ることができた。
・バリ島の伝統や文化に触れることができた。
今回参加したメンバーには、世界水フォーラムでの様々な経験や刺激を受けたことで、今後益々活動の幅を広げ、それを次の世代にしっかり受け継いでいくことを期待したい。

写真12 発表後の交流の様子

4.おわりに
水辺館は、令和6年10月で開館20周年を迎える。令和5年6月には、来館者数が50 万人を突破するなど、これまで数えきれない程の子どもたちが巣立っていき、様々な分野で活躍している。中には、遠く離れていても、たまに水辺館を訪れては自分の近況や活躍を報告していく者もいる。こうした若者の活躍や成長こそが、交流会が長年に渡って活動を続けてきた元気の源になっているとメンバーは言う。その情熱がある限り、水辺館の人材育成はこれからも続いていくであろう。

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