DXを用いた新しい災害査定
鹿児島県 土木部
道路維持課 技術専門員
道路維持課 技術専門員
下永田 通 和
キーワード:DX査定、令和5年災害、バーチャルツアー
1.はじめに
本県においては、令和5年に345件、被害総額約104 億円の災害が発生した。5月から12月にかけて災害査定が行われ、そのうち、第5・6次災害査定では、九州地方整備局の支援を受け、九州では初めての取り組みとなるデジタル技術を活用したDX査定が試行された。今回は、第5 次査定の中で大島郡瀬戸内町において実施した県工事の道路災害事例について紹介する。
【DX査定の実施状況】
第5次査定 県工事 2件(道路災害:実査)
村工事 2件(道路災害:机上)
第6次査定 県工事 2件(河川災害:机上)
2.奄美大島の災害状況
奄美地方では、令和5年6月16日から22日にかけて梅雨前線が停滞し、前線に向かって太平洋高気圧の周辺から暖かく湿った空気が流れ込んだ影響で断続的に猛烈な雨が降り、記録的な大雨となった。また、局地的な豪雨をもたらす線状降水帯も発生し、瀬戸内町古仁屋では総雨量566mmが観測され、各地で浸水や崩土、倒木による通行止の発生や一時孤立となる集落もあるなど大きな被害となった。
3.DX査定の実施
(1)実施までの経緯
この豪雨では、道路が数日にわたって寸断されるなど、被災規模が大きかったことから、ヘリコプター「はるかぜ」による上空からの被害調査やTEC-FORCE の派遣など、九州地方整備局から多大なるご支援をいただいた。そのうち、TECFORCEにおいて、ドローンによる空撮測量などが実施され、被災直後における各種データ(ドローン画像、三次元点群データ、360°カメラによる画像等)が提供されたところである。これらのデータ提供を契機として、「デジタル技術を用いた災害査定」を実施する運びとなった。
(2)査定の実施状況
今回、使用した技術は「災害手帳_ 前3」に記載の「デジタル技術の適用例」のうち【ドローンによる撮影、測量】【360°カメラによる撮影】を使用した。
査定で使用するデータは、「バーチャルツアー」と呼ばれる360°写真上で災害現場内を自由に移動できるシステム内に集約した。
トップ画面に各種リンクが張られており、点群データや工法検討資料、野帳や図面などを容易に表示することが可能である。
また、画像データとして360°カメラによるパノラマ画像を使用しており、それぞれの箇所において、画像を動かすことが可能なため、査定官、立会官の指示により、見たい箇所を様々なアングルで確認することができる。
特に今回のような高さのある法面災害など、これまで現地確認が容易でなかった箇所も画面上で長大法面の頂部や側方の崩れなどを確認することが可能となり、安全面や効率性の向上が図られたと考えられる。
また、被災後直ちに道路啓開に着手したため、崩土量の計測を行っていなかったが、初動調査時の点群データを取得していたため、撤去後のデータと重ね合わせることで、土量の算定が可能となった。
実査においては、バーチャルツアーを使用し、事前に会議室で当現場の被災状況や復旧内容について、ひと通り説明を行った後、現場で確認を行っていただいた。事前説明の段階で被災状況の概要を把握していただいていたため、現場ではスムーズに査定が行われた印象であった。
4.DX査定を終えて
DX査定については、九州初の取り組みということもあり、査定終了後、関係者で意見交換会を開催した。申請者及び設計コンサルからは、資料作成等の時間が短縮されたとの意見が多くあった。また、査定官からは、ひとつの画像でさまざまな角度の画像が確認でき分かりやすい査定ができたとの意見をいただいた。一方で、県が配備しているパソコンのスペックが低いこと、360°カメラやドローン等の機材配備が十分でないこと、これらの機材を扱える人材が少ないこと等、今後課題となる意見もあった。
今回のようにバーチャルツアーや点群データを使用する場合、技術的にも費用の面からも難易度は上がるが、360°カメラを用いた現場写真の撮影であれば誰でも比較的容易にできるのではないかと感じたところである。まずは、そういった簡単なところから取り組み、現場のデジタル化を身近に感じてもらうために説明会等を通じた周知活動に取り組んでいく必要があると考えている。
最後に、DX査定の実施にあたってご協力をいただいた九州地方整備局、関係市町村及び設計コンサルの皆様に感謝を申し上げます。