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北九州国道事務所での人材育成の取り組み
~北国スクール~

国土交通省 九州地方整備局
北九州国道事務所
技術副所長
山 下 正 昭

キーワード:人材育成、担い手確保、研修、講習会

1.はじめに
少子高齢化が進む現代社会において、生産性向上は喫緊の課題である。特に、建設産業においては、担い手不足が深刻な問題となっている。人材確保のため働き方改革に取り組みつつ、より効率的で効果的な人材育成にも力を入れなければならない。こうしたなか、北九州国道事務所では、職員の技術力向上を目的とした「北国スクール」を2012(平成24)年度より定期開催し、若手職員育成の場として効果を発揮している。
本稿では、「北国スクール」の事例を紹介するとともに、課題や今後の展望について報告するものである。

2.「北国スクール」とは
(1)職場における学びの場
北九州国道事務所は、整備局職員の間では「北国(きたこく)」と略して表現することが多い。その「北国(きたこく)」で、多くのことを学んでもらおうと始まったのが「北国スクール」である。2012(平成24)年5月を第1回として、現在に至るまで途絶えることなく続いている。きっかけは、当時の事務所長の発案によるものであった。職員は、それぞれに業務に携わる中で得た知識やノウハウを持っているものである。それを、組織全体で共有することが、職員の学びにつながるとしてスタートした。
初年度は、事務所幹部職員のみならず北九州港湾・空港整備事務所長、本局人事計画官を講師として全10回開催した。内容としては、「公務員の役割」「道路計画論」「契約手続き」「コンプライアンス」「用地事務」「交通安全対策」といった自分たちの業務に直結するものが多かった(写真- 1)。初年度終了時に、職員へアンケートを実施したところ、業務を行う中で得た知識やその経験談を講師から聞くことで、知見を広めることができ大変参考になったとの意見が多く寄せられた(図- 1)。

写真1 第1回 事務所長講話(2012.5)

図1 北国スクール2012アンケート結果

(2)テーマの変遷
前述のように、2012(平成24)年度に始まった北国スクールであるが、時間経過と共にどのようなテーマを扱うかという議論が多く展開されることとなる。人事異動で新たに北九州国道事務所に配属になった者であれば、似たようなテーマであっても新鮮味を持って受講することができるが、数年経てば同じ話は聞く必要も無いと敬遠されてしまう。スタートの翌年からは、運営委員の苦労が垣間見られることとなる。2013(平成25)年度は、全10回のうち2回、北九州市職員へ講師を依頼し、北九州市の災害支援や広報事例を紹介していただいた。2014(平成26)年度、2015(平成27)年度は、幹部職員の業務に係る経験談や知っておくべき基準等について、それまでと同様に「聴講」するというスタイルが中心であった。2016(平成28)年度は「聴講」を基本としつつも、小倉南消防署に講師を依頼し普通救命講習会を実施し、初めて体験型を導入した(写真- 2)。

写真2 普通救命講習会(2016.12)

その後、徐々に外部への講師依頼を増やしてきた。2017(平成29)年度は、国土交通省OBで構成されたボランティア団体「九州防災エキスパート会」よる気象に関する知識や、災害対応におけるポイントなどの講話をしていただき、技術伝承の色合いを濃くした。2018(平成30)年度から2021(令和3)年度は、受注者の協力のもとでの工事現場見学会や九州防災エキスパート会との合同のり面点検、橋梁点検技術講習などを実施している(写真- 3、4)。なお、参加に際しては技官、事務官、期間業務職員を問わず希望者を募っており毎回多くの者が受講している。

写真3 現場見学会(2020. 7)

写真4 のり面点検(2021. 6)

3.近年の取り組み事例
(1)新たなるステージ
北国スクールは2023(令和5)年度末で丸12年となり、開催回数は113回となった。この12年を振り返ると、段階的に進化してきている。2012(平成24)年度から2017(平成29)年度は組織内でのナレッジマネジメントを目的とした第1 ステージ、2018(平成30)年度から2021(令和3)年度は現場での体験による学びを深めた第2 ステージであった。2022(令和4)年度からは、専門的な要素を盛り込んだ演習や、土木や公務とは異なる業界から講師を招聘しての講話をテーマに盛り込むなど、新たなるステージを迎えた。以下にその事例を示す。

①道路計画実践研修
近年、道路計画に際し、職員がルート選定に携わる機会は激減しており、道路計画の経験を有する職員が少なくなっている。そのなか、実践的な体験をすることで、建設コンサルタントとのやり取りに必要な知識を得られる取り組みとして、これまで2022(令和4)年度に2回、2023(令和5)年度に2回、計4回実施している。講師は、道路計画の経験が豊富な「道路技術サポート会」にお願いした。道路技術サポート会は、道路事業を経験した国土交通省OBにて組織されたボランティア団体であり、研修には道路計画に長い期間携わられた方々に来ていただいた。研修参加者は、若手から係長職までの15名ほどで、3 つのグループに分かれてルート選定から概算事業費の算出までをおこなった。ルートの検討では、用意された地形図に架空の道路を計画することとして、橋梁・トンネル等の構造物やルートの特徴、経済性を考慮して最良と考えるルートの線引きを行い、グループ毎に発表、それに対して講師がアドバイス、そのアドバイスを受けて再度ルート検討・発表、そして講評するという流れで進められた(写真- 5)。

写真5 ルート検討の様子

概算事業費算出については、自分たちで描いたルートについて、国土地理院地図を用いて地盤高グラフを作成し、縦断計画、構造物計画を立て費用算出を行った。各グループで事業費を抑えるために縦断計画について議論し、kmあたり単価が安くなるよう試行錯誤を繰り返して計画を立てた。切土と盛土のバランス、橋梁やトンネルなどの構造物数や規模などを考え、できるだけ構造物比率を低く抑えて経済的な道路にしていく作業は実践さながらのものとなった (写真- 6、7)。

写真6 縦断計画検討の様子

写真7 縦断計画の発表

研修を終えた参加者からは、「座学ではなくワークショップ形式であったため、楽しく学ぶことができた。(若手職員)」や「道路設計を一から行うことは今までなかったので、新鮮で面白かった。各班員の経験差によるルート設計の違いがよく見えて面白かった。(係長職)」といった意見が寄せられた。

②異なる業界からの講師
職員は、建設分野(土木)における道路事業を中心とした業務に携わるため、専門分野には詳しくなるが、それ以外のことに関しては不得手となり、創造性が損なわれることとなる。そこに目をつけて取り組んだのが、異なる業界との交流である。
2022(令和4)年度に講話を依頼したのは、樹木医であった。きっかけとなったのは、管理する国道で倒木が発生し、その原因究明は土木の知識だけでは足りないと考えたからである。道路には植栽があり道路施設の一部であるが、樹木の生理・生態を知る機会はほぼ無いといえる。研修では、講話だけでなく街路樹点検の留意点について、サンプルを使いながら実演していただき職員も体験した(写真- 8)。参加者からは、普段聞くことのできない話を聞くだけでなく、腐朽菌により内側が腐り倒木したサンプルを見ることができてとても参考となったとの感想が寄せられた。

写真8 樹木医による実演・体験

2023(令和5)年度には、さらに異分野との関わりを増やしている。
一つ目は、北九州市に本社を置く機械製品製造工場の見学である。最先端の産業用ロボット技術によるものづくりの現場を目の当たりにしながらメーカー担当者の話を聞く機会を設けた。異分野の製造現場は職員の目には新鮮に映り、モチベーションアップにもつながっている。
二つ目は、緩まないネジ製造会社の社長を招聘し、ものづくりに対する発想力が生まれる根源的な話題について講話していただいた。新たな技術が生まれる思考のプロセスを感じてもらうことを目的として開催したものである。参加した職員からは、「ものごとは肯定的に批判せよ」や「産業をつくるのは国家である」という言葉が印象に残り、通常の発想の上をいく思考力が重要だということが分かったとの感想があった。
三つ目は、北九州国道事務所管内に所在する町の首長と、その町の地域再生を手がけている会社の代表者を招聘した。未来を見据えたまちづくりについて講話していただき、職員と意見交換を行った。地域活性化やまちづくりに対する革新的な発想は、道路事業の日々の業務では芽生えることが少ないため、職員にとって有意義なものとなった(写真- 9)。

写真9 まちづくりについての意見交換

(2)今後の展望と課題
北国スクールは、2012(平成24)年にスタートして13年目に入ったところである。これまで継続してこられたのは、国土交通省職員として第一線で活躍できる人材を育てるという熱い思いが事務所内全体にあったからだといえる。少ない職員数でOJT もままならない状況におかれる近年では、職場内に学びの場があるということは特に若手職員には心強いものだといえる。今後、扱うテーマや実践方法を工夫し、皆が参加したくなる「北国スクール」を継続していきたいと考えている。
しかし、進化し続ける「北国スクール」を継続させるには課題もある。新たなものを企画するには多くの時間と労力を要する。各所属から選抜された職員による運営委員会だけでは、企画力にも限界があり徐々に新たな発想が生まれなくなってくる。このことから、職場内の誰もが企画を提案できるようにし、運営委員会に加わり活躍できる環境を整備することも考えていかなければならない。

4.おわりに
北九州国道事務所における人材育成の取り組みとして「北国スクール」を紹介してきた。「北国スクール」は、創意工夫を重ねながら、現在も進化している。このように、所内で多くの知識を得られることは、職員一人一人にとって大きな財産となる。さらには、この取り組みが担い手確保や生産性向上へとつながることを期待するものである。

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