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厳しい塩害環境にある沖縄県の海上架橋における
表層品質確保の取り組み
~島嶼県における100年耐久性確保の最前線~

沖縄県 土木建築部 中部土木事務所
中城湾港建設現場事務所 主任
後 藤 政 男

キーワード:海上架橋、耐久性向上、コンクリートの表層品質確保

はじめに
県道20号線(泡瀬あわせ工区)橋梁(以下、泡瀬架橋)は、沖縄本島中部東海岸の沖縄市泡瀬に位置しており、泡瀬地区人工島へのアクセス道路として延長810m片側2車線を新設する海上架橋である。泡瀬架橋の位置を図- 1 に示す。
泡瀬地区人工島は、沖縄本島中部東海岸地域の活性化を図る目的で、沖縄市の優位な資源であるスポーツや文化芸能を最大限活用し、スポーツを中心とした商業や宿泊、マリーナや人工ビーチによる海洋レジャーなどを展開するスポーツコンベンション拠点の形成を図るものである。パース図を図- 2 に示す。

図1 泡瀬架橋の位置

図2 泡瀬地区人工島のイメージパース

1.泡瀬架橋の架設工法
泡瀬架橋の橋梁一般図を図- 3 に、橋梁諸元を表- 1 に示す。橋梁形式は、沖縄本島側のA1 橋台~ P6 橋脚までの曲線部をポストテンション方式PC連結中空床版桁橋、P6 橋脚~人工島側のA2橋台までPC12 径間連続箱桁橋を選定している。
泡瀬架橋における箱桁橋の架設工法は、過去に沖縄県宮古島市に建設された伊良部大橋を踏襲している。トラス構造の架設桁(延長約140m)により、最大重量約80t のプレキャストセグメント桁(以下、セグメント)を各橋脚の柱頭部から左右対称に張り出していくバランスドカンチレバー工法を採用している。令和5年3月に北側2車線分の上部工架設が完了しており、今後は南側2車線分の上部工架設を予定している。架設状況を写真-1に示す。

図3 泡瀬架橋の橋梁一般図

表1 泡瀬架橋の橋梁諸元

写真1 P15橋脚でのセグメント張出し架設

2.高耐久材料の選定
沖縄県は塩害地域区分Aに該当し、県内全域が全国で最も厳しい飛来塩害環境にある。このような環境条件から、沖縄県の構造物は、他の都道府県と比べ耐久性の要求は高いといえる。また沖縄県の気候は、年平均気温23℃前後の高温多湿な亜熱帯気候であり、特に1年の約半分の5月中旬~ 10月まで日平均気温が25℃を超えることから、建設時のコンクリート施工においても留意が必要となる。
沖縄県は約160の島々からなる島嶼県であり、これまで県が建設した離島架橋17 橋において、100年耐久性の確保を目的とした試みが行われてきた。泡瀬架橋は、泡瀬地区人工島への唯一のアクセス橋梁であり、これまでの離島架橋における対策を踏まえ、耐久性の高い材料を適切に選定することにより、耐久性能の確保を図っている。ここでは、泡瀬架橋に採用されている高耐久材料について詳述する。

(1)フライアッシュコンクリート(以下、FAC)
FACは、石炭火力発電所から産出されるフライアッシュ(以下、FA)を、コンクリート用混和剤としてセメントの一部もしくは細骨材の一部に代替することで、塩害およびアルカリシリカ反応(以下、ASR)の抑制、温度応力の低減等の効果を持ち、コンクリートの品質向上を図ることができる。ほかにも流動性の改善、ひび割れ抵抗性の向上、長期強度の増進、遮塩性および化学抵抗性の向上、再生資源の有効活用といった効果が期待できることから、沖縄県内の橋梁新設および架替えの際に積極的に使用されている。
FACの利用方法は、コンクリート配合のうち、セメントの一部をFA に置換する内割り配合ならびに細骨材の一部をFA に置換する外割り配合に大別される。
泡瀬架橋の上部工では、コンクリートの細骨材(砕砂100%)のうち3%をFA に置換する外割り配合のFACを採用した。伊良部大橋上部工では、ASR抑制を目的に内割り配合を検討したが、初期強度発現が遅くセグメント製作が大幅に遅延することが判明した。また沖縄県産の海砂は、遅延膨張性のASRを示す骨材であることから細骨材を砕砂のみとしたところ、ワーカビリティーが悪化したため、伊良部大橋上部工では細骨材(砕砂100%)を3%FA に置換する外割り配合のFACを採用している。伊良部大橋以降に建設された沖縄県内のPC橋上部工の多くで外割り配合が用いられており、泡瀬架橋も同様の配合とした。
泡瀬架橋の下部工では、セメントのうち20%、細骨材のうち100㎏ /m3以内をFAに置換する内割り+外割り配合を採用している。沖縄県では、内割り+外割り配合のFAC実績が最も多い。温度応力の低減およびASR抑制、遮塩性等のFACの特性に加え、初期強度発現不足を補う配合である。

(2)エポキシ樹脂塗装鉄筋
エポキシ樹脂塗装鉄筋は、コンクリート内部の鉄筋防食を目的として、塩化物イオンの作用を受ける構造物に主に用いられる。泡瀬架橋は、塩害対策区分Sの海上に位置していることから、外気に触れるコンクリート部材の最小かぶりを上部工および下部工それぞれ70mm、90mmを確保したうえでエポキシ樹脂塗装鉄筋を使用している。
エポキシ樹脂塗装鉄筋による鉄筋防食の効果は、塗膜の品質、塗膜厚、損傷の有無によって著しく相違するため、現場で鉄筋組立作業を行う際には注意を払う必要がある。また日照(主に紫外線)によって変質しやすく、外部環境に長期間放置した場合、塗膜の劣化を原因とした鉄筋自体の腐食の懸念がある。このため泡瀬架橋では、数年にわたる架設作業の間に外部環境に露出する地覆等の主桁埋込み筋については、エポキシ樹脂塗装鉄筋に代わりステンレス鉄筋を採用している。

(3)エポキシ樹脂被膜PC鋼材、ポリエチレンシース
PC鋼材の重大な劣化要因の多くは塩害による腐食もしくは破断であり、PC鋼材の劣化が耐荷性能に大きく影響を及ぼす。このため本事業では、すべてのPC鋼材をエポキシ樹脂被膜PC鋼材とし、化学的に安定した高耐久性のプラスチック材料であるポリエチレンシースを使用することで、長期耐久性の確保を行っている。また本事業は、セグメント製作がクリティカルパスであるため、セグメントの横締めケーブルをプレグラウト仕様とすることで、セグメント製作に要する日数を短縮している。

(4)支承の鋼材の重防食
泡瀬架橋の支承鋼材の防食は、鋼道路橋の防食に準じて、飛来塩分が多い環境で用いられる重防食塗装(Al・Mg 合金溶射+ フッ素塗装)とした。
Al・Mg 合金溶射は、伊良部大橋上部工の主航路部の鋼橋塗装に採用実績があり、Al・Mg 合金をフレーム溶射またはアーク溶射で基材に溶射する方法である。工場および現地で施工が可能であり、金属溶射の中で腐食の進行が最も遅く、耐食性に優れる。Al・Mg 合金溶射の表層面に耐摩耗性に優れるフッ素塗装を行う重防食仕様とすることで、溶射被膜劣化の懸念が小さく、耐久性の確保を図っている。またゴム支承本体は、塩害環境にあることから10mmの被覆ゴムを施している。

(5)セグメントの炭素繊維ケーブル補強筋
沖縄県でこれまで建設されたPC箱桁橋(池間大橋、古宇利大橋、伊良部大橋)において、下床版に軸方向やハの字形のひび割れが生じている1)2)。要因の一つに、外ケーブル緊張による下床版中央への圧縮ひずみおよび上床版の拘束によるウェブ近傍の両端部への引張ひずみの複合的な作用が考えられ3)、炭素繊維ケーブル補強筋によるひび割れ抑制が行われている4)。イメージを図-4 に示す。
泡瀬架橋においても同様に、セグメント下床版の下面側かぶり70mmの中間位置にφ 5mmの炭素繊維ケーブル補強筋を軸方向に75mmピッチ、横断方向に150mmピッチで配筋し、セグメント下床版のひび割れ抑制を行っている。

図4 外ケーブル緊張後のひずみ発生イメージ4)

3.コンクリートの表層品質確保の試行
泡瀬架橋では、後述する施工状況把握チェックシートおよび目視評価シートを活用したコンクリートの表層品質確保を行い、耐久性の向上を図っている。コンクリートの表層品質確保とは、品質が均一かつ施工に起因する初期欠陥が軽微である緻密なかぶりコンクリートを形成し、コンクリート内部への劣化因子の移動抵抗性を高めることで、コンクリート構造物の長寿命化を図ることである。

(1)施工状況把握チェックシート
施工状況把握チェックシートは、山口県にて考案されたコンクリート標準示方書施工編[ 施工標準] 等に示される施工の基本事項の中から最低限必要な28 項目を抽出したチェックシートであり、施工者の「施工の基本事項の遵守」を支援するツールである。本チェックシートは、施工の基本事項の遵守が徹底されることにより、品質確保を図る ことを目的としている。
泡瀬架橋で使用している施工状況把握チェックシートを表- 2 に示す。FACの配合及び施工指針(沖縄県土木建築部)のFACチェックシートの5項目(表- 2 中の赤塗部)と泡瀬架橋で品質確保に必要と思われた10項目(表- 2 中の赤字部)を加えた合計43 項目について確認を行っている。

表2 泡瀬架橋の施工状況把握チェックシート項目

(2)目視評価シート
目視評価シートは、国土交通省東北地方整備局にて、平成25年度から橋台・橋脚・函渠・擁壁・トンネル覆工コンクリートの品質確保で活用されているコンクリート品質の目視表層評価手法であり、発注者の規格を満足する品質「良」の範囲を対象として、コンクリートの耐久性に影響を及ぼすと考えられる各項目に対し5 段階で評価する。4 ~ 1 点の状態は施工の工夫でより高い品質を目指し、不適合は別途対策を講じる。局所的な品質確認を行う他の非破壊検査と違い、発注者および受注者、下請け作業員といった関係者が同時に立ち会い、コンクリート構造物全体の品質について評価できることが特長である。
泡瀬架橋で使用している目視評価シートを図-5 に示す。評価項目を沈みひび割れ、表面気泡、打重ね線、ノロ漏れ、砂すじ、温度ひび割れとしている。表層評価の結果に基づき、関係者間の協働的な対話を行い、知見の共有や不具合要因の推察、改善方法の提案を行うことで使用材料や施工方法の妥当性を検証し、次施工に継続すべき事項と配慮や改善すべき事項の抽出を行うことを最大の目的としている。また関係者全体の知識の向上やスキルアップが行われ、土木建設業の担い手の人材育成の効果が期待できる。

図5 泡瀬架橋における目視評価シートの評価項目

(3)泡瀬架橋での表層品質確保の試行
平成29年度に国土交通大臣から施工状況把握チェックシートおよび目視評価シートの活用を促す事務連絡が通達され、全国的な試行が行われている。沖縄県においては、平成30年度に沖縄県中部土木事務所の発注工事のうち泡瀬架橋を試行現場と定め、これまでに下部工13基、セグメント272基、柱頭部25基の表層品質確保を行った。本取り組みは、施工状況把握チェックシートおよび目視評価シートを併用することで、施工のPDCA サイクルを構築し、継続的な改善を行うものである。概要を図- 6 に示す。

図6 泡瀬架橋の表層品質確保の取組みの概要

4.セグメント製作における表層品質確保
泡瀬架橋における箱桁橋のセグメント製作は、製作期間の短縮を目的に、既設のセグメントの端面を型枠代わりとして新設セグメントを製作するショートラインマッチキャスト方式としており、ショートライン製作台設備を用いて計356基のセグメント製作を行う計画である。
ここでは、セグメント製作における表層品質確保の方法を紹介する。

(1)泡瀬地区人工島内の桁製作設備
セグメント製作は、泡瀬地区人工島内に桁製作設備を建設し、製作を行っている。写真- 2 に空撮写真を示す。写真中央の青枠部分に鉄筋組立設備を2基配置しており、あらかじめ鉄筋ユニットを製作しておくことでセグメントの製作効率を高めている。最大でセグメント4基分の鉄筋ユニットの組立が可能である。鉄筋組立設備の前後に鋼製のショートライン製作台設備を2基配置しており、白い膜体で覆われた移動式上屋設備を使用することで、天候によらずセグメント製作が可能となっている。また黄色い15t門型クレーンおよび100t門型クレーンを配置しており、それぞれ鉄筋ユニットの吊り込み作業、打設したセグメントのセグメント仮置き場への移動作業に使用している。

写真2 セグメントの桁製作設備の空撮写真

図7 主桁構造の模式

(2)セグメントの構造条件
泡瀬架橋におけるセグメントの構造を図- 7 に示す。セグメント製作では、以下の構造条件に留意が必要となる。①ウェブは、配筋やシース管を設置するうえに内側型枠に傾斜があり、バイブレータが干渉する。②ウェブを打設する際、打設高さの管理を上床版から鉛直方向に行うため、各層厚を均一に管理することが難しい。③下床版のハンチ部は、内側型枠が設置されているため、角部の締固め不足が生じやすい。④底版部の天端は、開口部を設けるためコンクリートのあふれ出しが生じやすい。

5.セグメント製作での表層品質確保の工夫
(1)FACのスランプ値変更
セグメント製作は、当初はFACのスランプ値を18 ± 2.5㎝に設定していたが、ウェブの配筋とPC鋼線用シース管の総量が多く、実質19.0~ 20.5㎝でなければ打設が困難であった。また夏季高温時は、スランプロスがさらに多くなり、施工に困難を来すことから、スランプ値を20 ±2.0㎝に変更し、夏季の高温時には混和剤に高性能AE 減水剤(遅延型)を用いる夏季配合を採用するものとした。

(2)セグメント製作の打設順序
FACのスランプ値が大きいため。ウェブの打ち上がりとともに底版の開口部から未硬化の生コンがあふれる不具合が生じる。このため図- 8 に示す順序で打設を行っている。①底版の開口部からハンチ部の上端まで打設する。②底版の開口部からのあふれ出しが小さい一定の高さまでウェブを打ち上げる。③ハンチ部の硬化の状況を確認後、開口部から底版部を打設する。④ウェブを打上げる。

図8 セグメント底版の打設順序

(3)バイブレータの種類
下床版ハンチ部は、内側型枠が設置されるため、通常使用しているフレキシブルホースタイプのバイブレータでは、十分に締め固めることが困難である。またウェブの打重ねは、上床版側からバイブレータを挿入するため、配筋やシース管に干渉し、正確に締固めを行うことが困難であった。そのためハンチ部やウェブの締固めには、非振動部が鉄パイプタイプのマルチバイブレータを用いることにより、正確に所定の位置へ挿入でき、十分な締固めを行うことが可能となった(図- 9)。またウェブを打設する際には、気泡やジャンカ等の不具合対策のため、透水性シートを内側型枠に固定し、打設高さをマーキングしたバイブレータを使用し、打込み班と再振動班の2 班に分かれて締固めを行っている。

図9 マルチバイブレータによる締固め

おわりに
本稿では、沖縄県の泡瀬架橋での高耐久材料の選定及び表層品質確保の試行、セグメント製作における表層品質確保の方法を紹介した。このうち表層品質確保の取組みは、言い換えればかぶりコンクリートの品質向上であり、すべてのコンクリート構造物の耐久性向上に必要な技術であると考えている。今後も100年耐久性の確保を目標とした橋梁整備に取り組んでいきたい。

(参 考 文 献)
1)風間洋、富山潤、砂川勇二、比嘉正也、小籏俊介:過酷な塩害環境下に建設された長大離島架橋の劣化状況に関する調査研究、日本材料学会、コンクリート構造物の補修、補強、アップグレード論文報告集、pp.503-508、2017.10
2)平安山良和、松下博通、大城武:海洋環境下に建設されたPC箱桁橋のひび割れ事例の検証、コンクリート年次論文集、Vol.29、No.3、pp.427-432、2007
3)風間洋、富山潤、砂川勇二:伊良部大橋PC箱桁下床版のひずみ測定によるひび割れ発生メカニズムの確認、日本土木学会、第68 回年次学術講演会、V-047、pp.93-94、2013.9
4)松浦葵、富山潤、風間洋、砂川勇二:PC箱桁下床版におけるカーボンメッシュ筋のひび割れ抑制効果に対する検討、コンクリート工学年次論文集、Vol.35、No.2、pp.1363-1398、2013

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