東九州自動車道・芳ノ元 トンネルにおける地すべり対策
~地すべり対策及び対策後の観測計画~
~地すべり対策及び対策後の観測計画~
国土交通省 九州地方整備局
宮崎河川国道事務所
技術副所長
宮崎河川国道事務所
技術副所長
安 仲 努
キーワード:トンネル、地すべり、地すべり観測
1.はじめに
(1)事業概要
東九州自動車道は、福岡県北九州市を起点に大分県、宮崎県を経て鹿児島市に至る延長436kmの高速自動車国道である。このうち清武~北郷間については、宮崎市、日南市の2市を通過する延長約19kmの区間であり、東九州自動車道の高速ネットワークの一部を形成するものとなっている。
芳ノ元トンネル(以下、「本トンネル」)は、この清武~北郷間の宮崎県宮崎市大字鏡洲に位置する延長1,880mのトンネルである(図- 1)。
本トンネル周辺部は日南層群が分布し、近隣のトンネル工区では、切羽の崩壊や地すべり等が発生し難工事となる事例が多く見られ、本トンネル工事においても切羽の崩落や地すべり等が発生した。
本稿では、トンネル掘削時に発生した地すべりへの対策について報告する。
(2)事業の経緯
本トンネルについては、平成20年4月に北側から掘削を開始したものの平成21年6月に地すべりが発生したため掘削を中止している。
平成22年11月に宮崎大学、土木研究所などの学識経験者からなるトンネル施工検討会を設置し、対策工を実施することで掘削を再開した。平成24年10月に地下水排除工着手、平成25年8月には頭部排土工を開始し、平成29年11月にトンネルが貫通、平成30年6月にトンネル本体が完成した。
2.芳ノ元トンネルにおける地質上の課題
(1)地質概要
本トンネル周辺域の地質は新生代古第三紀四万十帯日南層群に属しており、構成岩種は堅硬な砂岩と軟質で剥離性の強い頁岩であり、主に砂岩頁岩の互層と乱雑化した混在層から構成されている。日南層群は、大規模な海底地すべりによって形成されたと考えられ、それにより堆積構造が破砕され、混在層は土砂に近い性状となっている。脆弱な地質で、トンネル掘削時に坑内変位が非常に大きくなることが特徴である。
前述したように、日南層群の混在層は海底地すべり堆積物とされ、地質構造が大きく乱されている。さらに、後の構造運動(海洋プレートの沈み込みに伴う付加作用)で形成された低角度の逆断層も多く存在する。このため、日南層群の頁岩層は著しい破砕作用を受け、多くのせん断面が発達している。また、ブロック状に取り込まれている砂岩層は連続性が乏しいため、限られた地質調査ではその地質構造を解明することが困難な場合も多い。このように、日南層群は地質工学的に見ると、課題の多い地質の一つである。
3.地すべり対策
(1)施工時の地すべり顕在化
平成21年6月、起点側坑口より切羽位置が322m進んだところで、切羽に崩壊が発生するとともに吹付コンクリートにひび割れが発生した。また、土被り約70mの地表にクラックが発生した(図- 2、写真- 1、2)。
トンネル掘削を中断の上、トンネル全区間における地すべり調査を行った結果、起点側坑口に長さ460m、幅350m、深さ70mに達する地すべり(Aブロック)の存在が明らかとなり、トンネル中間部や終点側坑口部にも、地すべり(Bブロック~Eブロック)が分布することを確認した(図- 3)。
(2)地すべり対策概要(図-3)
地すべり対策は、トンネルの掘削済み区間と未掘削区間に分け対策工を決定している。
①起点側(Aブロック)
掘削済み区間である起点側(Aブロック)は地すべりブロックが大きく、ブロック内の水位低減のため地下水排除工を実施し、地すべり上部の土塊重量軽減のため頭部排土工を実施した(図- 4、図- 5 及び写真- 3)。
②中間部(B~Dブロック)
未掘削区間のうち、中間部(B ~ Dブロック)はトンネルの線形を変更することで地すべりの影響を回避した。
③終点側(Eブロック)
終点側坑口部(Eブロック)は押え盛土工を実施した。
(3)トンネル掘削における対策概要
掘削済み区間では、変状により内空断面が確保出来ない区間やインバートコンクリートにひび割れが確認されており、頭部排土工などの地すべり対策が進み、安全性が確保出来た段階で支保工、インバートの再施工(縫返し)を実施する計画とした。
未着手区間では、トンネル掘削に伴い地山の緩みを助長した場合、地すべりに影響を与える懸念があった。このため、本坑に先立ち地質状況、地すべり挙動を確認できる中央導坑先進工法を採用した。
先行して導坑を掘削することで、本坑掘削に先立ち地山状況の把握及び地すべり挙動を確認しつつ確実な施工が可能となる。また、導坑掘削時の地質情報及び掘削時の状況を解析し、本坑の支保構造の決定に反映する計画とした。
(4)トンネル掘削の再開と観測施工
地すべりAブロックは、地すべり対策の進捗に伴い地すべり活動が収束した後、トンネル施工検討会で審議の上、地すべり対策の完成を待たずにトンネル掘削を再開した。その際、トンネルの変状が大きい区間では、トンネル縫返しにより設計断面を確保し、ロックボルトや吹付けコンクリートの再施工を行っている(図- 7)。
通常、トンネル施工中には、日常の施工管理のために行うA 計測(観察、天端沈下、内空変位、地表沈下)と、地山や立地条件に応じて追加するB計測(地中変位、ロックボルト軸力、吹付コンクリート応力、覆工応力等)があるが、トンネル完成後に計測終了とすることが一般的である。本トンネルの観測施工では、孔内傾斜計による地すべり変位のほか、トンネル内において軸力計や内空変位の観測結果を特に注視し、所定の管理基準値内にあることを確認の上、トンネル掘削を継続した。覆工完成後も、トンネル内計測は継続しており、加えて、近接目視点検を実施、トンネル完成後の初期状態の把握を行った。
4.地すべりに配慮した維持管理計画
(1)対策完了後の地すべり観測
本トンネルの開通においては、地すべりがトンネルに影響を及ぼさないことが大前提であり、トンネル周辺の地すべり変位が収束すること、滑動に対する安全性が確保されていること、トンネル覆工に変状が見られないことを開通の条件としていた。対策工事が完了し、これまでの地すべり観測及び開通前のトンネル点検の結果等より、地すべり変位は収束し、トンネル覆工の変位も無く、地すべりへ影響を与える地下水位も過去を大きく上回る水位上昇は確認されないことから、全ての指標で問題が無いことを確認した。
頭部排土等を実施した地すべりAブロックにおいては、対策工事により地すべりに対する一定の安全性は確保されていることを確認したが、開通後も対策の効果が継続していることを確認するため、地すべり観測を実施することとした。
(2)地すべりAブロックの観測計画
山側とトンネル側のどちらに変位が生じても捕捉出来ることを念頭に体制を構築した。観測手法は、常時変位を捕捉するモニタリングと、現地確認を行う詳細点検を組み合わせた。
①山側の変状(地すべりAブロック)
孔内傾斜計、縦型伸縮計、地下水位計を1つのグループとし、地すべり測線沿いに、トンネルを挟み両側に4グループ配置した(図- 9)。計器は自動で計測を行い、計測結果は専用システムに蓄積される。専用システム内の計測データはリアルタイムで更新され、最新のデータを確認することが可能である。
また、法面近接目視点検、集水井点検を年1回実施し、計測データのみでは把握出来ない変状等の確認、把握を行う。
②トンネル側の変状(覆工コンクリート)
トンネル内空変位の計測に加え、施工中に設置した覆工コンクリート及び覆工鉄筋の応力計の計測を継続している。これらの計測結果も専用システムに蓄積され、最新データの確認を行えるよう対応した。
また、近接目視点検、覆工展開画像撮影、3 次元点群データによる差分解析(地すべり影響範囲のみ)を年1回実施する。
③観測データの活用
地すべりの挙動と想定される変位を観測した場合、直ちに関係者へ発報され、通行止めなどの対応を行う行動計画を策定している。
5.おわりに
本稿では芳ノ元トンネルで発生した地すべりと対策及び地すべりAブロックの開通後の観測計画について述べた。
本トンネルを含む清武南IC~日南北郷IC区間は、令和5年3月25日に開通し、宮崎市と日南市を結ぶ道路として重要な役割を果たしている。
先に述べた開通後の地すべりAブロック観測においては、これまでに大きな変位、変状は確認されておらず、地すべりの挙動は確認されていない。今後も観測を継続し、対策の効果が継続していることを確認するものである。