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三次元河川管内図を活用した河川管理施設の点検・評価(試行)と
その検証結果について

国土交通省 九州地方整備局
河川部 河川管理課
維持修繕係長
津 田  匠

キーワード:三次元河川管内図、点群データ、河川管理施設、点検・評価

概要
九州地方整備局では、1級河川20水系を管理しており、長大な堤防、膨大な河川管理施設及び日々変動する河道の点検・評価に毎年多くの時間と労力を要している。点検・評価に応じた予防保全措置の実施していく中で、河川改修との連携や新たな取り組み、DX 技術の導入により効率的・効果的な河川管理施設の更新を目指している。
取り組みの一つとして、令和7年度までに九州管内の河川を対象に三次元河川管内図の整備を進めており、三次元点群データを活用した河川管理分野におけるDX(変革)も目指している。現在、三次元河川管内図のシステム構築中のため、三次元河川管内図が目指す方向性について紹介する。
また、三次元河川管内図(三次元点群データ)を活用した河川管理施設等の点検・評価の試行について、高度化・効率化の観点より昨年度具体的な検証を行ったため、検証結果についても紹介する。

1.はじめに
国土交通省は、堤防等河川管理施設の状態を良好に維持し、治水上の安全性を確保するため、河川堤防や水門・樋門等の河川構造物の定期的な河川巡視や点検、出水等の外力作用後に点検を実施し、その安全性を評価し、必要な対策を行っている。
九州地方整備局では、河川管理延長約1,300kmの河川を管理し、排水機場や水門・樋門等約3,200施設の河川管理施設を管理しており、日々の河川巡視や定期的な点検で毎年膨大な箇所を確認し、全ての評価を行うのに多大な時間を要している。適正な河川管理を行うためには、これまで以上に河川管理の効率化・高度化を図る必要がある。
一方、近年、データとデジタル技術の普及・拡大により、インターネットやソフトウェアといった技術革新が急速に進んでおり、これまで現実空間を前提とした業務そのものが効率化し、さらに抜本的な変革につながる「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」が本格的に進展している。河川管理においても河川基礎データ(平面図や横断図、距離標、航空写真等)や河川情報データ(河川区域や河川現況台帳、河川環境基図、水防情報等)など様々で膨大なデータを用いて業務を行っており、その活用にあたっては事務所、人、保管方法、データの種類等により様々な用途で活用されている。そのため、これらのデータを効率的に活用するため三次元河川管内図の取り組みが進められており、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の施策の一つとして令和7年度までに全国109水系で作成を行うこととなっている。

2.三次元河川管内図におけるDXの取り組み
九州地方整備局では、BIM/CIM をベースとした三次元河川管内図の整備を進めていたが、BIM/CIM を取り扱うには高度な知識や操作能力が必要であり、また、ハード・ソフトウェアが高価で各事務所に数台しかない高性能PCでしか取り扱えないなどの課題があった。そのため、WebGIS による九州三次元河川管内図システムの構築を行うこととし、令和4年8月に「九州三次元河川管内図ガイドブック(案)」と「三次元河川管内図データ作成業務仕様書(案)」を作成し、九州管内の河川事務所等における統一を図ることとした。

(1)九州三次元河川管内図システムの構築
九州三次元河川管内図システムは、インターネット上で利用可能な地理情報システムであるWebGIS を用いて構築を行うこととしており、地理院地図やGoogleマップのようにどこからでも使用することができる。また、九州地方整備局で1つのシステムを構築することで、事務所毎でのシステムの構築が必要なくなり、さらに、高価な構成のPCやソフトウェアを必要とせず、職員が日頃使用している自席のPCで使用可能となるため、九州整備局管内では操作環境や方法が変わらないため新たに操作を覚える必要がない(図- 1)。
通常、システムを新たに構築する際は、サーバやデータ管理、保守点検など様々なコストがかかるが、今回はクラウドを活用したシステムを構築したことで管理に要する費用についても削減が図られる。

図1 九州三次元河川管内図システムの概要

(2)三次元河川管内図のデータ作成
河川管理におけるデータは様々で、またデータのフォーマットや保存方法は各事務所においても異なるため、九州三次元河川管内図システムでデータを構築するには、各種データを作成・整理する職員の技術や経験が重要となるため、システム構築と併せて、システムに保管するデータについても検討を行った。日常的に活用するためには、データを最新のデータに更新する必要があるため、九州三次元河川管内図システムに保存するデータを「基本情報」と「応用情報」に分けて保存することとした。
「基本情報」は、図―2 のように全河川で必須で整理する情報であり、距離標や管理施設、許可工作物、過去の測量結果、流域界、行政界、治水地形分類図、点群、オルソなどを分類した。

図2 関連法と九州三次元河川管内図の関係性

「応用情報」は河川管理業務のニーズにより独自に整理する情報とし、河川管理基図や河川占用図、被災実績、浸水実績、工事履歴、道路・鉄道情報、光ファイバ、水防、水質、環境情報などを分類した。
分類分けにより事務所は必要な情報を独自でシステムに表示し業務の効率化を図るものとし、必要に応じて追加で整理できるものとしたため、事務所は効率的な整備、活用が可能となる。

(3)三次元河川管内図の活用事例
活用事例として、点群データと構造物の基礎情報を使用した安全性評価の事例を示す。
従来、橋梁などの工作物の安全性を確認する際は、2 次元の構造図や横断図、ボーリングデータ等を参照し、見比べながら根入れ等の確認を行うが、三次元河川管内図においては、登録した点群データ、三次元モデルの橋梁構造図、ボーリングデータ等の施設情報を三次元で一体的に可視化するため、構造物と河床、地質状況が簡単に確認できる。また、河床低下の要因となる洪水時の流速分布も重ねることにより、今後の河床変動の予測の評価が可能となる(図- 3、4)。

図3 工作物(橋梁)の3次元モデルとボーリングデータによる状態把握1

図3 工作物(橋梁)の3次元モデルとボーリングデータによる状態把握2

図4 平面流況解析も併せて重ねることにより安全性評価データによる状態把握

3.三次元河川管内図での点検・評価の試行
三次元河川管内図は様々なデータを表示することにより業務の効率化を図る目的で整備を進めてている。今後の河川管理の更なる効率化を図るため、通常現地点検により確認している点検を三次元河川管内図(仮想空間)上で点検・評価を試行し、その実現性に向けた方向性を確認した。

(1)点検対象箇所の概要
九州地方整備局管内で河川定期縦横断測量をALB計測で実施した水系のうち最も点群密度が高い川内川において、現地点検により変状が確認された区間のうち3区間を抽出し、点検・評価の試行を行った。
本報は、その内、水衝部に位置する1区間(延長0.8km)の三次元河川管内図による点検・評価を報告する。
なお、当該区間の現地点検では4箇所の変状箇所を確認しており、樋管の川表取付護岸の亀裂や沈下、川裏ブロック積のはらみだしで、何れも数㎝程度の変状であり、4箇所ともb 評価(経過観察)とし、一連区間の総合評価はB 評価(経過観察)としている箇所である。

(2)三次元河川管内図での点検の試行
(a)目視点検
通常実施する現地点検と同様に三次元河川管内図上で目視点検を実施した結果、現地点検で確認されている数㎝オーダの変状箇所は確認できなかった(図- 5)。

図5 変状箇所の目視点検比較(左:現地点検、右:三次元河川管内図)

(b)堤防点検
堤防天端は、目視困難な不陸を可視化することを目的として標高段彩図を生成し、三次元河川管内図上で点検を実施した。変状箇所②は現地点検にて護岸目地の段差が報告されおり、標高断彩図で天端不陸を確認したところ局所的な窪地が生じていることが確認でき、天端からの雨水排水が変状要因となっている可能性が示唆された(図- 6)。
また、標高段採図により現地点検で報告されていなかった堤防天端の窪地も確認でき、現地確認したところ、周辺の法面でガリ侵食が発生していることが確認できた。堤防の局所的な窪地は、現地での目視確認が難しいため、三次元河川管内図の標高段彩図による点検の有効性が確認できた(図- 7)。

図6 標高段採図による堤防天端の窪地状況

図7 堤防天端の窪地と現地堤防法面の状況

(c)護岸点検
低水護岸は、河道内の標高段彩図及び陰影図を生成し三次元河川管内図上で点検を実施した。また、同図に堤防防護ラインの情報を重ねることで、一連区間で澪筋と河岸との位置関係を確認した(図- 8、9)。

図8 標高段採図による河岸浸食箇所の確認

図9 陰影図による河岸浸食箇所の確認

次に、河岸侵食が進行している箇所において任意の横断面を作成し、管理河床高と河道内の地形との位置関係を定量的に確認した。図- 10のA-A’ 断面で、堤防防護ラインと最深河床位置は15m の距離があり、管理河床高より4m 深くなっていることが確認できた(図- 10)。
さらに、堤防防護ラインまで最深河床の位置が近接しているため、低水護岸の機能維持が将来的に懸念されるため、近傍の距離標地点となるB-B’断面で過去の横断測量と近傍の地質情報を重ねて河床低下の傾向を確認した。その結果、近年の洪水で河床材料の流出をある程度抑制していた礫層が流出したことで、河床低下の進行が加速する懸念があると推察され、当該箇所は重点的な監視が必要と考えられる(図- 11)。

図10 現地形と管理河床高との比較(A-A’ 断面)

図11 現地形と過去の横断図、地質情報との比較(B-B’ 断面)

(d)評価
今回試行の結果、
・堤防点検は、三次元河川管内図で作成した標高段彩図により堤防天端の不陸抽出が可能である。
・護岸点検は、堤防防護ラインや地質情報、管理河床高と比較することにより、対策判断に資する客観的なデータ取得が可能である。
堤防法面における点検や、樋管においても三次元河川管内図を用いて点検の試行を行っており、いずれも変状の概略把握が可能であった。
一方、点群データの解像度により小規模な変状や小規模構造物(パラペット等)の確認が困難であったため、今後の点検の高度化のためには点群データや画像データの詳細なデータが必要となることも確認した。

4.まとめ
九州地方整備局では、DXの取り組みの一つとして三次元河川管内図システム導入及び河川管理施設等の点検・評価の試行を行った。三次元河川管内図は業務の効率化・省力化、点検・評価の高度化等様々な業務効率が図れるツール(道具)であることが確認できた。
一方、三次元河川管内図を作成するためには地形等の点群データ取得、及び現地形との比較対象となる堤防等各種構造物の三次元モデル構築が必要となるため、これらデータ構築の低コスト化が課題となる。
今後もシステム構築にあたっては、日常的に業務で活用出来るツールとするため、職員の意見等を踏まえ今後も引き続きシステム開発を行って行く必要がある。
また、三次元河川管内図システムとの連携を目指して、河川巡視の高度化や堤防除草の自動化など河川管理におけるDXの取り組みを進めていきたい。

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