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熊本県における大規模災害の不調不落対策について
~一日も早い復旧・復興に向けて~

熊本県 土木部
土木技術管理課
主幹(技術管理担当)
榎 田 庸 洋

熊本県 土木部
監理課 
主幹
松 本 功一郎

キーワード:復旧・復興建設工事共同企業体、災害型総合評価落札方式

1.はじめに
令和2年7月に発生した豪雨は、熊本県の県南地域(八代、芦北、球磨地域)を中心に甚大な被害をもたらした。
この災害では、道路、上下水道等の生活インフラを始め、多くの公共土木施設も被災した。県では国・市町村や建設業界とも連携しながら、早期の復旧・復興に向けて全力で取り組んできた。 
しかし、膨大な災害復旧事業が特定の県南地域に集中したことにより、工事契約の入札不調が大きな課題となった。ここでは、本県が講じてきた不調不落対策について紹介させていただく。

2.公共土木施設の被災状況
主な公共土木施設等の被災状況は以下のとおりである。被災規模は、県と市町村(政令市除く)を合わせた災害査定決定件数が3,688件、決定金額は804 億円(工雑除く)となった。
被災内容としては、人吉盆地を中心とする市街地の浸水に伴うもの、球磨川の増水による橋梁の流出、県南地域の大部分を占める山間部で発生した多くの土砂災害によるものが特徴的であった。
◆主な公共土木施設等の被災
・県管理道路の192箇所の通行止め
・道路橋17橋、鉄道橋3橋流出
・河川内の土砂堆積、国管理90万m3、県管理94 万m3
・宅地内の土砂堆積41 万m3
・かげ崩れなどの土砂災害223箇所
・下水道施設の浸水 終末処理場1箇所、雨水ポンプ場2箇所、汚水中継ポンプ場4箇所
・河川の氾濫や急傾斜地の崩壊により都市公園10箇所被災

表1-1 令和2年災害査定決定額

図1 - 1

3.不調不落の発生状況と要因
1)発生状況
本県では、これまでも平成28年熊本地震等の大規模災害において不調不落が発生しており、今回の災害でも災害報告時点の災害件数や報告額、その後の災害査定の進捗状況などから不調不落が発生すると予測されたため、発災後から、過去に導入した対策や時期を整理し導入にむけて準備を進めた。
このため、不調不落の発生後直ちに、対策に取り組むことができ、後述する4-1)-(1)「災害関連等工事の指名競争入札の上限金額の引き上げ」については、査定進捗が70%に満たない11月時点で検討を始め、12月上旬までに関係部署との調整を終え速やかに導入することができた。
しかしながら、令和2年度の不調不落率は7.2%に留まったものの、その後、復旧復興工事が本格化した令和3年度には14.6%へ上昇し、令和4年度には、平成28年熊本地震の際の不調不落率に迫る水準となった。

表3 - 1 熊本県工事の不調不落の状況

2)対象工種
令和2年災害の復旧復興工事の工種は、その大半が土木一式工事であり、また、関連事業(災害関連助成事業や災害関連砂防事業等:200 億円以上)についても、土木一式工事での発注が大半であった。県発注工事の工種は、土木一式工事の割合が最も高く、そのため、不調不落率も全体的に高い傾向となっていた。
※参考:令和4年度の工事請負額ベース(土木部+ 農林水産部)で約1,100 億円のうち、土木一式工事は約680 億円

表3-2 熊本県工事(土木一式工事)の不調不落の状況

熊本地震の際には、土木一式が大半を占めていたという状況ではなく、法面の崩壊や路面の隆起亀裂、建築物の被害など、多様な工種の復旧復興工事において対策を行っていたが、今回は、対象を土木一式工事に絞って不調不落対策を講じることとした。

3)要因
(1)作業効率の低下
主な被災地となった県南地域では、球磨川に並行する国道219 号をはじめとする主要幹線道路の至る所で路肩決壊等が発生し、片側通行を余儀なくされたことから、工事関係車両の通行に多大な影響が生じ、土砂やコンクリートなど資機材の搬出入に係る作業効率が著しく低下した。

写真3 - 3 片側交互通行による信号待ちの状況

表3 - 3 被災前後の旅行速度の変化

(2)技術者・技能者の不足
発災後から多くの災害復旧工事が発注されることから地元建設企業の受注力を超える工事量となり、技術者・技能者不足が顕著となった。
また、工事関係車両の通行に多大な影響が生じ、土砂やコンクリートなど資機材の搬出入に係る作業効率が著しく低下し、工期の長期化につながるとともに、技術者不足に拍車がかかった。

(3)現場条件からの入札敬遠
被災箇所の多くが山間地を流れる河川沿いを中心に点在しているため、重機・資材の搬入や仮置場など仮設工の設置に手間と費用を要することから入札が敬遠された。

写真3 - 1、写真3 - 2 山間地の河川沿い道路の被災状況

図3 - 1 被災箇所が点在している例

4.対策
入札不調は、前述した要因の他にも設計内容に関する課題など様々な要因が含まれていることから、ここでは、本県が熊本地震後に導入した対策を整理した。

1)入札事務の効率化・省力化
本県では、予定価格3,000万円以上の工事は総合評価落札方式による条件付一般競争入札としており、入札手続きには、競争参加資格調書と技術申請書の提出が必要である。多くの災害復旧工事を迅速に契約する必要があったことから、次の(1)から(3)の対策を執った。

(1)災害関連等工事※ 1 の指名競争入札の上限金額の引き上げ        
指名競争入札の上限金額を予定価格3,000 万円未満としていたものを、特例的に災害関連等工事に限り予定価格7,000 万円未満に引き上げた。
※ 1:災害関連等工事
① 令和2年発生災害復旧工事
② ①に係る災害復旧助成事業、災害関連事業、災害関連緊急事業、激甚災害対策特別緊急事業、特定緊急砂防事業、復旧治山事業及び林地荒廃防止事業等の建設工事
③ ①の災害に起因する再度災害防止に係るその他の建設工事
④ 令和2年豪雨による影響で河川・砂防・ダム等に堆積した土砂を撤去する建設工事など

(2)指名競争入札の上限金額の引き上げ対象工事を拡大
災害関連等工事及び防災・減災、国土強靭化のための5 か年加速化対策に係る工事の発注が多く見込まれ、入札手続きに係る受発注者の事務負担軽減を図り迅速な発注に繋げるため、当分の間、入札契約制度を一部見直し上記(1)の措置を防災・減災、国土強靭化予算等にも拡大することとした。

(3)総合評価落札方式(簡易型)の拡大
総合評価落札制度において、施工上の工夫に関する提案を求める「基本型」は、提案書の作成や発注者の評価に際し、受発注者ともに労力を要するため、施工上の工夫に関する提案を求めない「簡易型」の適用範囲を拡大することとした。

2)入札参加条件の緩和
本県では、土木一式工事の許可を持つ企業を県下全域で工事に入札が可能な第1等級のA1又は主たる営業所が存する各地域振興局管内のみで入札が可能な第2等級のA2、第3等級のB、第4等級のCに格付けを行っている。

表4-1 熊本県土木一式の発注標準(単体)

災害復旧工事発注の進捗に伴い技術者・技能者不足が顕在化し、被災地域の振興局管内企業のみでは復旧が捗らない状況となったことから、特例的に被災地域管外のA2 企業が参加できる「復興JV制度」を導入した。
なお、この制度は東日本大震災の被災地である東北地方の制度を参考にしたもので、平成28年熊本地震災害の復旧に際し初めて導入したものである。

(1)復旧・復興建設工事共同企業体(復興JV)の導入(災害関連等工事のみ)
県内全域のA1・A2等級企業による広域的な施工体制の確保を図るため、土木一式工事(設計金額5億円未満のA1等級工事)にA2等級企業が参加できる制度を創設した。

表4-2 設計金額と発注標準

3)受注意欲向上(インセンティブ付与)
前述した復興JV制度を利用した被災地域の振興局管外(以下、管外)からの積極的な参入を促すため、次の(1)と(2)の対策を執った。

(1)総合評価落札方式(災害関連等工事型)の導入
総合評価落札方式において、企業や技術者の工事表彰実績や地域要件、地域貢献度などに係る項目を除外したうえで、復興JVによる参加を大きく評価する項目を追加した災害関連等工事型(以下S型)(表4 - 4)を導入した。
これも平成28年熊本地震災害の際に導入した型式である。

表4-3 通常工事の評価基準

表4-4 災害関連等工事(S型)の評価基準

(2)総合評価落札方式(通常工事型)における評価項目の設定
通常工事の型式(表4 - 5)においても、令和2年災害関連等工事の受注状況を評価する項目を加えることにより、被災地域の災害復旧工事の受注意欲を引き出すこととした。

表4 - 5 令和3年11月以降の通常工事の評価基準

4)実態に即した適切な請負額の設定
集中する災害復旧工事により、資材単価の高騰や資材や労働者(技能者)の確保が困難になることが想定されたため、以下(1)と(2)の対策を執り、発注時の特記仕様書に明記することとした。

(1)最新契約月の設計単価による契約変更
資材等の価格が短期間に変動し、積算時点で設定している設計単価と工事請負契約締結時点での資材等単価に差が生じる場合は、スライド条項とは別に、当初契約締結日の最新単価で設計変更する特例措置を適用できることとした。

(2)遠隔地からの資材の調達や地域外からの労働者確保に係る変更
建設資材の供給不足が生じ、受注者が遠隔地から建設資材を調達せざるを得ない場合おいて、建設資材の調達に要する購入費及び輸送費の設計変更を行うこととした。
また、労働者を確保できず、地域外から労働者を確保せざるを得ない場合に「労働者の宿泊に要する費用」、「労働者の輸送に要する費用」及び「募集及び解散に要する費用」等(以下「労働者確保に要する間接費」という。)については、受注者の支払い実績を踏まえて共通仮設費及び現場管理費の設計変更を行うこととした。
最も不調不落が多かった球磨地域振興局管内の発注では、閲覧用図書に、管内の宿泊施設のリストも掲載することで、この制度の活用を図った。

5.効果
令和5年10月末時点で、215件の復興JV対象工事の入札を行い、119件の契約を行った。
また、215件の入札における管外からの参加企業数は、のべ126 者(単体・復興JVの計)であり、この復興JVを構成する管外からのA2 企業は、のべ161 者となった(表5 - 1)。

表5-1 復興JV対象工事の参加者内訳

また、復興JV対象工事で契約した工事のうち約4割の工事では管外の企業を含む企業体であった(図5 - 1)。

図5-1 復興JV対象工事の契約件数の累計

管外からの入札参加者も多数いたことから、不落不調対策の一定の効果はあったと考えられる。
次に、令和2年7月豪雨後の不調不落率の推移と今回実施した対策について次頁図5 - 2 に示す。今回実施した対策の効果は明確ではないが、不調不落率の急激な増加の抑制に寄与できたと考えている。
表5 - 2 に対策実施後の建設業界からの声を掲載する。

表5-2 県内の建設業界の声

復興JV制度は評価を得ているが、厳しい現場条件に対する課題が挙がってきた。
ただし、発注機関に確認したところ「実態に即した適切な請負額の設定」に係る対策のうち「労働者の輸送に要する費用」については、特に申請が多く、労働者不足の対策への有用な対策となっていることが判った。

6.おわりに
近年は、毎年のようにどこかで大規模災害が発生している。
本県でも平成24年九州北部広域大災害、平成28年熊本地震、そして令和2年7月豪雨水害と大規模災害が数年置きに発生している状況である。
大規模災害における不調不落の原因は、現場の条件、技術者や労働者の不足等、複合的なものであった。
その対策についても、指名競争入札の拡大や復興JV、災害型総合評価落札方式の導入だけでなく、今回紹介できなかった現場代理人の常駐義務緩和や余裕期間の確保(最大180日間)等を実施した。
本県は、まだ復興半ばで、他の自治体からも応援いただいている状況であり、この場をお借りして感謝申し上げる。
最後に、ご覧いただいた本書の内容で気になる点やお尋ね事があれば、遠慮なく問合せいただきたい。

図5-2 令和2年7月豪雨後の不調不落率の推移

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