一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
佐賀県遺産
~美しい景観を22世紀に残すための取組~

佐賀県 県土整備部
まちづくり課
景観担当係長
真 崎 達 也

キーワード:佐賀県遺産、美しい景観、22世紀に残す

1.はじめに
佐賀県では、県民の郷土に対する誇りや愛着を育み、活力ある佐賀県の創造のため、地域を象徴する建造物で、文化的に、又は景観上県民の貴重な資産であるものを、これにまつわる物語とともに22世紀に残すべき価値を有する者として佐賀県遺産に認定し、その保存、活用に対し支援を行う目的として、「22世紀に残す佐賀県遺産」制度を平成17年度に創設しました。平成20年度には制度の対象を美しい景観を呈する地区にも拡大しています。
令和3年度現在で54件の建造物と9件の地区を認定しており、今後も認定数が増えていく見込みです。
今回は、最近の佐賀県遺産の保存に向けた取組や、認定した佐賀県遺産をより多くの人に知ってもらい、訪れていただくための取組を紹介します。

2.「22世紀に残す佐賀県遺産」支援事業
歴史的な価値のある建造物を維持し後世に残していくためには、相当な経費がかかります。また、美しい景観の地区を整備し、他の人に知ってもらう取組についても同様です。そこで、佐賀県では認定した佐賀県遺産の保存、活用を対象とした補助制度を設けていますので、いくつか事例を紹介します。
「沖之神への参道 大魚神社と海中鳥居」(図- 1、2)は太良町の多良岳と有明海に浮かぶ沖之島を結ぶ4 基の海中に立つ鳥居が特徴的で、最近は多くの観光客が撮影のために訪れるインスタ映えスポットとして知られるようになりました。平成29(2017)年12月に佐賀県遺産に認定されています。

図1 海中鳥居(満潮時)

図2 海中鳥居(干潮時)

海中鳥居は文字通り海中に立っており、有明海の潮の満ち引きの影響を強く受けるため中長期的には10年程度での建替えが望ましいとされています。令和元(2019)年度の時点で、最も海側の鳥居の笠木が数か所腐食していること、また4基の鳥居すべてで塗装が一部剥離していることが確認されました。そこで、地元が行う笠木の付替え及び鳥居の塗装にかかる費用について太良町が行う補助の2 分の1 を、県が「22世紀に残す佐賀県遺産」支援事業により補助しました。
また、令和2(2020)年度には最も陸地側の鳥居の柱にひび割れが生じ、そのひび割れ部分が腐食しているのが確認されました。そこで、この事業により鳥居の立替えにかかる費用を補助しました。
太良町は海中鳥居を、町のキャッチフレーズである「月の引力が見えるまち」を体現できる、地域のシンボル的存在と位置づけており、敷地内にトイレを新設したり、隣接する国道から海中鳥居に至る敷地を舗装したりするなど力を入れています。佐賀県遺産の制度を地域おこしに生かす好事例と言えます。
次に紹介するのは、鹿島市にある中村與右衛門屋敷(図- 3)です。ここは道の駅鹿島やガタリンピックで有名な干潟体験場からそれほど遠くない所にあります。七浦という地区ののどかな農村風景の中、小さな道をたどっていくと、江戸時代を思わせる形状の屋敷が忽然と姿を現します。その屋敷は小さなお濠に囲まれ、美しい石橋の先に正門と主屋などの時代を感じさせる建物が並んでいます。

図3 中村與右衛門屋敷

中村與右衛門屋敷は、江戸時代から代々七浦地区の庄屋を務めた中村家の屋敷で、明治時代には十代目中村與右衛門が旧七浦村の村長を務めました。今の建物は明治43(1910)年に以前の形状そのままで建替えたものです。令和元(2019)年5月に佐賀県遺産に認定されました。
中村與右衛門屋敷は瓦や漆喰など全体的に経年劣化が進んでいる状態ですが、特に傷みの激しい茶室の半解体修理を行い、茅葺屋根の葺き替えや軸部の補修、外壁の改修を行うにあたり、当事業の支援を受けました。現在は茶室(図- 4)での茶会を初め、主屋の大広間では演奏会や講演会など、多くのイベントを行い、地元の人たちが親しみ集う憩いの場となっています。

図4 茶室

3.佐賀県遺産の情報発信の取組
認定された佐賀県遺産は、その後も後世まで残すために保存の努力が必要ですが、同時にただ保存していくだけで使われない建物とならないよう、建物の活用に力を入れていくこととしています。
佐賀県遺産の建物が十分に活用されるためには、まず佐賀県遺産にどのような建物と地区があるのか、多くの人に知ってもらう必要があり、さらに多くの人に訪れてもらうよう情報発信に努めなければならないと考えています。
佐賀県ではこれまで、いろいろなアイデアを試みてきました。
過去には、佐賀県遺産を巡るバスツアーを組んだこともありましたが、ここ数年は新型コロナウイルス感染対策の影響で実現が難しい状況が続きました。一方で、最近のSNSの普及により、InstagramやTwitterで観光地の美しい景観を写真に撮影して共有するのが一種のブームになっています。
そこで、令和2年度にいわゆる「インスタ映え」を意識した佐賀県遺産のパンフレット(図- 5)を作成しました。

図5 パンフレット表紙

令和3年度には、ツアーの代わりに自ら佐賀県遺産を巡るきっかけとなるような試みとして、佐賀県公式ウォーキングアプリ「SAGATOCO」のスタンプラリーに、新たに佐賀県遺産のコース(図- 6)を追加しました。そして令和3年10月から令和4年1月にかけて、「SAGATOCOで巡る語る佐賀県遺産スタンプラリー」を実施しました。一つのコース5 個以上のスタンプを集めた方に抽選で豪華商品券をプレゼントする内容で、多くの方にチャレンジしていただきました。

図6 佐賀県遺産スタンプラリー

また、同じ時期に佐賀県遺産フォトコンテストを開催し、多くの応募作品をいただきました(図- 7 ~ 10)。

図7 最優秀作品 海中鳥居(太良町)

図8 優秀作品 旧美野分教場(嬉野市)

図9 優秀作品 縫ノ池(白石町)

図10 優秀作品 河内大山祇神社(鳥栖市)

令和4年度は、子どものころから佐賀県遺産に興味を持ってもらうため、子どもを含むファミリー層をターゲットとして、クイズラリー「佐賀県遺産謎解きの旅」を令和4年10月から令和5年1月にかけて実施しています(図- 11)。

図11 クイズラリー「謎解き手帳」

またその他にも、10月の吉野ヶ里歴史公園秋まつりで佐賀県遺産のパネル展示を行い、11月には普段は公開していない佐賀県遺産の建造物を、特別に内部を見学できる日を「佐賀県遺産オープンデー」(図- 12、13)として設定するなど、様々な試みを行っています。

図12 日本福音ルーテル小城教会

図13 佐賀県遺産オープンデーの様子

4.おわりに
歴史的価値を有し、愛着や思い出のつまった建物や風景はまだまだたくさん残っており、子々孫々まで残していきたいと思っても、維持していくのにかかる経費や、活用方法がうまく行かずに断念する所有者もいると思います。
しかし、そうした建物や風景は、いったん失われると元にもどることはありません。補助制度もセットとなっている佐賀県遺産制度を利用することで、佐賀県らしい景観を22世紀までに残していくことができます。
佐賀県遺産制度が始まって今年で17年目になりますが、県内の市町でこの制度がだんだん定着してきていると感じます。
一方で、古い建物をただ残すだけでなく、多くの人に、自分たちの住む地域に誇るべき貴重な建物や景観がこれだけあるのだと再認識してもらえるよう、これからも様々なアイデアを出しながら、努力を続けていく必要があると思います。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧