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メタバース(仮想空間)を用いた川づくりの取り組みについて

国土交通省 九州地方整備局
九州技術事務所 品質調査課長
糸 山 国 彦

キーワード:メタバース、ゲームエンジン、川づくり、DX

1.はじめに
国土交通省では、デジタルデータとデジタル技術を活用して、業務や組織、プロセスを変革するDX を推進している。九州技術事務所においては、平成30年6月に、他国にない優れたBIM/CIM 技術を開発するために「VR 研究室」を設置し、令和元年5月には、国立研究開発法人土木研究所と「VR 技術を導入した川づくりの推進に関する協定」を締結し、連携した取り組みを開始している。令和3年4月には、九州地方整備局に「インフラDX 推進センター」が組織・設置され、メタバース・デジタルツインの開発、災害調査・査定のデジタル化など、独自の技術開発・活用に取り組んできているところである。また、令和3年7月には、「河川CIM 標準化検討小委員会 成果報告」の中で、ゲームエンジンが河川CIM の標準化案の一部として提案され、検討が進められてきている。
そこで今回、ゲームエンジンを川づくりに取り入れ、「メタバース(仮想空間)を用いた川づくり」に取り組んだので、その経緯を含めて紹介するものである。

2.これまでの川づくりの課題
これまでの川づくりのワークフローとしては、平面、横断でコンセプトを検討し作成してきていた。(図- 1 フロー参照)1 つの手法として予測パースを数ケース作成したり、時には手作りの模型を用いて説明するケースもあった。それぞれが1つの合意形成のツールとして、長年使用されてきた。この場合、データが個々で独立して不連続を呈しており、データが「デジタル→アナログ→デジタル」という変遷をたどり、非効率となっていた。また、地元説明会後も再調整が必要になり、時間とコストを要していたのが、現状であった。

図1 多自然川づくりフロー

3.ゲームエンジンを用いた川づくり(住民との合意形成)
令和3年12月16日、全国で初めて福岡県と大分県の県境を流れる山国川(吉富町広津地区)において、「ゲームエンジンを用いた川づくり」(デジタル技術の導入)を、実際の住民説明会において活用し、住民との合意形成を図った。「かわまちづくり」の設計を基に、仮想空間の中に、整備後の川を構築し、整備後の姿を大型モニターを用いて地元住民に体験をしていただき、完成後のイメージを掴んで貰うことが出来た。

写真1 住民説明会での活用状況

説明後頂いた意見として、①インフラ整備前に「整備後」を「体験・確認」する点がとても有効であった ② VR 技術を使うことで人目線の空間確認や完成時の様子を確認できた ③完成イメージが非常にわかりやすい等、今後に繋がる意見を頂くことができた。

写真2 完成後の仮想空間体験

本技術を初めて用いたことで、住民説明会がこれまでとは違い、説明を受ける住民目線で説明することが可能となり、非常にわかりやすく、効率よく、かつ、効果的な説明会を開催することができた。(写真- 1・2 参照)測量・設計・施工を全てデジタルで実施することを可能とすることで、効率的なインフラ整備が可能となり、測量・設計で作成したデジタルデータを用いることで、従来のパースや模型よりも低コスト、工期短縮が可能となった。更に、住民から修正案が出された場合、パースや模型であれば作り直しとなるが、本技術を用いれば、その場で修正が可能となり、結果として、インフラ整備前に、仮想空間で整備を体験、意見を取り入れることでより良い整備を低コスト、短期間で実施することが可能となった。
ここに、説明会で使用した完成イメージの一例を次に示す。

図2 完成後のイメージ(ゲームエンジンで作成)

図3 完成後のイメージ(ゲームエンジンで作成)

4.メタバースの普及促進について
メタバースとは「Meta(超越)」と「Universe(宇宙)」を組み合わせた造語で、オンライン上に構築された仮想世界に自分の分身であるアバターで参加し、様々な活動を行うものである。

図4 メタバース(仮想空間)での取り組み状況

九州技術事務所では、土木研究所との共同研究で、ゲームエンジンを具体的に川づくりで展開していく上での課題を整理し、川づくりを行う上で必要なプラグインの制作等を行い、令和4年2月「ゲームエンジンを用いた川づくりツールの操作マニュアル(案)」を作成(図- 5)し、HP 上で広く公開した。(企画部DX 推進室においても同時公開)公開した内容は、①操作マニュアル(案)② DemComverter.zip(QGIS プラグインソフト)③ river templte(ゲームエンジン用テンプレートファイル)④マニュアル(案)動画の4 種類を公開。(公開URL:www.qsr.mlit.go.jp/infradx/indexgettool.html)

図5 公開マニュアル(案)

本来互換のないBIM/CIM とゲームエンジンのデータを相互利用可能とするプログラムも公開し、技術難易度が高く、煩雑なデータの変換を速やかに実施することを可能とした。
また、ゲームエンジンを用いて川づくりを進めていく上での課題の1 つとして、日本の「植生モデル」が少ないことが挙げられる。環境を踏まえたデジタルツインの作成には、我が国の自然環境を代表する「植生モデル」が必要であるため、実際に九州管内に生息する植物を題材として、3D モデルを作成し、併せて公開した(図- 6)。

図6 植物の基本モデル例

更に、河川の状態をリアルに表現するために、各種基本モデル(例えば、護岸の基本モデル等)を作成し(図- 7)テンプレートファイルとして公開した。

図7 護岸のテンプレートファイルの例

また、「ゲームエンジンを用いた川づくり」を扱えるコンサルタントが限られていることも課題の1 つである。今後、幅広くインフラ分野で使っていくためには、技術の公開、学習コンテンツの配布、講習会の開催等が必要となってきている。

5.メタバース(仮想世界)を用いた川づくりセミナーの開催
令和4年2月に公開した「ゲームエンジンを用いた川づくりツールの操作マニュアル(案)」の公開をうけて、課題対応のためにも、同技術を広く社会に普及することを目的に、「メタバースセミナー」を開催した(図- 8)。今回取り組みは、九州地区をターゲットにするのではなく、幅広く全国展開も視野に、広くWEB 募集を行ったところ、全国より約1,100 名の応募があった。今回のセミナーで一番苦慮した事項としては、如何に今回の技術(ゲームエンジンによる川づくり)が、わかりやすく、且つ、効果的に伝えられることができるかであった。一方通行の講習会は避けて、出来るだけ中身に関わってもらうために、初めての取り組みとして「ハンズオン研修」を取り入れてセミナーを開催した。

図8 セミナー開催案内(チラシ)

開催にあたって午前は、メタバースの取り組みの第1 人者(トップランナー)である ①リバーフロント研究所 主席研究員(元土木研究所上席研究員)中村圭吾氏による「3 次元データを活用した川づくりの現状と今後の展望」②Epic Games Japan Business Development Manager 杉山明氏による「ゲームエンジンについて(ノンゲーム分野での活用事例)」③山梨大学 工学域土木環境工学系 助教 大槻順朗氏「メタバースを用いた川づくりの魅力とポイント」と題し、基調講演を行って頂き、午後は、会場参加者に加え、全国をWEB で結んだ「ハンズオン研修」を開催した(写真- 3、写真- 4 参照)。

写真3 ハンズオン研修風景

「ハンズオン研修」の取り組みは初めてであり、事前に教材をクラウドにアップし、1,000 名を越えるウェビナーと事前調整に時間を要したが、トラブルもなく、開催することができた。開催状況は、新聞にも数多く取り上げられ、関心の高さが伺えるところである。

写真4 ハンズオン研修風景(会場の状況)

また、セミナー後の感想・意見では、「これまでに例がなく、非常に興味深いものであり、有意義であった」「川づくり以外でも、住民説明会等で示すイメージとして活用できれば、合意形成の1 つのツールとして非常に有効であり、是非活用していきたい、また、今後もこのような研修を継続して開催してほしい」と前向きな意見を頂いた反面「課題として、地方河川における行政内のDX 環境の整備も課題の1 つである」という意見を頂いたところである。今回のセミナーを振り返って、改善すべき点は反省をし、今後に繋げて参りたい。

6.おわりに
最近の動きとして、BIM/CIM 適用の原則化が加速してきており、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みについても注目を浴びているところである。今後の展開として、今回開催したセミナーで得た課題等を振り返り、川づくりのみならず、その他の事業(例えば、道路事業や港湾事業、観光事業等)にも広げていけるように、関係者との調整を図り進めて参りたい。
最後に、本検討並びにセミナー開催にご尽力頂いた、国立研究開発法人土木研究所流域水環境研究グループ自然共生研究センター、リバーフロント研究所中村さま、Epic Games Japan Business Development Manager 杉山さま、山梨大学 工学域土木環境工学系 助教 大槻さま、日本工営(株)佐藤さまを含めた関係者の皆さまに対し、ここに記して謝意を表します。

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