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阿蘇大橋地区斜面対策の維持管理について

国土交通省 九州地方整備局
阿蘇砂防事務所 調査課長
寺 本 泰 之

キーワード:阿蘇大橋地区、大規模斜面崩壊、斜面対策、斜面対策工維持管理

1.はじめに
平成28年4月16日に発生した熊本地震(本震)により、熊本県南阿蘇村立野地区において大規模な斜面崩壊が発生した。これにより、斜面下の国道57 号やJR 豊肥本線等が寸断されるなど周辺一帯では壊滅的な被害を受けた。この災害に対し、国土交通省九州地方整備局は、地震直後から建設ICT や無人化施工等を駆使し緊急対策工事(平成28年12月完了)を行い、平成29年7月より斜面の恒久的な安定化対策に取り組み、令和2年8月に対策工事を完了した。
本稿では、斜面対策完成後の維持管理計画の検討から熊本県への管理引継ぎにいたるまでの対応について報告する。

2.災害の概要と対策の概要
2.1 災害の概要
阿蘇大橋地区で発生した大規模崩壊の規模は、長さ約700m、幅約200m、崩壊土砂量約50 万m3におよび斜面上部には、崩落部を取り囲むように多数の亀裂が分布する不安定ブロックが存在した(写真- 1)。

写真1 斜面崩壊及び上部の亀裂状況

2.2 斜面の安定化対策
斜面安定化と交通インフラの復旧を検討するにあたり、専門家、砂防・道路・鉄道関係者で構成される「阿蘇大橋地区復旧技術検討会」(以下、復旧技術検討会)を設置し、技術的課題を解決しつつ、施工ステップ(図- 1)により安定化対策を進めた。

斜面上部に残る不安定土砂の崩壊による二次災害防止のため、崩壊地内での復旧作業は無人化施工で実施した。恒久的な安定化対策は調査結果から想定された崩壊形態により設定し、施工段階で得られた新知見を踏まえて、適宜工法の修正、変更を行った。
標高525m より上部の急斜面については、残存していた不安定土塊の除去・整形による安定勾配化(1:1.2)及び小落石や局部、表層の崩壊を防止するための法面工を主としている。標高525mより下部の緩斜については、堆積した崩積土の洗掘、土砂流出防止を主眼とした山腹工、水路工整備を主な工法としている。
また、周辺地域は「阿蘇くじゅう国立公園」の普通地域であることから斜面対策は景観にも配慮し、各工法は植生マット工と組み合わせて周辺に生育する自然植生の種子飛来・発芽、定着を待つ緑化計画としている(写真- 2)。

写真 2 斜面の恒久的安定化対策

表 1 斜面の恒久的安定化対策一覧

斜面の恒久対策は専門家からなる「復旧技術検討会」の助言を受け、表- 1 の対策として施工を進め、令和2年3月に概成し、施工現場及び梅雨時期のモニタリング結果を確認いただき、対策工の妥当性及び効果が確認されたことから令和2年8月6日に全ての対策が完了し、管理段階へ移行することの了承を得た。対策の完了後は、JR 豊肥本線が8月8日に全線開通し、続いて10月3日に国道57 号現道部も開通した。その後、引継ぎの手続きを進め、令和3年1月に熊本県へと斜面管理の移管がなされた(写真- 3)。

写真3 斜面対策完成及びJR豊肥本線、 国道57号開通状況

【阿蘇大橋地区復旧技術検討会】
 構成員 熊本大学 北園名誉教授(会長)
     鹿児島大学 地頭薗教授
     国土技術政策総合研究所
         水野深層崩壊対策研究官
     (国研)土木研究所
         地質・地盤研究グループ
         宮武上席研究員

3.斜面対策工の維持管理
管理段階における斜面の恒久的な安定を確保するためには、施工した施設及び斜面の継続的な維持管理が必要である(下記参照)。

対策工事の効果は確認できたものの、熊本地震による大規模斜面崩壊の被災規模を鑑み、引き続き阿蘇大橋地区の斜面崩壊部及び国道57 号現道部については、各維持管理の運用に基づき、適切に監視・点検を実施していく。
<第10 回復旧技術検討会 議事要旨より>

3.1 斜面管理引継ぎ資料の作成
熊本県へ管理移管するため、斜面の安定性及び対策施設の機能の健全性を長期的に確保するために必要な管理体系や管理手法等の資料を整理し、熊本県への引継資料とした(下記)。

 ◇ 斜面対策概要
◇ 砂防設備台帳
◇ 砂防指定地台帳
◇ 砂防指定地申請書類
◇ 施設点検カルテ
◇ 孔内傾斜計関連資料
◇ 定点観測関連資料
◇ 業務・工事完成図書

3.2 管理体系
斜面の維持管理は、熊本県における砂防関係施設の維持管理体系に沿った形で行うことで県との調整を図った。
熊本県の砂防関係施設の維持管理は、「熊本県砂防関係施設長寿命化計画」(平成31年3月)に基づき、定期点検により設備の健全度を把握し、設備の重要度に応じた対策優先度の設定と予防保全型対策によりライフサイクルコスト縮減と予算の平準化を図る「予防保全型の維持管理」を行うこととした(図- 2)。

図2 予防保全型維持管理体系イメージ

3.3 維持管理方針
移管後の維持管理は、目視点検を主とした斜面及び構造物の確認と、異常気象時等における定点測量、地中変位計測を組み合わせたものとし、点検対象は表- 1 に示した各施設とした。
管理段階の当初5 箇年を「特別点検期間」、その後を「通常点検期間」とし、各期間における斜面監視計画を表- 2 の通りとした。

表2 維持管理段階と管理方針(案)

点検の種類と概要は表- 3 の通りであり、点検時の着眼点は表- 4 の通りである。

表3 点検の種類と概要

表4 点検時の着眼点

なお、特別点検期間における豪雨時点検と地震時点検の実施時期は下記①、②とした。
①土砂災害警戒判定メッシュ情報の実績値 がCL ラインを超過した場合
②震度5 弱以上を観測した場合

4.維持管理方法
4.1 斜面点検(施設点検カルテ)
維持管理方針から対策工の施設区分(表- 1 参照)に対応する各施設の点検・健全度評価マニュアル(案)を作成し、マニュアルに準じた点検調査を行い、施設点検カルテ(様式)として整理した。施設点検カルテの事例(大分側凸部斜面の事例)を抜粋して示す(図- 3)。

図3 施設点検カルテの事例(大分側凸部斜面の事例)

今後、カルテを用いた点検を行い、把握される対策工施設の損傷の有無やその程度により、変状レベルを決定し、必要な対応判断を行うこととした(表- 5)。

表5 点検における変状レベルの設定

斜面の点検作業において、特に崩壊地斜面内の上部~中腹部にかけてはUAV を積極的に活用し、現地における近接目視点検と組み合わせることで、効率的かつ効果的な点検を行うこととしている(写真- 4)。

写真4 UAVによる写真管理<

4.2 定点測量観測
豪雨や大規模地震発生時に、斜面の安定を確認できるよう、斜面上の4 箇所(T1 ~ T4)に測量定点を設置した(写真- 5)。緊急時に各定点の座標、標高を観測することで、地表面の変位量、方向より変位の有無を確認することが出来る。

写真5 測量定点設置箇所

4.3 観測計器による点検(孔内傾斜計)
特別点検期間中の豪雨や大規模地震発生に、崩壊地の後背地を含む広域的な斜面の安定を確認できるよう、既設孔内傾斜計観測孔を利用した地中変位観測を行う(図- 4)

図4 孔内傾斜計観測箇所と観測状況

5.植生回復状況の確認
崩壊地斜面内の植生回復は国立公園内における景観保全のみならず、雨滴や流水による表面侵食からの斜面保護工としても重要であることから、崩壊地斜面内の恒久対策工着手後、斜面の植生回復状況をモニタリングしている(写真- 6)。斜面対策工事完成段階では、斜面全域の植生回復状況は概ね良好であるが、植生の回復・定着には期間を要するため、今後も継続的な植生モニタリングを行うことが望まれる。

写真6 崩壊地斜面の植生回復状況

6.おわりに
九州の物流や地域の発展に欠かせない、崩壊地斜面の恒久的な安定確保のために、適切な斜面の維持管理を継続的に行うため、管理を引き継ぐ熊本県と綿密な調整を行い、「復旧技術検討会」の助言を受け維持管理の内容について検討を行ったところである。今後、熊本県による管理が実施されるが、国としても引き続き協力し熊本地震からの復旧・復興に尽力していく。
最後になりますが、地元関係者の皆様、事業に携わった多くの皆様のご協力、ご尽力を持ちまして事業を完成することができました。誌面をお借りしてお礼申し上げます。
また、改めて平成28年熊本地震で犠牲となられました方々に謹んで哀悼の意を表しますとともに、今後、阿蘇地域が益々発展されることを祈念しております。

写真7 斜面対策事業完成記念碑除幕式と斜面対策事業完成状況の様子

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