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球磨川水系の復旧・復興と地域の発展に向けて
~球磨川水系流域治水プロジェクト~

国土交通省 九州地方整備局
河川部建設専門官
山 村 昭一郎

キーワード:球磨川水系、令和2 年7 月豪雨、流域治水プロジェクト

1.流域治水プロジェクトの策定・公表
近年、全国各地で水災害が激甚化・頻発化するとともに、気候変動の影響により、今後、降雨量や洪水発生頻度が全国で増加することが見込まれています。
このため、ハード整備の加速化・充実や治水計画の見直しに加え、上流・下流や本川・支川の流域全体を俯瞰し、国や流域自治体、企業・住民等、あらゆる関係者が協働して「流域治水」に取り組んでおり、令和3 年3 月に、全国109 の一級水系において『流域治水プロジェクト』が策定・公表されたところです。
本稿では、昨年球磨川流域を襲った令和2 年7 月豪雨災害からの早急な地域社会の復興に向けて、流域のあらゆる関係者が協働し流域全体で水害を軽減させる治水対策をとりまとめた「球磨川水系流域治水プロジェクト」について紹介させて頂きます。

2.令和2年7月豪雨の概要及び復旧の状況
(1)出水の概要
球磨川流域では7 月3 日~ 4 日にかけての猛烈な雨により、2 日間で7 月の1 ヶ月平均雨量に相当する降雨量となり、時間雨量30㎜を超える激しい雨を8 時間にわたって連続して観測しました。それにより、球磨川本川の中流部から上流部、支川川辺川の観測所においては、観測開始以来最大の雨量を観測し、平成19 年策定の球磨川水系河川整備基本方針の計画降雨量262㎜ /12h を超える321㎜ /12h(速報値)の雨量(人吉上流域の流域平均雨量)を観測。また、球磨川本川の河口から約13㎞に位置する水位観測所(横石観測所)から、約69㎞に位置する観測所(一武観測所)において計画高水位を超過する水位を記録しました。
被害状況としては、球磨川本川中流部から支川川辺川合流点付近を中心に浸水被害が発生、浸水面積約1,020ha、浸水戸数約6,110 戸の被害を確認しました。中流部においては、至るところで家屋倒壊も発生し、さらには、球磨川本川の2 箇所において堤防の決壊、本川、支川併せて橋梁17 橋の流失など国道や鉄道などにも甚大な被害が発生しました。人的被害についても、今回の豪雨災害による熊本県内の犠牲者65 名(この他行方不明者2 名)のうち、球磨川流域の犠牲者は50 名と推測されるなど、未曾有の被害となりました(いずれも速報値)。

写真1 人吉市街地の浸水状況(人吉市民提供)、写真2 流出した橋梁

写真3 球磨川右岸(川より約50mの距離)の家屋倒壊(球磨村渡地区

(2)復旧の状況
■堤防決壊箇所等の復旧工事の対応等
球磨川本川の中流部において発生した堤防決壊2 箇所については、24 時間体制での緊急復旧工事を実施し、人吉市中神町(被災延長約30m、56k400 右岸)の決壊箇所では、工事着手後49時間で緊急復旧を完了させ、同じく人吉市中神町(被災延長10m、55k000 左岸)の決壊箇所では工事着手後16 時間で緊急復旧を完了させました。これらは令和3 年5 月末までに本復旧を完了しています。
また、直轄管理区間の護岸等の被災29 箇所のうち、緊急性の高い18 箇所は、5 月末までに本復旧が概ね完成し、残りの箇所についても、令和3 年度中の完成に向け取り組んでいるところです。また、今回の出水による堆積土砂については、令和3 年5 月末までに約70 万m3の掘削が完了したところです。

写真4 堤防決壊箇所の復旧前状況(右岸56k 4付近)、写真5 堤防決壊箇所の復旧後状況(右岸56k 4付近)

■国の権限代行による緊急的な対策
今回の豪雨では、熊本県が管理する球磨川支川においても、洪水流に加え、大量の土砂や流木の流出による河道閉塞、堆積、堤防決壊、側方浸食、護岸の一部欠損などの被害が発生しました。
特に、川内川などでは、河道閉塞やそれに伴う流路変更が確認されるとともに、掘り込み区間の側方浸食などの被害が確認されました。
このため、熊本県知事の要請を受け、川内川、庄本川、芋川、小川など県管理区間の9 支川において、河川法第16 条の4 に基づき、7 月28日より国の権限代行による緊急的な対策に着手し、流路の確保、土砂や流木の撤去、河岸防護、土砂止め設置等を実施し、応急対策を9 月30 日に完了したところです。
その後、権限代行区間における災害復旧工事については、令和3 年4 月より新たに組織された「八代復興事務所」にて復旧を進めており、令和3 年5 月末までに約20 万m3の土砂掘削を完了するとともに、護岸等の被災施設の復旧については約140 箇所のうち約90 箇所に着手、残り50 箇所も含めて令和3 年度中に全箇所の本復旧を目指して取り組んでいます。

写真6 支川の復旧前状況(川内川)、写真 7 支川の復旧後状況(川内川)

3.流域治水協議会・学識経験者等の意見を聞く場の設置
令和2 年7 月豪雨の被害状況や平成19 年に策定した「球磨川水系河川整備基本方針」における基本高水のピーク流量を超える洪水であった事等を検証した「球磨川豪雨検証委員会」による結果と流域市町村、熊本県の要請を受け、10 月27日に「球磨川流域治水協議会」を設置しました。
「球磨川流域治水協議会」は、令和2 年球磨川豪雨災害を二度と生じさせないとの考えのもと、気候変動による水害の激甚化・頻発化に備えつつ、早急な地域社会の復興に向け、流域における関係者が協働して流域全体で水害を軽減させる治水対策「流域治水」を計画的に推進するための情報共有・検討等を行うことを目的とし、「流域治水プロジェクト」の策定と併せて、1 日も早く球磨川流域の復旧・復興の姿を描いて頂けるよう、まずは先行して再度災害防止のための「球磨川水系緊急治水対策プロジェクト」について検討・策定し、緊急治水対策に着手しています。
この協議会では、流域治水の観点からも、検証委員会時のメンバーである九州地方整備局、熊本県、流域12 市町村に加え、九州農政局、熊本地方気象台及び、九州森林管理局も参画し、河川だけの対策にとどまること無く、流域の関係者が協働して水害を軽減させる流域治水プロジェクトの策定を目指しました。
また、本協議会で提案された流域治水プロジェクトの内容等について、学識経験者等より専門的な立場から意見・助言等を聴くことを目的とする「学識経験者等の意見を聴く場」を設置し、流域治水プロジェクト推進にあたって必要となる留意事項や流域対策メニューの検討、個別メニューの具体化にあたっての検討事項等について、助言を頂きました。

4.流域治水プロジェクトの概要
球磨川流域は、人吉・球磨盆地が急峻な山々に囲まれた、すり鉢状の地形となっており、複数の急流支川が流れ込み、さらに盆地の下流側が山間狭窄部となり、豪雨時には水位が上昇しやすいという流域の特徴があります。そのため、球磨川の今後の治水対策にあたっては、令和2 年7 月洪水と同規模の洪水に対して、可能な限り浸水被害を防止する観点から、河川管理者による河川での対策を加速することに加えて、集水域から氾濫域にわたる流域に関わるあらゆる関係者が協働して、流域における対策の取り組みを進めるとともに、被害の軽減のためハード・ソフト一体となった取り組みを進めていくこととしました。なお、治水対策の実施にあたっては、球磨川流域に生きる人々にとって、球磨川そのものが「かけがえのない財産」であり、「守るべき宝」になっていることを十分踏まえて、「命と環境の両立」を目指し、国、熊本県、市町村、企業、住民等全ての関係者が協働し、以下の行動を行うこととしました。
○人命、財産、地域経済への被害を最小化すべく、令和2 年7 月洪水に対して球磨川の河川水位を下げることを基本とした「河川区域での対策」
○球磨川への流入を抑制するため、流域での貯留を最大限行う「集水域での対策」
○減災のために、土地利用、住まい方の工夫等を行うほか、住民の避難行動につながるきめ細かな情報提供などを行う「氾濫域での対策(被害対象を減少させるための対策)(ソフト対策)」
これらの具体的な対策については、以下の通りとしている。

○河川域での対策
球磨川の河川水位を下げることを基本とし、令和2 年7 月洪水と同規模の洪水に対して、越水による氾濫防止(人吉市の区間等)、家屋の浸水防止(中流部)など、流域における浸水被害の軽減を図るため、以下の取り組みを行う。
・河道掘削、引堤、雨水排水施設等の整備
・堤防強化
・ダム、遊水地等の整備
・活用 等

○集水域での対策
球磨川への流入を抑制するため、流域での貯留を最大限行う。
・雨水貯留施設の整備、田んぼダム、ため池等の高度利用
・雨水浸透施設(浸透ます等)の整備
・グリーンインフラ 等

○氾濫域での対策(被害対象を減少させるための対策)
減災のために、リスクの低いエリアへ誘導、住まい方の工夫等を行う。
・土地利用規制、安全な土地等へのまちづくり誘導、移転促進、不動産取引時の水害リスク情報提供
・二線堤の整備、自然堤防の保全
・輪中堤、宅地かさ上げ、建築規制
・建築構造の工夫等

○氾濫域での対策(ソフト対策)
減災のために、住民の避難行動につながるきめ細かな情報提供などを行う。
・土地のリスク情報の充実、避難体制の強化、経済被害の最小化、被災自治体の支援体制の充実、氾濫水を早く排除する等

これら取り組みにあたっては、上下流・本支川の流域全体を俯瞰し、国・県・市町村が一体となって「令和3 年度出水期まで」「第一段階(概ね5 年)」「第二段階(~ R11)」「以降(R12 ~」の期間を持って「流域治水」を推進します。
また、流域治水プロジェクトの対策全ての完了(対策効果の発現)までには時間が必要となります。そのため、対策の効果については、流域治水プロジェクトの完了後だけでなく、プロジェクト実施途上の多段階で評価を行い、各段階で残存する水害リスク等を地域社会で共有し、そのリスクコミュニケーションを通じて、「まちづくりや住まい方の誘導等による水害に強い地域づくり」、「被害対象を減少させるための取り組み」、「迅速な避難へとつながるソフト対策」等を推進するなど、地域の被害最小化を図ることにも留意して進めていく必要があります。
なお、これら対策を推進していくうえでは、球磨川流域治水協議会や流域対策の関係者と復興まちづくり、インフラ復旧の関係者間での情報共有や調整等を図ることが必要です。また、集水域、氾濫域の対策を着実に進めるため、対策毎に(必要に応じて地域毎に)推進体制を構築し、住民の皆様や関係者間で連携して取り組むとともに、必要に応じて学識経験者等の意見を聴取し、対策の見直し等を実施することとしています。

図1 球磨川水系流域治水プロジェクト

図2 球磨川水系流域治水プロジェクトロードマップ

詳細は下記URL をご覧ください。
http://www.qsr.mlit.go.jp/yatusiro/river/r0207_ryuikitisui_gouukensho/

5.おわりに
昨年の豪雨で現行の河川整備基本方針の基本高水のピーク流量を超過した球磨川では、今後河川整備基本方針の変更を行う予定です。気候変動の影響により、今後、降雨量や洪水発生頻度が増加することが見込まれており、これら災害発生リスクに対してはあらゆる関係者と連携した流域全体で防災・減災に取り組む「流域治水」を実行性あるものにすることが不可欠です。その実効性を高めるための法整備として「流域治水関連法案」が令和3 年4 月末に成立し、九州地方整備局では、球磨川流域における令和2 年7 月豪雨からの地域の復旧・復興の取り組みを着実に推進しつつ、併せて、九州の各水系で「流域治水プロジェクト」の取組を加速化して参ります。

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