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阿蘇大橋の早期復旧に向けた取り組みについて
~国道325号新阿蘇大橋の開通~

国土交通省 九州地方整備局
熊本復興事務所
技術副所長
鵜 林 保 彦

キーワード:熊本地震、災害復旧、工期短縮

1.はじめに
2016 年4 月に発生した熊本地震により、熊本市街地から南阿蘇村に通じる主要ルートである阿蘇大橋ルート、俵山トンネルルート、長陽大橋ルートの全てが通行不能となった。このうち、長陽大橋ルートについては2017 年8 月に応急復旧が完了、暫定開通し、俵山トンネルルートについても2019 年9 月に全線開通を果たした(図- 1)。

図1 熊本市街地と南阿蘇村を結ぶ道路ネットワーク

阿蘇大橋地区では大規模な斜面崩壊が発生し、斜面下の国道57 号やJR 豊肥本線が寸断、南阿蘇への玄関口として物流や観光など交通ネットワークの重要な役割を担う国道325 号では阿蘇大橋が落橋した。阿蘇大橋の落橋は地域活動に大きな影響を及ぼし、早期の復旧が求められた。
阿蘇大橋の架け替えにあたっては、早期の道路機能回復が求められたことや将来大規模地震が発生した場合に地域活動に及ぼす影響をできる限り少なくすることなどを考慮して、計画から設計、施工の各段階において様々な技術対応を行い、2021 年3 月7 日に「新阿蘇大橋」として開通した。
本稿では、新阿蘇大橋の大規模地震を想定した設計段階での配慮ならびに道路機能の早期復旧の観点から採用した工期短縮に資する施工技術、開通後の状況について述べる。

2.新阿蘇大橋の復旧計画
(1)復旧ルート計画
阿蘇大橋の架替えルートは、学識経験者等の専門家や、熊本県、南阿蘇村、高森町が参画した「国道325号ルート・構造に関する技術検討会」(全4回)を開催し、熊本地震による斜面崩壊箇所等の周辺斜面の影響の回避や、主交通方向(熊本⇔南阿蘇)に対して迂回感がないようにすること、南阿蘇村内のコミュニティーの確保の観点から、元の位置より約600m 下流側(図- 2 の B 案)に設定した。
このルートは、横ずれが支配的な活断層を跨ぐ計画となり、推定活断層を交差する区間ではやむを得ず橋で跨ぐ計画となったが、断層変位により橋に生じる影響を少しでも小さくする観点から、ルート線形を推定活断層となるべく直交に近い角度となるようにした(図- 2)。

図- 2 阿蘇大橋架替え位置検討案

(2)今後の地震を踏まえた設計
1)落橋しにくくするように配慮した構造計画・設計
推定活断層が横ずれを支配的とする断層であることを踏まえ、こうした挙動に対しても容易には落橋しないように配慮した構造形式を選定した。
推定活断層を跨ぐ区間(P3 ~ PR1)は鋼単純桁を採用するとともに、レベル2 地震動を上回る水平力(断層変位)が作用する状況になった際には、構造部材の破壊を支承で先に生じさせることで下部構造や隣接する上部構造に不測の力を伝達させないように耐力に差(階層化)をつける設計を行った。さらに、下部構造に生じる横ずれの相対変位に対して、単純桁の両端部が下部構造(橋脚)の頂部から脱落しにくくなるように橋軸直角方向に拡幅した(図- 3)。また、渡河部は、仮に推定活断層の挙動によって端支点部(PR1)が移動や沈下をしても自立可能な構造として片持ち架設工法によるPC ラーメン橋とした(図- 4)。

図3 上部構造-支承部-下部構造系における耐力の階層化

図4 新阿蘇大橋全体計画図

2)橋の機能回復性を高める配慮
将来大規模地震等が生じた際にできるだけ早期に橋の機能回復を図るために、アプローチ部起点側(A1 ~ P3)の橋梁形式は、一般的な鋼3 径間連続鈑桁橋とした。ただし、仮に断層変位による地盤の横ずれが右岸側高架部の範囲で生じて外桁の支点部が橋座部から脱落するような状態となったとしても、落橋には至りにくくすることに配慮して多主桁構造を採用した。
渡河部においては、被災後に橋の状態を速やかに把握しやすくするために中空橋脚内部への点検孔の設置(図- 5)や、ロープアクセスに必要となるインサートの橋脚への先施工を実施し点検を行いやすくした。また、推定活断層を跨ぐ区間においては上部構造が横ずれした際に応急的な措置ができるよう、単純桁を支持する橋脚横梁に予め補強鉄筋を配置しておく等の配慮を行った。

図5 中空橋脚柱頭部に設置された点検孔

3.高度な施工技術の導入による工期短縮
(1)大型インクラインの導入
架橋地点は、年間を通じて強風となることが多いため、斜面上に設けた桟橋上に配置した揚重用のクレーンを介する方法では、資機材の供給や深礎工で発生する大量の土砂搬出を安定して行えない懸念があった。これを解消する手段として、最大60t の積載能力を有する、国内最大級の大型インクラインを右左岸に各1 基導入した。巻上機により軌道上の台車を上下移動させる設備であるインクラインは、ダンプトラックやコンクリートミキサー車等が2 台まで積載できる台車面積(短辺9.0m ×長辺14.0m)を確保することで、全工期に渡り安定した資機材運搬を可能とした(写真- 1)。

写真1 国内最大級の大型インクライン

(2)ACSセルフクライミングシステム工法等による作業の効率化
高橋脚であるPR1 ~ PR3 の橋脚の施工では、足場や型枠の組み立て作業を総足場による標準的な工法で行うと長時間を要することが想定された。そこで、作業用足場と型枠を一体化し、施工完了後の躯体から反力を取り、油圧ジャッキによりレールに沿ってクライミングするACS セルフクライミングシステム工法を採用した(写真- 2)。
本工法の採用により、標準施工でリフトごとに実施する躯体外周および内空部の足場増設やクレーンによる型枠材の吊上げ・吊下ろし作業を削減し、施工日数を短縮した。さらに剛性の高い厚さ18mm の大型パネルを使用したシステム型枠の採用による型枠作業の省力化や、帯鉄筋や中間帯鉄筋のプレファブ化等の工夫も合わせて行い作業効率を向上させた(写真- 3)。

写真2 ACSセルフクライミングシステム

写真3 帯鉄筋のプレファブ化

(3)超大型移動作業車による片持ち架設工法
上部構造の施工では、一般型(容量2,000KN・m)に対して約3 倍の容量を有する超大型移動作業車(容量6,000KN・m)を導入(写真- 4)し、これにあわせてコンクリートの設計基準強度を当初設計より大きくする(50N/mm2)ことで、張出ブロック数をPR2 側で合計17 ブロックから12 ブロックに、PR3 側で合計21 ブロックから15 ブロックにそれぞれ削減し、施工日数を短縮した(図- 6)。これらの高度な施工技術の導入と24 時間態勢により、標準工期に比べ約1 年4 ヶ月の工期短縮が行われた。

写真4 超大型移動作業車による片持ち架設工法

図6 主桁ブロック割り(PR3側

4.新阿蘇大橋開通後の状況
(1)交通状況
2021 年3 月7 日の新阿蘇大橋開通により、熊本地震で分断された熊本市街地と南阿蘇を結ぶ主要な道路ネットワークが復旧した。開通から1 ヶ月後の交通状況について調査を行った。
新阿蘇大橋の平日交通量は、約12,700 台/ 日で、並行断面で見ると、新阿蘇大橋開通前の長陽大橋ルートの交通量9,800 台のうち、約8 割が新阿蘇大橋へ転換した(図- 7)。南阿蘇地域(南阿蘇断面)の平日交通量は震災前より約1割増加(震災前: 約15,400 台/ 日⇒開通後: 約16,600 台/ 日)している(図- 8、写真- 5)。

図-7 平日交通量の推移(並行断面)、図 8 平日交通量の推移(南阿蘇断面

(2)新阿蘇大橋周辺の賑わい
熊本地震からの創造的復興を実現するために、国(九地整)、熊本県、南阿蘇村の三者が連携し、新阿蘇大橋左岸側に整備された新阿蘇大橋展望所(通称「ヨ・ミュール」)では、多くの方が訪れ、新たな観光スポットとなっている(写真- 6)。また、道の駅「あそ望の郷くぎの」では来場者数が震災前の約1.2 倍に増加する等、周辺観光施設の来場者数が震災前の水準以上となり、地域活力の創造にも寄与している(図- 9)。

写真6 新阿蘇大橋展望所の賑わい状況

図9 道の駅「あそ望の郷くぎの」来場者数・賑わい状況

5.おわりに
震災発生から約5 年の節目にあたる2021 年3月の新阿蘇大橋開通により、南阿蘇村をはじめとする阿蘇地域に賑わいが戻ってきている傾向にあるが、今後もより多くの観光客でにぎわい、地域の活性化につながることを期待したい。
最後に、新阿蘇大橋の完成に至るまでに地元住民の皆様をはじめ、昼夜を厭わずに復旧にあたられた設計会社や施工業者の皆様、検討委員会等に参加いただいた学識経験者や国土技術政策総合研究所、国立開発研究法人土木研究所及び関係機関の皆様、熊本復興事務所と同一庁舎に設置され、現地で高度な技術支援をした熊本地震復旧対策研究室の皆様など、多大なご支援、ご協力をいただいた関係者の皆様に、深く感謝の意を申し上げたい。

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